第5話 JKアイドルさんは牛丼屋に興味があるらしい。05
週末は牛丼を食いたくなる。
男子高校生なら誰しもがそうであるように。
金曜日の放課後、俺はいつも通り駅前の牛丼屋へと向かう。
はずだった。
「そこの君っ ちょっといいかな?」
突然俺の目の前に現れた見覚えのある姿。
小柄ながらも、溢れ出るオーラ。
そして、青いバンダナで縛ったサイドテールと、赤縁メガネ。
全身ジャージ姿という点を除けばなんとなく誰なのかわかった。
「……桜咲、なのか?」
「え、やっぱり分かっちゃう?」
やはり、桜咲菜子だった。
しかし、突然のジャージ姿で最初は分からなかった。
「今日、学校来てなかったが、仕事だったのか?」
「うん。今ね、次の公演の準備とかで忙しくて」
「へぇ、大変だな」
「それで、その……来週まで、我慢できな、じゃなくて! 今日はたまたま仕事が早く終わって、暇つぶしに駅まで行こうかなって思ったから全身変装してきたんだけど、そしたらたまたま君を見かけたって言うか」
全身変装の努力が、そのジャージ姿ってわけか。
「ほんとにそれ変装なのか? 実はそれが私服だったり」
「はぁ⁈ そんなわけないじゃん!」
「いや、意外と干物系アイドルでした、みたいな」
「もぉ! そんなこと言うならわたし帰っちゃうよ!」
「あ、そうなのか。じゃあまた来週な」
「ちょ、引き留めてよ!」
俺は桜咲を置いて先を急ごうとしたが、彼女に無理矢理止められる。
「ほんと有り得ない。女子がわざわざ会いに来てあげたのにその態度って」
「はぁ? 会いに来たのか? 暇つぶしではなく?」
「……っち、違う! 暇つぶしで来たの! そ、それで? 今日はどこ行くつもりだったの?」
「えーっと、そうだな」
流石に女子を牛丼屋に連れて行くわけにもいかないよな。
かと言って行ったこともない洒落たカフェとか入るわけにも。
「…………」
「ねぇ、まさか遠慮とかしてる?」
「え、遠慮って?」
「わたしがいるから連れて行けないとか思ってるでしょ?」
「……まぁ、思ったけど」
桜咲は俺の手を取ると、横に並んで歩き出す。
「君が気配りなんて性に合わないよ。もっと自分勝手にわたしを振り回すくらいじゃないと」
「えぇ。でもな」
「だーかーらっ、どこ行くつもりだったの?」
「……ここだ」
ちょうど着いたところだった。
牛丼屋『すこ家』、駅の南口と北口とで両方あるものの、北口の方は混むので俺はいつも南口のすこ家を利用している。
「……こ、ここで、な、何するつもりなの?」
「何って、すぐ食べて帰るつもりだったんだけど」
「食べる⁈ あ、あわわわ。もしかしなくてもわたしを?」
「はぁ? 何を言って」
俺は彼女の目線を確認する。
彼女は牛丼屋の隣にあるちょっとアレな休憩所を見つめ、赤面していた。
「はぁ……俺が言ってるのはこっちだ」
俺は桜咲の頭を掴んで捻り、牛丼屋に目を向けさせる。
「……は、え」
「今日はここに行きたかったんだ。普通わかるだろ。変な妄想しやがって、これだから思春期の女子高生は」
「……今のは忘れて」
「は?」
「今のは忘れて」
もの凄い圧をかけられた。
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