魔術師との戦い方を考える
「貴族の説明もいいですが、その前に少し体を動かしましょうか。」
そういって凄く気になるところで女性弟子さんは切り上げた。そうして御者に馬車を止めさせてから俺と一緒に外に出る。
とりあえず軽くストレッチでもしながら今後の魔術方針について考える。
女性弟子さん曰く俺の魔術は意外性はあってそこそこ脅威ではあるが、火力不足と燃費の悪さという圧倒的短所がきついらしい。
燃費の悪さは正直きつい。俺は魔力自体はそこそこ多い方みたいだが燃費が悪いなら殆ど意味が無い。
故に近距離戦闘を行いつつ魔術でそれを補助する。魔法剣士・・・・・・いやこの世界では魔術剣士というタイプだろう。そういう戦法にするとする。
1から紋章魔術を覚えてもいいけどせっかくユニークな部分があるわけだし、それを伸ばして戦いたいよな!。
やはり筋肉は正義。鍛えておいて良かったぁ、
さて、ここで一番の問題は火力の足りなさだろう。
純粋に火力が足りないことは問題ではない・・・・・・・いや問題だけど多少は許容できる。
問題はこの火力が足りないというのが、どういう意味で火力が足りないかということだ。
単純に魔術同士の撃ち合いとして火力が足りない、って言うだけならば近距離をメインにして戦えば十分戦える。
問題は防御を貫けない的な火力の無さなのかだ。
同年代としてはそこそこ鍛えている方だとは思うが、やはり自己流の強化魔術故に色々不備があると思う。そんな強化魔術をかけた状態の俺ですら耐久面はかなり高い。
・・・・・・いや高いと思う。下級悪魔とか父とか女性弟子さんとか格上ばかり相手してたから自信無くなってきたな。
まあ実際問題、下級悪魔を俺の魔術で倒せなかったところから”防御を貫けない火力の低さ”って言う方向の火力の低さの可能性もありえる。
その場合は俺の魔術はとっさに使える程度でしかなく有用性はほぼ無い。
そんなこんなで悩んでいても仕方ないので、とりあえず女性弟子さんに聞いてみることにした。
「メリッサさん質問です。自分の魔術の火力不足っては魔術の撃ち合いの時に火力が足りない、というのは分かりますがもし直撃させたとしても強化魔術込みの相手にダメ・・・・・・負傷を与えることは可能なのしょうか?」
「そうですね。対魔術師の場合、リーシェちゃんの魔術が直撃すれば大体殺せます。」
女性弟子さんが言ってるのだから事実なのだろうが、正直違和感しかない。
「そうなんですか?正直自分の魔術を自分に当てたとしても、傷を負うでしょうが死ぬことは無いと思うのですが。」
下級悪魔との戦いの際に至近距離で攻撃に巻き込まれる前提で火炎の槍を使ったが思ったよりダメージを受けなかった。
「えーっとですね。リーシェちゃんは魔術師を目指しているつもりですが、正直あなたは魔術師としては体を鍛えすぎてます」
「見た目的にはあんまり筋肉がついていませんし。同年代よりは少し強いとは思いますが、そこまで鍛えすぎだとは思いません。」
そういって自分の細腕を見る。確かに見た目に反して力があると思ってたが異世界なんてそんなもんだと勝手に思い込んでいた。いやほら、漫画とかだと細腕だけど筋肉質なキャラとかいるじゃん。
「確かに見た目が筋肉質なのは不思議です……まあ師匠の子供ですからね。何があってもおかしくは無いでしょう。」
何かとても失礼なことをいわれた気がする。
「まあそれはさておいて。リーシェちゃんは一般的な魔術師としては肉体強度が高いです。故に本来の魔術師では直撃すれば致命傷とまではいかなくても、かなりの傷を負うでしょう。」
「魔術師と言えど動ける方が強いですよね?それなら体を鍛えないんでしょうか?」
「そこは少し違いますね。魔術師もそれなりに鍛えている人が多いです。とはいえあくまで最低限の魔術師同士との戦いで必要な分を鍛えるぐらいで、剣士と張り合おうとするぐらいに鍛えるの人はほとんどいないでしょう。」
「鍛えすぎていると言いましたが、鍛えすぎることによって何らかの不利益はあるのですか?」
「そうです。簡単に言えば魔術が使いにくくなります。」
「嘘でしょ?!」
なんということか。今まで鍛えていたのは完全に逆効果だったのか。
「まああくまで使いにくくなる程度なため、そこまで気にすることはありません。また後で魔術が使いにくくなる理由は解説しますね。」
「先ほど魔術が直撃すれば倒せると言いましたが、魔術戦に置いてはその直撃させるということがかなり難しいです。」
「魔術を使ったところで魔術によって防御されるからでしょうか?」
「それもありますが、魔術師は基本的には魔術を回避することが多いです。」
つまりは単純な威力も重要だが、それ以上に速度などが重要ということだろう。
「更にもう一つあります。私に魔術を一発撃ってもらえませんか?」
「え」
「まあまあ。いいので一発撃ってみてください。」
「なんか怖いんですが。」
「まあまあいいからいいから。」
多分防御かなんかのあると思うのだがなんか普通に怖い。直撃したら殺せるとさっき言われたばっかりだし、軽く水をかけるぐらいにしておくか。
「そーい。」
ホースから水が出るかの如く掌から水が出てメリッサさんにかかる……いやかかっていない。何か球体のようなものに守られて水がかかっていない。
「これはガードと言われる防御魔術の一つで、主に緊急時に使われる魔力を使った防御壁となっております。」
「そもそも魔術を当てることが厳しい上で、もし魔術を当てたとしてもそのガードがあるためにそのガードを破壊しなければ攻撃を直撃させることが厳しい。ということですね?」
「そうですねとはいえ機動力の高い魔術師のガードはそのまま魔力を放出している、術式の無い魔術なために破壊することはあまり厳しくありません。」
「どちらかと言えば攻撃を一時的に止めることや、強引に軌道を変えることなどと言った最終手段となりますね。」
一般的な魔術師のガードの耐久はどれぐらいか分からないがあまり硬くはないようだ。そうなると数で攻めつつできれば操作可能な遠距離攻撃が好まし……ってあれ?
……ガードって英語だよな……?
「メリッサさん!ガードって言葉の意味は分かりますか?!」
人の名前などの固有名詞は日本名じゃないし、発音は少し変わっているがこの世界の主流言語は日本語で英語は存在しなかった。偶然英語と同じ意味があってもそれは偶然被っただった。
そんな異世界で始めて遭遇する英語。防御の魔術をガードと呼ぶ。これを偶然として済ませるのはかなり難しい。
「いえ……特に意味は無かったと思いますね。」
解散・・・・・・とはならない。もしかしたらその魔術を実現した人物は俺と同じ転生者かもしれない。ガードについて辿っていけばその辺が分かる可能性がある。
「その魔術はいつ誰が作ったとか分かりますか?!」
「一応は旧文明の頃からあるらしいですが……細かいいつ誰が使ったのかというのは不明ですね。」
旧文明。確か1000年前ぐらいの頃か。辿るのは難しそうだ。
まだ偶然の可能性は捨てきれないしろ、この世界に俺以外にも転生者や転移者がいる可能性がある。もしかしたら会える可能性もある。それはとても嬉しい。
……異世界転生者は一度に一人しかこの世界に存在しないなんて可能性もあるがまあ仮定に仮定を重ねるのは現実的ではない。
どこかで見たやつでそんな設定のがあったから超怖い。
まあそれはさておいて新しい魔術を考える。
ガードの耐久は消費魔力に影響するらしく、あくまで一時的な防御壁なためにそこまで耐久は重視しないらしい。
ということで手数の多い魔術を作ろう。
そんなこんなで1時間が経過した。
「結構余裕を持たせているので、一日ぐらいならばここで立ち止まっても問題ありませんよ。新しい魔術を考えることを優先しましょう。」
なんて言ってくれる女性弟子さんは天使に見えた。
まあ1時間悩んだだけで新しい魔術が作れねー!なんて
火は速度が足りない。火の排出口を小さくして速度を上げることも考えたたが地味に難しい。しかも射程が短い。ヒートブレード(ナイフ並みの射程)としていつか使おう。
風は単体だとやはり威力が足りない。弓矢に付与して投げることで威力、速度がともに高く多少の方向操作ぐらいならば可能となる。これもありだが追尾性能が足りない。
今の俺だと30度の移動方向変更ぐらいしかできなく、あくまでギリギリで避けるような相手にならば強い程度の。できれば多角的に攻めれるような魔術を作りたい。
水は無理。近距離ならば当てれば殴った時並みのダメージを出せるぐらいにはなっているが、やはり速度も規模も足りない。
超高速で出せればダイヤモンドカッターだったかみたいな凶悪な武器になるだけにやや残念。
土は威力は十分。ガードは物理防御能力は低いらしく土魔術はガードに対してかなり有効らしい。ただし速度が足りない上に燃費が悪いためにうまい具合に追い込まないと当てるのは難しいし連発もできない。
女性弟子さん曰く、魔術規模の関係で俺は火の魔術の才能が一番あるらしい。他の魔術も十分使えるがちょっと水の適正が薄いそうだ。
この世界の魔術師は火、風、水、土、四属性の魔術適性を誰もが持っており、基本的には得意な魔術を極めるそうだ。
ということで色々考えて1時間、考え付いたのは魔力弾。ただ魔力を放出して弾とする一撃。
魔力を込めれば込めるほど威力、速度が上がるが燃費は死ねる。
ということで更にあれこれ試して1時間経過。若干燃費は悪いが拳銃並みの速度と威力で放てるようになった。
指一つから一発放つことが可能で同時には5発展開可能。この新魔術ができたことを女性弟子さんへと布告しに行く。
「メリッサさん!新しい魔術ができましたよ!」
「それは早いですね!せっかくなので試し打ちをしてみましょうか。」
そういってメリッサさんは2メートルほど離れた場所の地面に紋章魔術を発動し、地面から岩が盛り上がってきた。
「距離は大体ニレーン(約4m)です。とりあえずこの的に撃ってみてください。」
岩の的に対して手を指し指すべてを向ける。集中。集中。集中。
指先から魔力を放出するイメージを作る。そして相手を射貫く。
指から出された弾は岩の的へと向かいそのまま刺さる。硬さは不明だが威力はそこそこあるっぽい。やったぜ。
「これは・・・」
俺の魔術を持た女性弟子さんは少し困った様子で攻撃を当てた的を見ている。
「もしかして……今の魔術って微妙なやつだったりします?」
とても気になるので聞いてみることにした。3時間程度しかかけてないにしろ割と自信作だ。微妙な魔術だとしてもせめて何が悪かったかぐらい聞いておきたい。
「そうですね。すみませんがもう一度土の塊に向けて攻撃してください。」
「わ、分かりました。」
元々俺の魔術というのはこの世界では
的に向けてまた手を向けようとすると、女性弟子さんが一つアドバイスをくれた。
「その攻撃に名前とかないのですか?名前があればその攻撃を素早く出せるようになるので無いのでしたら名前をつけることをお勧めします。」
魔術とは割とイメージすることが大切っぽい。故に攻撃に名前をつけることによって、名前を言うことによる攻撃のイメージがしやすくなると言った感じだろうか。
しかし壮大な名前を付けるのはとても恥ずかしいな。そもそもこの世界のネーミングセンスとか分からないし。
「
名前を叫ぶと同時に指の先に溜めた魔力弾が目標へと目がけて飛び出す。確かに名前がある方が発動するのが早い気がする。
「やはり……これは……。」
「もしかして俺何かやっちゃいました?」
「まあはい……この魔術はかなり革新的というかかなり凄い魔術ですね……。」
無言のガッツポーズ。はしないが拳を握りしめる。
「へぇ!どんな感じに凄い魔術なんですか?」
ワクワクが止まらない。きっと新しいおもちゃを与えられた子供というのはこんな感じなのだろう。感情が高ぶっている。
「そうですね……今の攻撃はこれは魔術ですらありません。」
なんかディスられている気がする。でもかなり衝撃を受けているっぽいから言葉を選ぶ余裕すらないのだろう。
「魔術ですら無いってどういうことですか!」
「これは
「ただそれだけだったんですか……」
でも確か凄いとか何か言ってた。女性弟子さんは馬鹿にするような冗談は言わないはずだし。多分何か別の所で凄い所があるのだろう。
「でも凄いって言いましたよね?他に凄いところがあるとかですか?」
「いえ違うんです……魔力の塊を放つ攻撃ができるということ自体が異例のことなんです。」
「え?」
どういうことだ。
「でも女性弟子さんも普通に魔術とか使ってますよね?」
「あれは術式を通して魔術として発動するこよによって、魔力の塊から魔術へと変化させているのであって……本来はただの魔力の塊は人や物を傷つけることはできません。」
ホワッツ。
「生活魔術で攻撃できるのも凄いですが、今回の
そもそも生活魔術って攻撃できないものなのか。
「魔力塊で攻撃できる利点って何がありますか?」
「まず生活魔術同様に術式展開が無いために予想外の所から攻撃をすることが可能です。」
「何よりは指令魔術との相性がとても良い点ですね。」
「指令魔術ってのは?」
「魔術の一種類で、簡単に言えば自身の魔力に対して指令するこよによってその魔術を操作することが可能となります。」
なるほど分からん。
「その顔は分かってい無いようなので、一度私が使ってみます。」
ばれてーら。
そういうと女性弟子さんは掌の上に白い正方体を生み出した。一辺30センチほどでかなり大きい。
「これは魔力塊ですね。そい!」
そういうと女性弟子さんは掌の上に浮いている魔力塊を的目がけて投げる。と思いきや的の左の方に投げた。ノーコンかよ!。
「
そんな失礼なことを思ってたらいきなり魔力塊が右へと曲がり的へ進んでいく。方向転換が可能なのだろうか?。
「これが指令魔術と言われる魔術ですね。自身の純粋な魔力に対して命令をすることが可能です」
「攻撃方向を変えたり形状変化をしたりなど、汎用性が広く便利な魔術となります。一時期はこの魔術の可能性の高さから多くの魔術師がこの魔術を研究した。そんな魔術です。」
「なるほど。つまり使えない魔術だと。」
「まあそういうことになります。この魔術は”純粋な自身の魔力”にしか付与できないため、付与できる対象は魔力塊か出血した直後の自身の血液ぐらいでしかないんですよね。」
身体には物理的に魔力がついており、特に血液と髪は魔力を吸いやすい性質だそうだ。だから魔術師は髪を伸ばしている人が多いらしい(女性弟子さん談)。
ちなみに筋肉は魔力を吸いにくいため、魔術師は最低限しか体を鍛えないそうだ。
「ですが術式によって増幅された力。魔術は”純粋な自身の魔力”ではなくなるために対象とならなく、魔力塊はあのように大した威力ではありません。」
女性弟子さんはそうやって的に向けて指を指す。確かに的は殆ど傷がついていない。俺の魔力塊は指先程度の魔力でも十分な打点となったが女性弟子さんは巨大な魔力塊でも大した打点にならないようだ。
「このように魔力塊というのは何故か攻撃性能が異様に低く、血は流血した直後以外では効果を発揮しない上、強引に魔術を発動させるために生活魔術同様魔力効率が悪いです。」
「そのために一時期。六十年ほど前にとある魔術師がこの魔術の可能性を唱えたことにより多くの魔術師が研究をして諦めたという魔術ですね。」
「となると使い手はほとんどいない魔術なのでしょうか?」
「そうですね。私が知っている使い手はその可能性を唱えた魔術師一人だけです。」
「その人が使えるのだったらその使い方を他の魔術師に教えたらよかったんじゃないですか?」
「残念なことにそうはできませんでした。魔術師同士の戦いに置いて得意魔術の情報というのはかなり重要なことです」
「そしてその魔術師が生み出した指令魔術はその人物の主要魔術(戦いで重要な魔術)ともなるほどに強力な魔術だった。故に公開もできなく指令魔術の使い手は殆どいなくなってしまいました。」
「それって公開した方が良かったものなんでしょうかね?」
「難しいものですね。その魔術師はのちに戦争で大活躍して上級貴族になり二つ名を与えれるほどに強力な魔術師へとなりました。」
「ですが何かの拍子で簡単に死んでしまう。それが戦争です。故にその技術を広めて皆が使えるようにしても良かったでしょう」
「けれどそこから魔術の情報が洩れれば、その魔術は戦争で大活躍することなく殺されていた可能性が高いです」
「まあ結局は作った者が扱う権利があるわけですから、悪用しない限りは何とも言えないものですね。」
そういう女性弟子さんの雰囲気は少し悲し気だった。
ということで指令魔術を試してみることにした。女性弟子さん曰く魔力を意識して指令を出す。それだけで使えるがコツのいる魔術らしい。
「バレット!」
指先から魔力の弾が発射される。その魔力を意識して指令魔術を発動する。
「
直後魔力の弾は下へと落下する。女性弟子さんの手本ではかなり急に曲がっていたが、俺の場合は緩やかにカーブを描いて曲がっている。
「少し慣れが必要ですがこの感じならば少し練習すれば慣れるでしょう。」
「威力速度共に悪くはないと思うんですが、実際この魔術って強いんですか?」
「強いです。魔術というのはエルフの使う
「ゆえに威力はそこまでですが、ある程度の速さを持った上で操作可能なこの魔術はかなり強力な手札となります。」
「あくまで主要魔術ではなく手札の一枚なんですね。」
「まあそうですね、普通に威力が足りないのでこれを軸に戦っていくのは厳しいです。」
そして色々指令魔術を試した見たところ。
拡散(ばらけ)・弾がばらける。その分威力は下がる。
加速(速く)・早くなるがその分威力は下がる。速度が上がるために威力の低下率はそこまで。
追尾(追え)・狙った対象を追尾する。ただし威力、速度共にめちゃくちゃ下がる上に弾を放つ前に
この辺が思いついた中で使える指令だった。拡散と加速は威力が下がるのが辛いが普通にいい感じ。追尾は見せたときに女性弟子さんが超驚いていたが、威力と速度共に低く普通に使いにくかった。
後は大量の魔力を込めれば”爆破”なんかも行けそうだが厳しい。
また、俺が未熟なのか指令は3文字以内でないと効果が発揮しなかった。
基本的には通常弾と変化弾を主流に使っていくか。と言った感じだった。
そして翌日。完全に忘れていた上級貴族について教えてもらうことになった。
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