魔術師リレートの地雷
「いってぇ……」
着地防御術式によって着地しようとしたが、何故かうまい具合に術式展開ができなくそのまま落下した。
強化魔術をかけていたのでダメージ自体はそこまでない。
「なんだお前は!」
するといきなり男の声が聞こえた。
声の先には全身2メートル近くある全身に黒色の鎧を着た男が立っており、警戒態勢と言わんばかりにすぐ攻撃できるポーズでこちらを見ている。
「なんだって、間違って罠踏んだ落ちちゃったんですよ!」
どう見てもそうだろう。むしろそれ以外に何に見えるんだ。
「そうかすまない……昔から慎重でな。すべてが敵に見えるんだ。」
慎重の割には意外と抜けてるけどな。
見た目がいかついが、声は思ったより軽い感じだ。
「まあダンジョンです。全てを警戒するぐらいの気持ちで言った方が問題ないでしょう」
「では私は仲間と合流しないといけないので、これで失礼します。」
「そうか。次も同じように罠を踏んで落ちないように気を付けろよ。」
その瞬間俺は固まった。よく考えたら俺って罠を見分ける手段持ってないや。
「防御術式を足場にして進んでいくか……。」
「馬鹿か貴様!移動の度に術式展開をしていたらモンスターが大量に寄ってくるぞ!」
なるほど、魔術を使いまくるとモンスターが集まるのか。魔術師同様術式を感知できるようなやつらがいるのだろうか。
「私はこのまま仲間と合流して地上を目指す。恐らく罠を見分けられないダンジョン初心者なんだろう?」
「初心者だけで来るわけは無いだろうから集合場所は地下一階近くの休憩所だろう。そこまで一緒に着いて行ってやる。」
なんて優しい人なんだ。
「ありがとうございます……この恩は一生忘れません。」
「そこまで大層なことではない。軽いお返しで問題ない。」
「私の名前はリーシェ・シャーレイと申します。短い間ですがよろしくお願いします。」
「我が名はガロン・イヨロだ。よろしく頼もう。」
そうして罠を教えてもらいつつ一緒に動くことになった。
しかしこいつの鎧は凄いな。小学生が好きそうな無駄な装飾ばかりだ。
全身のいたるところに棘が生えているし、頭には角が2本生えている。
腰には剣を構えていなかったし、先ほどの警戒体勢の時もそのまま素手で襲い掛かる感じだった。
こいつは素手が武器なのか?もしかしたらビ―ターなのかもしれない。
「おい、そこ危ないぞ。」
そういって罠を踏みかけていたところを止めてくれた。
「すみません。ちょっとガロン殿の鎧が気になったもので。」
「なにぃ!?リーシェ!貴様俺の鎧がそんなに気になるか?」
「はい。何やら凄そうな鎧ですし、剣も無くどのように戦うかが見当もつかなくとても気になります。」
情報収集情報収集。
「どうやって戦うかは秘密だ。もしかしたらお前が敵かもしれないしな。」
「だがこの鎧は素晴らしいものだ。俺が生涯を費やして強化している魔具である!」
「魔具ですか!?。魔剣に近い感じですか?」
「そうだな。これ以上は秘密だ。」
「しかしこの鎧は素晴らしいだろう?なんといってもこの硬さと柔軟性の共存だ。この鎧はかなり拘っていて、不可能とまで言われたミスリル鉱石とオリハルコンの超合金なんだ!。超合金を作るために色々試行錯誤して、有名なドワーフを誘拐してきたりして色々頑張って。金貨一万枚(大体1億円)ぐらいでようやく成功したんだ!でも俺の手持ちだけじゃ足りないくて、こっそり魔王軍の金を借りて作ったんだけどこれが魔王様にばれてもう大変もう大変。しかし鎧という物は素晴らしい。これは肉体にくっつく感じの超感覚の鎧でな?最高に最高に最高なんだ!やはり鎧という物は素晴らしい!素晴らしい!素晴らしい!素晴らしい!人の戦闘方法に口立ちをするのは駄目だが、やはり剣を使うのは俺は邪道だと思う。鎧と肉体で戦う!それこそが本当の戦闘と思うんだ。」
めっちゃ早口で言ってそう。
まあメリッサ師匠もそうなんだけど、どの界隈にも仲間に飢えたオタクというのは存在するものだな。
「自分の場合は胸部鎧(所謂プレートアーマー)ぐらいしか使えないんですけどね。今後知り合いに鎧を進めておきますよ。」
「うむ。リーシェ殿がもう少し大柄であれば鎧を着ることをできただろうに、とても残念だ。」
「そうですね。けれどあなたの鎧に対する愛は伝わってきましたし、何より人に自分の思考を押し付けないというのが素晴らしい。」
「そうかそれは良かった。リーシェ殿もまだ成長する可能性があるわけだし、もし大きくなったら是非一度鎧を試してみてくれ。」
なんか割と失礼なこと言ってる気がするが気にしない。
「そうですね。あ!そろそろ休憩所が見えてきましたよ!」
ようやく休憩所が見えてきた。早くこいつから離れたい、とても心臓に悪い。
「そうか。じゃあここでお別れ━━
直後[ゴオォン!]という轟音が鳴り響く
「何かが起きているのかもしれない。俺が見にいってくるからリーシェ殿はそこで待っていてくれ。」
そうガロンが驚き休憩所へと走る。俺はガロンの言うことを無視してその後をついてく。
地下2階の休憩所はかなり広く、体育館並みの大きさを持つ部屋だ。
そこには2人いた。
一人は青い三角帽子と青いローブを見につけ、この世界では珍しいピンク色の髪が特徴の魔術師。我が師匠こと学園長、リレート・リュリュリュだ。
もう一人は慎重1メートルも無さそうな小柄でありながら、圧倒的圧力を持つ強者。
全身黒ずくめの見た目にペストマスクを思い出させるような顔。そして背中には強力な、まるで龍のような羽を持つ悪魔。リトルデビル。
しかし前に会った時とは違う。
学園長の周りには5個もの水の塊が浮いており、表情には余裕が無い。
しかし余裕は無いのはリトルデビルの方だろう。リトルデビルは
「なん……だと?」
そうガロンは驚いている。
「
左指の指先に属性を帯びた炎魔力弾を、風の魔力弾で挟むように合計5個生み出し、放出させる。
これも学園長のアドバイスだ。速度を重視しない
ガロンの近くで炎と風の力を解放させる。圧縮された炎と風はそのまま広がり爆炎を起こす。
流石に即死はしないだろうし、最悪の場合はダメージすらも与えれないだろう。
けれどこれは隙を作るための視界封じ目的込みで、ついでにダメージが入れば美味しい程度だ。
そのまま全力で学園長の所に飛ぶ。
「リーシェ!あれは敵という認識で大丈夫ですか?」
もっともな意見だ。学園長からすればいきなり出てきたよくわからない人だしな。
「ダンジョンに誰も入るなと命令があった以上、ここに来てるのは他国の人間か掟を破った冒険者だけです!ならば攻撃しても多少なら大丈夫でしょう!」
「何よりこいつ!さっき魔王軍とか言ってましたし!」
あのオタトークを普通なら適当に返すだろうが、俺はきちんと聞いていた。
あいつは魔王軍か、それに近い人間なのだろう。
「魔王軍ですって!?魔王軍は勇者に全滅させされたはずじゃ!」
「それならあいつは、自分のことを魔王軍だと思い込んでいる一般人ってことですかね?」
ようやく俺の放った炎が消える。中からは先ほどまで俺と一緒にいた黒鎧の男がいる。
「おいガロン!話と違うじゃないか!」
俺が言う前にいきなりリトルデビルがガロンに黒鎧の男に対して話しかける。これで最低でも敵というのはほぼ確定したわけだ。
「おいおいもう少し知能があってくれよ。一応はなったばかりとはいえ上級悪魔なんだろう?」
「今俺に話しかけなかったら、リーシェやそこの魔術師殿も俺が敵と思わなかっただろう。」
「残念ながらダンジョンには誰も入るなと言う命令があるんでね!だからここにいる時点でガロン、お前は敵と確定してもよい人間だ!」
「そうですが……けれどリーシェ、ここまで連れてきた恩を仇で返す気か?」
そういわれるととても耳が痛い。
「今度鎧を着ていない知り合いに鎧を進めるから……これで問題ない!」
ここでも違和感が生じる。何か違和感がある。
「それなら問題ない。じゃあ今から俺は敵だ。死ね。」
声が真面目になった。今までのおちゃらけた雰囲気が消え、俺に対して殺意を向けてきた。
直後ガロンは俺に向かって全力で殴ってきた。
「盾」
その一撃を学園長が止める。
「リトルデビル!てめぇは逃げれ!」
「言われなくてもそうする!」
そういってガロンの命令を受け取りリトルデビルは地下1階に行く通路でもなく、俺達が来た通路でもない通路へと逃げる。
「リーシェ!追ってください!」
「え!?でも上級悪魔ですよ!?」
上級悪魔に単体で挑めと。
「あっちは手負いなのでリーシェでも何とかなります!限界を超えてこその強さです!」
「上級悪魔は瞑想さえすれば少しの時間でも体力を回復します。リトルデビルが行った先は行き止まりですが、今のうちに叩かないとまずいです。」
「何より……ここにあなたがいると私が全力で戦えません。」
つまり邪魔だと。
「では行ってまいります。」
「そう簡単に行かせると思うか?」
そういってガロンはこっちに向けて指先を向ける。
「鎧突き!」
そういうと指先が伸びる。
「それもう鎧じゃねぇだろ!?」
「避けないでいけ!
後ろで轟音が鳴る恐らく学園長がガロンを対処しているのだろう。
「行かせるんですよ。私がね。」
そうして俺は通路に到達する。これで追撃は来なくなるだろう。
二階休憩所にて。
「多彩な水による術式展開無しの攻撃。お前が流水か。」
リレートの一撃を不意打ちの形で喰らったが、ガロンには効果が無いようだ。
「そうです。二つ名持ち相手を相手できる実力があなたにあるのですか?」
リレートはそういって煽る。できればここで引いて、早くリーシェの所に増援に向かいたいという気持ちがあるのだろう。
「そうだな、バウンドの魔女を相手するには実力が足りいかな。」
「魔女というのはいまいち好きな呼び方ではありません。」
「そうかいそうかい。では自己紹介をどうぞ?」
会話によって時間を稼ぐ。ダンジョンの罠にかかる程度に剣士が、いくら手負いとはいえ上級悪魔に勝てるわけがない。そうガロンは考えている。
なによりやつは人間を殺すことに関しては一級品の能力だから。
「リレート・リュリュリュ。二つ名は流水。」
「ガロン・イヨロ。魔王様から頂いた二つ名は
自己紹介の途中でリレートの一撃が入る。
「馬鹿正直に自己紹介に付き合うほど精神的な余裕はないものでしてね。」
「水面・水張」
足元に術式が展開され、直後部屋の床一面に水が展開される。
「なるほど。そうやって足元から攻撃するつもりか。」
「私がそんな生易しい攻撃をするわけないでしょう。
直後リレートの前に、大魔術の術式の一.五倍の術式が展開される。
ガロンは下手に動くと不味いと感じたのか、その場から動かない。
術式が発動される。足元の水を吸いあげ、高さ十メートルは超えるであろう人型の水が形成された。
「魔女という名はあまり好きではありませんがいいでしょう。」
「バウント最強の魔術師があなたを全力で殺しに行ってあげます。」
彼女の地雷を踏んだ男へ死が迫っていた。
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