第11話 JKアイドルさんは散歩に興味があるらしい。03

 

 昼食を終えて、池の周りを散歩した。

 ありふれた自然の下で、たわいの無い会話を交わしながら歩く。


 ここは休日の真昼間でもあまり人がいない。

 いるとすればランナーや、桜咲のことなんて知らないご老人ばかりだ。


「なんか、少し暑くなってきたね」


 突然、桜咲はサイドテールを結ぶ水色の髪留めを外し、髪を流した。

 広がった髪から甘くフルーティな香りがする。


「ねぇ、閑原くんは縛ってるのと流してるの、どっちのわたしが好き?」

「…………」


 目を奪われていた。

 ストレートの艶やかな髪が陽光と重なって神々しく輝く。


「ねぇ? 聞いてる?」

「あ、えっと、なんだっけ?」

「もー! いつもの髪型とこの髪型とっちがいいって聞いてるの!」

「あぁ、俺はどっちでも」

「どっちでもは無し! ほら、閑原くんが好きな方答えて!」


 好きな方と言われてもな……。

 いつもの髪型は子供っぽくて桜咲らしいが、こっちの髪型は……。


「し、強いて言えば……俺はその髪型の方が、いいと思う」

「ふーん」

「な、なんだよ」

「別にー?」


 あぁ、調子狂うな。


「あのね、閑原くん。一つお願いがあるんだけど……」

「なんだ?」

「今度の公演が終わって、少し落ち着いたらその、動物園……行きたいかな、なんて」


 桜咲は上目遣いでおねだりする子供のようにこちらの様子を伺っている。

 はぁ……。


「分かった。動物園だな」

「え、いいの?」

「だって、行きたいんだろ?」

「……うんっ」


 満遍の笑みで桜咲は頷いた。


「あ、閑原くん写真撮ってもいい?」

「写真? ちょ、こっちにカメラ向けるな」

「はい撮るよー。……あははっ、閑原くんだらしない顔してるー」

「おい、消せっ」

「やーだっ」

「ったく、お前なぁ……」


 ほんと、桜咲には振り回されっぱなしだ。


✳︎✳︎


 その後もパワースポットの不忍池弁天堂に行ったり、フリーマーケットに寄ったり、野良猫と戯れたりして時間を過ごした。

 どこに行っても桜咲の笑顔が絶えることはなかった。


「閑原くん、色々とありがとね」

「あーはいはい。それで、少しは気分転換になったか?」

「うん! 1週間の疲れが吹き飛んじゃった」

「そうか。なら良かった」

「ねぇ、閑原くん」

「ん?」

「帰ったら……電話してもい?」

「……別にいいが、長電話はしないからな」

「うん! じゃあ、また後でね閑原くんっ」


 上野駅前で俺と桜咲は別れた。


 帰ってからまた電話って、桜咲はまだ話し足りなかったのか?

 用があるなら別れる前に話してくれれば良かったのに。

 謎は深まるばかりだった。

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