記憶の復元

■と書いて刺客と読むのかもしれない



 リーシェが黄昏ていた時から時は少し遡る。


「あーあー、アリシャちゃんって言うのかぁ。あいつと出会って無ければ俺にも可能性あったのかなぁ。」

 そう男は呟く。

 その後男は袋から通信魔具を取りだした。


 通信魔具。対となる魔具と遠距離でも会話が可能となる魔具のことだ。


「はーはいーい!こちらジェミニ。目的は達成しました。」


「そうですか。騎士団の権限を使ってとある女性に合いに行くと言った時には、ついに気が狂ったと思いましたよ。」


「んじゃ今から帰るんで、準備して待っててねー。」


「騎士団長なんですから……もうちょっと自重した行動をしてくださいね。」


 ジェミニ・ソード。バウンドを守護する騎士団の一つ、第一騎士団の騎士団長。

 齢十三歳にして騎士団長へと就任した男。


 なお、騎士団長になるためにはする必要がある。


「まだ成長仕切っていなかったようだ……成長するのが楽しみだ。我が■■■■よ。」




 時期は冬。模擬戦から2ヶ月ほど経過した寒い日だ。



「国を守るために人生をかける。それが騎士の役割だ。」

 謎の男と会った翌日。俺達は3人で遊びに出掛けていた。

 正直俺はアリシャとデートしたかったんだが、何故かこの男。アリシャから遊びに行くことを誘われてついてきやがった。


「どうした?お前がいきなり騎士について聞きたいって言ってきたから説明してるのに。」


「別に。この世の不条理に対して悪態をつこうか迷ってるだけだ。」


「と言うよりアリシャは騎士とかに詳しくないのか?」

 知識豊富なアリシャだ。普通に知っているという説があるかもしれない。


「私の知識は魔術と貴族が主。国のことを聞かれてもあまり詳しくはない。」

 そうか残念だ。


「その騎士の中でも優秀なやつらは騎士団って言う、複数ある部隊の中に入れるんだ。」


「なるほどな。」

 先ほど買った豚肉のような串肉を食べながら聞く。やはりここの串焼きはうまい。


「安定した収入ならば騎士団が安定だろうな。女とはいえ実力はその辺の騎士よりあるしな。」


「だめ。リーシェは私と一緒に偉大なる魔術師になる。」

 モテモテで辛いなー。


 そんな他愛の無い話をしていると、本日の目的地が見えてきた。

 魔石屋だ。


 魔石。ダンジョンに住んでいるモンスターの中心にあり、心臓でもある石。

 魔力を凝縮した石であり、中に特殊な術式を書きこむことにより魔具として扱うことが可能。


 誰でも使える便利アイテムとしてこの世界の生活の中心であり、おそらくは魔具という便利アイテムのせいで科学は対して発展していない。

 

 そんな魔石だが、せっかくなので通信の魔具を作ろうということで魔石屋に来たのだ。

 魔石やには魔石そのまんまに加え、魔具も売っているという魔術師御用達の店だ。


「通信の魔具なら大体同じ大きさの同じ属性の魔石がおすすめだよ。」

 そんなアリシャのアドバイスを元にいい感じの魔石を探す。


 魔石は大きさによって値段が変わり、今俺は5センチ以下ぐらいの魔石がまとめて置いてある安価な魔石コーナーで探している。



「そこの可愛らしいお嬢ちゃん。何をお探しなのかしら?」

 透き通るような声で話しかけられた。


 そこは女性がいた。見た目は30台前半ぐらい、身長は150センチちょっと。

 青い三角帽にローブを羽織った、ピンク髪の女性だ。

 

 しかしピンクの髪とは珍しい。割と田舎の方にいたとはいえ、今まで一度もピンクの髪は見たことなかった。


「ああ、この髪が気になるの?」

 読まれてた。


「メリッサの言う通り表情を読みやすい子ね。」

「師匠の知り合いですか?」

 どんな関係で荒れ、表情を読みやすいってことは不服だ。


「メリッサは私の娘よ。」



 娘?娘と言うと彼女は母となる。

 母かー。母親かー。


「師匠の年齢って確か20台後半でしたよね?」


「女性に歳を聞くのはよろしくないわよ?」


「いえいえ。師匠の母には見えない若々しさでした故に気になってしまいました。」

 いやマジで見えない。子供を産んだのが15歳だとして、若くても40代か。

 ギリギリ40代に見えなくはないか?。


「ちなみに学園長の年齢は七十代を越えてる」

 ナナジュウ・・・70?!。

 いつの間にか近づいていたアリシャの補足で衝撃を受ける。


「70?!どう見ても30代の若奥様みたいな見た目じゃないか!」


「ちなみにメリッサは自称二十代後半ですが。大体二十年前ぐらいからずっとそれを言っているので真に受けないようにしてください。」


「簡単に年齢ばらしていいんですかね……」


「私もそこの優等生に年齢ばらされたので、腹いせです。」

 そういえばこの人、師匠に国家機密をバラす人だったな。


「と言うより学園長?」


「はい。私は魔術学校の学園長ですよ!」


「え?でも確か入学の時に会った人……ではないですよね?」


「あれは普通にあなたの担任でしたけど……もしかして学園長を自称していたりしましたか?」

 確かに学園長とは一言も言ってなかった。学園室に堂々といる人で俺の入学のことに詳しかったから、完全に学園長だと思い込んでいた。



「いえこちらの勘違いみたいですね。申し訳ございません。」


「いえいえ。こちらも別に不利益があったわけでは無いので問題ありませんよ。」

 良かった。間違えたから死刑!なんて恐ろしい人じゃなかった。


「まあもしそれでも謝罪をしたいというのであれば、良ければ私の弟子になりませんか?」


「謝罪になっていないと思われますが。」

 師匠も言ってたいた。血縁者以外で弟子を取るということはかなり貴重なことであり、師匠側からすればデメリットやリスクが大きい。


 アリシャが学園長と言っていたからには本物の学園長だとは思うが、流石に話が美味しすぎる。何か裏があるのだろう。



「流石に美味しすぎて裏があるように思えますが。」

 直接言うかちょっと迷ったが、まあ直接言った方が早いだろう。

 

「そうですね、理由を話すには二人っきりで話さないといけません。城門も近いですから一回外に出ましょうか。」


「アリシャ?これ本物の学園長なんだよね?」

 流石に怪しすぎるので小声で確認する。首都から出たら法律が無くなるなんて世紀末な世界じゃないにしろ、ばれなきゃ犯罪じゃない理論で何かされる可能性はゼロじゃない。



「うん。術式展開をしてないから変化魔術は使っていないし、桜色の髪色だし本物だよ。」

 ちなみにこの世界には桜を初めとする日本の植物は無い。けれど何故か桜色と言われている。


「変化魔術とかあるんだな。始めて知った。」

 

「あるよ。けど複雑な魔術だし、使用時には常に術式展開をしている関係で”変化魔術を使用している”ってのがばれるからあんまり使われない」

「あんまり使われないけど、もし使われていて確認をしなかったら大変。だから確認方法は広まってる。」


「まあ術式展開をしているか否か、ってだけで分かるから問題は無い。」


「まあそういうことなら……アリシャ、もし俺が帰ってこなかったら犯人は学園長だって言っておいてくれ。頼む。」

 一応の保険をかけておこう。これで何かあったとしても学園長が守ってくれるだろう。



「犯人と断言することはできない。けど学園長に誘われて城壁外に出たとだけは伝えておく。」

 犯人と断言はできないにしろ、これで何かあった時用の抑制にはなるだろう。


「ということで買い物の途中で悪いが軽く離れておく。カノンにも伝えておいてくれ。」

 そういって学園長と共に店の外に出る。


「そう……一緒に買い物するの楽しみにしてたけど……残念。」

 そう呟くアリシャの声は俺には届かなかった。




 城壁の外。つまり首都でるシュトロハイドから出た。

 周りは草原で、所々に牛に近い生物がいる。


「では、まずは戦いましょうか。」


「何故に?!」


「私が弟子を取りたい理由は、アリシャちゃんにも言えないぐらいには重要なことなんです」


「故に弟子にしか教えたくありません。ですがもしあなたが私に弟子にふさわしくない実力だったり、不正でアリシャちゃんに勝った!なんてことがあったら困ります」


「故に模擬戦をします。もちろんこちらは全力を出しませんし、私に勝てないから駄目と言うわけではありません」

 それぐらいには重要なことなのだろう。けれどそれで弟子になるほど俺は楽観的な性格はしていない。


「ですがそれではこちらの情報が少なすぎます。自分からすればメリッサ師匠が既にいますし、よくわからない状態で学園長の弟子になる意味はありません」

「そもそも師匠が2人もいる、というのはあまりよい状態では無くないですか?」


「まあメリッサなんて基礎を教えたぐらいで、今は師匠らしいことしてないでしょ。」

 まああながち間違ってないが、多分魔術学校を卒業してから師匠らしいことをしてくれるんだろう。


「そうみたいな顔をしてますね。メリッサのことですから、魔術学校で実力をつけてから師匠っぽいことをする予定なんだと思うます」

「ならば魔術学校の時には私が師匠をし、その後はメリッサが師匠をすればよくないですか?」


 それはこちらとしてもかなりありがたいことだ。だがそれにしてはやはりおかしい。

 向こうにメリットが無いのだ。可能性のある若人を育てたい!と言うのであれば、普通にアリシャを育てれば良くないか?

 

 まあ学園長は恐らくは貴族だ。貴族は貴族の弟子を取ってはいけない!と言うルールがあるのかもしれない。

 後の思いつく”アリシャではなく俺を選ぶ”理由だと、正直転生者ということしか思い浮かばない。


 いや、よく考えれば俺の魔術はイレギュラーなわけでそれの分析をしたい可能性もある。



「ですがやはり情報が少なすぎます。あまり慎重な性格ではありませんが、そこまで美味しい条件なんて怪しすぎます。」

 正直受けたい、けど怖い。


「そうですね。では契約魔術を使いましょう。」


 契約魔術。お互いの了承を得ることによって、特定のことをすれば○○を貰える。逆に特定のことをしなければ契約を破った側に、事前に決めていた罰が起こる。

 魂との契約なために偽造は出来なく、どんなに強い人間でも魂が罰を受けるために罰を回避することはできない。


「そうですね。あなたが弟子になったらきちんとした理由を話す。罰は私の左腕の切断。」


「え、なんて物騒なこと言うんですか。」


「あなたが弟子になった場合にあなたが不利になるようなことはしない。罰は私の右腕の切断。」


「え。なんて物騒なこと言うんですか。」

 なんて恐ろしい契約をするのだ。


「これで私の覚悟が分かったと思います。この二つが私との契約ですが受けますか?」

 契約魔術は相手の提案を、特定の契約魔術用紙に書くことによって発動する。


 受け取った紙には、今学園長が言ったことがそのまま書いてあった。

 曲解もできないだろうし本当に裏は無いのだろう。


 そう考え俺は用紙にサインをする。これで契約が結ばれた。


「では準備をしましょう。準備が終わったらそちらから攻めてきてください。」

 そういうと学園長は杖を袋から取り出した。どう見ても入らない袋から取り出したということは、所謂マジックボックスとかの類の物だろうか。



 流石に魔術師相手に0距離で始めるのは人として終わっているので、30メートルほど離れた位置から始める。近い気もするが問題無いだろう。


「全く。師匠の母親に誘惑されるなんて、そんなの寝取りものでもそう簡単に無いよ……。」

 そう自暴自棄気味に呟く。正直サインをしたのは不用心過ぎた気もするし、完全に流されたい自分の戒めと同時に反省だ。


「へー。リーシェちゃんって寝取りという言葉を知っているんですね。」

 聞こえていたようだ、まずい。普通にR18だし油断仕切っていたか。


「はいそうですね。カノンが教えてくれました。」

 そういって罪を擦りつける。


「ちなみに寝取りは好きですか?嫌いですか?」

 緊張をほぐしてくれているのか?まあ当たり触りの無いことを言っておく。


「嫌いです。」

 まあ普通は嫌いだろうし当たり触りの無いことだろう。


「そうですか。面白いことを言いますね!」

 そういって学園長は戦闘態勢に入る。



……選択間違えたかなぁ。



 気を取り直して攻撃をしかける。

 格上。そしてアリシャとの戦いの結果どころか、おそらくはどんな魔術を使うかも大まかに伝わっているだろう。




指令弾バーン!」

 左手の掌の上に正方形状の魔力塊まりょくかいを生み出す。



 ばれている以上、下手に威力が落ちる指令魔術や威力が死ぬ追尾指令はやめておく。



「それぇ!」


 弾をそのまま放つ。弾道移動無しでの直線的攻撃。

 曲がる弾を使っていたという情報はあるだろうから、あえて普通に攻撃をする。


 しかし学園長は防御魔術所か、その場から動かなく指令弾バーンが直撃した。



 ……いや直撃ではない。彼女の周りには複数の水が漂っている。


 水というよりは、大きいシャボン玉のように、綺麗な丸の形ではなくふわりとして横に長い水の塊。

 その水によって、俺の放った弾が止められている。



「全力で来なさい。、リレート・リュリュリュがお相手しましょう。」

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