第27話 【モンスターの民】
世界最強の兵器はここに!?27
著者:pirafu doria
作画:pirafu doria
第27話
【モンスターの民】
パトと別れたオルガは揺れる馬車の中で死体のフリを続けていた。
オルガと隣でテツは剣を磨いている。どうにかバレてはいないが、いつボロが出るかオルガはヒヤヒヤしながら様子を伺う。
賢者であるテツは見張りの仕事のために第六フロアへと向かっていたらしい、その最中にこの馬車が通りかかったため乗せてもらうことにしたようだ。
パト達はうまく脱出することはできたらしい。だが、目的地は同じ第六フロアだ。作戦成功のためにはできることなら遠ざけたい。
剣を磨き終えたテツは剣を鞘にしまうと、すぐに手にできるように自身に左側に置いた。隙があれば馬車の中で倒してしまおうかとも考えたが、隙が全くない。
いや、それ以上に警戒されているように感じる。オルガには気付いている様子はないが、明らかにこの馬車を怪しんでいる。
見張りの仕事が本当かどうかは分からないが、それだけの地位のある人間ならば、無理にこの馬車に乗る必要もない。
やがて外が騒がしくなる。荒野を抜けて街中へと入ったようだ。
そしてしばらく進んだところで、馬車は動きを止めた。
耳を澄まして外の声を聞くと、奴隷が逃げ出したようで何者かが走り回っているようだ。
そんな中、馬車を止めたバイズは代車の中に顔を入れた。
「着きましたが……騒ぎのようですよ」
しかし、テツは剣を握ってゆっくり立ち上がると、何事もないようにゆっくりと外に出た。
「俺には関係ない。……ここまで送ってもらい助かった」
剣を腰のベルトに刺すと、テツは騒ぎとは反対側へと歩いていった。
去り際に何か呟いていたが、二人にはうまく聞き取れなかった。テツの姿が完全に見えなくなってから、バイズは馬車の中に顔を入れた。
「行ったようだな。残ったのはお前だけか……」
ミリア達がいないことに気がついたようだが、脱出したことにはなんとなく分かっていたようだ。
「お前も一緒に行けば良かっただろ」
バイズは荷台に入り、中央に堂々と座る。オルガは腕を組みながら答えた。
「そうも考えたがな。……俺にも事情があるんだよ」
回答にバイズは興味がないように「そうか」とだけ答える。
そしてバイズは話を変えるように続けて言った。
「おそらくこの騒動はミリア様が起こしたものだ。俺の推測にはなるがこれからの動きを指示する」
バイズはそう言うとミリアの作戦と今後の行動について説明した。
説明を聞き終えたオルガは腕を組む。
「ああ、暴動を起こすってのは理解した。だが、それだと賢者が集まってくる可能性だってあるだろ」
オルガが説明されたのは、奴隷を解放して暴動を起こし、その間にサージュ村の住民を助け出すと言うもの。
しかし、その作戦にはリスクがある。それは応援をよばれる可能性だ。
だが、バイズは首を振る。
「問題ない。賢者達にはそれぞれの役職が決められていて、他の役職には手を出さないことが決められている」
それを聞き、さっきのテツの行動をオルガは思い出す。目の前で騒ぎが起きていると言うのに、テツはそれを無視して目的にへと向かって行った。
「それにこの国には奴隷を保護する法律もある。ある一人の賢者の魔法さえ解除すれば、奴隷は王都の住民と大差はない」
その話を聞き、オルガは周りの騒ぎの様子に納得がいく。そう、王都で起きている騒ぎは奴隷の脱走だ。しかし、奴隷達を捕まえようとしている者たちは誰一人武器などは手にしていない。
だが、だとするならば、なぜ奴隷が存在しているのか。
その疑問にバイズはすぐに答えた。
「住民を増やすためだ。魔法がないから人力を頼る。だが、特定の人間に苦労はさせず、皆が苦労し国を支える。それがこの国の目指す政治。奴隷は他の国から連れてきた住民は手放さないためにする檻のようなもの。檻を破壊するそれが俺たちの目的だ」
そんな話をしていると、外から荷台の壁をコンコンと叩く音が聞こえる。
「おォ〜い。そこに誰かいるのかァ?」
気だるそうな男の声が外から聞こえる。何の理由で声をかけてきたのかは分からない。だが、バイズは立ち上がると、オルガに死体のフリをするように目で合図を送った。
オルガはその通りに壁に寄りかかり、死体のフリをする。バイズはそれを確認すると、外にいる人物と話すために外へと出た。
外に出ると、荷台の横にロングヘアーの男が待っていた。しかし、普通の人間とは違う。
皮膚は青く硬い鱗が全身を覆い、歯は牙のように鋭く尖っていた。
男の背中には男と同じくらいの身長の何かを背負っている。しかし、それは布で包まれており、何を背負っているのかは分からない。
バイズは頭に手を乗せて、腰を低くして商人のフリをした。
「すみません。今荷台の整理をしてまして〜。後にしてもらっても良いですか?」
しかし、男は腕を組むと、
「それはできないなァ〜。俺は賢者だ。脱走した奴隷が隠れてるかもしれねェ。中を改めさせてもらうぜェ」
そう言い、バイズを押しのけて無理やり荷台の中へと入ってきた。
バイズは後を追うように荷台に入る。
男は荷台を見渡す。そして奥に白骨死体が落ちていることに気がついた。
「おい、これはなんだ?」
男はバイズを睨みつける。それに対してバイズは平然と答える。
「いえ、道中で見つけたんですが、そのまま放っておくのも可哀想で、どこかの墓に埋めてあげようと……」
「そうか。……盗賊か。それとも冒険者か。まぁ、可哀想なもんだ」
そう言いながら、男は背負っている何かに手をかけた。
そしてニヤリと笑う。
「死体だしな。生きてる必要はないよなァ!!」
男は背負っていた何かをオルガに向かって振り下ろす。
危険を感じたオルガは咄嗟に逃げ出し、危機一髪のところで馬車から脱出した。
一撃。たったの一撃で馬車は真っ二つに切断された。
同じように馬車から脱出したバイズは剣を取り出しながら呟いた。
「奴がガレッドか……」
ガレッドが背負っていたのは巨大なノコギリ。大きな刃が何本も付いた二メートル近いノコギリ型の剣である。
しかし、その武器を使ったから馬車を一撃で粉砕できるはずはない。あの剣の相当な重さはある。一体どれだけの力を必要としているのか。
「……ッチ。おっさんもそのスケルトンも、この騒動の関係者か?」
奴隷の脱走時に現れた、謎の二人組。しかもその一人がスケルトン。これほど怪しい存在はいない。
「答えねェか。俺ァ、賢者ガレッド。見たところ奴隷ェじゃねェな。なら、侵入者として相手してもらうぜェ」
ガレッドは容易に巨大なノコギリ型の大剣を振り、オルガ達に向けた。
オルガはフードから鎌を取り出す。バイズも同様に鞘から剣を抜いた。
二人に緊張感が流れる。周りにいた人々は戦闘が走るとすぐさまこの場から離れていく。
ガレッドは民衆がいなくなるまで、いつでも戦える体制であるが攻撃を仕掛けてこない。目や顔の動きから民衆が逃げるのを待っているようだ。
民衆を見守るガレッドには油断がある。それによって隙が生じるはずである。しかし、二人はガレッドに近づくことすらできない。
それはこの無防備に見える男に、一切の隙がないと二人は理解したからだ。
オルガは古い冒険者の記憶から、バイズは騎士として、この男の実力を先程の一撃で理解していた。
二人はガレッドに何もすることができず、その場で武器を持ちながら時間を待つ。
やがて、全ての住民が逃げ終えたことを確認すると、ガレッドが動き出した。
「待ってくれるとはなァ。それとも怯えて動けなかったか。それじゃあ、俺から仕掛けさせてもらうぜェ!!」
ガレッドは重たそうな大剣を持ちながら、一直線に走り出す。標的はバイズだ。
巨大な剣を持ちながらも、それを全く感じさせないスピードでバイズに近づく。
そして高らかに剣を振り上げると、勢いよくバイズに向けて振り下ろす。
バイズは剣を横にして大剣を受け止めるが、その威力は凄まじい。
剣を振った衝撃で風が起き、砂埃が宙に舞う。
最初の一撃を受け止めたバイズであるが、ガレッドは剣を上下に動かし、ノコギリの刃でバイズの剣を削っていく。
このままではまずいと思ったバイズは、魔法陣を展開し、身体強化で自身の肉体を強化し、硬化魔法で剣の強度をあげる。
そして剣をこれ以上傷つけないように、力一杯にガレッドの剣を払い除けた。
ガレッドは少し後ろに下がったが、すぐに体制を立て直し、バイズに剣を振るい始めた。
右へ、左へ、上へ、そして右へ、何度も襲いかかる剣をバイズは剣で受け流す。バイズの剣術はかなりの腕だ。
ガレッドは威力は高いが、バイズの剣の腕には及ばないようでその防御を突破することができない。しかし、ガレッドの一撃一撃は重く、バイズは一歩また一歩と後ろへと下がっていく。
そして気がつけば、バイズの後ろには煉瓦でできた建物がすぐそばに近づいていた。
オルガは鎌を手にバイズを助けるようにガレッドの背後から奇襲を仕掛ける。
しかし、奇襲はガレッドにバレていたようで、自身を中心に大剣で360度回転させる。
オルガは空中から飛びかかっていた瞬間であり、この攻撃に気づき、結界魔法を足下に展開するとそれを足場にしてすぐさま後退する。
バイズはすぐ後ろに建物があったこともあり逃げ場がなく、ガレッドの拳を真っ向から受け止める。
しかし、その破壊力は高く。バイズを後ろの建物に押し付けると、そのままの勢いで建物を破壊して、バイズを家の中に押し込んだ。
壁はボロボロに崩れ去り、中は砂埃で何も見えない。
今の一撃でバイズを倒したと判断したガレッドは、背後を気にすることなく、オルガと向き合う。
「不意打ちとは卑怯なことをするなァ。スケルトン。だが、どんなに気配を消そうが、俺には分かるぜェ」
そう言い、ガレッドはオルガに大剣を向ける。
「その身体、俺と同じ魔素にやられた口だな。俺は何人もの同胞が同じような醜い姿になっちまった。だから、分かるんだよォ。その異様な魔素の濃さにはよォ!!」
ガレッドは今度はオルガに向かって走り出す。
距離は先程の攻撃を避ける際に、結界魔法で後退してそれなりに離れた。しかし、その距離もすぐに埋まるだろう。
ガレッドの筋力は人間の筋力をはるかに上回っている。
人間離れした筋力に、皮膚は魚のような鱗がついている。彼もオルガと同じように魔素によって、モンスターの姿に変化してしまった人物の一人なのだ。
オルガに向かって突進してくるガレッドであるが、その後ろにから炎の玉が飛んできて、ガレッドの背中に直撃した。
ガレッドが炎の玉に直撃したが、背中を摩り何事もなかったかのように立っている。
そして炎の玉が飛んできた方へと目を向けた。
そこには誇りの舞う室内で膝をつきながらも、右手を突き出し魔法を放つバイズの姿。
バイズは倒れたテーブルに寄りかかりながら立ち上がる。
「すまないオルガ君。……ここは私にやらせてくれないか?」
バイズは両手で剣を握りしめる。そしてガレッドを睨みつけた。
ガレッドは呆れたようにバイズへと向き直る。最初は仕留め損ねた相手には興味がないような態度をとっていたが、バイズの言葉を聞きそれは豹変する。
バイズはダメージを受けた身体で、ゆっくりと外へ出てくる。そして剣を持って構えると、ガレッドに向かって言った。
「私はバイズ・ザード。元フルート王国の聖騎士長だ」
その名乗りがどんな意味を持つのか。それはオルガには理解できなかった。
しかし、確実にその名乗りを行なったことで、この場の空気が変化したのを感じた。
それが良い方向に進むとか、それとも悪い方向へと進むのか。
ガレッドの後ろ姿を見ていたオルガは、その身体がピクリピクリと震えるのが見えた。そして
「テメェが…………バイズ・ザード。……テメェが、俺の……俺たちの…………」
ガレッドの言葉には今にも爆発しそうな怒りが込められていた。
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