魔術師アリシャに対するメタ魔術


「模擬戦はしないよ。」


 まあうん。そら暗殺者なんだから技なんで見せないよね。

 でもみたいなぁ。


 うーん。暗殺者とかって女捨ててるイメージあるんだけど、胸はそこそこでかいし揉んだら怒ってこっちに攻撃してくれないか───「リーシェ?変なこと考えてないよね?」



「何を言っているんだアリシャ。この俺が胸を揉んだら怒って攻撃してくれないかとか考えるわけないだろう。」


「もろにばらしてるじゃないか。」


「俺が揉んだらアリシャに怒られるからな!行け!カノン!」


「やだよ俺の社会的信用が死ねる。」


「別にカノン殿ならば揉まれても問題は無い。」

 これがイケメンの特権という奴なのか!?。


「くそ!カノンめ!顔が良いと女の胸をもんでも怒られないのか!」


「おい。他の生徒から白い目で見られてるから変なことは言わないでくれ。」


「そういうわけではない」

「私の胸を揉みたければ私より偉くなれ。」


「物語の貴族みたいな感じか。」


「違う。私は主を探している」

「貴様が我が主に相応しき人物であれば私の主へなれ。そしたら胸の一つや二つ好きにすればよい。」




「別におっぱいに目が眩んだわけではないが、ちょっと社会的地位の上位者を目指そうと思う。」


「私のじゃ……だめ?」


「素晴らしい。後で俺の部屋で触らせていただこう。」


「触らせていただこうじゃねーよ。」




 さて。色々あったが新入生歓迎会こと模擬戦をやることとなってしまった。

 そもそも俺の魔術の再現はほぼ無理なのではと思うのだが、血統魔術じゃなければよいの精神なのだろう。


 観客席では1年生と2年生が分かれて座っており、こちらの見学をしている。


 1年生ならばこれからお前らはこれを目指すのだ、と言う意味で。

 2年生ならば同学年のトップはこれがぐらい強いのだ、と言う意味で見せられているのだろう。


 ふと見ると、カノンがクリームの横に座っている。なんてやつだ。

 まああまり気にはしていない。あいつは過去に振られたであろうリーンという女一筋らしいからな。

 


 模擬戦の形式は2ヵ月前と同じだ。教師の合図によって戦いが始まる。



「行くぜ!」

 前への全力疾走。魔術師相手に距離を取るメリットは殆どない。


 アリシャとの距離はおよそ80メートル。剣士の間合いではないが距離を詰めることは大切だ。

 しかしいつもしている模擬戦の展開なので予想されており、アリシャは俺の進行方向に魔術を発動させる。

 

 土魔術だ。攻撃目的ではなく足止め目的。目の前に巨大な壁が立ちふさがる。

 直後俺は全力で上に飛んだ。

 飛んだ瞬間、壁が壊れた。その壊れた壁ごとさっきまで俺がいた空間を炎が飲み込む。


 火の大魔術、火炎砲だ。

 壁で一瞬視界を防ぎその直後壁ごと大魔術で飛ばす。いつも使っているアリシャの基本戦術の一つ。


 挨拶替わりの攻撃をしたアリシャは、足元に風を走らせる。



風足ふうそく

 足に風魔術の補助をつけることによって、機動力を上げる軽魔術師必須の魔術だ。


 そしてアリシャはそのまま飛ぶ。風によって強化された跳躍は一気に5メートル近くも飛び、そこから紋章術の防御術式で足場を作り宙に立つ。


 距離は10メートルほど。アリシャが宙にいることが懸念材料か。



「五連射・火炎そう

 アリシャの前に、横が繋がっている5つの魔術陣が形成される。

 連射魔術陣。アリシャと俺で生み出した紋章術の新たなる可能性だ。


 

 元々紋章魔術は複数展開できる代わりに、その分圧倒的に集中力が必要だ。

 例えば同じ術式でも、複数展開するとなると”どこに””どのように””どれぐらいの規模で””どの方向に対して”などと一度に意識することが大量にある。


 そこで提案したのが複数の術式を横に並べてくっつけることで、一つにまとめて作りだすこと。


 紋章術の基本魔術だけあって、何百年という間で精錬されてきた魔術なために下手に触れると改悪どころか術式すら発動できなく、改造は非常に困難だった。

 

 しかし俺の前世の知識と、数々のトライアンドエラーによってようやく完成した。


 実際に試してみると、並べるだけ威力が上昇するという思わぬ利点があった。

 しかし思わぬ短所もついてきた。近い場所に出さなければ上手く術式が発動しないために主に近距離用として使われる。



 ……そもそも近距離ならばある程度無意識で出せるため、複数展開の負荷軽減目的としてはあまり意味が無かったことに気が付き頭を悩ませたのは内緒だ。


 

 斜め上から、直撃すれば即死級の火炎の槍が5本降ってくる。

 それを防御術式で防ぎつつ。アリシャの真下に移動する。


弾丸バレット!」

 左指から魔力弾が飛び出す。


 しかし直前に移動していたアリシャには当たらなく、更にアリシャは中魔術を発動する。

 飛んできた火炎槍をかわし距離を詰めようと考えた瞬間、アリシャが接近してきた。


爆散炎球弾バーストショット!」

 アリシャの進行方向に防御術式を展開し、更に左手で亜種生活魔術を発動させる。


 風に変換した魔術弾を炎に変換した魔術弾で挟む形で、合計5つの弾を作る。

 その弾を放出し、タイミングよく魔力を解放させることによって広範囲に炎を伸ばす範囲攻撃魔術だ。



 しかしそれを読んでいたのかは不明だが、アリシャは防御魔術で直撃を回避し魔術防御壁ガードで炎による二次攻撃を防ぐ。



 この世界は空中の魔力濃度、つまり魔素が濃い。

 魔素が濃いということは生まれてくる人間の魔力量に影響がある他、物理法則そのものに影響が起こる。


 特に戦闘に関係するのは魔素の壁だ。

 

 この世界の飛行魔術が低空飛行で、しかも短距離飛行しか発達していない理由の一つ。

 魔素が高いということは、空中に上昇する際に物凄い抵抗がかかってしまう。


 故に高く飛ぶこと自体が難しく10メートル前後の高さで、飛行距離も50メートルほどが限度と言われている。

 故にアリシャのような軽魔術師は飛行魔術に風足のような機動能力強化魔術、そして防御術式の足場によって空中を舞っている状態なのだ。


 更に厄介なのが、上に登ろうとする際の抵抗が大きいために上に対する攻撃が非常に弱い。

 しかも下に対する攻撃には一切の制限がかからないため、高さ的有利はそのまま勝敗に直結するほどに凶悪なのだ。


 

 故に、今のアリシャのような[高い機動力で][高所から][高威力の魔術を連打する]という、軽魔術師の戦い方が最も厄介だ。


 

 しかもアリシャは度胸があるため、少し余裕を持とうと距離を離すと一気に詰めてくる。


 初めてやった模擬戦の際の重魔術師型も地球の魔術の知識を持ったアリシャがすればかなり強力だが、それ以上にこの世界で完成された軽魔術師の動きは崩すのが難しい。


 アリシャに当てれるほど速度があり、なおかつ魔素の壁に負けない貫通力を持った魔術が必要となるのだ。


 この世界にはそんな都合の良い魔術は存在していなかった。まあそんな魔術があれば軽魔術師は流行らないしな。

 そしてそれより質の悪い、地球の魔術にしても存在はしなかった。


 そもそも地球の魔術は体術と合わせる前提で、魔法と言われる凄いやつもこの世界の大魔術レベルでしかない。

 

 しかしその分地球の魔術は掟破りだ。改造に改造を重ねたことにより、似ている魔術師はいても同じ家以外では同じ術式を使う魔術師はいない!と言っても良いぐらいには多様で多彩、改造されまくりの魔術ばかりだった。



 故にこの世界の紋章術をベースとした新たなアリシャ対策の魔術を作ればよいのだ。


 前に指を向けて手を合わせ、そこから綺麗な弧を描くように手を開く。

 手の間から白い魔術陣が生み出される。




魔術弩砲バリスタ

 対アリシャ用の新魔術。完全初見殺しを受けてみよ!。

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