第41話 JKアイドルさんは学校でも話したい。01


 新学期、夏の暑さがまだ残っているようにも思えるが、以前よりは涼しい風が吹くようになっていた。


 高校入学から5カ月が経ったのだが、その5カ月は俺の人生の中で最も濃密な時間だったような気もする。


 桜咲との出会い、その時から今に至るまで色んなことをしてきた。


 最初はボロいゲーセンに行った。

 その次は牛丼屋だったな。

 この時に桜咲が大食いだということを知った。


 その後からは文化祭に公園、さらには休日に行った動物園などなど、たった5ヶ月の出来事なのに1年分くらい思い出がある。


 どこかに足を運ぶということは、必ず記憶に残る経験をすることだと、身をもって感じている。

 それも、誰かと一緒に行くと尚更そうだ。


 想いに耽っていると、既にいつもの駅まで来ていた。

 俺が電車から降りると、反対側に立つ一人の少女がこちらを見つめていた。


 桜咲……。


 もちろんいつも通り、声はかけない。

 しかし、彼女の方は前髪を分けるために付けた髪留めを触りながらこちらに目配せしてくる。

 桜の髪留め、彼女の誕生日に俺があげたものだ。

 本当に気に入ってくれてるみたいで良かった。


 ✳︎✳︎


「おっはよー」


 学校に着くと日焼けした七海沢がすぐ隣に並んで話しかけてきた。


「航、元気にしてたー?」

「あぁ。お前の方こそ、練習ハードだったんだろ?」

「まーねー。あ、合宿で山形行った時のお土産あげる」


 七海沢はずんだ餅のストラップを鞄から取り出した。


「なんだこれ?」

「ずんだ餅、めっちゃリアルでしょー?」

「ずんだ餅ってことはわかるが……」

「いいから触ってみなよっ」


 手渡されたずんだ餅のストラップを触ると結構触り心地が良かった。


「これスクイーズか?」

「せいかーい」


 まぁ……悪くないな。


「それと、これ」


 お次はずんだ味のチョコ菓子。


「またずんだか」

「ずんだ美味しかったよ? 教室行ったら食べようっ」

「はいはい」


 七海沢は相変わらず元気そうでなによりだ。


「あ、それはそうと航は夏休み何してたのー?」

「……なんもしてない」

「うっそだー」

「嘘じゃない。ずっと引き篭もってたから」

「……じゃあ、その日焼けは?」


 やべ、俺も日焼けしてたのか。

 袖で隠れたところと常に見えてる腕の肌色が違うことに今気がついた。


「コンビニとか、スーパー行った時のだ。多分」

「ふーん」


 七海沢はまだ疑いの目を向けてくる。


 やはり、七海沢には嘘はつけないようだ。

 もしかしたら、桜咲のこともバレてるのではないかと内心ヒヤヒヤしている。


 1限目の全校朝礼で、2学期の始まりを校長が宣言した。

 まぁ、長話に耳を傾ける生徒はあまりいなかったが。


 再び教室に戻り、すぐに2限目が始まった。

 久々の授業に多少の倦怠感を覚えながらも俺はシャーペンを走らせていた。


 ……が。


 なんか桜咲のやつ、やけにこっち見てくるな。

 俺は窓際の一番後ろの席で、桜咲は反対の一番前の席だが、俺が黒板を見るたびに、こちらを見つめる桜咲が目に入る。

 今日は今までにないくらい見てくるな。


 俺は授業に集中するよう目で訴えるが、目が合う度に桜咲は満面の笑みを返してくる。

 学校では会話しないって約束しているが、これじゃ意味ないだろ。


 桜咲は昼までの授業は全部こっちを見つめてきた。


 そしてやっと昼休みになり、俺はすぐにスマホを開き、メールで桜咲を屋上に呼び出した。


 ✳︎✳︎

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