第14話 JKアイドルさんは見て欲しいらしい。03

 

 夜、電話がかかってきた。

 ライブ終わりで今日は電話が来ないと勝手に思っていたが。

 スマホの着信画面には桜咲菜子の名前が映し出されている。

 俺はすぐにスマホを手に取った。


『閑原くん!』

「……桜咲、お疲れ様」

『うん! 大成功だったよ!』


「そっか、良かったな」としか言葉が出てこない。


『見ててくれたんだよね?』

「あぁ、見てたよ、最後の曲まで」

『じゃあ、どうだった? 閑原くんの感想聞かせてっ』


 ……感想、か。


「やっぱ桜咲は凄い……って思った。アイドルとして、ファンと一体になってライブを作り上げていたし……。それは、そう簡単にできることじゃない」

『…………』

「あのさ、桜咲。俺、思ったんだけど、やっぱり俺はお前に悪影響を及ぼしているんじゃないかって。俺みたいなダメ人間といたらお前のアイドルとしての才能が錆び付いていくんじゃ」

『閑原くんは、アイドルのわたしに興味ないって前言ったよね?』


 間髪入れず、桜咲はそう言い放つ。


「……あ、あぁ」

『だからわたしは、閑原くんにアイドルのわたしを見て欲しいなんて言ってないよ』

「……え?」

『アイドルのわたしなんてどうでもいい。だって、閑原くんを誘ったのは、いつものわたしでしょ?』

「……だが」

『わたしはね、いつものわたしを知ってる閑原くんに、アイドルとしてじゃなくて、いつもの桜咲菜子として頑張ってるところを見てもらって、ただ単純に褒めて欲しかった……。それに、わたしが君に伝えたかったのはダンスの巧さでも歌の上手さでもない。"気持ち"だよ。隣でわたしを支えてくれてる君への感謝の気持ちっ』

「桜咲……」

『ファンのみんなはアイドル桜咲菜子を見に来てたけど、閑原くんは違うでしょ?』


 そうか、俺は目的を見失っていた。

 俺が見たいと思ったのは、アイドル桜咲菜子じゃない。

 いつも隣で俺を振り回す桜咲菜子の晴れ舞台を見たいと思ったんだ。


『ねっ、だから褒めてよっ。今日くらいわたしを甘やかしてよ、閑原くん?』

「……い、いつも甘やかしてやってんだろ」

『はぁ⁈ わたしのことすぐに馬鹿にするくせにー!』


 なんか勝手に色々考えすぎたのかもしれない。


「桜咲、誰よりも輝いてたぞ。それに、その……可愛かった」


『っ………』

「桜咲?」

『ひ……ひまばらぐんっ』

「おいおい、また泣いてんのか」

『だっでぇぇ。急にデレるしぃ!』

「はぁ⁈ デレてねぇよ! 俺は率直な感想をだな……はぁ」


 まぁ、今日くらいはいいか。


「なぁ、これからも"いつものお前"として桜咲菜子を見てていいか」

『うん、見てて。"いつものわたし"はこれからも君の期待に応え続けるから』


 ✳︎✳︎


(次回予告風)


『ねぇ、それはそうと動物園行ったら閑原くんは何から見たい?』

「俺は正直どうでもいいから桜咲に合わせる」

『え、いいの? じゃあパンダー!』

「やっぱ子供だな、お前って」


 次回『JKアイドルさんは動物園に興味があるらしい。』

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