第35話 JKアイドルさんは花火大会に興味があるらしい。02
何年ぶりだろうか。
夏の風物詩である花火大会。
実に5年ぶりに花火大会に来ていた。
5年前は、確か……七海沢と二人でこの花火大会に来たんだっけ。
「閑原くんっ」
後ろから桜咲の声が聞こえる。
花火大会の会場に一番近い駅で待ち合わせだったが、いつもは俺より早く来る桜咲が珍しく待ち合わせ時間より遅れてきた。
「着付けに時間かかっちゃって」
あぁ、それで遅れたのか。
純白の浴衣の上を紺藍の撫子が彩り、いつもの桜咲とは全く別の落ち着いた雰囲気を醸し出している。
「浴衣……どうかな?」
「え、あ……思ってたより、大人っぽいというか」
「えへへ、そうでしょー?」
だが、その無邪気な笑顔を見ると子供っぽい桜咲の印象に引き戻される。
今日の桜咲は伊達眼鏡はしているものの、髪型などはいつもの桜咲だった。
「今日は薄暗いし、そんな徹底しなくてもいいかなって」
「だけど、油断するなよ。ただでさえ人は多いんだから」
でもまぁ、俺にとっては好都合だった。
俺は懐に忍ばせた"アレ"のことを考えていた。
しばらく会場まで人混みについていくようにして歩いた。
「あの、閑原くん……」
「どした?」
「離れ離れにならないように……ほら、いつもの」
桜咲は俺の手を取って、指を絡める。
手を繋ぐことが、もう"いつもの"と言える行為になっているのか。
「お母さんがね、この浴衣選んで着せてくれたの」
「へぇ、お母さんが。……あぁ、だから大人っぽかったのか」
桜咲に睨まれる。
「あ、桜咲が選んでもきっとこんな感じだったんだろうなぁ」
「ふんっ、どうせわたしが選んだら可愛い金魚の浴衣ですよ」
金魚の浴衣勢の方々に謝れ。
「まぁ、桜咲ならそれでも可愛いと思うけどな」
「へ? じゃ、じゃあ来年はそうしようかな……」
金魚の浴衣の桜咲……。
いよいよ俺のロ●コン度が極まるかもしれない。
「そういや、親御さんとは仲良いのか?」
「色々と厳しいけど、最近は何かと気にかけてくれてるみたい。この前閑原くんのこと話したら……大切にしなさいって」
「へぇ……」
「それと、お父さんが近いうちに閑原くんに会いたいって」
「へぇ……。ん?」
……なんかおかしくないか。
「会って、これからのこととか、色々とお話したいって」
おい、ちょっと待て
「それって」
……ヒューッ。
あの、聞きなれた音が響き、時間差で空に花火が咲き誇る。
弾ける音が会場をどよめかせ、人々を高揚感へと誘う。
眼前に広がる花々の下で、俺と桜咲は自然と足を止めそれに見入っていた。
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