第10話 JKアイドルさんは散歩に興味があるらしい。02

 

 バレー部の試合を体育館の2階から観戦する。

 試合はうちの高校のワンサイドゲームで進み、結果は圧勝。


 俺は七海沢のピースサインに手を振って応えた。

 さてと、試合は観たことだしもう帰るか。


 もう今日は試合が無いらしいので、俺は体育館を出て校門に向かおうとしていた。

 すると騒々しい足音が近づいてくる。


「閑原くんっ」


 突然真後ろから俺を呼ぶ声がした。

 誰かと思えば桜咲だった。

 まぁよく考えれば、気軽に声かけてくるのは七海沢か桜咲くらいか。


 赤縁メガネにいつもの制服姿の桜咲。


「なんで土曜なのに学校にいるんだ? あ、もしかして平日と間違えて登校してきたとかか?」

「そんなミスしないから! またすぐそうやってわたしのこと馬鹿にしてー!」


 桜咲は頬をぷっくり膨らませて、怒っていた。

 桜咲は表情が豊かで面白い。


「じゃあ、なんで学校来てるんだ?」

「今日は補講だったの。わたし欠席多いから」


 あぁ、なるほどそういうことか。

 それを聞いて、俺は納得した。


「閑原くんこそ、なんで学校に?」

「俺は七海沢の応援に来てたんだ。今日体育館で女子バレー部の大会やってたから」

「へぇ、七海沢さんの……」

「? あ、そういえば桜咲は今日オフなのか?」

「うん、今日は1日オフだよっ。今週は放課後に準備する日もあったからって休み貰えたの」

「それなのに補講ってのも残念だったな」

「まぁ仕方ないよ。学生なんだから勉強も頑張らないとっ」


 桜咲のこういう何事にも真面目に取り組む姿勢は素直に凄いと思う。

 俺みたいな脱力モンスターには逆立ちしても真似できないだろうな。


「閑原くん、この後って暇かな?」

「……あぁ。暇だが」

「じゃあさ、どっか遊びに行こ?」

「えぇ……」

「暇なんでしょ? すぐに面倒くさがらないっ!」


 桜咲は俺の制服の袖を引っ張って前を歩いた。

 桜咲の強引さは、日に日に磨きがかかってる。実に厄介だ。


「ねぇ! 今日はどこ行く?」


 俺の数倍元気な桜咲。


「……桜咲は行きたいところ無いのか?」

「わたし? えっとねぇ……遊園地っ!」

「今から行けるわけないだろ」

「えぇ……!」

「その伊達眼鏡のみの変装で行ってバレたらどうするんだ? それにもし俺まで炎上したら責任取ってくれるのかよ?」

「え、あ、うん。その時は……末長くよろしくね閑原くん」

「責任の取り方が火に油すぎる」


 そろそろ遺書を残すことも考える必要がありそうだ。


「そっか、人混みはダメだもんね……じゃあ……どうしよう?」


 人が少なくて、少しはレジャー感ある場所。

 思い当たる場所が一つあった。


「……よし。なあ桜咲、少し歩くけどいいか?」

「え、どっか連れてってくれるの⁈」

「あぁ。でもあんまり期待しないでくれ」


 ✳︎✳︎


「あ、ここって動物園の隣にある」

「そう、不忍池だ」


 上野公園にある不忍池、お馴染みのスワンボートや、蓮、周りには動物園など、池を中心とした見所の多いスポットが混在している。


「連日の仕事で疲れてるだろ? 今日くらいゆっくり散歩でもどうかなって」

「うん! わたしもそれがいい! あ、でもその前にわたしお腹空いちゃって、えへへ」

「お前昼メシまだだったのか? なら……」


 俺は鞄から二人分の弁当を取り出す。


「学校で食べようと思って弁当作ってきたんだが、食べるか?」

「へ? 閑原くん料理できるの?」

「まぁ一応。とりあえず、あそこのベンチに座るか」


 木陰のベンチに二人で座り、池を眺めながら昼食を取ることにした。


「ねぇ、閑原くんってさ。何気にスペック高いところ見せつけてくるよね。面倒くさがりなのに。このお弁当だって、わたしのお母さんが作るおかずより美味しいものばっかりだし……」

「面倒くさがりは余分だ。料理は叔母が教えてくれた」

「叔母様に?」

「あぁ。俺、3歳からずっと叔母と二人暮らししてて、家事手伝ってるうちに自然とな」

「へぇー、じゃあ叔母様の腕が良いんだね、きっと」

「俺の実力だとは認めたくないのな」


 まぁ、喜んでるならいいか。

 他人の作った弁当って美味しい美味しくないに関わらず口に合わないことはあるからそれが心配だった。


「こんなに上手なら毎日作ってくればいいのに」

「いや、面倒だから」

「ほらやっぱ面倒くさがりじゃん」

「あーはいはいそうですよー」


 俺は開き直った。

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