第29話  【天才魔法使い】

 世界最強の兵器はここに!?29



 著者:pirafu doria

 作画:pirafu doria



 第29話

 【天才魔法使い】





 エリスとミリアは順調に奴隷を解放しながら、目的地である施設まで進行していた。




 だが、エリスは先を行くミリアから敵意に似た視線を感じる。いや、正確には旅の途中からだ。

 パトに心配をかけたくなかったから、このことは黙っていたが、パトがいないのならば少し話を聞いてみるのも良いだろう。




 エリスは建物の影に隠れている最中に、ミリアにそのことを聞こうとするが、その前にミリアが口を開いた。




「……エリス・グランツ。……どこかで聞いた名だと思った。そう、やっと思い出した。お前があのグランツ夫婦の娘か」




 グランツ夫婦という名前を聞いたエリスは驚きの表情を浮かべた後、ミリアから目を逸らした。




「……ええ、そうよ。それがどうしたのよ」




「父の古き友人グランツ夫婦。父の認める大魔法使いであり、もう手の届かないライバル。……父はそう言っていた」




 自身の両親とミリアの父親が知り合いだったことに、エリスは驚き杖を強く握りしめた。




「あの骸骨は本当の王国で噂の天才魔法使いじゃない。どういう事情でそう名乗ったのかは分からないが、本物は貴様で間違いないな」




「ええ、そうね」




 睨むように言うミリアの迫力に押され気味にエリスが答える。

 今にも襲いかかってきそうな気迫だが、ミリアは背を向けて辺りを警戒する。




「父は、もう気にするな。と言っていた。だが、私はいつか取り戻す。その時を覚悟するんだな」




 ミリアが何をしたいのか。それをエリスは理解できていない。しかし、それは今ではないようだ。

 辺りに敵がいないことを判断したミリアは、エリスを連れて先へと進む。




 順調に奴隷を解放しつつ、やがて目的に辿り着く。そこはドーム状の形をした黄金に輝く施設。

 周りにはカラフルなテントが店を出している。




「ここに賢者がいるの?」




 外から見た外見や民衆の出入りの激しさから、ここが敵のアジトとは思えない。

 中からは大歓声が聞こえ、ここは何かの舞台場のように思える。




「ああ、私の情報は確かだ。ここに賢者フェス・クローバーがいる」




 ミリアは自信満々に答えると、エリスを連れて建物の正面から入る。

 多くの客がいる中、受付で料金を払うと二人は奥へと入る。奥は巨大なホールになっており、観客席が円を描くように並び、中央には広めの舞台が用意されている。




 ミリアは適当なところの席に座ると、反対側にある特別席を指さした。

 他の席とは明らかに違い、黄金で豪華に作られた巨大な椅子には、巨大の男が座っている。




 身体は風船のように膨らんでいて、あれでは足で全身を支えることはできないだろう。

 椅子に座る体制も、背もたれに支えられているからやっと座れているが、何もなければ亀のように倒れてしまいそうな体格だ。




「奴がターゲットだ」




 見るからに偉そうな人物だ。周りには鎖を付けられた女性が囲んでいる。

 しかし、賢者は魔法に優れた実力者だと聞いていた。エリスから見れば、あの男にはそこまでの力があるように感じない。




 馬車の移動中に現れた男の方が魔力も高く経験もあるように感じる。決して舐めているわけではないが、この人物からはそこまでの気迫を感じない。




 そんな中、会場の照明が一度消えると、中央の舞台にライトが集中される。そしてそこに顔が真っ白で赤い鼻をしたピエロが現れた。




「ようこそ! お客様! 奴隷販売会場にお越しくださり、ありがとうございます!」




 ピエロは舞台の真ん中で観客達に頭を下げて挨拶する。

 どうやら、ここが王国中に奴隷を販売する施設のようだ。




「今日も数多くの奴隷達をご用意致しました! ご希望の奴隷が居ましたら!! 椅子に取り付けられた魔道具でお知らせください!」




 二人が椅子の下を見ると、ピエロの説明通りに椅子にボタンが取り付けられている。希望する奴隷が居たら、これで購入するようだが……。




 エリスは周りの客にもバレないように小さな声でミリアに聞く。




「ねぇ、どうするのよ。私たちの目的はあの賢者を倒すことでしょ? 奴隷販売を見てどうするのよ」




「安心しろ。すぐに仕留める。だが、その前に奴の魔法を見ておきたい。貴様もそう思わないか?」




 そう言われると確かにそうではある。エリスは殆どの魔法を網羅している。しかし、世界には魔法と魔法を組み合わせて独自の魔法を作り出している人物がいる。それは複合魔法と言われている。

 多くの場合は特殊な効果を発揮する場合が多く、複雑な魔法の割には使い道が限られる。そのためエリスは複合魔法でも効率の悪いものには興味がない。

 しかし、一度魔法計算を見ておいて損はない。魔法の解析ができれば、より効率の良い村人を救う方法も見つかるかもしれない。




「そうね。でも、どうするの?」




「私に考えがある」




 しかし、ミリアはそう言った後、すぐに動くことはせず。状況を見守っている。やがて一人の客が金髪の少年を指名する。

 ピエロとの値段の取引を終えた後、交渉が成立し、少年は奴隷として買われることが決定した。

 ピエロは少年に近くに来るように指示する。少年が怯えながら近づくと、ピエロは鉄で出来た首輪を手にする。




「お買い上げありがとうございます。それではこちらの魔法の首輪をお付けし、最初のお客様の元へ……」




 ピエロはそう言い、首輪の少年に付けようとする。首輪が少年に近づくと、首輪に魔法陣が現れる。

 首輪を付ければ、奴隷を縛る魔法の首輪の完成というわけだ。




 首輪が少年の首に取付けられようとした時、ミリアは瞬時に立ち上がり、ピエロに向けてナイフを投げた。

 ナイフは勢いよく飛んでいき、ピエロの頭に突き刺さる。ピエロは少年に首輪をつける前に、その場に倒れ伏した。




 ピエロの姿を見た客達は動揺し、一斉に外へと出ようとする。

 混乱する建物の中、ミリアは堂々と反対側にいるフェスを睨み付けていた。




 魔法陣を見た時に分かった。あの魔法は危険である。

 あの魔法陣は爆発魔法も含まれていた。それはつまり無理に首輪を外そうとしたり、ある特定の条件を満たせば、首輪ごと奴隷は爆発死するということだ。

 これだけ奴隷が自由に出歩いている街であるが、これで奴隷が反抗できない理由がわかった。




 そして首輪が爆発する条件まではエリスでも解読することはできなかった。おそらくかなり念入りに作られた魔法陣であろう。その理由としてはあれはピエロの魔法ではなく、首輪を少年に近づけた時に発動したことでも分かる。

 爆発条件が分からない以上、これ以上の人質を増やすわけにはいかない。それでミリアはナイフを投げたのだろう。




 やがて客が一人残らず外へ逃げ出し、残ったのはエリスとミリア。そして反対側にいるフェス・クローバーと、それを囲む女性の奴隷達。真ん中にいた売られそうになっていた奴隷達は、混乱に紛れて逃げていったようだ。




 静かになった広い会場で、フェスは高らかに笑い出す。

 大きな身体を揺らし、お腹の脂肪は波打つように揺れている。





「ダァーハッハハハ!! なんだお前達は?」




 フェスは大笑いしながらミリア達に問う。

 仲間が殺されたというのに、なぜこの男はここまで冷静にしていられるのだろうか。




「奴隷を解放しに来た」




 ミリアは正直に答える。すると、フェスは嬉しそうに笑う。




「いいね〜、いいね〜。君たちのような正直者は好きだ。私は嘘つきが嫌いでね。君たちのような正直者はとても尊敬できる」




 フェスはそんなことを言っているが、とてもこの男は本心から言っているようには感じない。




「そこで正直者の君達にはチャンスをあげることにしよう。目的は……奴隷解放だったな」




 フェスは周りを囲む女性の奴隷から、二人の奴隷を選ぶと舞台に上がるように指示する。

 奴隷達は逆らう気力すらないのか、何も言わずに舞台へと向かう。

 そのうち一人の奴隷には剣が渡される。




「これからこの奴隷と試合をしてもらう。君たちが勝ったなら奴隷を解放しよう。しかし、私が勝ったなら、私の奴隷になる。それでどうかな?」




 何を言い出すのかと思えば、戯れをしたいようだ。

 しかし、そんなことをする意味が分からない。そう思っていると、




「我々は王により魔法の使用が制限されている。まともに武力で制圧されれば、対応はできない。しかし、君たちはあの魔法陣を見て知ったのだろう。首輪の魔法を……」




 首輪の魔法。それを聞いた途端奴隷達の顔は青ざめる。

 彼らはこの首輪の効果を知っているようだ。




「ならなぜ、そのような条件を出す?」




 ミリアが聞くと、フェスはため息を吐く。




「余興だよ。余興。ただの遊びさ。だが、さっき言った通り、君たちが奴隷を勝てば解放しよう」




 なぜ、そんなことをするのか。意味がわからない。

 確かに奴隷を解放しにきた人物を捕まえれば、その仲間も割り出すことはできる。しかし、その代わりに提示するリスクが大きすぎる。




 さらにこの男がルールを守るような男には到底見えない。




 二人の怪しむ目線を感じてか。フェスはため息をつく。




「信じてないか……。それも無理はないな。だが、もう君たちは逆らうことはできないのだよ」




 気がつくと、二人は首のあたりに違和感を感じる。

 お互いに見合うと、首に奴隷用の首輪が付けられていた。




「いつの間に!」




 ミリアは無理に剥がそうとするが、力ではどうしようもない。

 いつ付けられたのかは分からなかった。




 フェスは魔法陣を展開していなかった。なら、これはどうやってつけられたのだろうか。




「その首輪は普通の奴隷のものとは違い、この建物から出ると爆発するように設定した」




 首輪を付けたから戦えということだろあか。しかし、付けられたとしても対策はある。




「ああ、これも言っておこう」




 そう言うと、フェスは舞台の上に転がっているピエロの死体を指で指す。

 そして魔法陣を展開したと同時に、死体は爆発して粉々に吹き飛んだ。




「ちょっとした魔法を追加すれば、こいつはすぐに爆発する。俺様を倒そうとしても無駄だ。君たちが救いたい奴隷も、君たちも俺の魔法一つで全て粉々になるからな! ガァーッハハハ!!」




 つまりは魔法を解除してもらうか、解除させるかしかないと言うことらしい。

 先ほど魔法陣を見た時、外からこの魔法を解除することは不可能だと分かった。




「どうする気?」




「そんなの決まってるだろう。敵の策に乗る!」




 ミリアは高く飛び上がると、舞台に着地する。エリスも追うように舞台に登る。




 すでに2人の奴隷が舞台の上で待ち構えている。一人はピンクの短髪をしていて、小柄な女の子。もう一人は緑色の長髪に片手には剣を持っている女性の奴隷。




 四人が舞台に登ると、フェスは近くにいる黒髪の少女に命令し、ゴングを持って来させる。




 ゴングの準備ができると、四人はそれぞれ戦闘態勢を取る。




 エリスは杖を取り出し、ミリアも腰にあるナイフに手を置いた。

 向こうは素手と剣で戦うらしい。




 舞台がライトで照らされ、観客の歓声のない静かなゴングが鳴らされた。





続く






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