魔術師アリシャとの戦い/1



 模擬戦。実戦形式でお互いの実力を測るためにされる命の取らないやりとり。

 魔術学校の場合、特殊な魔具を使った疑似戦闘が楽しめる。


 お互いの了承の上使え、魔力体を疑似生成して死亡する心配を減らす。という画期的な道具だ。ちなみにこれはバレルド・グドウという人が作ったらしい。



 ちなみに昔は魔道具だと思ってたが、魔具とは別に魔道具という別物が存在しているために魔道具扱いしたらカノンに怒られた。僻地へきちとかだと魔具のことを魔道具という人も少なくは無いらしいし仕方ない。



「にしても観客多くないか?」

 練習場はコロシアムのような形式な場所で、観客の多くが俺達の戦いを見れるような作りになっている。


『特殊な場所だから、よっぽどのことが無い限りは魔力体では壊せない。』

 だそうだ。そういうことを言うやつは大体壊れるって相場が決まってる。



「学園の中でも上から数えた方が凄い美少女と、実力不明の期待大の転入生。満席になるのは当たり前。」


「自分で美少女と言うのか。」


「客観的に見て私の容姿は優れていると言って問題はない。」

 そんなことを言っているのアリシャ。今回の模擬戦の相手だ。


 魔術師としての実力では格上。どうやって俺が彼女の裏を突くか。そこが今回の中心だ。



 

 練習場の広さは直径100メートル。お互いの距離は大体80メートルぐらい離れた場所から開始する。


「お互いに四十レーン(大体80メートル)離れましたね?」

 そう声拡散の魔具(地球で言うマイクに近いやつ)を使って話かけているのは女性教師さんだ。模擬戦の開始は彼女の魔術が空中で爆発してから開始となる。



「では準備をしてください。」



 俺の装備は愛用している両刃の剣。長さ40センチほどで鋭さよりは頑丈さを意識して作ってもらっている。


 防具は機動力重視で、所々に俺の狩った魔獣(魔力に当てられて強くなった獣)の皮を使って防御能力を上げている。心臓の辺りには皮の胸当てをしているが正直不安だ。


 腰には弓矢をすぐに抜けるように、ベルトのようなものを特注で作ってもらってそこに刺している。地味に凄い作りをしているのだが、そもそも弓矢を俺のように使う人がいないので売り物にはならなかった。


 何やかんやでそこそこ伸ばしている髪は後ろにまとめてポニーテイルの形にしている。

 髪が長い方が魔術師としては得らしいが、正直近距離では捕まれるのが怖いし切りたい。

 



 アリシャの装備は杖だ。


 師匠曰く、杖には効率的に術式展開ができる特殊な機能が備わっているらしい。俺には剣の方が合っているのえ使う気は無いが。

 装備は黒色のコートを着ている。特性は分からないが恐らく凄いやつだろう。

 


「では!」

 そう女性先生さんが言うと、魔術が発動して上空へ遅め弾が飛んでいく。そして女性先生さんはそのまま退場していった。




 数秒後にバン!と言う音がなる。開戦の合図だ。



 音が鳴った直後、俺は全身に強化魔術をかけて突っ込んだ。

 アリシャとの距離は80メートル。剣士の間合いではないが距離を詰めることは大切だ。

 しかしそれを予期していたのか、アリシャは俺の進行方向に魔術を発動させる。

 

 土魔術だ。攻撃目的ではなく足止め目的。目の前に巨大な壁が立ちふさがる。

 直後俺は全力で右に飛んだ。

 飛んだ瞬間、壁が壊れた。その壊れた壁ごとさっきまで俺がいた空間を炎が飲み込む。


 大魔術だ。壁で一瞬視界を防ぎ、その直後壁ごと大魔術で飛ばす。アリシャの基本戦術の一つ。

 事前のカノンから情報を聞いていたので余裕を持って避けれた。そのまま彼女に詰めようと前に行く。


 そして左手に魔力塊まりょくかいを生み出し、それを前方向にばらけて飛ばす。


指令弾バーン!」

 飛ばした直後に俺は前進をやめ、アリシャの出方を見る。


 アリシャは俺の明後日の方向に飛ばした攻撃が気になっているのか、それとも様子見をしたいのか俺に攻撃をしてこない。


意味を与える追え!

 弾がアリシャの後ろを通り過ぎた辺りで指令魔術を発動する。魔力を込め、弾に指令を出す。

 弾が山なりにアリシャに向かう。


「なに?!」

 完全に不意を突いた形。しかし彼女にダメージは与えられなかった。

 離れすぎている上に追尾弾だったため、簡単に魔術防御壁ガードで防がれてしまった。


「なるほど……中々に面白い魔術を使いますね。」

 お互いの距離は大体50メートル。聴覚強化が入っているとはいえ、声がギリギリ聞こえるぐらいの距離だ。


 すると、彼女は杖で地面に簡易的な魔術陣を描き出した。

 五芒星と言われる、地面に魔術陣を書くことによって魔術陣が壊れたり、消えるまえは効果を得られる魔術だ。

 更に複数の術式を展開して五芒星を強化する。あれは全て魔術防御壁ガードの強化魔術陣だ。


 彼女がわざわざ術式展開をするのを黙ってみていたわけじゃない。昔のヒーロー戦隊物じゃあるまいしな。


 ここまではだ。この世界には存在しない追尾する魔術。しかも手数は多め。

 魔術防御壁ガードは突破できないが、集中的に攻撃されると壊される可能性がある。


 しかも彼女は俺に勝ちたいんじゃない、俺の戦い方を知りたいんだ。

 故に追尾弾を見せることによって、彼女は陣地強化をして足を止めて戦う。重魔術師型の戦法を取るように誘導した。下手に邪魔して戦い方を変えて来たらめんどくさいから邪魔はしなかった。


 まあ色々不安定要素が大きすぎるので一安心と言ったところ。



「陣地作成まで待ってくれるなんて優しいんですね。もしかしてこうなることを狙ってました?」

 ばれてる。


「それはどうかな!」

 そういって接近する。

 接近に気がついたアリシャの上後ろ辺りに、2つの大魔術規模の魔術陣が生み出される。



「暴風乱舞!」

 アリシャのオリジナル魔術が発動する。風の大魔術、小さい台風を生み出す魔術を同時に二つ。逆回転で生み出すことによって相手を引きずりこんでミンチにする。そんなエグイ魔術だ。


 しかも最悪なのはこれを避けたとしても、追撃で更に多方向から魔術が飛んでくること。

 ただし今回は彼女を重魔術師化することによって足止めしているため、多方向からの魔術は接近しなければ問題ないだろう。

 


 これに巻き込まれたら流石に死亡なため、全力で避ける。

「火炎砲!」


 更に火の大魔術がこっちに飛んでくる。それを上に飛んで避ける。

大集風槍だいしゅうふうそう!」



 そして飛んだ先の俺を狙う大魔術が更に飛んでくる。一点に集中した高速の風の槍の魔術だ。

 そこまでの情報はあるため、防御魔術を後ろ上に出しそれを足場にして地面に着地する。

 


 一撃一撃が致命傷を負わせれるほどの一撃、を連打してくる上に一撃一撃が俺を追い詰める。

 これに機動力が合わさり多角攻撃があると考えると、本当に最初の策が成功して良かった。



「きりがありませんね・・・・・・仕方ありません!」

 彼女がそう呟いた。すると杖を地面に立てるように置き、両腕を上に上げた。



「紅蓮の炎よ!我に歯向かうものに地獄の炎を与えたまえ!」

 アリシャがそういうと、彼女の後ろの巨大な魔術陣が現れた。

 大きさは軽く見積もっても10メートル。更にその巨大な魔術陣を、まるで歯車のように噛み合っていたり重なっている大魔術並の魔術陣が複数展開されている。



 「極大魔術だ!」

 観客に驚きの声が上がる。

 あれが噂に聞く、ごく一部の優秀な魔術師が使えるという超破壊能力を持った最強の魔術だというのか!


「これであなたも終わり。」

 アリシャが勝ち誇った表情でこちらを見ていた。

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