勇者召喚
「魔術の練習も一段落ついたところで、上級貴族と下級貴族について解説していきましょう。」
貴族という存在は知っていたが上級と下級に分かれているのは初耳だった。
「自分から聞いておいてあれなんですがそもそも貴族の位を知っておいて意味はあるのでしょうか?」
「意味はありますね。上級貴族と下級貴族では
「ということでまずは貴族の成り立ちから話していきましょう。」
「貴族という存在が何故できたかはご存知でしょうか?」
「過去にあった戦争で活躍した人に名誉と金を与え、戦力として飼いならすためですよね。」
「元も子もない話を言えばそうなりますね。五百六十年に起きた複数の国を巻き込んだ大戦の時にその制度が生まれました」
「生き残った優秀な者に褒美を与えると同時にその戦力を持ったまま他国に行かれないようにし、更に優秀な子供を産みきちんとした教育をさせるためにある程度の権限も上げました。」
「権限ですか?」
「まあと言ってもそんなに凄いものではありません。教育を無料で受けれるとかで人を操ったり悪いことをできるようなものではありません。」
現代日本と違って最低限の教育すら受けれない人間がそこそこいる世界だ。無料で教育を受けれるというのはかなり大きいだろう。
ちなみにこの世界の教育とは学校に行くことではなく、専用の本を買ってもらったり親に教えてもらったりするそうだ。
貴族は専用の家庭教師を付けてもらえるらしい。
「リーシェちゃんは分からないと思いますが、戦争というのは強い力を持っていれば無双できるなんて簡単なものではありません」
「貴族の多くは敵を多く屠ったとか、敵の大将を討ち取ったとか、そういう功績によって貴族へとなった者でした」
「しかし戦争を続けていると、一人で敵の魔術師部隊を全滅させた。一人で敵の名の通っている魔術師を複数人倒した。なんていう嘘のような功績を立てるような魔術師が出てきました」
「その者は独特な魔術を使い、一人で戦況を変えるほどの圧倒的能力を持っていました」
「王様はその者を特別な扱いをし、他の貴族以上に褒美を渡し、更に二つ名をつけて国の重要戦力として子孫に力を託すように言い渡しました」
「それが二つ名を持つ魔術師であり、今で言う上級貴族という存在です」
なるほど。ある程度強い魔術師は下級貴族。二つ名を持つほどに圧倒的力を持つ魔術師は上級貴族と呼ぶのか。
「上級貴族は親が優秀なために子も優秀になりやすい上、親から特殊な魔術を受け継ぐために強力な魔術師になることが約束されている存在でもあります」
「なので魔術学校で、もし戦うことになったら気を付けてくださいね。」
「今の上級貴族ってどんな人たちがいるんですか?」
「現在は鋼鉄、錬金、氷結、流水の四つに加えて勇者の一族が上級貴族となっていますね。」
流水だけなんか分かりにくいな……ってそれより!
「勇者!勇者なんて存在があるんですか!」
勇者。その存在は異世界転移者なのかこの世界の住民なのかは不明だが心躍るものだった。
「ああ。確かリーシェちゃんは勇者について知らないんでしたね」
「勇者というのは約二百年前。魔王を討伐すべく地球という星から召喚された人物のことですね。」
異世界転移者の方だったって……。
「地球という星?」
「そうです。別の星から世界を救うために戦いに秀でている人物を召喚した、それが勇者です」
驚きが隠せない。ここは異世界ではなく別の
「別の星から召喚したって。そんな簡単なことなんですかね?」
「どうでしょうかね。私は関わっていないために詳しくは分かっていませんが、そう簡単に実行できることではないでしょう。」
「地球という星はとおーーーーーーく、ものすごい遠い場所。本来は一生を駆けて走っても届かない。そんなとても遠い場所ですね。」
何かおかしい。何かひっかかる気がする……そうだ、何故地球から呼んだのかが分からない。
「何故地球が選ばれたんでしょうかね?」
「というと?」
「夜に空を見上げると星って大量にあるじゃないですか。そんな距離が分からないほどに遠い場所じゃなくて、もっと近い場所から召喚すればよかったんじゃないですかね。」
「面白いところに目を付けますね。」
そういうと女性弟子さんは少し考えてこういった。
「予想ですが、一番近い星が地球だったとかじゃないんですかね?」
「後は召喚方式の関係で、空中の魔素が薄い星でしか選べなかったとかそんな感じだったと思います。」
「一度その人物を分解し、その情報をもとにこの世界でその人物を再現する。その途中で起きる特殊な力によりその者は通常の人間を超える力を得る。それが勇者召喚の仕組みです。」
「なんというか……それって勇者本人は大丈夫なものなんですかね?」
「大丈夫なわけないじゃないですか。一度分解して新しく作るんですよ?錬金の魔術師が全力で作った召喚方法ですら、召喚後二十年ちょうどで死んでしまう。そんな魔術です。」
なかなかに理不尽で酷い魔術だ……まあ召喚する本人たちからすれば知らない星の人間を犠牲に自分たちの命を守れるわけだからまあ仕方ない……とはならないな。
もし俺が異世界召喚されて余命20年宣告されたら最悪だもん。
と言うよりよく思いついたな、一度分解してそれを再現する……ってまさか。
「それ……もしかしなくても何回か失敗したりしてますか?」
「秘密ですよ?」
なんと酷い話だ。
「と言うよりこれだけ情報揃っていたら同じことに気がつく人も多いんじゃないですかね?それで大荒れとまではいかなくてもある程度荒れそうなものですが。」
「ああ、これは一応国家秘密ですからね。母が勇者召喚に関わっていたので教えてもらいましたが……周りにいったりしたらだめですよ?」
既にあなたが周りに言ってるじゃありませんか。
「既にメリッサさんが周りに言いふらしてる気がしますが……。」
「大丈夫です!私も母からあなたと同じように聞きましたから!」
これダメなやつだ。
「私の初めての弟子なんですからね!国家機密ぐらい安いものですよ!」
国家機密ほど高いものは無いと思うがな。
「ってより……弟子?」
「はい。弟子ですよ。」
「自分はいつメリッサさんの弟子になったのd「弟子じゃないなら大変なことになりますよ?」
「今から弟子になりますよろしくお願いします。」
この世は理不尽だ。とはいえ割と師匠っぽいことをしてもらっていたわけだし、今の所一番師匠っぽいのはメリッサさんだ。まあ普通にメリットしかないが
「この世の中にはこうやって騙したりする人もいますからね?次から気を付けてください。」
「ご指導ありがとうございます。」
「まああくまで母から聞いた情報なので、すべてが真実だとは思わないでくださいね。」
「ってあれ……母って……召喚したのって200年前ですよね……つまり年齢は。」
「あなたが想像しているようなことではありませんね。」
「最初の勇者の死後、わが国のシンボルでもある勇者を失ったままでは国の力に影響してしまうたね、二十年毎に勇者召喚を行っていました。」
「20年毎に犠牲者を出していたと。」
「世の中何てそんなものですよ。知らない人を犠牲にしてでも国としての力を強くする。それほどまでに勇者という存在の影響力は強かったです。」
「何せ共通言語は勇者が使っていた言葉ですからね。」
「昔って違う言葉があったんですか?」
「そうですね。今の子どもたちには伝えられていませんですが、魔王が出てくるまでは共通言語なんてものは存在していなく殆どの種族は敵対関係にありました。」
「強大な力を持った魔王を倒すという一体感。そして勇者という分かりやすく強い存在。その二つが合わさって共通言語が生まれたということですね。」
なるほど、だからこの世界の言葉は日本語なのか……いやにしてもおかしい。
200年前ということは江戸時代辺り。確かに英語の無い日本語だ。
じゃあしゃべり方が俺の知っている日本語に近いのは何故だ?200年前ってあれだろ。拙者とか某とか候とか言っていた時代。
勇者召喚は何回も起きていることっぽいからそれで言葉が変わっていたった?それには英語が殆ど入っていないのもおかしい。
謎は少し解決できたが逆にそれ以上の謎が出てしまった。すっき
りしない。
そういえば今も勇者がいるのならば俺と近い世代なのか。そうやすやすと会えるものではないだろうが一度会ってみたいな。
「今世代?の勇者ってどこで何をしてる人なんですか?」
「いえ、実は十四年前。千年を持って勇者召喚はやめることになりました。」
何故こうも上手いこと進まないのか。
「何故です?勇者という名前の大きさは先ほど師匠が言った通りですよね?一応は非人道的な行為とはいえ、国の利益の大きさからはやめるべきではないかと。」
「どうなんでしょうね。『勇者に頼るべきではない!今後は我々の力で切り開いていくべきだ!』なんてのが王様の良い分ですが実際にそうかは不明です」
「実は勇者を隠していて秘密兵器にしている、実は勇者召喚ができなくなった。そんな噂話もありますね。」
よくある話だ。娯楽の少ない世界だしでより広まるのだろう。
しかし共通言語か、いくら勇者の登場とはいえそう都合よく新しい言語を共通言語にするものなのか?敵対していただろうしどこかの一番強い勢力の言葉で良かったんじゃないか?。
いや違う。敵対していたからこそ
一番強い勢力の言語を共通語にした場合、共通語にした種族が中心のような存在になってしまうからな。
実際に中心かどうかはさておいて、歴史から見ても長年戦争をしていたもの同士だ。そういう方向で少しでも有利に取られないようにしていたのかもしれない。
「さて、今日の授業はこれぐらいにしてこの辺で野宿をやりましょう。」
その後数日はバレットの練習に指令魔術の練習をずっとした。
バレットはメリッサ師匠が
指から放つことで威力と速度を重視の弾を”バレット”と呼び、正方形の魔力塊を出すことで手数を増やすようにした弾を”バーン”と呼ぶようにした。
指令魔術はまだ慣れないがある程度操作は可能となった。
バレットは早すぎるせいで命令するのは難しくてまだ慣れないが、バーンの方は速度がそこまでなためにある程度の操作が可能となった。
方向展開の指令魔術は可能となったが、強力である追尾の指令魔術はやはり威力不足が目立つ。
そうして数日後。馬車の旅を終えて首都であるシュトロハイドに到着した。
ここから俺の魔術学校生活が始まるのであった。
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