第42話 JKアイドルさんは学校でも話したい。02
屋上に呼び出しとは言っても対面での会話はしない。
俺は屋上の隅に座り、スマホの着信に応えた。
『閑原くーんっ』
「……あのさ桜咲一つ言っておきたいことが」
『ねぇ、そっち行ってもいい?』
「ダメだ」
『ちょっとくらいいいじゃん会話しても!』
「ダメったらダメ」
『むぅ……!』
お互い屋上にいながらも、正反対の場所に座り電話で会話をしていた。
昼休みの屋上は混んでいるという程ではないが、だいたいカップルが使う場所とされていることから、普通独り者や友達同士では来ない。
そんなお一人様ではタブーな場所に俺はわざわざ足を運ぶという地獄を今味わっている。(まぁ、それは桜咲も同じであろう)
『聞いて聞いてー。今日のおかずはね、だし巻き卵とー』
「お前さ、授業中にこっち見過ぎだぞ」
『たこさんウインナー! あとあとー』
「おい、話を聞け」
『あ、お母さんが味噌ボールも付けてくれたからお味噌汁も』
「お前の弁当事情はどうでもいい。とにかく授業中は」
『んー! 美味しー』
ダメだ、全く聞く耳を持たないというか、都合の悪い話はシャットアウトしてやがる。
なら仕方ない……。
「……お前が話を聞かないなら、今日は放課後いつもの場所に行かないが」
『…………やだ』
「なら大人しく聞きなさい」
『むぅー!』
よし、やっと聞く気になったみたいだな。
「授業中、なんでこっち見てたんだよ?」
『……黒板の内容より閑原くんの方が気になったというか』
「はぁ? いいか、そんなにこっち見てると周りから色々と誤解されるだろ」
『……だって』
電話越しでもわかるくらい桜咲はいじけていた。
『閑原くん、いつも七海沢さんといちゃついてるし』
「いちゃついてない」
『クラスのみんなは、閑原くんと七海沢さんは付き合ってるって認識だし』
「付き合ってない……って、クラスではそう思われてんのか⁈」
全然気づかなかった。
『閑原くんも閑原くんだよ。七海沢さんとばかり喋ってさ』
「……いや、それは」
『わたしとは喋ってくれないくせに、七海沢さんとはそうやっていっつもベタベタしてさっ』
「もしかして、嫉妬してんのか?」
『してないし! 閑原くんのばかっ!』
電話を急に切られる。
反対側を見ると、桜咲は無心で弁当を食べていた。
久しぶりに怒ってるなあいつ。
俺は屋上を出て、教室へと戻った。
午後の授業が終わり、放課後。
今日は昼にあんなことがあったので怒って来ないんじゃないかとも考えたが、一応いつもの場所に足を運ぶと、桜咲は普通に腕を組みながら待っていた。
「待たせてごめん」
「ばかっ」
おそらく昼のことも含めて機嫌が悪いままだった。
それなのにいつも通りここには来るんだな。
「今日はどうする? どっか寄りたいところがあれば」
「ばかっ」
「……お前がこの前言ってた場所でも」
「ばかっ」
そう言いつつも桜咲は俺の手に自分の手を重ね、指を絡ませた。
「ばかばか言うくせにちゃっかり手は握ってくるし」
「……ばか」
「昼のことまだ怒ってんのか?」
「…………ばか」
やっぱそのことで怒ってるのか。
「閑原くんは、女心がわかってないもん」
「……まぁ、わからんけど」
繋いだ手の握りが急に強くなった。
「痛い痛い」
「ふんっ」
大層ご立腹な桜咲。
まぁ、いつものことだし大丈夫だ。
とりあえずアレを、
「なぁ機嫌直してくれよ。お前が好きなヴェル●ースの飴あげるからさ」
俺が飴を出すと桜咲はすぐに奪い取ってビニールを引っ張り口にした。
「ふんっ」
マジか、飴あげても機嫌が直らないとは。
いつもならこれで機嫌直すのに。
「わたしは学校でも閑原くんと話したいだけ」
「でもそれは……」
「ダメってわかってる。わたしにとっても、閑原くんにとってもそれはダメだってわかってるけど……でも」
……そんなこと言われてもな。
「二人でいたら良からぬ噂される。だから」
「そっか……じゃあ3人なら⁈」
「さ、3人?」
「わたしと閑原くん、あともう一人別の人がいればわたしと閑原くんがそう言った関係じゃないって思われるでしょ?」
「……いや、まぁ、ギリギリなラインではあるが」
3人か。
確かにもう一人いたら、何かしらのグループだと思われてダイレクトに桜咲と俺がいるよりは関係を疑われないかもな。
「じゃあ、例えば七海沢と話せるか? お前」
「……無理」
だろうな。
桜咲がクラスの女子と話してるとこあんまり見たことないしな。
かと言って、俺が必要最低限話せる男友達を誘うのは男2、女1のグループになるって事で、桜咲が男を連れ回すビッチみたいに思われてしまうから意味ない。
「よし、わたし友達作る!」
「は?」
「わたしが友達作って閑原くんに紹介する!」
なんか利用しようとしてる感が凄いけど……まぁ何はともあれこいつが女友達を作る気になるのは良いかもな。
この先、ぼっちのままは大変そうだし。
「わたし頑張るから!」
やる気があっていいかもしれないが2学期から友達作るのはやっぱ難しいかもな。
そう、思っていたーーー
桜咲がそう宣言してから1週間が経った昼休み、俺は衝撃で震えた。
昼休みの屋上、周りの生徒たちが俺たちを見ながら何やら耳打ちをしている。
「あの……私、
「恋川さんもアイドルだから、意気投合しちゃって」
同業者を連れてきやがった……。
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