リトルデビル


 上級悪魔。中級悪魔と同等かそれ以上の肉体を持つ上【魔導】と言われる特殊な力を持つ悪魔。


 人間とは違い生涯で一つしか能力が使わない代わりに、その能力は物理法則を無視して発動することができる。



 自分の体を小さく見える能力だったり。




「見た目を小さく見せる能力か。なるほどしょぼい能力だなそれは。」

 光の屈折とかそんな次元ではない。


 原理は不明だが、完全に見た目を小さく見せている。



 そりゃ悪魔からすればしょぼい能力だ。だが人間からすれば圧倒的な初見殺しの能力となる。

 

 肉体のスペックの差が圧倒的にある人間と悪魔。小さなミスでも命取りとなるような戦い。

 それを先ほどのように、実際は大きいが小さく見せる攻撃。と言うのはぶっ刺さる。


 殴ってきた距離から考えるに、実際の大きさは3メートル前後と考えるべき。



 かなり血が流れている。その関係で残りの魔力も少ない上に左腕は動かない。

 速く決めなければいけないが、手数が減っているのがきつい。


 まずは速度と威力を重視した技だ。右指の人差し指を強化魔術で強化し、そのまま左腕に突き刺す。

 傷をえぐるような一撃だ。恐ろしく痛い痛い痛い痛い。

 

 しかしこの痛みが今は助かる。痛みのおかげで意識をはっきりと保てる。



「はぁ!?」

 リトルデビルが驚いて一瞬固まっている。生まれてすぐだったかを言われてた気がするからな、紋章術の裏技を知らないのだろう。


 血に魔力が残っている間に空中に魔術陣を描く。


 紋章魔術というのは、込める魔力によって威力が変わる術だ。

 しかし魔力で術式を描く場合には込められる魔力の上限はあまり多くない。


 故に、魔力が豊富に入っている血液で術式を空中に描く。と言うのが紋章術の裏技の1つだ。



 血に魔力を込めて空中に固定する。慣れていないためか、書き終わるのに2秒かかるためにあまり実戦向けとは言い難い。



火炎球かえんきゅう

 書き終わり魔術が発動し、球体の火炎が飛び出す。


 しかし威力が違った。


 本来の火炎球かえんきゅうはバスケットボールより少し小さい程度、要するに魔術陣より少し小さい程度の大きさだ。


 しかし今生み出した一撃は直径3メートルは超えるであろう大火球。威力も速度も桁違いだ。



血火大炎弾けっかだいえんだんってか。」

 魔術の発動と同時に全力で前に走る。


 集中強化魔術。一部に強化魔術を集中させることによって通常の強化魔術を超える強化を得られる特殊な魔術。


 脚に集中し瞬発力を上げる。火球の後ろから接近する。



 リトルデビルは全力で俺から見た左側へと回避行動を行う。


 火球から5メートルほど離れた位置へと移動している。俺はそれを集中強化魔術によって強化された瞬発力で追いかける。


 更にもう一つ追加で足元に術式を展開する。


術式暴発オーバーフロー・風弾!」

 これも紋章術の裏技の一つ。

 

 魔力で描いた場合の紋章術の術式は、過剰に魔力を入れるとそのまま術自体が暴走してしまう。

 その性質を利用して、術自体に少し改良を加えることによって暴走の方向性を整える、それが術式暴発オーバーフロー。 


 射程距離は圧倒的に短くなる変わりに威力を上げることが可能となる。

 しかし血の紋章術より難しい上に非常に危ないために殆ど使われない。


 

 本来は風の弾を放つ魔術だが、暴走によって内容は少し変化する。

 風の弾を放つ術式は、一定方向に大量の風を放出し暴走する魔術となる。



 その風により俺の一歩は加速する。

 ただし暴走の方向性を変えただけだ、脚にはダメージが入る上に一定時間立つと術自体が崩壊して爆発してしまう。


 故に奥の手。この接近が成功しなければもはや距離を詰める手段すらなくなる。


 風より速く俺は突っ込む。

 直後暴走した魔術陣が爆発し、突風を生み出した。



 俺が接近していることに気がついたリトルデビルは俺に向けて殴りつけてくる。右ストレートだ。

 それを髪が当たるか当たらないかのギリギリの場所で避け、拳が来る部分に剣を叩きつける。


 

 生命の危機によって加速した思考によるギリギリのカウンター。

 

 手に衝撃が走る。叩いたことは無いが、きっと剣で石を叩いたような感触だろう。

 圧倒的速度で突きだされる拳に刃をつけることにより、今の俺の力でも上級悪魔という圧倒的硬さの肉体を持つ敵の体を切り裂く。


 いや、斬り裂くつもりだった……。




【パキッ】

 そんな簡単に物が折れるような音がした。

 見れば剣が折れている。上級悪魔に傷一つつけないでその剣生を終えた剣の姿がそこにあった。


 



 やらかしたやらかしたやらかした!。


 少し違和感があるとはいえ、元の剣に握り心地とか重さが似ている安物の剣を選んだ。

 そのせいで今、完全に安物の剣を使っていることを忘れていた。


 更に集中強化魔術を解除して剣に強化魔術をかけるのを忘れていた。

 これがあるから集中強化魔術は危ないし、殆ど使われないのだ。



 しかしやつは左腕が無く、恐らく今俺がいる場所は死角。

 脇腹の横奥。ギリギリ死角。つまり後一撃は入れられる。


 

 考えろ考えろ。加速する思考の中で走馬灯が流れる。

 対処法を考えろ、思い出せ、体を動かせ!。



 紋章術を使う?術式展開をする時間が惜しい。1秒でもかければばれる可能性もあるし、なにより術式展開によって場所がばれてしまう。


 火炎の槍で肺から焼く?無理だ。こっちもやばいしなにより確実性がない。


 拳で殴る?左腕が動かない状態だ。大したダメージは無いだろう。


 

 ふと目の前に物が映る。

 先ほど折られた剣先だ。それが風によって飛ばされてこっち側に来ているのだ。


 その剣が何かに当たる。俺の上少し上で止まる。

 リトルデビルの見えない体だろう。しかし今の体勢から考えるとおかしい。へこみ過ぎないか?。



 まさか!と思い最後のチャンスにかける。

 ジャンプをして右腕を折られた剣先が当たった部分に伸ばす。


 触れる。直後掌に魔力を集中させる。


「ヒートブレード!」

 実験の時に生み出した魔術。

 掌から圧縮された炎が、刃の形を象りリトルデビルの皮膚を焼く。


 傷としては2センチぐらいだろうか。貫通力自体は高いが射程が短く、結局はそこまで使えない魔術だと思っていた。

 別に首を狙うぐらいなら強化魔術つけた素手で首を折った方が早いからな。



 だが今なら使える。上級悪魔という圧倒的硬さを持つ相手の首を狙う。

 そんな人生に1度あるか無いかの機会ならば使える。


 炎の刃が首を切り裂き相手にダメージを与える。しかし切ると同時に焼き切ってしまうため失血死などは望めない。


 ならば更に一手を用意しよう。

 この傷であれをすると死ぬかもしれない。と言うよりほぼ死ぬだろう。


 けれど負けて殺されるよりは、勝って生き残る可能性がある方にかける!。



「邪魔だァ!」

 直後俺の位置が分かったリトルデビルはいきなり後ろに下がる。


 下がるというよりは一気に後退した。後ろにいるだろう俺を巻き込んで下がる。

 その後回転をし、俺を突き飛ばす。俺は宙に浮いた。



「死ねェ!」

 一撃。衝撃。破壊。


 その一撃により俺は更に吹っ飛ばされる。


 しかしまだ生きている。

 相手も左腕が無い状態かつ瀕死の状態。故に一撃で瀕死の俺に止めを刺すことすらできない。


 血が舞う。意識が飛びかける。

 だが終わるわけにはいかない。調


 最後の一手で倒せるかは不明だがやるしかない。今ここで!



意味を与える傷へ

 掠れ声で指令魔術を発動する。今の攻撃によって大量に出血した血に指令魔術を使う。

 

 血はリトルデビルの傷口へと一目散に突入する。



爆発しろばくは!!!」

 最後の一手。傷口に入った血が爆発する。

 この手の敵は内部は堅くないというのが相場だ!傷口から、内部からの爆発で倒してやる!

 

 その悪魔の体が爆発のダメージを受け、倒れる。


「さらばだ……小さき悪魔リトルデビル。」


 もう立たないで……く……

 だめ……だ視界が暗くなった……思考が……でき……な……



 そうして俺は気を失った。

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