魔術師へと成る

四人目の□□□□



 首都シュトロハイド。


 我が国バウンドの首都であり、師匠曰く世界でもかなり大きい街。

 大きさは簡単には測れないほど大きいらしい。


 高い城壁に囲まれており、厳格な審査に通ることで入ることが可能となる。

 


 師匠は顔パスらしく、弟子である俺も今後は顔パスで行けるようだ(変化魔術はあるらしいが、入るためにはすべての魔術を解かないといけない)。



「魔術師に置ける血縁関係者以外の弟子という存在はかなり貴重な存在であり、同時によっぽどのことが無い限りは取らない存在でもあります。」


「ゆえに有名な魔術師の弟子というのはそれだけで身分の保証ができる人物となります。魔術師の度合いにもよりますが、私の弟子ならば入国(この世界では首都に入ることを入国という。同じ国に住んでいてもそういうらしい。)も検査無しで通ることができるでしょう。」


「だから、事前に師匠の弟子になっておく必要があったんですね。」

 しかしこれって悪用されたりしたらまずいんじゃないか……。



「悪用されたらまずいんじゃないか?って顔をしていますね?」


「自分ってそんなに顔に出やすいですかね?」


「まあ割と。」

 嘘だろ。



「まあ私がかなり有名な魔術師なのに加え、血縁関係者以外で弟子を取るというのは本当に珍しいことなんですよ。殆どの魔術師は血縁者以外の弟子を取らなく、取ったとしても助手でしかありません。」


「魔術は家に伝えるものであり、その魔術の強さがその家の。その貴族の象徴でもあります。」


「ゆえに基礎を教える程度ならばまだしも、弟子という関係とまでになれば秘伝魔術をある程度教えることもあるために魔術師からすれば利点が無いわけですね。」


「つまり自分はかなり恵まれていると。」


「そうですね。かなり恵まれています。頑張ってください。」


「それと最後に、あなたは顔に出やすい性格をしています。もう少し表情を崩さないことを意識してみると良いでしょう。」


「はい……。」

 そんな衝撃の事実を受け止めつつ、俺が泊まる予定の宿へ向かう。

 



 現在の状況

 所持金・金貨50枚。ちなみに成人男性の1ヶ月の生活費は金貨15枚と言われている

 武器の調達は必要ない、既に持ってきている。

 魔術学校は明後日から。冒険者で少し金稼ぎをしようかとも考えたが、冒険者になるための試験はもうちょっと後でしかないために受けれない。


 


 つまり宿屋についた後は筋トレぐらいしかやることが無い。メリッサさん曰く筋肉をつけすぎると魔術に悪影響があるからやりすぎるのも良くない。


 宿はメリッサさんの知り合いの宿を一ヵ月金貨5枚(食事代込)という格安の契約してもらっている。魔術学校からは少し遠いが鍛えれるし問題は無い。



 ということで軽く街を探索して見ることにした。別に途中にあった屋台にある焼き鳥のような食べ物が気になるとかそんなことではない。決して違う。



 そんなこんなでこの2日間は筋トレと街の探索をしていた。

 2日程度じゃ全然回り切れない、最大規模の国の首都だ。


 途中で買った豚肉のような肉の串焼きが一番印象に残っている。油が少なくすっきりとして食べやすく、塩がちょうど良くかかっている。

 


 

 そしてようやく魔術学校入学当日。現在魔術学校を地図片手に迷っている。

「えーっと師匠からの伝言だと、確か学園長室に行けばいいんだっけな。」



 魔術学校だからか魔力が濃いことを肌で感じられる。新たなる環境に飛び込むことも相まってとても緊張している。



「えーっと。次の階段を上がってその後に右に行けばつくかな。」

 時間がギリギリだろうしで急がないと。そうやって急いで階段を登っていると足を踏み外してしまった。嘘だろ。


 とっさのことだったから体勢を整えることができず尻から落ちる。ギリギリのタイミングで強化魔術を付与できたために大事にはならないだろう。



「イテテ……尻から落ちたのは不味かったかな……。」

 確か尻から落ちて下半身が動かなくなった人とかいた気がするしな。



「次から気を付けねぇとなぁ。」

 そう呟きながら立ち上がり、足を踏み外したタイミングで離してしまったみたいな地図が周りに落ちていないか探す。




「大丈夫ですか?」


 気がつけば後ろに女がいた。黒髪のショート、凛とした雰囲気で軽く。美しい女性だ。俺に差し出している右手にはさっきまで俺が持っていた地図を持っている。



「ああ、ありがとうございます。」

 そういって俺は彼女から地図を受け取る。



「いえいえ大丈夫です。見ない顔ですがどちらの方でしょうか?」

 さて。これはどうしたものか。






『リーシェ。あなたは魔術学校に途中編入するわけですからかなり目立ちます。覚悟していてくださいね?』

 シュトロハイドにつく前の師匠との会話を思い出す。



『そんなに目立つものなんですかね?』


『まあそもそも、魔術学校に途中編入するというのはとても難しいことなんですよ。』


『魔術学校で数ヶ月学んでいる生徒たちに入るわけですからね、並の才能ではついていけません。多くの場合は来年入りましょう!ってなるわけですね』


『なるほど、途中編入する人はそれだけ凄い人ってことですか。』


『それに比べ、本来はかなり難しい編入試験を今回は飛ばしてますからね。』


『え……飛ばしているんですか?』

 確かに試験のことは一切聞いていなかった。にしてもだ。



『はい。リーシェちゃんはそれぐらいに期待されているってことですよ!』


『まあとはいえ、そういうことは生徒に伝わらないでしょうから大丈夫かな……』


『まあ恐らくですが、編入試験を飛ばすほどの期待の転入生!って感じに盛り上がっていると思いますけどね。』

 ・・・・・・考えただけで胃が痛い。



『そんなものなんですかね?』


『まああそこはそんなものです。』


『まあ期待だけでは良いんですが。』


『良くもないんですが。』


『問題は嫉妬ですね。魔術師というのは自尊心が高い人が多いですから、学園長お墨付きの試験を飛ばした期待の転入生!なんて人に対してあることないことの噂を流したり。最悪の場合は実力行使で来る可能性があります。』


『学園長だったりの偉い人の知り合いだったり、そういう人に賄賂を渡しているとか、あいつは淫乱で誰にでも股を開くとか、偉い人に体を売って入れてもらったとか。そういう感じですかね。』


『そうですけどあまりそういう下品なことは淑女としては言わない方が良いですよ』


『まあ私の母に話を通すことで例外的に編入しているわけですから、偉い人の知り合いで特別に入れてもらった!なんていうのもあながち間違いではないんですけどね』


『そういうことで。もしリーシェちゃんがかかってこい!みたいな好戦的なタイプならば挑発してもよいでしょうが、そうでない場合は可能な限り煽ったり挑発したりはしない方が良いですね。』


『つまり言動に気を付けろってことですね。』





 言動に気を付けろか。今編入生と言ってめんどくさいことになるのは勘弁しておきたい。こいつの主が俺の邪魔をしろと言っている可能性もある。


 けれどこいつは何かやばいやつだ。嘘をついて後々変なことになるのも困る。

 となると俺が取るべき行動はこれだ。



「もう少し作り笑いの練習はした方がいいぜ?その程度じゃ目標に気がつかれてしまうぞ。」

 いくら急いでいたとはいえ階段から足を踏み外したこと。剣を離さない練習をしている俺の手から何故か地図が無くなっていたこと。そして音も無く近づいていたこと。


 何より俺の勘が言っている。こいつは暗殺者やそれに近い人物だ。



「ご忠告ありがとうございます。次会う時までには練習をしておきますね。」

 そういうと彼女は音を立てずに去って行った。これで外していたらただの痛い人だったのでマジで助かった。





 そしてそのまま学園室までいった。結果的に少し遅れてしまったので次に彼女のあった時はそのことで責任追及をしてやろう。

 まあ迷っていたとはいえ超ギリギリな状態だった俺が確実に悪いんだけどな。

 


 学園長と思わしき女性の人に学校についてなどを教えられ、そのまま連れられて教室に入り自己紹介をした。

 日本の学校と違い個々の学校は2日に1度、しかも午前中だけ授業をする。


 午後は練習場などが貸し出されておりそこで魔術の練習が可能だそうだ。家ではできない大きな魔術の練習ができるため、貴族たちは主にこの練習場を目当てに通っているらしい。


 ちなみに師匠曰く「魔術学校で学ぶではなく、魔術学校を卒業したという拍の着いた魔術師を目指す」という生徒が多い上、平和ボケによって実戦を想定した魔術より単純な威力を重視した魔術が多い傾向にあるらしい。


 二つ名持ち強い貴族を始めとして、実戦派もそこまで少ないわけではないらしいから油断はできない。



 転入生ということで質問の嵐で困っちゃうなー。なんてのは魔術学校では通じない。

 試験を飛ばして入ってくるような転入生だ。誰もが警戒する。


 そんな凄いやつ(と周りは思っている)なんだから、誰か友達になろうと声をかけてもいいものを……。何故誰も声をかけてくれない。

 そんなこんなで授業を受けた。授業は大まかに分かれて複数あり、今回は「世界の魔術」こと色々な魔術の紹介のような授業だった。


 主に1種類の魔術をどこで生まれたか。どんな魔術か。どのような有名な人物が使っていたか。などを紹介していた。



 世界には大量の魔術があるんだなぁ。なんて思いながら俺は図書館に向かっている。

 図書館に行けばより多くの情報を得られる。もしかしたら地球やこの世界に関する情報を得られるかもしれない。そんな軽い期待を持って入っていく。



「図書館の本には盗難防止の魔術がかけられるために無断で持って行かないように。きちんと貸し出ししてから持って行ってください。」

 だそうなためにめぼしい本を探しに行く。漫画のように超でかい本棚に本がびっしりとつまっていて、その本棚が大量に並んでいる。



「とりあえず伝承とかそっち系漁ってみるか。」

 伝承系ならば、もしかしたら過去に地球から誰か来たとかそんな情報が残っているかもしれない。

 そういって伝承系の本が置いてある本棚に向かう。魔術学校自体もそうだが割と広くて割とごちゃついているしでこれ迷うかもな。


 貸出の図書館の地図を見ながら10分ほどかけて伝承系の本が置いてある本棚につく。

 とりあえず適当に手の届く辺りから本を3冊ほど取り、近くの椅子に座って読もうと移動したが既に先客がいたようだ。

 


 目つきが悪いが顔は整っており、目立つ金髪を短髪に雑に切り分けている。髪の切り方は雑だが世間一般ではイケメンと言われる部類の人間だろう。

 こいつ所謂オタクというやつだな。どうにかして友達になろう。

 現在友人0人の俺はいい感じに友好関係を築けそうなこの男を見逃さなかった。

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