強い魔術師という概念の変化


「良くある話ですね。国の内側からゆっくり腐らせて国を弱体化させるというのは。」

 前世で読んだ本や、俺の住んでいた国でもそういうのは起きていた。

 残念ながらよくある話だ。表面上は戦争が無くても、すべての国が仲良くなんてのは無理だろう。

 

 圧倒的力で征服でもしない限りは……



「ただ、今期は上級貴族の当代が二人。更に一級冒険者でもある優等生が入ってきました」

「本来は上級貴族が魔術学校に入学することすら珍しいため、一応ということで私が魔術学校の視察に行きました」

「するとあら大変!ここでの評価は戦闘力より、どれだけ強い魔術を速く使えるかということを重視されていたんですね。」


「そういうのって気が付いたり、学生が疑問に思わないんですか?」


「まあ手回しがあったんでしょうが、一番は人間の考え方の問題でしょうね」

「結局の所は策を弄して敵を倒したりするより、強い魔術を速く使えるという方が目標としては分かりやすいです」

「上が楽な方法で評価してくれる。となれば人は楽な方向に流れます。」


「現に他の生徒たちは変に思わなかったんですかね?」


「思ったとしてどこに言うんですかね?」



 な……そういうことか。

 魔術学校の教えが変とどこに問題を伝えればいいんだ?


 そもそもそこに疑問を持ったとしても、自分自身が間違っていないと確実に言える根拠はどこだ?

 なにより[強い魔術を速く使う]というのはある意味魔術師としての理想形の一つであり、魔術師というイメージとに近い存在ではある。


 嘘に部分的な真実を混ぜると説得力が増すというのは聞いたことがある。

 根本的に疑うこと自体が少ないだろうし、そもそも疑ったとしても学校の言うことを聞いていれば評価はもらえるのだ。


 高い金を払って入学してるんだ。無駄に反抗して退学とかになるよりは、素直に従って学校を卒業したという拍がついた方が絶対美味しい。

 

 そして騎士に言ったとしてもなんて言うんだ?。

 恐らくはスパイなりがいるとは思うしろ証拠は無し、授業がおかしいと騎士に言ったところで変わらない。

 

 もし変えれるとしれば、王族と繋がりを持っている上級貴族ぐらいなものだろう。


「そういうわけで去年からは私が学園長となり、改革を色々進めていたわけです」

「とはいえいきなり評価基準を変えると色々問題が起きるので、ゆっくりを変えていかなければなりませんけどね。」


「となると、実戦派なんかは学園長が指導している生徒だったりしますか?」


「そうですね。少数ですがそこそこ強い魔術師が多いです」

「おっと、そろそろ集合の時間でしょう。遅刻しないように早目に教室に行きなさい。」


 そうして俺は半強制的に学園室から追い出された。



 完全に伝達ミスを無かったことにされた気もするがとりあえず教室に入ってみることにした。


 1年生はランダムにクラスが分けられていたらしいが、2年生からは前年度の終盤の実力で編成が変わってくるらしい。

 一等から三等までクラスがあり、数字が小さい方が実力があるとのことだ。


 ということで一等組に配置された俺は、学園長の忖度とか言われないように頑張らないといけない。



 教室に入る。時間自体はそこまでギリギリでは無いはずだが、クラスには人が多い。

 俺を含めて10人。前世で言う学校というよりは塾と大学を足して割ったような場所のため、ここから1人2人増えたとしても大量に増えることは無いだろう。



 教室の中に知り合いは誰がいるか確認する。

 アリシャとカノンがいて、他にも模擬戦の観戦をしていた実力を持っている実戦派の学生がちらほら。

 

 ただし忖度と言われないためか、それとも絶対数が少ないためか、それとも評価基準がゆっくりを変わっていっているせいか実戦派は半分程度しかいない。


 忖度と言われないために不当に落としたというのは無いか。それは流石にしないだろう。



 っと、ふと一人見落としていることに気がついた。


 教室の隅っこで一人静かに座っている女性。

 綺麗な黒髪のショートヘア。氷のような雰囲気を放ち本を読んでいる。



 確か入学した時に会った、暗殺業関係の人だろう。

 


「お、ようやく来たか。」

 そういって俺に気がついたカノンに呼ばれる。


「わりーわりー。学園長に文句言ってきたんだけど長くなってな。」

 そういってアリシャとカノンの間に座る。わざわざ空けてくれたのは嬉しいのだが実はこの二人って仲良くないのか?。


「そういえばさっきのクリームちゃんを口説いていたことなんだけど……」

 アリシャに先ほどの壁ドンを問い詰められる。


「いや待て!話を聞いてほしい。」


「どうぞ」

「はい」


「実は俺、村で何か特別な存在みたいなんだ。」


「厨二病かな?」

「ちゅうに病?なにかの病気?」


「リーシェは知らないのか。中学自・・・・・・じゃなくて、大体14歳前後の歳になる精神病みたいなものでな」

「自分は特別な人間と思ったり。実は秘められた力があるんじゃないか!って思うようになって、数年後に思い出したら死ぬほど恥ずかしくなるようなかっこつけたカッコよくない行動をするようになるんだ。」


「リーシェは私にとって特別な人間だよ……?」


「ははは言ってくれるなぁ!」

 面と向かってそういわれると嬉しいけど恥ずかしい。


「まあ中二病はさておいて、実際の俺にしゃべりかけてはいけないという掟は存在していたんだ」

「だから俺の愛好者であるクリームに対して、色仕掛けで口を割れないかなと思ったわけだ。」


「てか、喋りかけていけないんだったらさっきのも駄目なんじゃね。」


「確かに」


「村の外ならば問題ないのか、監視の目が無いから大丈夫なのか、完全に忘れていたのか。どれだろうね。」


「テンション上がってたし、完全に忘れていた説は割と否定できねーよな。」

 

「「「う~ん」」」

 今度実家に帰った時に聞いてみるか。


「ああそれと。別にそのことに関しては怒っていないよ?」

 話が途切れたところでアリシャが俺に言う。


「ほ、ほんとうでしょうか?」


「本当だよ。だってクリームちゃんからリーシェの過去について聞けたからね。許そうと思う。」


「しまった!俺の過去が恋人にばれてしまった……」

 いや待て問題は無いはずだ。言うて俺はそこまで変なことはしていない……と思う。

 

「ちなみにどんなことを聞いたりとかは……?」


「何故自分から傷を広げに行くのか。」

 自分から傷を広げに行った方がダメージは少ないんだよ!。


「秘密だよ♡」


「グハッ!」

 可愛さと小悪魔さで俺の精神のダメージが入る。


「こういうので自分から聞いて来たら秘密にする。自分から聞かなくて無かったことにしようとしたら暴露する」

「これが効果的だって、カノンに教えてもらった。」

 思ったより仲が良くなっていて結構です。



 というかどのことだ?狩人になる前にイノシシに似た動物を狩った時に、返り血まみれで帰宅したことか?。

 

 魔術を使うときにちょっとかっこいい(当社比)詠唱を練習してみたりしたことか?。


 それとも夕日を見てそれっぽく黄昏てた時か?。



「くそ……思い当たる節が多すぎて絞り切れない」


「そんなに黒歴史ある癖によく愛好会的なのができてたよなこいつ。」


「見た目は可愛らしいから……世の中は見た目なの。見た目さえ良ければ悪いことさえしなければ、何しても一定以上の好感度が上がる。」


「見た目”は”とは失礼な。」


「中身が可愛かったらそれはそれで問題だろ。精神が引っ張られてるぞ。」


「ウヘェ……」

 俺の発言を思思い出して吐きそうになった。


 強引に気分を変えること込みであの暗殺者について聞くか。


「そういえばなんだが、あの隅っこで本を読んでいる暗殺者君は一体誰なんだい?」


「へー。お前もなんやかんやで情報網が広いんだな。」

 カノンに関心される。


「なんか勘違いしているから言っておくと、実は入学する当日に彼女と遭遇したんだよな」

「その時に暗殺とはいかなくても、裏家業の人間というのは分かっていた。」


「じゃあ暗殺者ってのは何でわかったの……?」


「そりゃ暗殺者という響きがかっこいいからに決まっているだろう!」

 

「永遠の中二病だこりゃ。ようするにかっこいいからそう呼んだだけで実際には分からなかったらしい。」


「んでんで、実際どこのどちら様なの?」


「カラカーラ・ハボック。暗殺の家系で有名な貴族の子孫だな。」


「暗殺者なのに有名で大丈夫なのか?」


「ハボック家の暗殺は、闇に潜んで殺すというよりは」

「真正面から挑んで殺して、その後闇に潜むという感じだからな。有名な方が抑止力にもなって良いのだろう。」


「なんという脳筋暗殺者。」


「面白そうなのでお手合わせ願いたい。ということで時間も何とかなるだろうしちょっと話してくる。」


「おい馬鹿やめろ!」

 そういうカノンの制止を振り切り、俺はカラカーラの横へと座る。


「やあ君。ご機嫌いかがかな?」

 低音ボイス。多分イケボで話しかける。


「模擬戦はしないよ。」

 速攻で振られた。

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