第4話 JKアイドルさんはゲームセンターに興味があるらしい。04


 帰宅してすぐに俺はベッドに横たわった。


「桜咲菜子……」


 スマホでその名前を検索すると様々な情報と写真が出てきた。


 桜咲菜子、誕生日は8月15日、血液型はB。

 人気アイドルグループ『ラズベリー・ホイップ』のセンター。


 3サイズは…………ん?


「こりゃ、詐称してるに違いない」


 ネットの海にこれほどまで個人情報が流出しているとは、恐ろしい時代だ。

 さっきまで隣にいた女子の情報を調べて一喜一憂している自分に嫌悪感が込み上げてきたので、俺はそこでページを閉じた。


 そういえば帰りにメアド交換したんだった。

 思い立ってメールを開くと既に2通のメールが来ていた。

 1件は桜咲から、もう1件は七海沢からだった。

 まずは七海沢のメールから開く。

 内容は背番号の写真と、喜びの文章だった。


「とりあえずおめでとうって返信しておくか」


 あと、自主勉強を怠るなよっと。


 そして次に桜咲のメールを開く。

 先ほどの七海沢とは打って変わって、女の子らしい文体で綴られたメールが送られてきた。

 最初こそ感謝の意を示したものだったが、段々と内容が変わっていき、「来週もオフがあったらどこか連れてけ」とか、「次は何か食べたい」とか、色々と要求ばっかしてくる。


 可愛い顔してやっぱ面倒くさい女だ。

 あいつと一緒にいて、もし炎上する羽目になったらどうしようか、と俺は内心震えている。


『人気アイドル桜咲菜子、熱愛発覚!』

『お相手は同級生男子!』


 ……と銘打った記事の山。

 さらにネット上では個人情報特定されて、ファンからの嫌がらせなどの迷惑行為……。

 考えるだけで冷や汗が止まらない。


 さらに、なんとなく桜咲のトュイッターを見て俺は仰天した。


『今日の帰りにお友達に取って貰っちゃった(*^ω^*)』という文章とぬいぐるみの画像が一緒にアップされていた。

 俺は先程の返信をスルーしていたメールを開き、返信を書き始める。


『おい、なんでトュイッターにあれ上げてんだ!』


 すると秒でメールが返ってきた。


『あれ? もしかしてわたしのトュイッター見てくれたの? 嬉しい(*^ω^*)』


 違う、そうじゃない。

 こりゃ明日、しっかり言い聞かせておかないとな。


 ✳︎✳︎


 翌日、昨日の件について桜咲に文句を言ってやろうと思ったが、桜咲の姿は無かった。


 忘れてたけど、桜咲は毎日学校に来るわけではない。

 桜咲は週に1、2回くらい芸能活動の都合で学校を休んでいる。

 今日も活動があるのだろう、朝のHRで先生から今日は桜咲が欠席だと告げられた。


 そして、彼女が昨日話していた『リアルを削っている』ということの意味が段々と分かってきた。

 HR終了後の女子生徒たちの、桜咲に対する陰口や、噂。

 今までは気にも留めてなかったが、昨日桜咲と時間を共にしたから、それが気になって仕方なかった。

 人は周りに合わせられないと、こうも言われてしまうものなのかと思い知らされる。


 俺は今まで彼女がアイドルとして活躍しているという、ネットで見れば分かるような『光』の面でしか見ていなかった。

 でも、彼女も一女子高生であり、まだ心も体も成熟していない。


 だからあの帰りに全てを打ち明けてくれたのも俺に助けを求めていたのではなかろうか。


 ……いやいや、それは勝手な想像だ。


 俺はスマホを取り出し、メールを開いて桜咲宛に1通のメールを送った。


 ✳︎✳︎


「じゃあ、桜咲さん。少し休憩したら次の撮影行くから」

「は、はい」


 作り笑顔はもう疲れた。

 今日も今日とてお仕事。

 そして明日もお仕事、土日に入ればさらに仕事が増えるし……もう、心も体も疲弊しきっている。


 昨日は、あんなに楽しかったのに……。

 閑原くん、昨日のトュイッターの件でだいぶ怒ってたし……もう、遊んでくれないのかな。


 さらに心は沈んでいく。


 閑原航、なんとなく名前をネットで検索してみたけど、おそらく本人で引っかかったのは小学生の書道コンクールの結果だけだった。(ちなみに閑原くんは奨励賞だった)


 わたしにとって閑原くんはとても興味深い。

 いつもは淡白な性格で、クラスでは必要最低限友達を作らず、会話するのも七海沢さんとだけ。

 勉強は結構できる方なのに全く驕らない。


 閑原くん……。


 突然、スマホが光った。

 メールの通知だったことに気がついて、すぐにメールを確認する。

 すると、


『分かった。次はどこか食べに』


 閑原くん……!


 自然と笑みが溢れていた。

 作り物ではない、笑顔が。


 ありがとう閑原くん。これで土日も乗り切れそうだよ。


「桜咲さん、そろそろ撮影再開しまーす」

「はーい」


 わたしは『ありがとう』と返信してまた撮影に戻るのだった。



———————

5月25日に発売するこの作品の【書籍情報】が発表されました!

イラスト担当の千種みのり先生が描く桜咲菜子が可愛すぎるので、こちらの近況ノートから一度ご確認ください!

https://kakuyomu.jp/users/seiyahoshino/news/16817330656646738227


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