目が覚めたら知っている天井だった



 目が覚めたら知っている天井だった。

 俺がいつも寝泊りしている宿屋の天井、宿屋のベッドの上で寝ている。



 とりあえずと体を起こそうとした瞬間、全身に激痛が走る。

 

「いってぇ……。」

 見れば左腕にはギブスがつけられている。

 かるく服の下を見たが、服の下にも包帯がまかれている。


 

 生き残ったのだ。

 あの激戦を生き残ったのだ。


 

 周りを確認する。するとベッドに寄りかかる形でアリシャが寝ている。

 恐らくは俺の看病をしてくれていたのだろう。


 起こして目が覚めたことを報告するか、疲れているだろうし寝かせておくか。

 せっかくここで待ってくれてるわけだし一番に俺が起きのを見たいだろう。起こすべきかな。

 


「失礼します。」

 そういって部屋に学園長が入ってくる。


「あ。」

 悩んでるうちに学園長が入ってきてしまった。


「リーシェ!起きているのですね……良かった」

「というより”あ”とは一体なんですかなんですか。」


「いえその、せっかくここで待ってくれていたっぽいアリシャに一番最初に起きた姿を見せようかなと思っていたんですよね。」


「なるほど。確かに優等生はここにいますからね。とりあえず起こしましょう。」

 そういって学園長はアリシャを揺らす。



「え……はい、おはようございましゅ?」

 そういってアリシャは起きた。寝ぼけているのだろうか。



「おはようございます優等生。」


「おはよう。アリシャ。」


「はい……ってリーシェ!いつ起きたの!?」


「さっき起きたばっかりだよ。心配してくれてありがとな。」

 心が暖かくなる。とてもうれしい。


「運び込まれてからずっとここにいたんですよ。」


「が!学園長!そういうのは言わないでくださいよ。」

 そういってアリシャが顔を顔を赤らめる。


「本当にありがとう。」

「ちなみにどれぐらい昏睡状態になっていたんですか?」

 あの傷だ。下手すれば一週間ぐらい寝ていただろう。

 そうすれば筋肉の衰えがやばいな。鍛え直さないと。


「一日とちょっとですね。」


「は?」


「学園長に向かって”は?”とはなんですか!」

 嘘だろ。流石に早すぎないか?


 いやそうか。前提が違うのだ。


「すみません学園長。自分の知っている回復魔術だと1日で治るなんてことはありえないので。」

「1週間ぐらい意識が無いと思ってました。」

 学園長は回復魔術に長けている。切断された腕をすぐさまつけれるほどに。


 故に1日と少しで意識を取り戻したのだろう。



「そういえば左腕は大丈夫なんですか?」

 気になる。この歳で隻腕になるのは剣士としてはまずい。


 ・・・・・・いや別に最強の剣士を目指しているわけでもないけどな。


「そうですね。かなりグチャグチャな状態で治すかは五分五分と言った感じでした」

「しかし、少し腕に切断跡が残ったぐらいで治るでしょう。特に後遺症も残らないと思います。」

 あの傷で後遺症も残らないのか。学園長凄いな。



「と言うより切断跡ですか?」


「そうですね。私が腕を切り裂き軽く手術をしました。」

 回復魔術があるのに手術という概念は存在しているのか。


「本当にヒヤヒヤしましたよ。一歩間違えれば腕が動かなくなるってぐらいの怪我でしたからね。」


「正直腕は諦めていたので助かりました。」


「ああ、流石はて……じゃなく流石ですね。」

 恐らくは転生者と言おうとしたのだろう。けれどアリシャがいるので止めてくれた。



「さてここで。意識を取り戻して間もないあなたに話すのも酷な話ですが。」

 説教か?確かに今回の戦いでは反省点が多い。


「リトルデビルの魔導石についてです。」

 説教では無かった。


「説教かと思った。」

 と、まさかのことだったために思ったことを呟いてしまった。


「説教が受けたいのですか?」


「大丈夫です。反省点はちゃんと自分で見つけています。」


「というのは冗談です。私に説教なんてする資格はありません」

「あなたならばある程度余裕を持って勝てると思っていたら命の危機になりましたからね。完全に私の采配間違いです。」


「いやいや。完全に油断して一撃もらった自分が悪いですから。」


「油断した?」

 あ、やね。


「命の取り合いで油断するとは言語道断!」

 仏教が無いような世界でも言語道断という言葉は存在するのか。



「まあギリギリの戦いに私がついていけなかったという時点で師匠としては駄目です。お互いに次から気を付けましょう。」


「会話が終わったようだから聞きますけど。魔導石とは一体なんですか?」

 そういってアリシャが会話に入ってくる。


 地味に珍しい敬語のアリシャ。俺との初対面時ぐらいでしか使ってない気がする。


「前に私が悪魔を倒した時は、石のような物は落ちませんでしたが。」


「そうですね。モンスターが落とす魔石とは違い、悪魔全部が落とすという物ではありません」

「能力を持つ悪魔、つまり上級悪魔を倒した時に手に入る。それこそが魔導石です。」


「まあ見れば分かります。」

 そういって学園長が石を渡してきた。


 大きさは筆箱ぐらいで先のとがった、綺麗な紫色をしている石だ。


「それが魔導石です。魔力を流し込んでみてください。」

 言われた通りに魔力を流し込む。



「こ、これは……!」

 そうするとそういってアリシャが驚いた顔をする。


「はへ?」

 特に何も変化があるわけでもない。どういうことだ?

 いやそうか。恐らくは


「自分の体。今小さくなってますか?」


「そう……大体三分の一ぐらいの大きさになってる。」

 そういってアリシャが俺の胸の辺りをつついてくる。


「ひゃん!」

 予想外につつかれたのでビビる。

 


「見えないのにここにリーシェがいる?」

 恐らくはアリシャからは見えていないのだろう。それはそれとして何故ピンポイントで弱点を突けるのか。 

 予想外だったから変な声が出てしまったじゃないか。


「そういえばリーシェ。上の女性用下着を付けて無かったですよね?」

 うげ。


「いやほら。戦闘の時に邪魔になるかなって。」

 要するにブラジャーだ。パンツは男物をはいているが、上はつけてない。

 上を付けたら女性という現実を認めてしまう。そんな小さな反抗心だ。



「戦闘用のがありますから……変に成長したら良くないですし、諦めて今度戦闘用のを買いに行ってください。」

 つけたくない理由を察して上で付けろって意味だろう。仕方ないし学園長からまとまった金を貰ってスポーツブラに近いやつを買いに行くか。



「もしかして私が触った場所って……」

 そういってアリシャが顔を赤らめる。愛いやつめ。

 いや愛いやつという表現は下の人間に対して使うんだっけな。じゃあ駄目だ。

 


「まあ気を取り直して」

「魔導石。つまり上級悪魔の生前の能力が使用可能になるって感じでしょうか。」



「そうですね。今あなたが魔力を流し込むことにより、あなたはリトルデビルの小さくなる能力を使っている状態です」

「ちなみに魔導具と言われる、魔導石を接続させることで道具全体に効果があったり、能力の応用をする道具もありますね。」


「凄い。リーシェの後ろが分かる。私が分からない情報が見えている。」


「ちなみに魔導石は貴重な物なので、売れば一個最低金貨一枚の入っている魔袋はくだらないでしょう。」

 魔袋。大量の金貨を使った取引をする際に使われる[中に入っている金貨の数]が分かる魔具だ。


 それ自体がそこそこの値段をするため、金貨1万枚(日本円で大体1億円)+αといった値段だろう。



「たっか!」


「能力と希少性を考えたら妥当。というより安い気もする。」


「あくまで最低価格ですので。競売にかければ更に値段が上がるでしょう。」


「そんなに高いんだったら盗まれるかも……気を付けてね、リーシェ。」


「大金を持ってると考えたら手が震える。」


「いえいえ、大丈夫です。」

 専用のバックとかがあるのかな?


「魔導石は最初に魔力を注ぎ込んだ人物を主として、それ以外の人物が魔力を流し込んでも効果が発揮りません」

「故に一度魔力の流した魔導石は大した値段では取引されません!なので安心してください!」

 そう自身満々に笑顔で言う。



 ・・・・・・けれどそれって。

「もし自分がこの魔導石を売るつもりだったらどうするつもりなんですか?もう魔力流しちゃいましたが。」

 学園長が固まる。



「……わ、わたしの貯金から金貨一万枚を差し上げます。」

 

「まあ売るつもりはないですけどね」

「当たり判定はそのまんまだしなぁ。魔導具の剣でも作って距離感を狂わせるか。」


「ある程度実力のある剣士ならば、見えない剣の警戒は基本なので微妙かと」

「持ち方や足さばきなどから逆算して大まかな攻撃範囲はばれますね。」


「小さくなって潜入……にしては小ささが足りないね。」

 アリシャがアイディアを出してくれる。しかし大体40センチになったところでと言ったのはある。


「当たり判定がそのまんまってのがきついんだよなぁ。肉体派ならば使えたかもしれないが。」

 見えないだけで当たり判定がある分、砂とかでシルエットが見えるしで悪魔の肉体が無ければ本当に使いにくい能力だ。



 そうなやんでいると、ぐぅ~と言う気の抜けた腹の虫が鳴く。

 軽く話していると空腹感が襲ってきた。


 その音を聞いたアリシャが緊張感が無いと言って笑う。


「そりゃあの傷からの回復ですからね。お腹もすくに決まっているでしょう。」

「ということで軽く食べ物を調達してきます!頑張ってくださいね。」

 頑張ってくださいとは一体何だ。



 本当に使い道が思い浮かばなかったら学園長から金をせしめるか。


 そう考えるとアリシャがこちらを見ていることに気がついた。



「リーシェ……本当に心配した。」

 そう涙目でアリシャが伝える。

 きっと緊張の糸が切れのだろう。



「ああ。正直死ぬと思った。」


「本当に心配した。」


「ごめんな……心配かけて。」


「でもようやく私の気持ちが分かった。」


 そういってアリシャが顔を近づけてくる。


「リーシェ……私はあなたのことが──「よおリーシェ!」

「店主から治ったって聞いたぜ!意識取り戻したんだってな!」


 そういって部屋に入ってきたカノンによりアリシャの告白が中断された。


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