愛の告白


 いつからあの人のことが好きだったかなんてわからない。


 物語では人が好きになる転機なんて普通にあるけど、現実の恋心なんてそんな分かりやすいものではない。


 気が付いたら気になっている。

 気が付いたら目で追っている。

 気が付いたら好きになっている。


 そんな自分の恋心を今ようやく自覚した。





「リーシェ……私はあなたのことが──

 そんな愛の告白を直前にし、カノンが乱入したきた。



「カノンてめぇ!おい!」

 雰囲気なんてぶっ壊れた。畜生。



「ああ。なんかよく分からんがすまんかった。」


「あ……いや……その……」

 そういってアリシャが混乱している。焦っている姿も可愛い。


「とりあえずアリシャ、その話はまた明日落ち着いてから話そう。一旦外で頭を冷やしてきな。」


「そうする……」

 そういってとぼとぼと落ち込みながらアリシャは部屋から出ていく。




「それでその……いい雰囲気だったのにすまないな。」 

 そういってカノンは俺に謝罪する。



「いや大丈夫だ。むしろあのままだとやばかったし助かった。」

 正直理性が飛びかけてたから二つ返事で応じかけた。


 村でも同年代とはわざと距離を置いていたし、こっちに来てもあまり女とは関わっていなかった。

 だって中身男だし。下手に絡むのは良くないと思ってたし。


 故に女性に対して免疫はあんまり強くない。メリッサさんみたいに歳が離れていればよいが同年代だとあまり話しにくい。



 そして今分かった。俺はアリシャが好きだ。

 故にあの場面でそのままOKを出すところだった。



「中身が男ってことを言っておかないとか。律儀なやつだ。」

 そうだ。告白を受ける前に俺は前世の記憶があって、しかも中身が男という事実を伝えなければならない。



 この世界の恋仲というのは、日本における恋人とは意味合いが違う。

 恋仲になった場合、よっぽどのことが無い限りはそのまま結婚。籍を入れるのだ。


 故に簡単な気持ちで恋仲になるわけにもならないし、いつかは話さないといけない秘密を抱えたままその気持ちに応じるというのは駄目だろう。



「まあな。友人程度ならば話さないとで良いと思うけど、流石に恋仲になるなら話しておかないといけないしな。」

 


 話しておかなければならないだろう。もしかしたら男というのを隠していたのを軽蔑されるかもしれない。 

 前世の記憶があるのを気味悪がられるかもしれない。



「リーシェ!ご飯買ってきましたよ!」

 そんなナイーブな考えを吹き飛ばすがごとく学園長が部屋に入ってくる。

 俺の部屋に入るのには五月蠅くしないといけないルールでもあるのか。



「外でアリシャが蹲っていましたが何があったんですか?」

 そういって、魔術収納袋から大量の食糧を出す。

 

 小さな山ができた。


「買い過ぎじゃないですかね。物理的に入りませんよこれ。」

 どう見ても買い過ぎではないだろうか。


「成長期なんですから少しぐらい食べ過ぎぐらいがいいものですよ。」

 そんな学園長のおかげで迷いがふっとんが気がする。





~翌日・俺の泊まっている部屋にて~


「リーシェ。昨日の話の続きに来たけど。」

 そういってアリシャが入ってくる。事前に通信魔具によってそのことを伝えていた。



「ってカノンもいるんだ……。」

 そうカノンもいる。転生の話をするならばこいつもいた方が良いだろう。 


「は、カノンよがっかりされて残念だったな。」


「残念で悪かったな。」


「と言うよりなんでカノンいるの?」


「それはな。今からアリシャに言わないといけないことについて関係があるからだ。」


「嘘…・・・まさかアリシャとカノンは既に付き合っているの……」

 そういって青ざめながら言う。


「誰がこいつと付き合うかよ!」

「失礼な。俺にだって選ぶ権利ぐらいある。」


「「チッ!」」

 

「息が合ってる……本当にそうなんだ……。」

 そういって誤解がどんどん深くなっていく。



「まあちょっと落ち着いてくれ。まずは一応の盗聴防止をしとくぞ。」

音遮断サウンドカット

 魔術が発動される。俺から展開し壁と床、天井に白く薄い皮のようなものが展開される。

 防音魔術をある程度改造した、1部屋の音声除去を目的とした魔術だ。



「これでこの部屋の声は外には聞こえない。盗聴は多分無いかな。」


「確認した限りではないな。」


「カノンが言うなら……大丈夫。」

 



「さて本題だ。俺と付き合ってほしい。」


「え……本当?嬉しい……」


「けどその前に、アリシャに伝えておきたいことがある。」


「うん。」


「俺とカノンには前世の意識。この人生より前の人生が存在しているんだ。」




「前世の意識……ってことは今の人生が初めてじゃないってこと?」


「そういうことだ。」


「それで?」


「あ、普通に信じるんだ。」

 漫画とかだと、大体信じてもらえないし信じてもらえないと思っていた。



「うん。だってアリシャの言うことだもん。信じるに決まってるよ!」

 今は凄くありがたい。けど盲目的なイェスマンになる可能性もあるから危ういのか?。

 いや信じるてくれてるだけだから今のところは問題ないか。


「それだけ?」


「いやそれだけじゃないんだ。」

「実は俺、肉体の性別は女だが精神は男なんだ。」



「つまり……どういうこと?」

 しまった。分かりにくかったか。


「えーっとだな。俺の前世は男っぽくて、今世では肉体は女なんだけど精神は男なんだよな。」


「っぽくて?」


「こいつ前世の記憶が無いんだよ。」


「前世の記憶が無いのに前世があったって分かるの?」




 確かにそうだ。何故俺は前世の記憶が無いのに転生者だと分かっていた?

 知識はあるから、そこから逆算的に前世があったと思っていた?


 違う。俺は自分が転生者だということを確信していた。

 

 記憶を遡る。しかしいつ俺が転生者だと確信していたのかが思い出せない。

 大まかな記憶の残っている3歳のころには既に前世があったと分かっている。最低でもこの時期には知っていた。


 そもそもおかしい。俺は


 もちろん普通の赤子ならば記憶なんてないだろう。

 故に肉体に引っ張られて記憶が無かったと思いたい。けれど……

「おいカノン!お前赤子の頃の記憶ってあるか?」


「え、えーっと。大まかなことしか覚えてないけどそこそこあるかな。」

 ここにサンプルがあってしまう。つまり肉体に引っ張られるにしてもある程度記憶は残っているはずなのだ。


 赤子の時俺は何をしていた?何を考えていた?そもそもあの時の

 赤子の頃は別人で、それを憑依する形で乗っ取ってしまった可能性すらありえる。

 


「大丈夫か?いきなり青ざめて。」

 

「大丈夫……にする。なんとかなると思う。」


「リーシェ……大丈夫?」


「いやちょっとな。少し考えすぎて変なことを考えていた。」

 そうだ。そもそもサンプル自体が少ない。

 記憶が残っている方が稀なのかもしれないし、カノンの方が異常なのかもしれない。


 故に結論を出すのはまだ早い。



「それで、だ。」

「2度目の人生で中身は男。そんな俺でも良いのか?」


「もちろん良いに決まってる。むしろ断る理由が見当たらない。」


「え……ほらさ、例えば女だと思っていたのに中身が男だとか。」


「私は男だから好きにならないわけでも、女だから好きになったわけでもない。」

「リーシェ・シャーレイ。あなたが好きだか好きなの。」


「そうか……じゃあよろしく頼むな。」

 そういって俺たちは恋仲となった。


 アリシャが抱き着いてきた。

 唇と唇が重ね合う。


 柔らかく、目の前に目をつぶったアリシャがいる。

 そしてそのまま押し倒され───「俺がいることを忘れてさかるな」


「「あ。」」




「まあよかったよかった。付き合ってから即契る恋仲は破局しやすいってのがあるしな。」


「その割には悔しそうじゃないか。」

 そりゃそうだ。美少女に押し倒されるなんて言うまたとない気かいだったんだからな。



「そういえば前世って言ったけど。微妙に常識が無いしもしかして離れた国の人間だったりするの?」

 そうアリシャが聞いてくる。


「ああいってなかったか。俺たちは地球の国の一つ、日本って言う勇者の故郷に住んでいたんだ。」


「別の星なんだ!凄い!」

 そういってアリシャのテンションが上がる。表情には出ていないがとてもうれしそうだ。


「じゃあ地球にある魔術を教えて!」

 そういってアリシャが上目遣いでこちらを見てくる。なんて可愛らしいのだ。


「残念ながら地球に魔術は無いぜ。」

 そういってカノンが邪魔をしてくる。

 するとアリシャがむくれている。


「童貞のカノン君には分からんと思うが、アリシャは俺から聞きたいんだぜ。」


「童貞とは失礼な。」

 はは。わざとじゃないとはいえ俺とアリシャの邪魔をした仕返しだ。



「というより、無知に付け込んだ嘘は良くないな。そいうのはエロ漫画の世界だけで十分だよ」


「エロ漫画?」


「雑にエッチなことをする物語のことだよ。」

 そうやってカノンが説明する。

 そういえばエッチという言葉は存在するのだな。


「というより嘘って、俺なんか嘘言ったか?」

 一体何を言っているんだこいつは。


「何言ってんだ。地球に魔術が無いなんて無知に付け込んだ嘘をついただろ。」


「は?何言ってんだお前。」

 

「何って……地球には魔術も魔法も存在しただろ。」



「いやお前……何言ってんだ。創作と現実が混ざってるんじゃないか?」

 そういってカノンが心配そうにする。




「現実だぞ。だって地球の魔術や魔法の応用がこの世界でも使えたし」

「そもそも俺の前世って魔術師だったし。」

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