地球の魔術


 

 魔術師。強化魔術によって肉体を強化したり、体術と魔術を合わせた戦い方をする戦闘員の総称。

 

 一人で複数人を相手するのは難しく、圧倒的な機動力と圧倒的な火力によって戦場を蹂躙するなんてことは到底出来っこない。

 一般的な魔術師は小銃より強い程度で、小銃を持った兵士に囲まれればそのまま殺されるなんてこともありえる。


 しかし武器を持たなくとも殺傷能力が高く、火器を持たなくとも戦力としては高い。

 その上魔物と言われを殺すため、争いに置いて火器重火器が主流になったとしても魔術師は廃れることはなかった。


 



 確かにこいつは変だと思っていた。

 本来は数時間かけて慣れるはずの小魔術を一瞬で習得し、数日かけて展開の練習をするような大魔術を少し練習しただけで展開できるようになった。


 いくら才能があったとはいえ、魔術に触れてすぐの状態で学園の中でも上位の実力を持つアリシャに勝ったし、先ほど使った魔術も防音魔術を主にしているのだろうが改造された特殊な魔術だった。


 才能。なんて一言で済ませて努力を否定するわけでは無い。

 しかし俺自身の扱いでわかる。この世には才能は存在し、人は生まれもってにして不公平だということも。


 だからこいつの一言には心底驚いた。


「そもそも俺の前世って魔術師だったし。」





「ってあれ?前世の記憶が無いのに前世が魔術師だったってわかるの?」

 アリシャが俺に聞いてくる。


「確かに何でだろうか。魔術関連の知識が豊富でそれを利用で来たからとか?」

 俺が転生者だと確信しているのもそうだが、そもそも俺は何故確信できたのか。


「多分だけど、俺が男だと思うのと同じ理由だと思う。」

「俺自身の記憶はないが、俺自身という意思は残っている。」

 故に俺が転生者だと確信できたし、俺は男で前世は魔術師だということも分かっている。


 一旦はそれで結論を出そう。これ以上考えても結論が出ない以上、少しでも精神的にマシなところで結論を出すのが安定だろう。



 そういえばカノンが固まってる。

「どうした?」


「いやなんというか……もしかしたら俺とお前は別の時代に生まれているかもしれない。」


「なんで?」


「だって俺の知っている地球には魔術なんて無かったんだよ。魔術なんて創作上に登場するものでしかなかった。」


「なるほど。だから魔術が無いと言ったのか」

「……え?おかしくね?魔術は普通にあったぞ。」


「国が同じなのであれば、もしかしたら生きていた時代が違うのかもしれない。」


「そうか!そもそも生きていた年代が違うのかもしれない」

「カノン!お前享年はいつだ!」


「享年を聞かれる日が来るとは思わなかった……」

「えーっと……確か2049年の7月中旬ぐらいだな。細かいのは覚えてない」


「知識から逆算した、俺の生きていたのは2049年の1月から2050年になるまで・・・・・・のはずだ。」

 2049年発1月売の漫画のオマケコマの知識がある。

 あくまでそれ以降で死んだのが確定なだけで細かい死亡日は分からない。



「知識から逆算って、それはどうやってやってるの?」

 アリシャから質問が飛んできた。


「単純だ。特定の日に発売された本の内容を知っているからそれまでは生きていた」 

「だから露骨に知識が無い部分。俺の場合は2050年関係の知識が全くないから、2050年にはもう死んでいると考えている。」


「てか1月以降の知識が一切無いのであれば、その辺で死んだってことなんじゃないか?」

 カノンが俺に尋ねる。


「そもそも記憶と知識って結びついているものだと思うんだけど、どんな状態なの?」

 アリシャが俺に尋ねる。



「一度に話しかけるな!」

「俺の知識ってのは、何も好き勝手自由自在に引き出せるってことじゃないんだ。」


「「というと?」」


「お前らにもあるだろ。言われるまで忘れていた!みたいなことが。」


「たまにあるな。帰宅してからやろうと思ったことを忘れてて、何かの拍子で思い出すってこと。」


「あんまりないけど言いたいことは分からなくはない。」


「俺はそれがより酷くなった状態って感じだ」

「例えば夏で道を歩いているときに暑い、と思う。そうしたら涼しくなる方法や涼しくする道具を思い浮かべる」


「例えばクーラーだったり、例えば扇風機だったり。かき氷って言う冷たい食べ物があったなと知識が出てくる」

「すべて忘れているが、連鎖式に思い出すって感じが近いな」



「逆に大雑把なことじゃ思い浮かばない。例えば前世の知識を利用してこの世界で売れば儲かる物!だと何も思い浮かばなかった」

「魔術を使うときに銃を思い出し、そこから火薬を思い出し、そこからこの世界で銃を作れないかと考える。」


「それはかなり辛そうだな。」


「そこそこめんどくさくはあるけど、そもそもどんな知識があるかってことすら分かっていないからな」

「思い出せなくて歯がゆいってことは無いし、割と不思議なものだよ。記憶が無いってのは。」



「つっても連鎖的に戻るわけで、恐らくだが重要な知識は殆ど戻っていると思う」

「けどあくまで重要な知識ぐらいで、細かい知識なんかは結構戻ってないと思うんだよな」

「だから1月以降にも生きているとは思うが、それ以降いつ死んだかという予想はつけられない。」


「そういえば思ったんだけど、カノンが死んだ日の近くにあった大事件とかを言ったらアリシャも思い出すんじゃないの?」


「天才かよ!」

 流石俺の嫁。



「ということでカノン殿。是非お願いしたい所存でございます。」


「そういうのは知識はどこから出てきたんだろうな」

「というよりはそれなら簡単だな。俺が死んだのって地震によって物が降ってきてそのまま死亡って感じだったな。」

 地震か。



「ああ!確かにあったな!7月中旬ぐらいから地震が!」


「じゃあリーシェが死んだのはそれ以降ってことか。」


「恐らくは死亡時期はそんなに変わらないだろう。変わっても半年ぐらいだと思う。」


「情報が無いってのは、監禁されてたとかで情報に触れられなかったという可能性は無いか?」


「無くはないが、確か地震の時に思いついた魔術があった」

人工地震アースカースって言ってな。魔術で地震を引き起こすって術式を考えついたからその時期は確実に魔術についてしっていた。」


「なんだそれ。テロリストかよ。」


「地震……?」


「後で術式ごとアリシャには特別に教えてあげよう。」


「俺には!?」


「教えてもいいけど、ぶっちゃけこの世界では使えないしアリシャぐらいしか知りたがらないと思う。」


「何故に使えない?」


「地球って空気中の魔力、要するに魔素が薄いんだが何故か地中に溜まっている魔力はそこそこあるんだよな」

「地球の魔素を1としたら、地中に溜まっている魔力は10ぐらいある」

「ちなみにこの星の魔素は最低20、地中の魔力は22ぐらいはあるな」


「そんなに違うんだ。」


「つーかこっちの世界だと魔素と地中の魔力ってあんまり差が無いんだな。」


「原因は分からんけどな。俺の考えたのは魔素と地中の魔力の差を活かした暴走に近い術式なんだ。」

 というか前世の俺、暴走系の知識が豊富なのは何故なんだ。


「だから根本的に、魔素と地中の魔力の差が少ないこの世界だと意味が無い。」




「まあ地球の魔術は後で話すとして、もしかして俺とカノンはパラ・・・・・・えーっと並行世界の同じ地球に住んでいたとか?。」

 パラレルワールドって日本語でなんて言えば良いかで無かった。


「パラレルワールド。アリシャに分かりやすく言えば並行世界のことだな。」


「え?でも並行世界って……否定されたはずじゃ?」


「なん……だと?」


「500年前ぐらいに出た、魔法の研究の時の副産物だな。」

「そもそも並行世界って言葉自体があまり知られていなかったわけで、それ専用の論文ぐらいにしか乗っていない。」

 そうカノンが誇らしく語る。



「というかそもそも、リーシェは地球には魔術があるってのは分かったがあくまでそれは存在するということが分かっただけだ:

「魔術は秘匿されているもので、あくまでお前が関係者だから一般常識として知っているだけなんじゃないか?」






 確かに。そういや魔術って秘匿されてるものだったわ。



「賢いな。確かにそうだった気がする。」


「この世界は魔術が基本だから……気が付かなかったのも仕方ないと思うよ……」


「と言うより前に俺に記憶が無いって言ったときは、前世が何者かすら分かっていなかったと言っただろ?」

「ならばどこで魔術師ということを思い出したのか、ってのは大まかに分からないか?」



 カノンとの初対面の時は確実に知らなかっただろう……そしてリトルデビルとの戦いの時は確実に思い出していた。

 となるとアリシャと友人になってからの期間で魔術師との関係が深くなったから、そこで連鎖的に思い出した……のだろう。




 

 そうして俺は地球の魔術をアリシャに教えつつ、カノンと俺の前世に関して色々考察をしつつ魔術師として鍛えることを優先して生活するようにした。



 あれから2ヵ月日が経ち冬が過ぎ春となり俺達は魔術学校の2年生となった。



「はっはー!アリシャ!今日こそは勝たせてもうらぜ。」

 新入学生歓迎会こと、魔術師同時の模擬戦を観戦するという企画に巻き込まれて俺たちは戦うこととなった。

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