第60話 JKアイドルさんは暇人を想う。03
「はーい、テスト結果表返すぞ」
2学期のテストが終わり、すっかり11月も終わりに近づいていた。
テスト期間中はやはりというか、桜咲の勉強に付きっきりで自分の勉強にはあまり集中できなかった。
桜咲は仕事の忙しさで全く勉強をしていなかったようだ。
……まぁ、俺の順位は前回の11位から8位まで上がっていたし、いいとするか。
テスト結果表を先生から受け取りそれを確認している桜咲に目をやると、桜咲はそれに気づき、こちらに向けて小さくピースをして見せた。
あの反応を見ると尚更、あの時間があいつのためになって良かったと思える。
俺は自分のテスト結果表に目を戻した。
次はトップ3に入れるように、もう少し精進しないとな。
「閑原、次の時間ちょっといいか」
テストの結果表と睨めっこをしていた俺の肩を、鈴木が後ろから突いてそう言った。
「お、おう」
聞かなくても詩乃の話だとは分かっていた。
次の授業は自習だったので、俺は鈴木の話に耳を傾ける。
「俺、今度七海沢に告白しようと思うんだ」
「……そうか」
「……止めないのか?」
「何度も言うが、俺とあいつは」
「分かった分かった。……冬休みに入る前にケリをつけたい。クリスマスも、あるしな」
クリスマス……。
「……」
「どした?」
「怖く……ないのか、鈴木は?」
「怖い? それは、ダメだったらってことか?」
「あぁ。告白して、もし、断られた時、どうやって立ち直ればいいのか……」
鈴木の覚悟を前に、間違いなく俺の心は弱気になっていた。
「……お前も、誰か相手がいるのか? 告白する……相手が」
「……あぁ」
「ならさ、お互い頑張ろうぜ。気持ちってやつは自分から伝えないと、一生伝わらないんだからさ」
クラスの騒がしさの中で、俺と鈴木だけが落ち着いた面持ちで会話していた。
「閑原は……上手くいきそうだな」
「……ったく、何を根拠に言ってんだ」
「お前は何に関しても上手くやるからな、勉強も、なんでも。俺みたいに、バカじゃない」
「お前は人気者なんだから……もっと胸張れよ」
「俺は……」
「おーい、ちゃんとやってるか?」
その時、隣のクラスで授業をしていた先生が見回りに来て、クラス中が一瞬で静まった。
それから、鈴木と会話する事はなかった。
✳︎✳︎
桜咲を駅まで送って、俺はその後街中をぶらぶらと歩いた。
桜咲はテスト終わりで機嫌が良くて、その笑顔は、ある意味俺の気持ちを逸らせた。
大きく『クリスマスプレゼントはこちら』と書かれた広告。
……プレゼント、選ばないとな。
寒空の下の街中で、そっと足を止めながら、ショーウィンドウを見つめていた。
日が近づくにつれて、感情の起伏が激しくなる。
やっぱり、やめよう。
いや、言わないとダメだ。
その繰り返し。
12月に入ると、雪に降る日も増えていった。
そんな時でも桜咲は、仕事で忙しそうにしている事が電話越しにも伝わってきた。
気持ちを伝えるか否か。
俺は、結局怖いのかもしれない。
桜咲が俺と望んでいるものと、俺が望むものが、もしも違ったときに生まれる歪みが。
ひたすら自分に、成功する、成功するって言い聞かせてた。
そしてついに俺は、その日を迎えようとしていた。
ーー12月24日。
『閑原くん! 雪だよー! 明日も雪ならホワイトクリスマスだねー』
「そうなるな」
『明日、楽しみだなー』
桜咲はクリスマスを心待ちにしていたのだろう。
声から、感情の高揚が伝わってきた。
「……ライブ、頑張ってな」
『うん! 終わったら閑原くんに会えるし……わたし頑張る! だから、待っててね閑原くん』
「あぁ。待ってる」
明日はついに……クリスマスか。
俺はクリスマス料理の練習に取りかかった。
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