第67話 JKアイドルさんは映画に興味があるらしい。01
12月30日。
年末の慌ただしさを漂わせる街中を菜子と並んで歩く。
「今日寒いね、こーくん」
「そうだな。今年で一番寒い日かもな」
お互いにコートを着て、白い息を吐きながら映画館へと向かっていた。
あの夜を越えて、今はもう彼氏・彼女の関係なのだが、その関係の変化を感じさせないくらい、相変わらず菜子は、
「こーくん! あれ食べたいー」
「ダメだ。今から映画を観に行くんだから帰りにしろ」
「えー、今食べたいー」
「駄々こねるなら帰るぞ」
「むぅ……」
わがままばっかり言ってる。
現に生肉店のコロッケが食べたいと言って俺の袖を引っ張っている。
俺はいつも通り、ポケットに忍ばせた物を取り出す。
「ほら、飴やるから」
「わーい」
飴を渡すと大人しくなる菜子。
俺たちって本当に付き合ってるんだよな。
前から思ってたけど俺たちの関係って、側から見たら兄妹だよな。
まぁ、それも仕方ない。こいつがこんなんだからな。
「こーくん、着いたよー」
そうこうしているうちに、映画館に到着した。
今日の目的は、前に菜子が出演すると言っていた例の映画を観ること。
俺は高校生二人分の券を買って、一枚を菜子に渡した。
「ありがとっ、こーくん。じゃあ次はポップコーン買いに行こ?」
「あぁ」
菜子が一番楽しみにしていたのはどう考えても映画館フードだろ。
多分ポップコーンどころじゃなくなる。
「えーっと、ポップコーンとドリンクのセット2つ」
俺がそう注目すると、隣から菜子が、
「あとホットドッグとオリジナルサンド、チュリトスとクレープお願いしまーす」
「おい」
どんだけ食うんだよ。
やっぱ最初からそのつもりだったのかこいつ。
トレーを持って俺たちはスクリーンへ入っていくと、まだ映画の宣伝が流れていた。
「こーくんはどれ食べたいー?」
菜子のトレーにあるポップコーンの隣のサイドメニューの山から一つ選ぶよう促される。
「俺はホットドックを……」
菜子は嫌そうな顔をしながらこちらを睨んでくる。
あぁ、ホットドッグ食いたかったのか?
「じゃあ、クレープ」
「むぅ……」
「……じゃあ、オリジナルサン、ド」
「むぅ……」
「お前、最初から俺にあげる気無かっただろ」
「だ、だってぇー」
菜子は甘えた声を出す。
まぁ、可愛いから許す。
「いいよ俺は。ポップコーン有れば十分だから」
俺がそう言った隣で、いつの間にか菜子は食べ始めていた。
まぁ、食べてれば大人しくなるし、必死に食べてる時の菜子はリスみたいで普通に可愛い。
頭を撫でてやると、さらに笑顔になりながら食べるので、最近は食べてる時に菜子の頭を撫でるのにハマっている。
「むふぅー」
満足そうににやける菜子。
ったく、少し甘やかしすぎかもな。
映画の宣伝が終わり、暗転したことで、館内に緊張感が漂う。
やっと、始まるのか。
映画は、原作に忠実な内容で進んでいった。
スクリーンに映る菜子と、隣でホットドッグを無心に食べ続ける菜子がどうしても同一人物には思えない。
ってか、観に行こうって言ったのは菜子の方なのに、食べ物にしか興味なさすぎだろ。
菜子は小声で「こーくんのキャラメルも食べていい?」と聞いてくる。
俺は呆れながらも小さく頷いた。
ヒロインの妹が大食いキャラに思えてきて作品の世界観がぶち壊されるだろ。
そんな感じで映画を観ていたら、ついにあのシーンが流れ出した。
主人公とヒロインの濃厚なラブシーン。
激しいキスを、何度も何度も……。
その時、ギュッと俺の手を菜子が握った。
菜子は俺の耳元まで顔を寄せる。
「したく……なっちゃった」
……まさか。
「も、もしかしてトイレか」
「違うから。すぐトイレだと思うのやめてよっ」
「じゃあなんだよ?」
「き、キスシーン見てたら、キスしたくなっちゃって」
「は?」
「暗いし……ちょっとでいいから」
仕方ない……。
菜子は目を瞑って、唇を尖らせる。
映画で映るキスに合わせて、俺は菜子の唇に自分の唇を重ねた。
「……っ、これで満足か?」
「……うん」
今日のキスは、少しホイップクリームの味がした。
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