クロイロの怪物
俺の名前はリーシェ。ひょんなことから異世界転生とやらになった元男だ(現在の性別は女)。
よくわからないまま流されるままになったが、母親の使う魔術を見様見真似で真似したら魔術を使うことに成功した。
そよ風程度の風であったが、赤子ですら魔術が使えるのだ!なんて素晴らしい!。
そんな俺はこの世界で最強の魔術師になることを目標に生きていこうと決意したのであった。
しかし赤子ではできることが少なく、精神も赤子に引っ張られてしまうのですぐに寝てしまう。
しかも脆いために少しでも強い魔術を使って失敗したらそのまま死ぬ可能性もある。死ななくても大人になるまで魔術を禁止されてしまうかもしれない。
一人で出歩けるまでは最低限の魔術行使の練習だけにし、一人でこっそり練習するように決意した。
ある程度成長してから両親に頼み魔術を教えてくれ!と頼めば良いだろう。それが一番効率が良いだろう
・・・イヤ、ヤメテオコう。
何故か分からないが彼女達に魔術について聞くのは不味い気がする。
そして月日は流れ、俺は立派な幼女へと変貌を遂げていた。
名はリーシェ・シャーレイ。両親に兄二人、そして6人の使用人が住み込みで働いている豪邸に住んでいる。
ちなみに領主らしいが、俺が知っているような領主とは少し違うらしい。
そして問題なのは容姿だ。綺麗な白髪に柔らかい肌。整ったかわいらしい顔と、父母両方ともかっこよく美しいとこれは将来美人になるんだろうなぁ…なんて我ながらに思ってたがこれは笑えない。
俺に女装の癖があるのならばまだしも残念ながらそんなことは無かった。
美しい女性というのは確かに多くのことに置いて圧倒的にアドバンテージを得られるであろう・・・ただし中身が女性の場合である。
男にちやほやされて何が嬉しいんだ。見た目が良いということは即ち性犯罪なりのターゲットにされる可能性が高まる。残念なことに俺にはホの毛は無い。残念な要素は一切無いがな。
可能な限り不愛想で、髪もできるだけで短くして筋肉をつけよう・・・世の中の男ってのは愛想の良い女性の方が好きな傾向にあるだろうからな。
俺の元いた世界ならばある程度はましだろうが、この世界の治安がどれぐらい良いものか分からないからな。
まあ美しい女性ならば男を利用して上手いことできるかもだけどそれはそれでなんか申し訳ない。
しかし問題なのは俺に前世の知識はあるが記憶が無いことだ。
俺が住んでいた日本という国はどんな国だったのか、なんて大まかな記憶はあるが住んでいた記憶や細かい記憶が無い。
家族やいたであろう恋人の記憶も、”存在した”という記憶ごと消えている。恋人はきっといたさ。
そんな理由もあってか俺は元の世界に戻りたいという欲が無かった。それとも俺でも魔術が使える世界への感動が大きかったのだろうか。
そんな薄情人間なのだから、きっと前世の俺はロクな死に方をしていないんだろうな。なんだか悲しくなってきたよ。
そして実は俺はチートと思わしき能力に目覚めている。それ即ち翻訳能力だ。
この世界は多少の訛りや一部言葉が上手く伝わらないことがあったが、基本的には日本語で回っているらしい。
異世界、最低でも俺がいた地球でないと断言できるほどに違う世界で偶然にも多く使われる言葉が日本語で、細かいニュアンスまでほぼ同じ。
そんな偶然はあるだろうか?いや!無い。
つまり神からもらった能力は翻訳能力ということになった!Q!E!D!。
……まああれだ、モンスターとか精霊とかと会話できる可能性に賭けたいな。
ちなみに後日父親や兄たちと一緒にいったが、はぐれのモンスターとは会話ができなかったよ。
とりあえずの目標は筋肉をつける、可能な限りモテないようにする、そして魔力を増やす。
魔力とは才能でもあるが、若い時から魔術の練習をすることで魔力増加をすることが可能なのである。
そして赤子から毎日魔術の練習をしてきた俺は、きっと魔力の量は素晴らしいことになっているに違いない!。
……おっと、なんだか頭が痛くなってきたしもう遅いので寝るとしよう。
そんなこんなで今一人、森の中で魔術の練習中。
母親が見せてくれた風の魔術、屋敷の中で使用人が使用していた炎と水の魔術が今俺が知っていて再現できる魔術だ。
風の魔術で風を起こし。水の魔術でコップ一杯の飲み水を作り、炎の魔術でライターぐらいの大きさの火を一瞬だけ生み出すことに成功した。
風の魔術は元々からある程度慣れているからもう少し強いやつでも行けそうだ。
水の魔術は火の魔術をミスった時の消化に使えるかもだから、生成量を増やせるようにしよう。
炎は危険なので水の魔術にもう少し慣れてからにしよう。
いっそ顔にやけどを付けたら男に狙われないんじゃないかとも思ったが、両親に心配をかけてしまいそうなのでやめておく。
そして月日が流れ14歳。
魔術は火、風、水、土の四種類をに加えて強化魔術がつかえるようになりました(この世界では炎の魔術ではなく火魔術と呼ぶらしい)。
それ以外の魔術。雷とか氷とか思いつく限り試したが上手い具合にはできなかった。
しかしこの世界の魔術は面白い。すべてが不思議でできている。
手から火を出しているのに手は熱くならないか、ということを疑問を感じて色々実験してみた。
ちなみに自分の魔力で生み出したから自分の肉体には効果が無い、って言うのは違うと断言できる。
自分の腕に火を近づけて実験したことがあるからな。自分の肉体に対して魔術を使うとブレーキがかかるのか使えない。
ちなみに自分に魔術で攻撃して見ようとしたが、結果は反射的に魔術を解いてしまうだった。
魔力によって肉体を強化しているから熱くない。出すのは一方向で一瞬だけかつ火を点火するために必要な分だけだから熱くない。
そして色々な人の日火魔術をみた結果。どれもが正解で間違いということに気がついた。
慎重な使用人は火魔術を出すと同時に、軽めではあるが魔力によって肉体を強化して熱さを無効化している。
大雑把な使用人は火魔術を使っているが、出すのは一方向で最低限の火だから一瞬だから熱さを感じないようだ。それにしても熱くないかと思ったりしたが、それには驚きの理由があった。
土魔術は地面に隣接していないと何故使えないのか、水魔術はそのまま蒸発するのか、魔術を武器に付与できるのか、などなど色々なことを試して新しいことを知った。
土魔術は触媒となる地面が無いと魔力消費が恐ろしく大変な上、土台が無いと明後日の方向に攻撃が飛んでいく。
水魔術はそのまま蒸発した。
魔術付与は意外といると思ったが、剣に火を付与した結果剣を振ったら火が置いていかれてそのまま消えるという事態が発生した。
恐らく武器自体を魔術に組み込まないと、近距離武器では厳しいのであろう。
逆に風の魔術によって弓矢の速度と貫通力を上昇させるのには成功した。この違いは仮説だが一応は考えてある。
剣に対してはただ火を付与した。ようするに剣の周りに火を集めただけの状態だったのだろう。この火を剣の一部として魔術に組み込めば火炎剣の完成である。
逆に風魔術は矢の全体に付与する上、矢自体が一体化したイメージが作りやすく攻撃後のイメージもしやすい。ゆえに成功したのだろう
魔術に置いて、イメージをするということは超がつくほど大切なことである。
魔力をその属性に変化させ、それをカタチを持たせて放出する。
イメージですべてが決まるというわけではないが、イメージをすることによってできるできないが変わることは存在するのである。
肉体面では毎日走りこみをして筋トレをして、力も結構上がってきたが残念なことに見た目的に筋肉がつかない。
まあ筋トレの影響か、背もあんまり伸びてないしで結果オーライだろう。
父親に剣術を習ったりもしたが、父親はパワータイプなのであまり参考にはならなかった。
そして俺は4年前から狩りを始めた。最強の魔術師を目標にしていた俺が狩を始めた理由。それは決して最強の魔術師を諦めたわけではない。
ようするに金が無いのだ。
ある程度住んでいて分かったことだか、やはりこの世界魔術というのは裕福な家庭以外だと厳しそうだ。
うちもそこそこ裕福ではあるが、ここまで育ててくれた両親にできるだけ迷惑はかけたくない。つまり金がいる。
異世界転生のお決まりとか言う知識はある癖に、この世界で儲けれるような知識が殆どない。
上手い料理を作ってバカ売れ?俺がいた世界とでは食材が違すぎるしそもそも料理なんて最低限生きるためにしかしてなかった。
しかもこの世界の野菜はトラウマ製造機だから一応は幼女である俺に料理は厳しい。
この世界の大根と呼ばれる野菜、色が紫色ということさえ除けば形は大根だ。
ちなみに切ったら悲鳴を上げる。この世界の野菜は魔力が豊富な場所の方が早く育ち、魔力が豊富なために特殊な能力を持ったりするそうだ。
ただし全体的に地味で、切ったら悲鳴を上げたり、包丁じゃ切れないぐらいに硬くなったり、ついには2足歩行を始める野菜もあるらしい。
普通の土地で育てた野菜もあったらしいが、味は変わらない上に魔力を取り込めるためにこっちの恐ろしい野菜をメインとして食べているそうだ。
ちなみに味はトマトとニンジンを足して割ったような味だった。
工業系に手を出そうかと考えたが、こっちも大した知識が無い。
貝を砕いて畑にまいたら効率が良いらしい程度だ。そんなの魔力で成長を加速させた方が効率的だ。
そもそも、この世界は現代日本と比べて劣っている世界とは一概に言えない世界だ。
モンスターから入手できる魔石を利用した、所謂魔道具と言われるアイテムが流通しているために割と快適。
驚きなのは氷の魔術を使って部屋を涼しくする道具、これが銀貨5枚程度で取引されている。
ようするに電気いらずのクーラーだ。銀貨はおおよそ1000円ぐらいの価値なので大体5000円ぐらい。
細かい調節ができないために寒くしたくはできないが、過ごしやすい適温にしてくれる。
とまぁ、大した金策を思いつかなく途方にくれながらランニングをしていた嬉しそうな顔をした狩猟者(この世界に置いては魔法を使わず弓で動物を狩る者。主に趣味の場合が多い)のおじさんと出会った。
ラブ・ヘカーという、ごくまれに森に現れる生き物を狩ってきて売った所だそうだ。その肉は美味で角を削れば薬にもなるために非常に高値で売れたらしい。
こうして、邪な理由で俺の狩猟ライフは始まったのである。
ちなみにラブ・ヘカーとは鹿の形をしていて羽の生えた謎の動物のことである。ちなみに重すぎて飛べないらしい。何故なのか。
そもそも基本は日本語の世界で、何故動物やモンスターだけ横文字なのかも理解できない。
そして今日も狩りに来た。父親の弟子たちが集まるらしい。
いくら少女の肉体とはいえ、一応は鍛えている俺が強化魔術をかけてようやくギリギリ戦えなくもない。衰えた状態ですらこんな化物じみた力を持つ父親の弟子たちだ。さぞや恐ろしいのであろう。
とはいえご機嫌取りも悪くない、そんな軽い気持ちで狩りに出かけたのであった。
美味しい動物が狩れればそのまま持って帰ればいい、きっと父親は喜んでくれるだろう。
強化魔術をつけつつ敵を探索していると、北西の方向60レーン(この世界の長さの単位。大体2mで1レーン)ほど先に獲物をみつけた。
強化魔術。肉体に魔力を付与することによって身体能力を向上させる魔術を使い、人を越えたスピードで木の間をすり抜ける。
強化された視力で獲物をみつけ、三次元的高速移動でつめる。
木を蹴り、蔦を使い、場合によっては土魔術によって次の足場を目指す。
対象はリーグ。牛のような見た目をしている動物だ。頭蓋骨が分厚く心臓の周りには肉と骨があるために一撃で倒しにくく、臆病なので逃げやすい。
図体はデカいのに逃げ足が異様に早く一撃で仕留めないと肉が美味しくなくなるのはもちろん、今の俺ですら逃げられてしまう可能性があるほどにめんどくさい。
一撃で仕留めるのにはただの矢では倒せない、そう判断した俺は弓に風の魔術を付与する。
付与魔術。対象に特定の属性の魔術を付与させて貫通力を上げつつ操作可能となる魔術。
ただし風以外では使えなく、弓矢の軌道を少し変える程度が限度だ。
動きながら当てるのは難しいが、ある程度の狙えさえ合っていれば当てることが可能となる。
風を纏った弓矢を持つ、弓をひく、一連の動作には1秒もかからない。
直後殺気を感じたのかリーグは逃げようとする。しかしもう逃がさない。
直後空中で弓を放つ。風の加護を得た弓矢は風を切るような音を鳴ら標的の頭に吸い込まれていく。
「仕留めたっ!」
直後にリーグの頭に直撃、貫通しそのまま後ろの気に突き刺さる。
流石にリーグを頭を貫通したのが限度だったかそのまま木に刺さった。
「リーグか、ちょっと脂っこいが甘くて旨いんだよなぁ…」
生前は食べたことが無かったがらしいが、高級な肉というのがこういうのに入るのだろうか。
重いのがちょっと苦手ではあるが、まあ母親ならばいい感じに料理をしてくれるだろう。
なんせあの母親だ。俺が生まれたときから殆ど見た目が変わらない謎多き母親だ。
良い人ではあるが怒るととても怖い、まあ怒られるようなことをする俺が悪いんだがな。
「好奇心は猫を殺すって言うけど、やっぱり挑戦心は大事なんだよなぁ」
そうやって血抜きをしようとナイフをリーグの死体に刺した瞬間。固まった。
固まったのだ、体が動かない。
恐怖だ。圧倒的強者に相対した時の。どうしようもない絶望感と恐怖。
後ろを向く、そこに立っているであろう今から俺を殺そうとするモノを見るために。
人型、体形で見れば背の高い細身で猫背の人間と言った感じだ。ただし腕は地面にギリギリつかないといったレベルに長い。
圧倒的に違う点は存在感、見て分かる圧倒的異物感。
そして羽が生えている。しかし羽は棒で作ったような形であり、羽として機能するかすら怪しい見た目をしている。
全身黒ずくめでペストマスクに似た顔付き。これでただの変態なら助かったがそうはいかなそうだ。
「Gr・・・」
そううねった直後その化物は殴りかかってくる。
強化をかけた状態ですら殴られる直前まで反応できないような。人間の理を越えた圧倒的スピードからの一撃。
直後、頭を狙って腕を振り下ろすかのような一撃をくらった。
世界が遅く見える。俺を殴った化物の体。近づいてくる地面。
そして俺は気を失った。
目が覚めた。どれぐらい気を失っていたかは分からない。
化物はまだ目の前にいる。ただし場所は変わってかなり開けた場所に移動されている。
化物がいる周りだけ不自然に地面が露出しているがまだ森らしく、俺は木の近くに置かれていた。
木の棒・・・ではない、魔力のこもった杖らしきものを使用して地面に何かを描いている。
体は動かないことは無いが痺れが残る。まだ時間的には余裕がありそうなので様子を見ることにしよう。
化物は拙い動きで、あまり効率的ではない動きで描いている。最低限の知能はあれどそこまで知能は高くなさそうだ。
まだ地面に倒れているために何を描いているかは不明だが、俺が倒れている間に殺されなかったということは俺が必要ということだろうか。
考えられるのは奴隷なり、上の身分の化物に差し出すため。または生贄。
そして今描いているのは暇潰しの可能性はほぼなく、動き的にはおそらく魔術的な陣を描いているのだろう。俺をさっさと持って帰らないことを考えれば生贄か帰るのに時間がかかるのか。
ワープ的な魔術が存在するかは不明だが、移動系の魔術を構成しないといけないような場所に帰るためなのか。それとも俺を生贄にする何かを作りだすためなか。
腕の痺れが引いてきた。今ここで勝負を決める。
化物に対して右手を向け、右手に魔力を集中させる。
「火よ!」
直後火炎の槍が右手から放たれる。森が火事になる可能性があるために極力使いたくない奥の手だ。
火魔術・殺傷能力が高く魔力効率もよいが操作が難しく、森などでは二次被害が起こる上に練習も地味に危険な魔術である。
対人を想定した人を殺す魔術。それが化け物を貫かんと直撃する。
直撃し火の槍は爆散する。この火の槍は相手にダメージを与えることを目標としたのではなく、最低限のダメージを与えつつそのまま爆散して周囲の酸素を奪い窒息させついでに肺を焼き防御の上から致命傷を与える。と言う火魔術の強みを生かした魔術となる。
スピードが速くなく、炎の影響範囲が広いために近すぎるとこっちにも影響が受けてしまうためにいまいち使いにくかったが綺麗に刺さった。
しかしこれで安心できるような相手ではないだろう、俺は近くの木に体重をかけて立ち上がる。
「ははは…こわいなぁ」
そう口で強がりつつ立ち上がる。立ち上がり剣を抜いたら不思議と恐怖は消えていた。
化物は律儀に待ってくれていたのか、俺の約5レーン前に立っている。
決めるなら一撃、一撃で仕留めれなければ勝てないだろう。
剣を構え落ち着く。相手は先ほどの火の槍に驚いているのか次の行動を持っているのだろう。
「くっ・・・」
化物に殴られたせいか頭が痛い。しかし痛いからと言ってそれを言い訳にできるほど戦いと言うのは甘くない。
直後俺は全力で走り出した。走り出すというよりは前方向に飛んだという表現が正しいだろう。
防御を捨て、右足へ全力の魔力集中。そのスピードは先ほどの化物の速度に近いほどだ。
一歩踏み出した時点で残り1レーンも無いほどに近づいたが化けものはすぐに反応してきた。右腕を鞭のようにしならせ俺に向けて横降りで攻撃してきたのである。
しかし俺は攻撃が来ることをよんでいた。あの化物ならばこの移動に反応してくれると信じていた。
直後俺は上に飛ぶ。化物の一撃を避けるかのように飛んだ。
直後に化物の上を通りすぎて化物の後ろまで飛ぶ。完全なる死角。このまま着地して一撃を叩きこんで・・・。
そう思いながら化物を首を動かしてみていると・・・。
「Grrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrr」
化物は叫びながら。攻撃によって左向きとなっていた上半身をそのまま後ろに向けた。
「グギ」
っという嫌な音と共に飛んできた、右腕による下から突き上げる一撃により俺の最後の希望を断とうとしてきたのだ。
「最悪だ・・・」
言葉としては伝わらないような、加速した思考の中でのつぶやきをしながら俺は左手を胸の前にだす。
「風よ!」
直後解放された風。赤子の時に作ったそよ風ではなく今の俺が出せる人を飛ばすことすらできる風。
解放された風はそのまま爆発し、俺の体を化物の方向へ飛ばす。
斬る。強化魔術を解除したせいで反応ができなく目の前にいた化物に対して無我夢中で一撃を入れた。
そして地面に落ちた。衝撃があるが不思議と痛みは無かった。
そのまま立ち上がろうと上を向いた瞬間。目の前には左腕が無くなった化物の姿が。
「・・・!!!」
声にならない恐怖を感じた。どうしようもない力の差を感じた。勝ち目のない事実を感じだ。
強化魔術を解除した状態で死近距離で風魔術を解放し、強引に軌道を変えて地面に衝突。
口の中は血の味がする。なんて思ったら地面に血が流れている。
骨は何か所折れてるかなんてわからない。腰から地面に落ちたせいか下半身はもう動かない。
アドレナリンがドバドバ出てるせいか痛みは無い。むしろ痛みが無いことで現状の詰みに近い状況が理解できてしまった。
「もうだめだ・・・どうしようもない。」
なんて諦めがついたらどれだけ良かっただろうか。俺は昔から諦めが悪いものでな!。
不思議そうな顔をしてこちらをのぞき込む悪魔の顔の前に手をだし、目をつぶり、左手で鼻をつまみ息を止め全身に強化魔術をかける。
「死・・・・・・ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
直後右手から火が飛び出す。もはや業火と言ってもよいほどの炎だ。
カタチすらない純粋な炎の悪あがき。ほんの数秒。ほんの少しだけの悪あがき。
「少しぐらい効いてくれ・・・。」
そんな淡い願いを踏みにじるかのように元気だ。そして火を払い俺の首をつかもうとする。
直後目の前から轟音と共に化物が消えた。そして目の前にはその化物を殴り飛ばしたであろう、化物を超える人間がいた。
身長1レールを超えるほどの巨体に俺の腰並にあるほどに厚い筋肉を纏う腕。
全盛期は拳で龍を殴ったなんて噂があるほど、純粋な力を持つ元冒険者の領主さま。
バルバロス・シャーレイ。俺の父親が化け物を殴り飛ばしていた。
「俺の娘に何をやってんだぁぁぁぁぁ」
大地が震えると錯覚するほどの轟音、味方であるはずの俺ですら震えるほどの圧力。
起き上がった化物が最後に見た光景は拳だったろう。破壊の化身に近し一撃が化け物の頭に吸い込まれていき頭を粉砕する。
そんな頼りがいのある父親はこっちにきた。
「おい!リーシェ!大丈夫か!」
ああそうだった。この世界では心配してくれる親がまだいるんだったな…。
父親が来たことによる安心からか、直後俺は意識を失った。
しかし意識を失う直前まで意識ははっきりしていたはずなのに、俺はこの時のことをあまり覚えていない。
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