勇者の縛り


「歴代の勇者たちは勇者の縛りと言われる呪いにより、チキュウの情報を話ても私達は聞き取ることができなかったです。」


「勇者の縛り?」

 なんだそれは。新たなる文化を持ち込もうとすると話せなくなるとかか?。



「そうですね。例えば刀という言葉を発音することはできます。」

「しかし刀とは一体何か、どのようなものか、どのように作るのか。その概念自体の解説をした瞬間、勇者の発する言葉は私達に理解できないものへと変わります。」


「この世界の新しい概念を持ち込もうとすると住民が理解できない?単純に基礎が違うから理解ができないのか?」

「または外部的に止められているとか?」

 まるで意味が分からない。



 確かに科学用語などの専門用語とかは、早口で言えば素人には理解が難しい言葉へとなるだろう。

 だがそれは相手が素人と分かっている以上は、説明側が気を付けて分かりやすく説明をすればいい話だ。


 故によっぽどその勇者が他人の気遣いができないような人間である場合を除けば、根本的に


 何故なら寝取りという概念は伝わっている。さっき聞いたが学園長は意味も知っている。

 

 故に新たなる概念や言葉を持ち込む=全て言葉として理解できなくなる。と言うのは可能性としては低いだろう。



「勇者の言葉が理解できなかった概念って、刀以外に存在しますか?」


「そうですね。私が聞いた限りだとジドウシャ、ヒコウキ、ケイタイデンワ……あとはカヤクという概念も理解できませんでしたね。」

 自動車、飛行機、携帯電話、火薬かな。


 自動車は売ればバカ売れ、にしては町の作りが車が通る前提ではないから微妙そうか。


 飛行機は普通に便利だし、この世界の通信魔具は一つで一人にしか通信ができない。故に携帯電話も売れそう。


 火薬も量産ができればそこそこの脅威だろう。魔術師は囲まれると弱い、銃を持った相手で囲めば二つ名持ち以外ならば倒せると思う。


 学園長を見る限りでは二つ名持ちは小銃程度では倒すのは難しいだろうが、火薬という概念は魔力が少ない人間にとっては革命なのではないだろうか。


 とりあえず自動車、飛行機、携帯電話、火薬について大まかに話すことにした。




「なるほど・・・・・・それは中々に凄いものがあるんですね。」


「まあ自分が知っているのは大まかなことですけどね。詳しい仕組みや材料とかは分からないです。」

 むしろ刀の知識があった俺の前世ぐっちょぶ!って感じだ。



「しかし本当になぜ、リーシェには勇者の縛りが適当されないのでしょうか。」

 なんかさらっと呼び方変わってる気がする。



「まあそうですね。俺の場合は勇者召喚とはこの世界に来た方法が違います。」


「なので考えられる理由は二つ。一つは勇者は召喚の際に何らかの制約が加えられて新たなる概念について話せなくなる。」

「もう一つは、俺がこの世界で長時間過ごしていたから勇者の縛りが外れた。って感じでしょうか。」


「とはいえ現状は仮定でしかありませんね。ちなみに秘密と言いましたが、カノン君も転生者?と言うやつなんですか?」


「それは彼自身に聞いてください。自分からは何とも言えません。」

 まあ正直このことを言った時点で秘密があるって言っているような気もするが、まあ気にしない気にしない。




「しかしあなたは前世の記憶が無い上に性別が変わっている……となるとかなり異常な状態ですね。」

 カノンとも話してはいたが、やはり異世界転生としても異例の事態だろう。



「まあそうなんですが、サンプ……えーっと母数が少なすぎます。」

 そういえば母数は通じるのだろうか。



「そのため、そもそも俺の転生が普通で記憶があって性別が同じのが異常。と言う可能性もあります。」

 まあ更にいえば、転生をしたのにも関わらず前世の影響がある。ってのがおかしい気もするがな。



「と言ってもそこが重要ではない気もするんで、俺はそういうのはそこまで気にしてはいないですけどね。」

 そもそも記憶が無いから前世の記憶に執着が無い。気にはなるが正直そこまで優先的な目標ではない。


 俺は俺だ。14年間生きた来た積み重ねがある。

 最初の方は気になったが、今となっては前世の記憶はそこまで重要ではない。

 


 なにより怖い。前世の記憶が戻った時に

 だって前世は強姦殺人魔だったとかだと、自己嫌悪で自殺を選ぶかもしれないし。




 そうして地球のあれこれを話して今日は帰ることとなった。


「では最後に師匠らしく、ここで一つ良いことを教えてあげます。」

 どうもこの世界では師匠という存在に憧れる人間が多いらしい……というよりは魔術師がそうなんだろうかな。


「水泡」

 そういうと学園長の周りに、一つの水の塊が現れた。


「形状変化・斬」

 現れた水の塊が形を変え、まるで刃のような形をした水へと変化した。


「さてと。」

 そういうと学園長は左腕の袖を捲り肘を出し、そこを水の刃で斬り裂き



「はぁ?!?!」

 意味が分からない。気でも狂ったのか?



「まあまあ落ち着いてください。」

 すると学園長は切り落とされた左腕を拾い、切断面にくっつけるようにして


「回復超促進」

 といい、魔術を発動させる。



「まあこんなものですね。」

 すると切り落とされたはずの左腕がくっついており、しかも普通に動かしている。



「このように実力のある魔術師、特に水を中心にして戦う魔術師は回復能力にも長けています」

「綺麗に切断された腕ならば簡単にくっつくため、実はリーシェとの契約は殆ど無意味だったりします。」

 何ということだ。俺は何回騙されればよいんだ。


 とはいえこんな高性能の回復魔術は始めてみた。知っている回復魔術は斬られた傷口をふさぐ程度で、切断された腕をくっつけるのはそれこそかなりの規模の魔術で無いと難しいと思っていた。


 だから仕方ない。仕方ないと言い訳を思っておく。



「ちなみに対策はどんなのがおすすめでしょうか?」


「そうですね、あくまで回復能力をものすごーく!上げているだけなので、傷口を焼いてふさいだりすればくっつけるのは勇者でもない限りできません」

「後は切断後何らかの方法で治すことを禁ずる。と付け加えるのが一番分かりやすくて良いと思いますね。」

 なるほど奥が深い。




 そうして師匠となった学園長とは、連絡用の通信魔具を貰いシュトロハイドに戻った後に解散となった。

 学園長に刀の作り方を教えたことにより、知り合いの鍛冶師に頼んで再現をしてもらえるそうだ。


 

「遅いですよ。待ちくたびれました。」

「おせーぞ。何やってたんだ。」

 1時間近く待たせた二人には本当に悪かったと思っている。



「本当にすまなかったと思っている。何か奢るのでここはなにとぞお許しを。」


「俺は別にいいや。金に困ってるわけでもないし。」

 よく考えたら魔術学校に通ってるんだ。そら普通は金に困っては無いな。



「じゃあ……私は魔具にできる、魔石を付けれるようなネックレスを買ってほしいな。」

 普通じゃなかったか。



「お安いご用さ!さあ買いにいきましょう!」

 結構待たせていたし金貨1枚(大体1万円前後)ぐらいのネックレスならば仕方ない、アリシャへの貢ぎ物と考えよう。



「ああすまない。俺はちょっと用事あるから先に戻るな。」

 するとカノンは突然用事を思い出した。何か不都合でもあったのか?



「待たせてほんとごめんな。次は学園長の話も無視するよ。」


「流石に学園長からのお願いは断れねーし仕方ないよ。じゃあ楽しんでなよ。」


「さよならカノン君。また学校で。」


 そしてカノンは帰っていった。



 ということで装飾品を主に売っている店に来た。

 値段を見て度肝を抜いたが、宝石の場所に魔石を埋める関係で宝石の入っていないシンプルなやつを買うだろう。だから多分大丈夫だ。


「これどうだろう?似合ってる」

 そう聞かれるとすべてが似合ってるので非常に返答に困る。おじさんなんでも買ってあげるよ。


 ・・・・・・今気がついたが、もしかしてこれはデートなのではないだろうか?

 

 もしかしたら、カノンは気を使って帰ってくれたのか?。

 なんていいやつなんだ。いつか気持ち的な意味で恩返しをしなければならないな。



 そうして、予算を大幅にオーバーした金貨10枚のネックレスをアリシャの送った。



「嬉しい……大切にするね……。」

 予算は大幅にオーバーしたが、この最高の笑顔を見れることは金貨10枚なんて目じゃない価値がある。


 そうして色々あった、俺の初めての休日は終了した。




 2日後の朝……。



「今日はダンジョンを破壊しに行きますよ!」

 そういってテンションの高い学園長が、俺の泊まっている宿屋に乗り込んできた。

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