第2話 板東先生と加藤

「はじめまして、A組担任の奈良錬太です。生物と、君たち1年生の理科を担当します。よろしく」

まだ若い長身の男性教員が爽やかに笑って挨拶した。

「皆さんこんばんは。B組担任の池川真弥子です。皆さん親元を離れて不安かと思いますが、ここでたくさん思い出を作っていって下さいね。よろしくお願いいたします」

小柄な穏やかそうな女性教員がそう言ってお辞儀すると、隣の日焼けした、これも小柄な中年男性の教員にマイクを渡した。夜だからか生徒には疲れも見える。担任教員たちの挨拶を興味深そうに聞く者もいるが、大半は緊張と、入寮手続きの疲れでぼーっとしている。

「C組担任の板東です。…ちゃんと聞いとけコラ!!」

突然、真ん中あたりで俯きかけていた生徒を指さして大声で怒鳴った。

「今のオリエンテーションでさえも、話を漫然と聞いていたり、建物の中央あたりを眺めて集中に欠ける生徒が多い!あまりにも自覚が足りん。それで6年間やっていけるんか!?勉強しに入ってきたんやないんか!適当な気持ちで来てる奴は考えを改めろ」

初対面の夜から生徒たちを大音声で怒鳴りつけたのが板東先生だった。祐機は何年経ってもこの時の風景を忘れずに覚えている。

「ゲホン、D組担任の綱田です、ゴホン、数学を教えてます、」

細身で白髪の初老の男性がマイクを受け取ると、息も切れ切れに、咳き込みながら続けた。

「ええー、まあ、ゴホッ、6年は長いんでね、楽しく頑張っていってください、よろしく、ゲホン」

最後にやはり白髪で眼鏡をした男が話し始めた。

「はい、皆こんばんは、学年主任の村掛です、教科は日本史です。E組を担任する。俺が学年持つからには面白い期にしていきたい。よろしく」

たしか、この時には入寮生はまだ自分たちのクラスも知らされていない。ただ先生たちとの顔合わせ、という場であったと思う。そんな夜のことを、今も鮮明に思い出せるのは、やはり板東の一喝があったからだ。その後に林谷寮監から生活面の案内と指導があった。

「お前ら、就寝時間はきちんと寝とかないかんで、なんでか分かるか?」

少し間があった後、丸刈りの子が突然立ち上がって

「休息がなければ成長できないからです!!」

とガラガラ声で叫んだ。

「なんやあいつ…」

嘲笑と驚きの声が集会センターの新入生に広がる。


それが、祐機が加藤吉耕を初めて認識した日だった。


(第3話に続く)

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