第28話  【過去の償い】

 世界最強の兵器はここに!?28



 著者:pirafu doria

 作画:pirafu doria



 第28話

 【過去の償い】





 魔法の大国がそこには存在した。

 ティダードと呼ばれる王族が国を支え、大陸でも二大国伝統ある王国である。




 平和な時代が長く続き、民は増え、国は発展していった。

 しかし、ある時その国に一人の王が生まれた。




 王は欲望強い人間であり、王は欲望のままに伝統ある国を蝕み続けた。それからである。この国が壊れ始めたのは……。




 王はさらに力を欲し、伝説の樹木を手に入れようと考えた。樹木は神の住う天界に繋がる唯一の手段であり、さらには世界を想像した力がある。

 樹木を求めた王はもう一つの大国に宣戦布告を仕掛ける。多くの民の血と涙が流れることになる。




 それでも王の求めるものは手に入らない。戦争に勝つために王は魔法の力を集結させた、強大な兵器を作ることを思いつく。

 国民に偽り、国の真ん中に設置して国民たちの魔力を密かに蓄える。




 そして完成した兵器は戦争で大活躍した。

 戦況は優勢になり、王の理想はもうすぐそこまで来ていた。しかし、それを大魔法使いの夫婦によって阻止される。

 さらに悲劇が王国を襲う。




 王国の中央に設置された大魔道具。それが突如暴走したのだ。原因を確かめるために数名の騎士を向かわせる。だが、彼らが戻ってくることはなく、大魔道具は暴発した。

 大量の魔素が王国中に放出される。王国は混乱状態になる。さらには反乱軍が各地で立ち上がり、王国の施設の占拠を始めた。




 国の状態に逃げることにした王の前にある男が立ち塞がる。彼は王国を打ち取り、新たな国を立ち上げた。





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 ガレッドはバイズを睨み付ける。




「テメェらのせいだ。テメェらのせいでオレたちはこうなったんだ」




 歯を食いしばり、ガレッドは言う。その言葉には強い怒りが込められている。




「ああ、君たちが我々を恨む理由は分かる」




 バイズはガレッドとは対照的に落ち着いているように見える。いや、正確には落ち着こうとしている。

 彼は胸を張って言う。




「分かるだ? 王と同じく国を見捨てた裏切り者が!!」




「見捨ててなどいない。我々は国のため、民のためになろうと努力した」




「嘘を言うな!! なら、俺の体を……俺の仲間を返せ!!」




 ガレッドは罵声を浴びせ、バイズに向かって走り出した。




「そうだな。だが、失ったものは取り戻すことはできない」




「ならば、なぜ今更この国に現れた!!」




「私は向き合いにきたのだ。君たちと。そして君たちの怒りを受け止めて、共に歩むために!!」




「ふざけたことを!!」




 ガレッドはバイズに大剣を振り下ろす。バイズは地面を蹴り、ガレッドの右へと避ける。

 ガレッドの大剣はそのまま振り下ろされ、地面に激突し、大地を削り取った。




 小さな瓦礫が二人に降り注ぐが、そんなことは気にしない。

 バイズは避けた状態のまま、剣を横にすると通り過ぎるようにガレッドを斬りつける。




 しかし、バイズの剣の刃はガレッドの鱗を貫通することはできず、金属音を鳴らして剣を弾き返した。




 バイズの腕は硬いものを叩いたかのように震える。いや、正確には硬い。名剣にさらに魔法を付与した状態よりも彼の身体は強固である。




 ガレッドは地面から大剣を抜き取ると、大きく横に振りバイズを襲う。

 バイズは剣でガレッドの横振りを防ぐが、力一杯に振られた攻撃はバイズの身体を浮かし、道の反対側にある屋台まで吹っ飛ばした。




「バイズ!!」




 オルガは心配して駆け寄ろうとする。しかし、それよりも早く瓦礫の中からバイズは立ち上がった。




「……鎧でも着てくるべきだったか」




 バイズの身体はボロボロであり、頭から血を流し、左目は血が入ったのか瞑っている。




「鎧如きで俺の攻撃が防げるかよォ」




 ガレッドは自信満々に言うと、大剣を肩に掛ける。

 バイズは意識が朦朧としているのか、足元がおぼつかない。そんなバイズの姿に苛立ったガレッド。




「何が受け止めるだ。貴様らは分かってるのか。俺らから奪い取ったものはなんなのか……この程度で、この程度で怒りが収まると思うのかァ!」




 ガレッドは大剣を手にバイズにトドメを刺そうと突進していく。

 しかし、そんなガレッドの目の前に半透明な壁が現れて、彼の行く手を阻んだ。




「なんだ、これは……」




 それはガラスの様に奥の風景を映し出す薄い壁。厚さはないが強度はそれなりにあり、軽く叩いただけでは割れない。




「テメェの仕業か」




 ガレッドはそう言うとオルガの方に視線を向ける。オルガは腕を組みそちらを向かずに言う。




「そうだとしたら?」




「邪魔をするな。俺はコイツを殺す」




 ガレッドはオルガの挑発には乗らず。大剣を振り下ろし結界魔法を破壊する。結界は簡単に粉々に砕け散り蒸発する。




 ガレッドは結界を破壊すると、再びバイズに向かい進み出した。

 バイズは剣を握り立っているが、ガレッドの姿に反応すらしない。もう意識はないのかもしれない。




 オルガは鎌を手にガレッドに攻撃を仕掛ける。背後から近づき、ガレッドの首を鎌で一閃する。だが、ガレッドの身体には傷一つ付かない。




「邪魔をするな! 貴様から先に殺すぞ!」




 オルガを行動にガレッドは足を止める。




「なぜ、そこまでこの男にこだわる」




 オルガはこれまでの二人のやり取りから、疑問に思ったことを聞く。

 70年もの間洞窟に篭っていたオルガは外の世界がどう変化したのかまだ知らない。




 何よりもオルガにとっては思い出もあるフルート王国が無くなっていたことに驚いた。そしてその元王国の騎士だと名乗る男と、その国の関係者らしき男。

 オルガにとっては昔のことで、さらには縁を切った国のこと。だが、王国と聞くとあの男を思い出す。またあの男によって人生を狂わされた人がいるのかもしれない。そう思うと関わる以外の選択肢はなかった。




 オルガの質問を聞いたガレッドはオルガの身体を見る。




「お前も被害者じゃないのか?」




 被害者? 何のことだか分からないオルガは疑問符を浮かべる。




「別件か……。だとしてもその身体になったということは相当の魔素に触れたはず。ならば知っているだろ。その危険性を!!」




 確かに魔素は人体にとって有毒である。身体に障害が起こり不自由になることもあれば、オルガ達の様に身体が変形してしまう場合もある。さらには命の保証すらない。

 しかし、そんな大量の魔素に侵されることは相当のことがないとあるはずがない。




 オルガがどうしてそんな量の魔素に触れることになったのか聞こうとしたが、その前にガレッドは話し出した。




「王国にオレ達を見捨てたんだ」




 元々はこの土地は緑溢れる土地であった。自然も多く、人々も何の不満もなく暮らしていた。

 しかし、あるとき王の決断で国の中央に大きな魔道具が設置された。




 それは家よりも遥かに大きい円錐型の石の塊。王の説明ではそれは自然を増やし人々の暮らしを豊かにする魔道具だと言った。

 確かにその魔道具が設置されてから、作物の成長は遥かに良くなった。だから、対して国民達は王がやっと改心したと喜んだ。

 しかし、それは全く違かった。




 魔道具が出来てから、国王軍は戦争での勝利が続く。だが、それと対比する様に国民の間では病が流行り始める。




 ある日、国王軍が負けたという報告を受けた。戦力では上回っていたが、ある魔道具の暴発により国王軍は半壊したという。

 それから国の魔道具に騎士が出入りする様になる。その頃から薄々感じている国民もいただろう。




 そして事件が起きる。何の前触れもなく国の中心にある魔道具は爆発した。

 爆風は家を飲み込み、緑を焼いた。多くの死者を出したが、被害はそれだけでは済まなかった。

 魔道具の大爆笑により大量の魔素が王国中に散らばる。

 それは国中を多い、国民を魔素が蝕んでいった。




 そこまで起これば、鈍い国民も気がつく。緑は確かに増えた。しかし、それは魔道具から漏れ出していた魔素が原因。

 魔素は植物にとっては必要な栄養だが、人体には害を及ぼす。通常状態でも常に魔素を放出していた魔道具だが、爆発により溜まっていた魔力を全て使い切り、魔素に変換して降り注いだのだ。

 さらには魔道具のエネルギー源となる魔力は、国民から少しずつ奪い取り、それを戦争の兵器として使っていたことものちに発覚した。




 それを知った国民は国に抗議に向かう。さらには魔素の影響を受けた者達も助けを求める様に国王の元へと向かった。しかし、国王軍は国民を払い除け、さらには魔素の影響で異形となった者を差別しだした。




 武器は取り上げられ、魔素の影響でまともに動くことのできない国民には反応することはできなかった。あの人たちが現れるまでは……。




「コイツらはオレ達を利用するだけ利用して、最後には捨てたんだ。それが許せねェ、許しちゃいけねェんだ!!」




 ガレッドは怒りの籠もった声で言い放った。事情を聞いたオルガは納得する。




「そうか、あの男か、それともその先祖か。どちらにしろ、いつかは滅ぶとは思ってた。その瞬間を見れなかったのが悔しいな」




 それを聞いたガレッドはオルガの言葉の意味を理解できなかった。だが、滅んだことを喜んでいるように言っているオルガを不快に感じる。




「オレ達が苦しんでいるのを嘲笑う気か?」




「そうじゃねぇ。お前らについては不幸だと思う。だが、アイツに苦しめられたのはお前らだけじゃねぇーってことだ」




 しかし、オルガの言葉を関係なしにガレッドは大剣を振り回し襲ってくる。

 オルガは結界魔法で足場を作り、空中に逃げ込む。




「ッチ、すばしっこいな」




 確かにガレッドのスピードも素早い。しかし、オルガはそのさらに上をいく。

 ガレッドはジャンプして空中にいるオルガに剣を振るうが、オルガは次から次へと足場を作り、空中を散歩するように逃げていく。




 しばらく攻撃をして、オルガに攻撃を仕掛けることが不可能だと分かったガレッドは動きを止める。




「どうした? 諦めたのか?」




 オルガは空中からガレッドを見下ろす。だが、ガレッドは上にいるオルガを見るのではなく、下にしゃがみながら言う。




「そんなわけないだろォ」




 ガレッドは魔法計算をすると自身に肉体を強化する魔法を付与する。

 今まで魔法を使わずにあの破壊力だったことを考えると、一体どんな身体の構造なのか想像もつかない。




 大剣を地面に振り下ろし、地面を砕くと人の半分くらいの大きさの瓦礫を手にする。

 そして瓦礫を自身の前にひょいっと投げると、大剣を振ってそれを粉々にしながらオルガに飛ばした。




 砕けた瓦礫は小さな破片となり、空中にいるオルガに向けて飛んでいく。

 一つ一つは小石程度の大きさではあるが、スピードが速く当たればタダでは済まないだろう。




 オルガは瓦礫をガードするために、結界魔法を壁の代わりに展開する。

 ガレッドのパワーも見ているため、念のために重ねて四つの結界を盾として生成した。




 しかし、瓦礫は簡単に一枚目と二枚目、そして三枚目を破壊したところで勢いがなくなり、地面に帰っていった。




 用心して作った結界が、ギリギリまで壊されてしまったことにオルガは衝撃を受ける。

 ガレッドの力が凄まじいのは分かっていたが、ここまでのパワーがあるとは。




 再び同じ攻撃をされれば、今度は受けられる保証はない。

 そこでオルガは攻撃に転じようと考えるが……。




 ガレッドの身体は強固な鱗で覆われている。通常の刃物では傷を負わせることはできないだろう。オルガの鎌もバイズの剣もあの鱗に弾かれてしまった。

 オルガがもしもガレッドを倒すことができるのならば、神器の力を使うしかない。だが、それには大きなリスクがある。



 オルガが悩んでいるうちに、ガレッドは再び瓦礫を手に入れようとする。だが、それは横から飛び出してきた相手にとって阻止される。




「なァ、テメェ!!」




 それは意識すら朦朧としていたバイズ。

 バイズは横から飛び出すとガレッドに抱きついた。




 そして二人の間に魔法陣を展開すると魔法計算を始める。バイズが行おうとしている魔法は……。




「…………っ」




 バイズの展開した魔法陣が閃光を放つと、激しい爆音と共に爆発する。

 爆発に巻き込まれた二人は煙に包まれる。




「バイズ!!」




 オルガは爆風に受けながら二人を見守る。煙が晴れると、バイズは未だにガレッドに抱きついている。

 しかし、お互いに服が破け半裸になり、身体中が火傷だらけになっている。




 だが、二人とも同じ距離で爆発を喰らったはずなのに、バイズに比べてガレッドのダメージは少ないように感じる。




「自爆か? だが、その程度で俺は……」




 そうガレッドが言いかけた時。バイズは再び魔法陣を展開してもう一度爆発を起こした。

 今度は流石のガレッドもダメージが溜まってきたようで、足が震えている。




「て……メェ…………」




 バイズは再び魔法陣を展開する。




「お、……おい」




 そして何も言わずに爆発を起こした。この爆発にはガレッドは耐えきれなかったようで、ゆっくりと倒れる。そして倒れてる最中にある人物の名前を呟く。




「リュ……ウ……… ガ……………リュウガ様…………」




 そして倒れるガレッドに続き、バイズも崩れ落ちた。






 ──真の王は、あのお方だ──












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