小さき悪魔


~リレートが到着する少し前~


「は!追い詰めたぜ!」

 そういって俺はリトルデビルを追いつめた。


 感知魔術によって大まかな位置ならば感知ができる。故に既に消えていたという可能性は存在しない。


 通路の先の小部屋。広さは10平方メートル程度。高さは5メートルぐらいの小部屋。



 上級悪魔は瞑想をすることにより、短い間でも体力を回復することが可能らしい。

 更にいえば、恐らくだが悪魔はそれ+特殊な移動手段を持っている。

 

 この世界の紋章魔術を勉強した今ならわかる。俺を瀕死の状態に追い込んだ下級悪魔が地面に描いていたのは



 本来、悪魔は魔術を使えないとされている。

 上級悪魔が魔導と言われる、特殊な力を使える程度だ。


 故にあの時に術式を描いていた。これが謎すぎる恐ろしすぎる。


 まだ発見されていないだけか、魔力によって術式展開ができないとかにより戦闘に使えないだけで魔術自体は使える可能性がある。



 故に俺は学園長が来るまでに何か変なことをされないか時間を稼ぐ。可能ならば殺す。

 それが今俺のやれる手だろう。




「なんだ……あの女の方が来たと思って吃驚びっくりしたぜ。」

 そういってリトルデビルは安堵している。なんと失礼なやつだ。



「ボインのチャンネーじゃなくて悪かったな!火炎槍かえんそう!」

 術式が展開される。火魔術だ。


 魔術によって生み出された火炎の形をした槍は、リトルデビル相手に一気に突き進む。


 その一撃をリトルデビルは全力で回避する。超スピードの移動だ。


 直後一気にこちらに詰めてくる。

 残っている右腕を構えた。若干遠いが上級悪魔の能力ならば負傷していても一気に詰められるという判断だろう。



 術式を展開する。

 細長い術式。横幅は何と10cmも無い大きさ。この世界の紋章魔術は綺麗な円の形をしているが、俺が独自に改造した細長い術式だ。


 それを俺とリトルデビルの間に複数展開する。平方2メートル、厚さ10cmほどの石と水の壁を隙間なく作る。

 同時展開によってシナジーを産む組み合わせを作り、強引に複数の属性を合わせる複合魔術。


 アリシャの水渦大風巻すいかだいふうまきのように、術式外での組み合わせによる複合魔術だ。



石と水の複合壁RAサンドイッチ!」

 水の壁によって強引に衝撃を吸収する。実際に試してみたが消費魔力に比べた防御性能は高い。 

 ただし複数の術式を同時に展開しないといけないために集中力が必要だ。



 リトルデビルの一撃が入る。

 その一撃を石と水の複合壁RAサンドイッチは受け止める。


 ここからは見えないが水のクッションと石の壁により、強烈な一撃を止めているのだろう。


 傷ついた状態かつ、受けたら半壊状態になったが上級悪魔の一撃を止められた。


 これはかなりの収穫だ!しかし視界が埋まってしまうのはややめんどくさいな

 と油断したその瞬間。やつは壁の付け根ごと俺に対して飛ばしてきた。



「なんだそりゃ!」

 しまった!恐らくは術式と壁自体の接続部の繋ぎの回路が甘かったのか。


 このまま直で避けると確実に不味いだろう。追撃が怖い。

 前に防御魔術を展開し壁を受け止める。

 

 元々から合わせて攻撃を吸収する魔術なためにそこまで重さも無く、何より術式から剥がれたことによって分解が始まっている(水と石を生み出す設置型の魔術は術式から離れると魔力に分解される。特に水は術式から外れると魔力の籠ったただの水となる)。

 

 それならば1メートルほどの防御魔術で受け止め、リトルデビルの出方を伺う作戦に決めた。



 防御魔術によって石と水の複合壁RAサンドイッチを止める。視界を確保できていないために怖いが、魔術防御壁ガードがある以上は直撃しても多少ならばダメージを散らせる。


 壁が分解されて視界が空ける。

 

 リトルデビルが見えた。

 距離は5メートルほど。一瞬で接近される距離だ。


 恐らくは防御魔術を貼っていることが分からずにこちらに殴りかかろうとしているのだろう。


 今貼ってある防御魔術で一瞬動きを止めた後、周りに魔術を展開して袋叩きにしてやる!。



 しかしリトルデビルは2メートルほど前で右腕を後ろに引く。おそらくは殴るために反動をつけようとしているポーズだろう。


 気でも狂ったか?流石にその距離は届かないぞ。




 ・・・・・・いや待て、何故その距離で殴ろうとした?。


「不味い!」

 

 簡易防御策のはずの魔術防御壁ガードに全力で魔力を回し、俺の左側に防御魔術を展開。更に俺は全力で右に飛ぶ。


 直後防御魔術が割れた。破壊された。

 魔術防御壁ガードもそのまま破壊され、左から恐ろしい衝撃が飛んでくる。


 衝撃。下から殴られる一撃。

 左腕で守ろうとするが意味も無く、腕ごと腹から俺を殴りそのまま右へと飛ばす。


 おれはそのままとばされかべにしょうとつし、いしきをうし……




 失ってたまるか!事前に準備していた魔具が発動する。

 大した大きさの無い魔石を胸部装甲である胸部位限定の皮鎧の内側に潜ませていた。


 この魔具は俺が


 常に強化魔術を使うことで強化魔術に適した肉体にするための魔具だが、同時にこれは気絶した時の対策としても強引に使う。




 魔術師に置ける気絶とは通常の気絶とは少し違う。


 もの凄い痛みによって一時的に魔力の流れが変化し、その流れの乱れによって意識を失うというのが主な理由らしい(この辺はうろ覚えで確認手段も無いために恐らくだが)。


 意識を失っているというよりは、深い睡眠状態に近い状態だ。

 故に下級悪魔に気絶させられた時も実際はあまり長い時間気を失っていなかった。



 その魔術師の気絶を強引に解決する手段はいくつかあるが、最も有名な方法が俺の作った魔具だ。

 強化魔術を発動しなくなったことを条件にして発動する、一定方向に対して水の刃を作りだすポピュラーな魔具。


 この魔具を重要な血管を外すように置くことで、刃によって俺の肉体を切り裂きその時の痛みによって強引に意識を戻す。


 魔力気絶の直前、強化魔術が切れるタイミングならばそこで追加の痛みを与えれば意識を戻すことが可能だ。



 魔具が発動し俺の肉体を刃が切り裂く。

 刃というよりは槍に近い攻撃方法なために、痛みは大きいが実ダメージ自体はそこまで無い。



 意識が覚める。状況を再確認する。

 恐らく追撃が来る。と予測して俺はすぐさま壁の無い方向へと逃げる。


 直後さっきまで俺のいた場所で轟音が鳴る。

 虫を全力で潰すかの如く、圧倒的破壊を殺意を持った一撃だ。


 

「ったく。手ごたえが薄いと思ったらまだ生きてたのか。」


「あいにくしぶといものでね。そうやすやすと死んでたまるかってんだ。」


 しかし状況はあまりよくない。

 まず左腕が動かない。おそらくはリトルデビルの攻撃を反射的に防ごうとしたときに折れたのだろう。



 ・・・・・・折れたなんて生易しいものじゃない。これは今後腕が使えないなんてことすらありあるかもしれない。

 恐らく骨が粉々になっている。考えるのが怖い。

 


 全身のダメージもかなりある。

 下級悪魔の時ほどではないが体も動きにくい。かなり最悪の状態だ。


 

 恐らく学園長はまだ来ない。

 そして学園長の助けを求める時点で駄目だ。


 世界最強の魔術師を目指すんだ。傷ついているこの程度の敵は倒さないとだめだ。



 上級悪魔としての能力は衝撃だろう。距離が離れていたにも関わらず俺へ攻撃を飛ばしてきた。

 

 ・・・・・・いやそれにしては引っかかる。違和感がある

 考えろ考えろ。違和感は経験と知識と記憶による直感だ。


 何かがある。

 すべての記憶と知識をフル活用して考えろ。



 中級悪魔の言った一言、しょぼい能力。

 悪魔と人間の性質の違い。

 学園長に防御に対しての違和感。

 やつの過剰すぎる回避行動。


 戦闘時に起こる超高速の頭の回転。結論を出すのに1秒もかからなかった。

 やつの能力は衝撃波を出す能力ではない。



「見た目を小さく見せる能力か。なるほどしょぼい能力だなそれは。」

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