ハルトアメ
あかね
憂鬱な雨
「今日も雨か」
雨は嫌いだ。なんだか気分は落ち込むし、気圧のせいで体調も悪くなる。
荷物は1つ増えるし、髪型も決まらない。
憂鬱な気持ちがより一層深くなる。ーーそれは晴れてても大して変わらないか。
朝起きて、学校に行って。特別仲が良いわけでもない友達という名のクラスメイトとつるんで。
毎日同じように過ぎていく。人はこれを幸せだというのかもしれない。
一見平和に見える日々。でもそんなものは幻影でしかない。
心の中はボロボロで、毎日必死に縫って、貼って、隠して。頑張って綺麗に、普通に見せてるだけ。
きっとただの平凡で普通な女子高生にしか見えないに違いない。
だって私には何もないもの。才能も、容姿もなにひとつとして秀でているところはない。
死ぬ勇気もない、毎日頑張って息をしている。
この瞬間にも生きたいと願う命が数え切れないほど散っていくのに、毎日を惰性で過ごし、死にたいと思う私は死ねない。
ああ、世界はなんて不平等なんだ。
ガヤガヤと耳障りな声が聴覚を支配する。
毎日毎日よく飽きないなと思う。
聞こえてくるのは流行りのアーティストやアイドル、漫画に下世話な話ばかりだ。
アイドルや漫画の話はともかく、「彼氏が迫ってくる」だとか、「やっぱ巨乳が一番だろ」だとか。
大きな声でするような話ではないだろう。まだ私たちは高校生だぞ。
「みんなおはよー!!」
一際大きな声が足音とともに耳に入ってくる。
”アイツ”がきたと一瞬でわかってしまう。世界でいちばん理解できないヤツ。
「はよー、お前ビショビショじゃん」
「アメじゃん!おはよー。水も滴るいい男的な?」
女子たちは黄色い声を上げ、男子は楽しそうに応える。
藍田雨、出席番号は1番。特に勉強ができるわけでも、運動ができるわけでもないのに男女ともに人気で愛嬌がある。いっつもニコニコしてて何を考えてるかわからない。
”雨”なんて名前のくせに暑苦しい太陽みたいな、そんなヤツ。
「うざい」
小さな声で呟く。私の世界からいなくなってほしい。
そしてあわよくば、名前を交換してくれ。
私は物心ついた頃には陰気な性格をしていたように思う。
外で遊ぶことは嫌いだし、友達という名前に当てはまる人なんて思い当たらない。
休み時間にクラスみんなで鬼ごっこをしているなか、一人教室で過ごすような、そんな子供だった。
それなのに最初、人は皆私のことを勘違いする。
元気で明るい子供だと勘違いするのだ。
外面だけはよかったのも一つ原因かもしれないが、最も大きな理由は名前だろう。
ハル、それが親から初めてもらったプレゼント。
苗字は川野と至って普通。
晴れると書いてハル。名前だって特別おかしなものではない。
ただ私の性格とは正反対だ。
「晴ちゃんって思ってたのと違うね」
「もっと明るい子だと思ってた」
そんなことを数え切れないほど言われてきた。
もしかしたら言われ続けた結果がこれなのかもしれない。
高校になっても彼氏どころか友達すらいない。
せめて友達がいたら少しは違っただろうか。
ーーいや、これ以上この名前に振り回されるのはごめんだ。
きっと一生惰性で生きていくさ。
ハルトアメ あかね @akane_003
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