第62話 JKアイドルさんは暇人を想う。05


「わぁ! 雪が凄いねー!」

「……そうだな」


 もふもふの耳当てを付け、厚手の白いコート姿の桜咲。

 外はまだ雪が降っていた。

 俺は緊張しながらも、ポケットからアレを取り出す。


「なぁ、桜咲……これ」


 俺はポケットから小さな包みを取り出す。


「あ、もしかしてクリスマスプレゼント?」

「……あ、あぁ」

「開けてもいい?」


 俺は小さく頷く。


「わぁ、これってノンホールピアス?」

「耳に穴あけなくていいし、痛くないからいいかなって」

「……ありがと。大切にする!」

「走り回って落とすなよ」

「子供じゃないんだから大丈夫っ」


 桜咲は、黄色の天然石が揺れるノンホールピアスをすぐに耳につけ、鼻を赤くしながら、雪の中を蝶のように舞う。


 ……やっぱ子供だな。


 そんな桜咲を見つめていると、目頭が熱くなり、止まらない熱い気持ちが俺を突き動かす。

 俺は直ぐに彼女に駆け寄り、強く、彼女を抱きしめた。


「閑原……くん?」


 心から溢れ出るようなその熱い気持ちを、俺はただ言葉にしたかった。


「どしたの? あ! もしかして、甘えたくなっちゃったのかな?」

「……俺は!」


 はちきれそうなその衝動に駆られながら、俺の瞳の中に彼女を閉じ込める。

 それ以外が映らないくらいに彼女を見つめ、心の中からその言葉を手繰り寄せた。




「俺は、お前のことが好きだ。桜咲菜子を、この世界の誰よりも、愛してる」




「……っ」


 必死に選んだ告白は、俺の気持ちがダイレクトに表れたものだった。

 伝えた……やっと、伝えられた。


 桜咲の顔を見つめ続ける。

 瞬き一つしないで、ずっと……。


 すると、桜咲の瞳から大粒の涙が零れ落ちた。


「わたしも…………大好きだよっ」


 桜咲の手が、俺の頬を撫でる。


「……優しい閑原くんが。ちょっと意地悪な閑原くんが。頭のいい閑原くんが。たくさん暇つぶしを知ってる閑原くんが。……あと」




「わたしのこと、好きって言ってくれる閑原くんのことが……大好きだよ」



 

 その瞬間、全てが美しく煌めいた。


 白に包まれたその空間に幸せの光が灯る。

 冷たい雪が肌に触れ、暖かい彼女の手が頬を撫でる。

 これまでの日々が、一気に頭の中を駆け巡る。


 桜咲と出会ったあの日、初めて行ったあのゲーセン。


 山みたいな牛丼を食べたすこ家。


 文化祭の日の放課後。


 毎日の長電話。


 食べ歩きで行った谷中銀座。


 海鮮の豊洲市場。


 そして……美しい花火と、彼女の柔らかい唇。


 今まで行った場所と、その時の思い出が回想されながら、それがまるでつい最近のことだったように錯覚してしまう。


 そして、俺は……。


「桜咲、目を瞑っていてくれないか?」


 そう言われ、桜咲は蕩けた顔でゆっくりと目を閉じた。

 俺は桜咲の頬に手を当てながら、顔を近づける。


「……っ」


 初めての口づけを彼女と交わした。


 冷たくて、柔らかい彼女の唇にそっと自分の唇を重ね、彼女の甘い香りに包まれながら、ずっと、時間を忘れるくらい、キスをしていた。


 息を整えるために、そっと唇を離すと桜咲は、「まだ、やめたらだめっ」と言って、今度は自分から俺の頬をその暖かい手で包み込み、顔を近づけ、再び唇を重ねる。


 そうやって、何度も何度も……桜咲とキスをした。


 二人で望んだ世界が、そこに広がっていた。


「……閑原くん、ずっと一緒だよ。これから、ずっと」

「あぁもちろん。俺も、お前の隣にいて恥ずかしくないような人間になる」

「閑原くんは恥ずかしくなんてないよっ。閑原くん……ううん。"こーくん"は、わたしの自慢の彼氏なんだから」


 二人で笑い合いながら、寒さも忘れてまたキスをした。

 雪が降り頻る桜咲家の広い庭で、俺たちは愛に満ちていた。


「こーくん、好き。だーい好き」

「俺も……好きだよ。菜子」


 その後も、俺と菜子はずっと繋がっていた。


 こうして、俺と桜咲は恋人になった。


 ✳︎✳︎


 次回予告


「おい蜜、もっとそっち寄れよ。見えないだろ」

「一成さんこそ、身体が大きいのですからわたしにも見えるように遠慮を……って! い、一成さん! してます! 菜子たちが、き、ききキスを!」

「あぁ。……やっと、閑原くんと菜子が結ばれたってことか」

「なんか、私たちの出逢いを思い出しますね、一成さん」

「……そうだな」


 次回「とりあえず箸休めにスピンオフを。」

(スピンオフを数話ほど挟み、その後で二人のこれからを書いていきます。)


—————————

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書籍版はキャラの設定(主に七海沢)や話の内容が大幅に加筆・変更されていますので、お楽しみに!!

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