魔力弩砲(バリスタ)


魔力弩砲バリスタ

 手の間に術式が上向きに術式が展開される。



 形は3等分にしたバームクーヘンのような形をしており、その術式自体が(クロスボウ)の性質を有している。


 本来紋章術の術式とは回路によって魔力を増幅させる効果が9割を占めている。

 しかしこの術は矢の推力を強化する点だけに重点を置くため、最低限の回路で済む。


 術式自体が小魔術並の規模でありながら、魔力によって生み出された矢を放つ貫通力と速度を重視したオリジナルの魔術だ。


 

 矢を形成し攻撃を開始する。

 生成し、引かれていた弦が魔力のブーストと共に魔力の矢をはじき出す。


 放たれた一撃は多少のブレがあるがアリシャへと飛んでゆく。

 術式展開を見てこちらに接近していたアリシャが驚いた表情をし防御と回避の行動を取ろうとする。しかしもう遅い。


 アリシャの生み出した防御術式はこちらに飛んでくるアリシャを完全に隠す、1メートルほどの大きさ。しかしその程度の防御ならば貫通する!。



 バリスタの矢がアリシャの防御術式を破り破壊する。 

 そのまま貫通して本体に攻撃が───当たらない。


 アリシャの頬をカスった程度でそのまま外れてしまった。

 精度が甘かったのか!?。


 しかし反省はこの後だ、アリシャが急停止すると同時に後ろに4つの魔術陣が形成される。

 規模は中魔術よりちょっと大きい程度、となると来るのはあれか。


 ここが勝負の分かれ目だ!集中強化魔術を左腕に発動させ。

 腰のナイフを右手で取り、そのまま左肩の付け根に刺して腕を切断して普通の強化魔術へと戻す。


螺旋死風らせんしふう!」

 4つの槍の風がこちらを貫かんと迫ってくる。最初の模擬戦で使った暴風乱舞を小型化した、近~中距離で使うアリシャの必殺技だ。


 直後さらにアリシャは2つの魔術を発動させる。アリシャにとっては必殺技ですら囮でしかないようだ。


 螺旋死風の後ろに展開されているのは規模的には大魔術、ならば接近すれば問題ないだろう。

 大魔術は規模が規模だけに巻き込みが怖く、魔術師の生存本能に射線の近くに術者がいれば発動はできない。



 ここで一気に攻める。アリシャとの距離は10メートルほど、高さはたった5メートルの所で止まっている。

 空中での機動力には翻弄されたが、単純な速度で言えば俺の方が上だ。

 10メートルの距離を一瞬で詰めようとするが、螺旋死風が発動しこちらに4つの竜巻が飛んでくる。


 そのタイミングでアリシャからはばれないように、切断した左腕を左側へと投げる。

 

 4つの竜巻は巻き込まれると確実に死ぬので、射線の上へと飛び回避する。

 観察。アリシャの後ろに展開されている大魔術は外側を向いている。おそらくは螺旋死風を横に避けたとき用に事前に発動させている魔術だろう。


 ならば!と、後ろに防御術式の足場を展開。それを蹴って全力でアリシャへと詰める。


 しかし目の前に、直径10メートルはあろうか巨大な防御術式が展開され、俺の進行を止めようとする。

 止められたらそこで終わる。俺は左腰にかけている剣を乱暴に抜き、魔力を込め破壊するべき斬りつける。しかし破壊できない。



 防御術式は込める魔力が多いほど強くなる魔術だ。

 俺の一撃を止めるほどの硬さということは、かなりの魔力をつぎ込んでいる。つまりここで勝負を決めに来るつもりだろう。


意味を加速し」「与える追え!」

 指令魔術を発動させる。

 模擬戦で作られる魔力体は純度100パーセントの俺の魔術だ。


 つまり


 集中強化魔術により強化された俺の腕は、切断して少しの間ならば下手な槍を超えるという圧倒的貫通能力を持っている。

 

 指令魔術によって圧倒的加速を得た俺の腕は、展開されている横からアリシャへと向かって突き進む。

 


 直後俺の右後ろ、左後ろに1つずつ中魔術が展開される。

 しかし残念なことにもう勝敗はついた。中魔術の射線上に防御術式を展開する。


 中魔術はあまり自由度が無く、オリジナル魔術も殆ど存在しない(ただし俺は改造しまくっているが)。

 俺の知っている中で一番貫通力の高いのは、土魔術の”石槍”だ。

 

 故に石槍を基準とした硬さで防御を敷けば負けることは無い。

 防御術式で足場を作り宙に立つ。


 

 ギリギリ気が付くレベルであろう、圧倒的速度を持った俺の腕はそのままアリシャの心臓を貫き、この勝負は終わりだ。


 


 ・・・・・・と、思っていた。


 驚くほどの反射速度で反応したアリシャは防御術式を展開して防御をしようとする。

 しかし残りの魔力が少ないのか不明だが大した防御能力は無く、一瞬で割られてしまう。


 そのまま腕はアリシャへと向かうが、アリシャは左腕を突き刺す形で俺の指先と衝突する



 恐らくは集中強化魔術をかけているのだろうが、流石に最低限しか鍛えていない魔術師には負けないだろう。

 そのままアリシャの腕を切り裂き貫く。そうしてアリシャの腕は半分に分かれている状態となってしまった。


 痛そうだなぁ……じゃない!やばい!完全に油断した。


弾丸バレット!」

 とはいえ残りの魔力も少ないだろう。後は無理して積めずに魔術でちまちまと削れば勝利だ!。


 直後、腹から下が無くなった。


「は?」

 貼っていた、耐久が充分のはずの防御魔術が水魔術によって破られている。

 いや待て、何が起きたんだ?


 中魔術で破れるほど軟な耐久じゃないぞ!。



「勝者!アリシャ・ガレッド!」

 そうして、新入生歓迎の模擬戦は俺の敗北の形で終わった。





「反省会だ!」

 いつもの3人にクリームを入れた4人で、俺たちはいつも使っているお茶屋(前世で言うカフェに近い店。ただし全体的に静かではない)で食事をしていた。



 屋茶亭。俺が泊まっている宿の近くにあるお茶屋で小さめの隠れ家的店。

 リリィ・バイヤという目をアイマスクのようなもので隠した看板娘が特徴で、常連客の多い隠れた名店だ。




「はーい。完全初見殺しはいけないと思いますー!」


「魔術師は初見殺しが基本だから……そこに対応できていない時点で三流。」


「なんならお前も初見殺ししてただろ。なんだあの魔術は。」


「あれは魔力弩砲バリスタと言ってな、俺の独創魔術なんだよ。」


「後で教えてほしいな……。」


「後で二人っきりで秘密の特訓だ……と行きたいがそれは無理だ」

「これは他の弾と同じで他の魔術師じゃ再現できても、攻撃性を持たないから意味が無い。」


「それはとても残念。」


「その辺も研究しておかないとなー。お前の生活魔術は攻撃性を持つのだ。」


「認識の差だろうな。」

 

「まあそれはさておいてだ、反省会と行くか。」


「クリームちゃんもいるわけだし……お手柔らかにお願いします。」


「お願いします!」

 クリームは俺達が身内の乗りになっているせいで話しについていけてないようだ。


「まずはアリシャの良かった点だな。全体的に対応が良かった」

「特にバリスタの対処は、ギリギリだったけどかなーり良かったと思うぜ。」


「え?バリスタの時に何かやっていたのですか?」


「あれって精度が微妙に悪いだけと思ったんだけど。」


「正直分かりにくいと思うわ。」

「えーっとな。クリームに分かりやすく言うと、基本的に紋章魔術の術式って横か前、後は斜めの3択で細かい調整は難しいんだよな。」


 その通りだ。同時多数展開の関係でかなり脳を使う紋章術は、極力負担を減らすために最適化が入る。

 故に大まかな角度調整や、ために魔術を置くかというのは可能だが、[細かい調整をする]というのはそもそもしなく難しい。



「特に防御魔術なんかは足場にする関係で、どうしても自分から見てちょうど前に置きたくなる」

「正確には平行じゃないんだけど、平行みたいな感じに置きたくなるしそれで慣れてしまうんだよな。」


「ああ。もしかして角度を変えていたんですか?」


「その通り!アリシャは角度を変えることによって攻撃をずらしていたんだ!」


「貫通力が高いし不味いと思ったから……とっさだったからあんまり角度は付けれなかったけど。」


「後はリーシェの止めに使った独創魔術も良かったな。」


「あれって俺からだとよくわからなかったんだが、どういう理屈で俺を殺したんだ?」


「クリームは知っていると思うが、水魔術は土魔術同様2種類の魔術が存在する。」

「水よ」

 するとカノンの持っていた空のコップに水が入る。おそらくは生活魔術だろう。


「これは周りの水分を集めて使う、水分補給とかにも使われる水魔術で吸水型と言われている。」

「魔力効率は良いのだが水辺以外ならば大量の水が出せないため、基本的には水を生成してそれを再利用ってのが多い。」

「次のを実践する……って小杯(コップ)がねーや。アリシャ、小杯を貸してくれ。」


「しょうがねぇなぁ。」

 少し中身の残っていた水を飲みほして渡す。


auto-peza水を生め

 カノンが詠唱術の水魔術を発動させる。

 小さめの術式が展開され、コップに少量の水が入る。


「これが生成型の水魔術で、魔力から水を生み出す。」

「ただし生み出す際に入れた魔力濃度によって魔力に戻るまでの時間が変わる。」

 そう説明していると、こちらに見せていた水がだんだんと消えていく。


「このように、少しだけしかいれていなければすぐに消えてしまう」

「多くの水魔術には生成型を使われるのだが、アリシャがリーシェに止めを刺したのは吸水型」

「恐らくだが水魔術を吸収し、それをそのまま放出するという術式だったのだろう。」

 

 なるほど。横に避けた場合の追撃に設置してあった大魔術を吸収して使ったのか。


「大体正解。流石カノン。」

「自分の魔術しか吸収できない、再利用水リサイクルって言う魔術。」

 前に話した地球のエコ云々ことから発想を得たのだろう。


「後はリーシェにも言えることだが、全体的に相手の癖が分かっている前提で動いてるのは良くないな。」

「そして次はリーシェなんだが……。」


「何故歯切れの悪い言い方をする。」


「だってバリスタ以外に褒めるところなくないか?」


「嘘だろ!?なんか他にあるだろ!腕を飛ばしたのとか!」


「それはアリシャの対応もそうなんだが、全体的に”模擬戦だから”って動きが多すぎるんだよ」

「実戦で自分の腕を切り取って飛ばしたりしないし、アリシャの受け方だって実戦ならば腕が無くなってたぞ。」


「死ぬよりは軽傷だから……。」

「予想外の方向からくる攻撃に慣れておかないといけないと思ってな。」


「まあ初見の技に対応するというのは重要だが、それにしても模擬戦前提の動きが多すぎる」

「慣れというのは恐ろしいからな、模擬戦の感覚で戦って致命傷を受けたりするかもしれない」

「ということでしばらくの間は模擬戦禁止な!」


「「はい……。」」


「お2人ふたりは行きぴったりなんですね。」


「仕方ないと割り切って飯でも食べるか。」



 そうして数時間ほど雑談をしながら食事をして、本日は解散となった。


「んじゃ、暗くなってきてるし俺はクリームを送ってくわ。」

 

「先輩方、失礼しまーす。」



「さてと、じゃあ俺達も帰るか。送っていこうか?」

 正当防衛ならば魔術の使用は許可されているものの、純粋な魔術師であるアリシャを一人で帰らせるのも悪いだろう。


「いや、バリスタって魔術について教えてもらいたいからアリシャの泊まっている部屋に行っていい?」


「別に問題ないが。バリスタは俺以外だと再現は出来ないぞ?」




「リーシェは分かっていない……こういうのは部屋に行きたい口実なの……」

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