流水の魔術師


 二つ名持ちの魔術師。一人で戦況を変え、一人で戦への勝ち筋を作り、一人で数百もの騎士を倒し、国にとっての最終兵器。

 過去の大戦にて鋼鉄と錬金、過去に召喚された勇者の末柄である者に氷結、960年に起きたロックとの戦争にて流水の二つ名が与えられた、


 戦場にて二つ名持ちの魔術師を見た者はこう言う……やつらは化物だと。

 



「形状変化・貫。」

 学園長の一言により、彼女の周りを漂っている水の一つの形が変わる。

 まるでタオルを絞るように水は回転し収縮する。


「石壁!」

 まずい!と思い目の前に土魔術・石壁を展開し、横に全力で逃げる。

 直後まるで氷柱つららのような形となった水が、先ほどまで俺のいた場所を貫く。

 

 石の壁が、まるで紙をボールペンで簡単に貫くに軽く破られる。

 

 ……っておい!

「学園長!殺す気ですか!」

 あれはどう考えても殺す気な威力だった。


「安心してください。もし当たりそうなら直前で術を解除します。」

 解除すれば魔力の籠った水になるだけ……だから大丈夫なのか? 


「そんなことに意識を割いてるならこちらへ攻撃を通すことを考えなさい。」

 ごもっともだ。


 あの水は、まるで流れる水のように状況によって水を変える。 

 俺の攻撃を止めたときは盾のように学園長を護り、俺に攻撃をするときはまるで槍のように俺を貫こうとした


 攻めるならば多角攻撃で広く守らせ、水の厚さを可能な限り無くし貫通力の高い攻撃で止めを刺す!と言った感じか。


指令弾バーン!」

 左手に正方形上の魔力塊を複数生み出す。

 

 広く攻める、広く飛ばす。そうイメージをする。


「行け!」

 そして魔力塊を飛ばす。学園長を囲むように弾同士の距離を離して飛ばす。

 直後左手を地面につけ、右手で腰につけている弓矢を抜く。


 左手で地面に魔力を込め、石の槍を生み出し学園長に向けて真っすぐ飛ばす。


 右手で弓矢に風の魔力を込め、操作可能な風矢として前に全力で投げる。


意味を与える追え!!」

 そして学園長を囲むように放った弾が学園長の後ろに言った直後、指令魔術によって学園長を追うように命令する。


 前からは石の槍と風矢。後ろからは多角攻撃による魔力弾。これによる多角攻撃に加え、更に追撃を加えるべく俺は前に走り出した。



「形状変化・殻。」

 学園長がそう呟くと、彼女の周りを漂っていた水は彼女を囲むように。卵の殻のようにくっつき伸び、形を作った。

 厚さは5センチほど。貫通力の高い攻撃ならば簡単に突破できるであろう水の厚さだ、 


 直後に魔力弾が当たるが、元々から威力の低い魔力弾は簡単に止められてしまう。


 更に追撃に、速度、貫通力重視の風矢が突き刺さる。

 矢尻の部分は水に刺さっているものの、貫通はできなく水に止められている。


 そして3発目の石の槍も止められる。

 広く展開していてもこの硬さ。これが二つ名魔術師の実力なのか。


 だが魔術師の弱点、接近戦ならば可能性はある。

 3発目の攻撃が直撃した直後、俺は水の膜に斬りかかる。


 斬れるには斬れる。しかし表面しか斬れない上、すぐに他の水が流れてきて斬った場所が再生される。


 一撃目の斬撃でこれを察した俺は、すぐさま後ろに下がる。


「どうしましたか?それで終わりですか?」

 

「いえいえ。まだなんとかなりますよ。」

 とはいえ現状はかなりまずい。死ぬほど相性悪いのだ。


 俺のメイン戦闘は剣による攻撃+生活魔術+魔術弾。高火力な魔術の使用には時間がかかり、剣による攻撃はかなりきつい。


 風矢が止められるともなれば、銃弾バレットも効かないだろう。

 一撃であの防御を突破できる威力と貫通力を持った攻撃を、今の俺では放てない。

 

 いやまだある。実戦的ではない故に選択肢から外していた魔術が。


 空中に術式を展開する。2メートル近くもある巨大な魔術陣。大魔術だ。



「形状変化・射」

 直後水鉄砲のように放たれた水によって術式が破壊される。


「いや邪魔しないでみたいな顔されましても……流石に大魔術は見飽きたので止めますよ。」

 まあそらそうだわな。


 いやまて?見飽きたから止めると言った?。

 あくまで言葉の綾かもしれないから断言はできないが、もしかしたら始めてみるような攻撃ならば溜めの時間を待ってもらえるかも?。


 ならば一度実戦で試してみたかったことを試す。

 


 本来、魔術という物は脳内に仮想現実を作りそれを魔力によって再現するというものだ。

 故にできないと思えばできることすらできない。


 生活魔術は人を傷つけることはできない、という考えが全ての人間にある故。この世界の理に縛られる人間にとっては生活魔術では人を傷つけることができない。

 逆にそれに縛られなく、攻撃可能と分かっていた俺は生活魔術で人に攻撃ができる。



 これが俺だけが使える最弱魔術の絡繰からくりだ。


 理論上はできるが、できないと決めつけることによってできなくなる。これが魔術師共通の悩みである。



 そして現実に戻る。

 


 まず俺は自分の剣を、自分の


「え、え?!」

 そりゃいきなり自分の左腕に剣を刺したら動揺するだろう。これにはきちんとした意味がある。

 剣を抜く。そこには血がべっとりとついている。


意味を与えるもえろ。」

 そして魔力が残っているうちに、指令魔術によって発火させる。


 これが夢にまで見ていた火炎の剣。しかしこれだけでは威力も足りないし、すぐに消えてしまう。


 突きの構えをする。

 右手で、流し込むように魔力供給をイメージ。


 左手で、風を送り火を強くする。


 

 遠い昔に見た剣士の見様見真似だが、今ならばできるはず。

 剣が赤くなる。炎を集中させる。燃やす。燃えろ。燃えろ。


「これは中々に……面白いことをしますね。」


 流石にそろそろ限界だ。これ以上キープするのは今の俺では厳しい。

 剣に集中した炎。ただし振ればその速度についていけなく炎は空中に消えるだろう。

 

 故に突き。正確には突きではなく、炎を一点に集中して放出する。

 

ほむら迦具土かぐつち!」

 過去に見た剣士の技だ。一点に集中した炎は敵を穿つ灼熱の槍となり突き進む。


「形状変化・壁」

 凛とした声で学園長が発音する。今までの技とは違い声の質が違う。


 壁の形となった水と俺の一撃がぶつかる。直後触れた部分の水が一瞬で蒸発した。


 しかし周りの水によってすぐに水は補充され対応に移る。学園長の扱い水が全て蒸発するか、それとも俺の一撃が消火されるのが先かの勝負。


「中々に面白い一撃ですね……しかし!」

 そういうと水の形状がまた変わっていく。今までの形では水は固定の形であったが、今度は形を作っても水の流れは止まらない。


 直後俺の生み出した一撃が角度を変え、学園長の横をかすめて通り過ぎていった。


 これが流水の真骨頂と言わんばかりの技。流れる水により攻撃を流し受ける。


「まともに攻撃をぶつけに言った時点で負け……ですか。」

 流されないような広範囲の高火力の一撃か?それとも今の一撃をより練度を上げてするべきか?

 相手が単純な強さ故、越えれるビジョンを想像できない。 


「まあそうですけども、あなた右手は大丈夫です?」


「はえ?」

 そういって右手を見ると、そこには融点を越えたために溶けてしまい、右手に垂れている元愛剣の姿が。






「ほんと危なかったですから!一歩間違えれば指がくっついていましたからね!」

 ほんとやばかった。あと一歩間違えればマジで剣士としての人生が終わってた。


「というより確か鉄の剣でしたよね?それの融点ってかなり高いと思いますが……。」


「大体1000度と少しぐらいだったはずです。」


「しかしよく火傷で済みましたよね……メリッサからも聞きましたが、やはり魔術師としてはおかしいの肉体です。」

 鍛えすぎだのおかしいだの、なんだこの親子は。


「まあそれもあると思いますが、自分って強化魔術得意なんですよね。」

 実際にそうだ。強化魔術との付き合いは長い。


「しかし剣が溶けてしまうとは……あれ以上火力を上げるのは無理そうかなぁ」

「鉄より融点の高い剣かぁ。鋼って融点高いイ・・・・・・印象あるけどどうなんだっけなぁ。」


「そうですねぇ、溶けにくいといえばミスリルかオリハルコンぐらいでしょうかね。」

 エルフやドワーフ同様。やはりここでも聞き馴染みにあるファンタジー鉱石が存在している。


 ミスリル・魔力が通しやすい凄い鉱石。

 オリハルコン・物凄く硬い凄い鉱石。


「でも両方とも高いでしょ!自分じゃまだ手が届きませんよ。」


「そうですね。折角ですし私の弟子になったら好きな武器を一本買ってあげますよ!」

 ……そんな素敵な提案をされるとは思わなかった。


「となるとあの糞高い馬鹿かっこよい剣を?いやここはいっそ魔剣とやらに手を出してみるとか……いやそれよりオリハルコンで焔を極める方向か。ミスリルの武器とやらも触れてみたいないやいやいやいやいやいや」

 日本円で一本数千万円もする武器が買ってもらえるかもしれない。って考えるとワクワクが止まらない。


「ついでに私の弟子になったら、魔術学校の学費も私が払ってあげましょう……って聞いてます?」

 完全に聞いてなかった。


「次の武器はどんな武器にするか迷ってたので完全に聞いてなかったです。」


「ちなみに魔術学校の学費も免除しますが、弟子になってもらえませんか?」


「なりますなります絶対なります!」

 正直美味しすぎて怖い。でも実際契約もしたわけだし、相手に何か背に腹を変えられない理由があるのだと思う。


「武器で言えばそうですね。聞いた話なので詳しくは分からないんですが、確かあなたの故郷に凄い切れ味のある武器があるらしいじゃないですか?」

「聞いた話ではリーシェちゃんにもぴったりでしょうし、それとかどうなんですか?」

 

 俺の生まれ育った村、リロンドで見かけた武器を思い出す。


 父親の持っていた、全長2メートルを超えるバトルアックス……は凄い切れ味ではあるが違うだろうな、俺には合わない。

 他の元冒険者の持っていた武器も凄い切れ味って武器は思い浮かばない。


 そもそも冒険者という職業柄、切れ味重視よりは耐久性重視になりやすい傾向にある。


「何か勘違いしてませんかね?俺の使える切れ味のよい武器に心当たりは無いんですが。」

 どこかの村と勘違いしてるんじゃないか?




「そうですかね?確かな筋でチキュウにはカタナと呼ばれる武器があると聞いたのですが。」

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