冒険者になろう/2


 冒険者組合。所謂ギルドとか言われるあれだ。



 ただしバウンドには1つ(別店舗は他の町にあったりする)しかなく、別の国と繋がっているような組合は他国でも極々稀だ。

 冒険者とはよくある話だが何でも屋だ。


 低い位ならば街のお手伝いや、初心者向けのダンジョン攻略。

 位が高くなれば護衛やダンジョン攻略。



 というより、冒険者の基本はダンジョン攻略だ。

 護衛をやれるような冒険者は、基本ダンジョン攻略の方が実入りが良いしそもそも盗賊なんて殆どいないから護衛自体もほとんどない。


 盗賊がいると分かれば騎士が派遣されて殲滅させられるからな。

 

 

 そもそも貧困層がいなく、盗賊もすぐに足がつくために盗賊になろうなんて人間は全くいない。

 他国から無断で入ってきた場合にはすぐにバレてしまうために、他国から盗賊が入ってくるということも無い。


 カノン曰くもう一つ、盗賊などが出ないようにするための策があるらしいが国家機密らしいので教えてもらえなかった。

 国家機密ということを教えるのもどうかとは思うがな。


 ダンジョンから溢れた雑魚モンスター程度なら馬でそのまま突っ走れば問題は無い。

 寝込みを襲われたら怖いにしても、簡易結界を貼れる魔具があるために問題は無い。


 故に護衛はいらないか、用心深い人が数人つける程度なために護衛の依頼は非常に少ない。

 


 そもそも組合とは一体なにか。

 

 冒険者へと依頼を斡旋したり、魔石や魔獣の素材(魔力に当てられて強くなった獣)を買い取り、それを連携している鍛冶屋に売り防具を作ってもらい、その防具を冒険者に売ったりしている。

 更に中は酒場でもあり食事もできる。


 前に来た時に確認したが、値段は普通より少し高かった。

 カノン曰く『組合は赤字を繰り返している。少し高めで食事を出し、冒険者はそれを食べるというのは暗黙のルールに近い』『特に夜なんかは宴会みたいな状態になるが、そこまで盛り上がって良い店はそこまで無いからある意味良心的ではある』だそうだ。


 

 組合の中に入る。

 全席埋まっているぐらいには繁盛しているが、少しガヤガヤしている程度であまり騒いでは無い。


 

 

「入会試験を受けに来ました。事前に登録していたリーシェ・シャーレイです。」

 受付嬢の女性へと話しかける。今日は月に2度ある、冒険者の入会試験がある日だ。


 元々から冒険者になりたいと思っていて事前登録はしていたが、アリシャとの関係が深まったことによりより地位のある人間になりたいと思うようになった。



「ではこちらの札を持ってお待ちしていてください。」

 そういって札を渡された。


 とりあえずやることが無いため、その辺の適当な席に座って軽く食事をしよう……と思ったらどこも開いていない。

 流石にいつ呼ばれるか分からない状態で、特に暇潰しも無く立ったままいるの嫌だし……仕方ない、相席をお願いしよう。



「すみません。相席良いでしょうか?」

 そういって近くの人に話しかける。

 テーブルについているのは二人、一人は人間。黒色の髪を後ろにまとめ、黒い眼鏡を付けた細身の男性。年齢は30代前半と言ったところだろうか。



 もう1人はこの国では珍しいビ―ター(人型の獣。筋力が凄いが魔力は低い)だ。

 栗色の体毛をしており、巨大な手で肉を食べつつ酒を飲んでいる。かなり酔っているようだ。

 


「ええ、構わないよ。」

 そういって細身の男は承諾してくれた。


「ありがとうございます……っと、何か頼むかな。」

 そう独り言をつぶやきながら座る。


「ってえぇ!?あなた少女だったんですか!?」

 するといきなり細身の男がいきなり驚きだした。


「初対面の女性に対して少女だったんですか、は中々に失礼じゃないんですかね!」


「そうですね。本当に申し訳ありません」

「あなたの声を聞いたとき、私は何故かあなたのことを。」


「それはまた失礼な。慰謝料として今から自分が注文する食事をおごってください。」

 女性に対して男と間違えるのはかなり失礼なことだからな、少しぐらい強気で奢っても大丈夫だろう。



「それは良いんですが、あなたはここから離れた方が良いと思いますよ?」


「は?そりゃなんd───「ガラール!生きていたのか」

 そういって酔っているビーターに抱き着かれた。


「はぁ!?なんだこのおっさん!」

 

「サレール!それはあなたの娘ではありません!」

 そういって細身の男は俺から、ガラールと呼ばれたビーターを引きはがす。



「すみません。彼は酔うと死んだ娘と同じ歳に絡んでしまうんですよ」

「なので同じ席に15歳前後の少女は座らせないようにしているんですが……私の思い違いで不快な思いをさせてしまい申し訳ございません。」


「悪いのはサレールという人ですので、あまり気にしないで結構ですよ。」

 というより良く俺が15歳前後に見えたな。見た目的には12歳ぐらいのはずなんだが……。

 


「と言うより、よく俺が15歳と分かりましたね。」


「彼は酔ったときには、15歳前後の少女を見分けるという特殊な能力が発揮します。」


「なんていらない能力なんだ……。」


「そういえばあなたは見かけない顔ですが、どうしてこちらに来られたんですか?」


「自分は冒険者になろうと思いまして、冒険者組合にきた感じですね。」


「なるほど……でしたら迷惑をかけたお詫びとしてあなたに先人から一つ、助言させて頂きたいのですが……少し厳しすぎることですが大丈夫ですか?」


「先人のありがたい教えを受けない理由なんて見つかりませんよ。是非お願いします。」


「先ほどサレール、そこのビ―ターですね。それにあなたは絡まれて私が助けました」

「ですがもしあれが悪党だったら?悪意のある人間ならばあなたは強姦されるなり、殺されるなりされています」

「理不尽と思うかもしれませんが、この世には理不尽が溢れています。その理不尽に対処できるような力をつけてください。」


「ご忠告ありがとうございます。」

 残念ながら、現世の地獄というほどには苦しくはないだろうがこの世の理不尽などとうに経験している。

 けれどアドバイスをくれた人間にたいしてそうやってイキるのはなんか悪いしな。



「それじゃぁ、呼ばれるまで暇なので何か頼んでおきましょうかね。」


「サレールに絡まれるかもしれませんが……大丈夫でしょうか?」


「ハ!理不尽に対処できる力をつけろと言ったのはそちらじゃないですか。」


「それはそうですが……中々に肝の据わっている人ですね。」

 テーブルに置かれているメニューを見ながら何を食べるか考える。

 試験もあるわけだし、軽食程度にしておくか。 



「すみませーん。モーギュの厚切り肉(要するにステーキ)一枚と白飯をください。」

 軽いから。多分軽い。

 別に食欲に負けたとかそういうものではない。



 

 しかし待ってる間暇だな。割と受付時間ギリギリにしかつかないと思ったから、時間を潰せる本とかは持ってこなかった。

 実際に時間ギリギリはではあるが割とこの世界の住民は時間に自由だ。


 そもそも1時間刻みの時計が街中にある程度で、個人で持つ時計なんて高級品だしで現代日本とは色々と違う。

 元日本人の俺からしたら1時集合ならば1時前にはついておきたいが、この世界からすれば1時を多少すぎても大丈夫ぐらいの認識なんだろう。


 郷に入れば郷に従え、次からは少し遅れていくか。



「そういえば……リーシェさんでしたっけ?あなたは何故に冒険者になろうと思ったんですか?」

 暇そうにしている俺に気がついたのか、先ほどの細身の男が話しかけてくれた。

 てか名前言ったか?。


「名前言いましたっけ?」


「先ほど受付しているときに聞こえたので、すみません。癖なんですよね。」

 まあ暗殺とか警戒するなら周りの情報を確認するのは基本だろうな。



「冒険者になる理由ですけど。俗な話ですが、確かな地位と金が欲しかったからですね。」

 ここで嘘を言っても問題は無いだろう。

 ただし嘘は言わないだけで真実はぼかす。


「そうですか。良い目標ですね。」


「そうですかね?」


「はい。地位もお金も、両方とも生きていく上では大事なことでしょう」

「ただ、それを目標にするにはかなりの実力がいります。」

 直後こちらに殺気が向けられる。

 冷や汗が出て背筋が凍る。


「長年生きていれば人の強さをたたずまいで感じられます。しかしあなたからは一切の強さを感じない」

「障害を残して引退するか、命を落としてその生涯を引退するか……これは忠告です。やめておきなさい。」

 腰につけている剣には手をかけていない点からも、おそらくはただの脅しだろう。



 何故こいつが俺に対して引退を進めるかは分からないし、おそらくは達人。実力も俺よりは上だろう。

 だからと言って、脅迫に近い忠告を聞くほど俺は弱い人間ではない。




「ハ!四六時中殺意を出すようなド三流と一緒にするな!一流は一般人に扮するんだよ!」

「あんたの経験が無いだけで人を雑魚扱いするなってんだ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る