魔術学校へ/前

「いや、あれはただの生活魔法ですね。」



 俺が今まで魔術だと思って使っていたのは、ただの生活魔術。この世界では生活魔法と言われるものだったようだ。


 ここで生活魔法のおさらい。生活のために便利な魔術を使える!って魔術だ。火を付けるためにライター程度の火を出したし、コップ一杯の飲み水を出したりできる。

 ちなみに風、土の生活魔法は今まで見たことない。



「え…俺の魔術って生活魔法なんですか…?」


「まあはい、そもそも術式展開も無いので魔術という枠に入りませんね。」


「いやでもほら、実は強いみたいな感じなんですよね?」


「可能性はあります。」

 それダメなやつじゃん。



「まあ魔術についてなどは後でシュトロハイドに行くときに詳しく教えてあげましょう。」


「つまりリーシェが魔術学校に行くことを許可する、ってことでいいんだな。」


「そうです。しかし師匠がそのことを言ったせいでシャーレイちゃんが反応に困っていますよ。」

 反応に困っている。と言うよりは感情の整理がつかない。


 格が違う。圧倒的な格の違いを見せられた上で可能性があるという評価、なのに魔術学校の入学の許可をもらった。どう反応すればよいんだ。



「えっと、なんで魔術学校に通う許可をもらったのかなぁ?ってのです。」


「それはもちろん可能性があるからです。」 

 あれは嫌味じゃなかったか。



「まあ詳しいのは道中で授業をしてあげます。どうせ道は長いのですから。」


「そんなに長いのですか?」


「はい、片道十日はかかりますね。」

 長い。ちなみにこの世界は年月の括りは日本とほぼ一緒だ。月の呼び名がよくわからない言葉になっているぐらいで違いが無い。

 ちなみに時間という概念は存在するが日常的には使われない。時計なんて無いからね。仕方ないね。



 その夜、俺の送迎会が開かれた。


 俺は超悲しかったがこの世界の住民はその辺の割切が早いのか、悲しいムードより明るく送り出したいのか。


 まあそもそもこの世界は死ぬか死なないかなんて言うギリギリの世界ではないにしろ、俺が元いた世界よりも死が身近にある世界。今生のお別れというわけでもないのだから俺のほうがここの住民からしたらおかしい人間なんだろう。

 



 そんなこんな翌日、家族との別れを済ませて父と共に女性弟子さんの所に行くことにした。


 いつも明るい父は今日は静かだ。一生の別れではないとはいえ遠くに長く行くわけだ。昨日は明るく送り出してくれたにしろ父としては心配なのだろう。肉体の性別は女だしで強姦とか怖いしね。


 ここで一つ何か気の利いたことを言おうか考えてていたが思い浮かばなく、メリッサさんとの集合場所父が独り言をつぶやく用に話かけたきた。



「リーシェ、俺は金の問題で夢をあきらめたことがある。だから子供には金の問題で夢をあきらめて欲しくない。」


「だから金のことは気にしないで頑張れ。いいな?」


「分かりました。遠慮しないで頑張ってきます!」


「あと、お前が俺達に何か隠し事をしているのは気がついているからな。」

 ココデアカサレルショウゲキノジジツ。



「まあ薄々気がついてはいたが、聡明なお前のことだ。きっと俺達には言えない何かがあるんだろう?」

 生まれてからずっと隠していた事実があっさりばれていたことに固まっていた俺に優しく言ってくれた。



「だからと言ってずっと隠されても困る。だから言えるようになったら教えてくれ。その時を待っているからさ。」


「さあ行ってこい!」

 そういって俺の背中を押してくれた。物理的に押してくれた上に押したというにはやや強いが押してくれた。



 自然と目から水魔術が生成されたようで、後ろを振り向かずにメリッサさんの所に行く。後ろを見れば今の決意が揺らぎそうだ。


 14年間暮らした屋敷と村から出て魔術学校へと進む。これが決意する。俺の夢を押してくれた両親に祝ってくれた兄弟。心配してくれた使用人。


 俺は世界最強の魔術師になるという、まるで子供が考えた夢のようなバカげた目標のために魔術学校へ通うことにしたのだった。

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