第21話 【ヤザ村の英雄】
世界最強の兵器はここに!?21
著者:pirafu doria
作画:pirafu doria
第21話
【ヤザ村の英雄】
村が奴隷狩りにあったパト達はニーオン家の保護を受け、ヤザ村へとやってきた。
「家としばらくの食料は用意してやる」
ミリアの提供でパト達は、宿を貸してもらうことになった。
村の中でも高級な宿。ベッドもパトの使っていたものと比べるとふかふかだ。
しかし、パトはそんなベッドに横たわりながらも、全然休むことはできなかった。
「父ちゃん……みんな…………」
それは村から連れ出されたみんなのこと。今どうしているのだろうか……。
辛い思いをしてるであろう、みんなのことを想像すると胸が痛み。眠ることもままならなかった。
「まだ起きていたのか……」
寝れずにベッドに蹲っていると、同じ部屋に泊まっているオルガが銭湯から戻ってきた。
「はい。心配で……」
パトの不安そうな表情を見たオルガは、窓に視点を移し、しばらく外を見つめると、扉を半開きにし、親指を外に向ける。
「……ちょっと散歩でもしないか?」
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気分転換のためにオルガとパトは、夜の村を散歩していた。
サージュ村とは違った風景。家の作りも並びも違う。売り物も、そしてその辺に生えているような雑草にも違いがある。
そんな光景を見ても、どうしても村を思い出してしまう。
しばらく散歩をし、村の中心に着くと、そこには大きな公園があった。風水もあり、多くの花が植えられている。月明かりが公園を照らす。
そして真ん中には六人の男女の銅像が建てられている。銅像の下には“村の英雄“の書かれていた。
「俺はこの村に来てから、何だか懐かしい気持ちになったんだ」
オルガはそんなことを口にしながら、銅像を見つめた。
「…………パト。今のお前にこれを渡すのは正直どうかと思う。だから、勘違いしないでほしい。これはお前が戦うための道具じゃない、これはお前を守る剣(つるぎ)だ」
オルガはフードの中に手を入れると、中から剣を取り出し、それをパトへ渡す。
剣は古びたどこにでもありそうなもの。派手は装飾も何もない。だが、一つだけ確かなのは、この剣の手入れは完璧に行き届いているということだ。
「オルガさん? これは……」
「その剣は魔術をやってる時から、手元にあったんだが、俺は剣は使えない。だけど、どうも捨てる気にはなれなかった」
オルガは銅像の真ん中の変わったポーズをしている男像を見る。
「俺よりもお前が持っている方が相応しい。そう思った。だから使ってくれ、俺の大切な剣だ」
剣を貰ったパトは、散歩をしながら剣を見つめる。オルガには最初に言われた。戦う道具ではなく守る剣だと。
だが、今パトの手に戦うことのできる武器がある以上、この力でどうにか村を救うことはできないだろうか。そう考えてしまう。
二人は小さな酒場の前を通る。
酒場では兵士たちが飲み食いをしていて、世間話をしている。
しかし、そんな中から気になる話が聞こえてきた。
「それにしてもミリア様とバイズさんは責任感が強すぎる。何もそこまですることはないだろうに……」
「ああ、何も見ず知らずの村のためになぁ〜」
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宿から少し歩いたところにある銭湯。そこにヤマブキとエリスは来ていた。
「ふ〜、きもち〜」
「ハイ」
湯船に浸かる二人。肩まで浸かり、旅の疲れを癒す。
夜空を見上げ、星を見ていたエリスはふと真面目な顔になる。
「……あなた、この世界の人間じゃないんでしょ」
「ハイ」
「何が目的なの」
「私ノ任務ハパトノ護衛デス」
「違う。あなたの目的はそれじゃない……」
「…………」
「もう一度聞く。あなたの目的はなんなの?」
「…………」
しかし、ヤマブキは答える様子はない。
「そう、答える気は無いのね……」
答える気のないヤマブキの姿に、エリスは立ち上がろうとすると同時に扉が開く。
そして黒髪ショートの少女が入ってきた。
「なんだ? もう出るのか?」
湯船から立とうとしているエリスの姿を見て、ミリアは少し残念そうに言う。
「いいえ、まだ入るよ」
「そうか。それは良かった。少し話したいことがあったからな」
そう言い、ミリアは体を洗うと早速湯船に浸かろうとする。しかし、足がお湯に当たると同時に飛び上がり、湯船から離れた。
「あぁぁぁぁつうぅぅぅー!! なんだ!! この熱さは!」
「え? 熱い? これくらい我慢すれば良いじゃない」
「いや! 我慢ってレベルじゃないぞ!!」
湯船に設置された魔道具の温度計は47度を示している。
「何よ。情けないわね。だから貴族のお嬢様は……」
「そういう問題じゃねーんだよ!! …………てかおい、お前と一緒にいた奴はどこだ?」
「ヤマブキさん? それなら隣に……」
ヤマブキは顔を赤くし、湯船に浮かんでいた。
「ヤマブキさん!?」
のぼせたヤマブキをソファーに寝かせ、エリスは牛乳を飲みながら、隣でコーヒー牛乳を飲んでいたミリアに聞いた。
「そういえばさっき、話があるって言ってたけど。何か用なの?」
「ああ、貴様の仲間に骸骨がいるだろう」
それを聞き、エリスはすぐにオルガのことだと気づく。しかし、オルガは普段仮面を付けている。普通なら気づくはずがない。
エリスはミリアを警戒する。
「ええ、いるけど、それが何か?」
「そんな警戒する必要はない。前回の戦闘中、奴から顔を見せたんだ」
ミリアはエリスの警戒を解こうと、何も持っていないとアピールするが、エリスは警戒を緩める様子はない。
ここにオルガがいない以上、ミリアの言っていることに確証を持てない。そのためエリスはミリアを信用し切ることはできない。
「まぁ、良い。貴様にどう思われていようとな。それよりもあの天才魔法使いと言われる野郎に伝言を頼む。…………帰ってきたら、リベンジしてやる」
ミリアの言っている意味がエリスには理解できなかった。なぜオルガが天才魔法使いなのか、そしてリベンジとはなんなのか。
しかし、一つだけ、理解できたことがある。それは彼女の顔は死を覚悟しているということだ。
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ニーオン家の屋敷。それはヤザ村の中でも特に大きい煉瓦造りの屋敷であり、村の北にある丘に建てられている。周りには背の低い木が均等に並べられ、手入れの行き届いた立派な土地だ。
「本当に行くのかい?」
ベッドに腰を沈め、壁に寄り掛かった髭の男が寂しそうに問いた。
彼の名はゴード・アドラス・ニーオン。ヤザ村に大きな屋敷を持ち、治安を守り納めている。ニーオン家の現在の当主であり、ミリアの実の父親である。
「はい。サージュ村を守れなかったのは私たちの責任。なら、彼らを助ける義務があります」
そうミリアは真剣な顔で父を見つめた。
ゴードはベッドから体を動かさずに、天井を見つめて悩む。
そしてしばらく考えた末、答えを決める。
ゴードはベッドの横で背筋を伸ばして立つ二人に向けて言う。
「分かった。認めよう。だが、一つ約束してくれ……無茶だけはしないでくれ」
ゴードはそう言い、娘の目を見る。
彼女は昔からそうだ。やると言ったことは必ずやる。どんなに反対されようがどうしようが、己の正義を貫き通す。それが彼女、ミリア・アドラス・ニーオンだ。
それはバイズの親友の動向を知るため、熊の爪(オングル・ウルス)に潜入していた時も同様だ。
そしてそれを父であるゴードは止めることのできないことだと知っていた。
そんなゴードの姿を見たバイズは胸を張って宣言する。
「私が命をかけてもお守りします」
そんな頼もしいことを言ってくれるバイズをミリアは見上げる。ミリアの身長とバイズの身長は30センチも違う。そんな彼を見上げながら、ミリアは頼もしく思う。
元フルート王国の聖騎士長である彼は、いつもミリアの側にいた。ゴードへの恩もあっただろう。フルート王国が滅び、帝国に追われた彼を救ったのはゴードだ。しかし、彼はそれ以上にミリアに惚れていた。
それは異性としてではない。戦士として、正義を貫く者としてバイズはミリアを尊敬している。
ミリアをかけても守る。その言葉にバイズにとって嘘偽りはない。
バイズの言葉を聞いたゴードも安心して娘を送り出すことができる。しかし、一つ問題があった。
「奴隷の解放が目的だ。大人数ではいけないだろう。しかし、二人では足りない。どうするつもりだ」
ミリア達の目的は奴隷の解放である。アングレラ帝国に囚われた村人達の救出。
しかし、大軍を引き連れて帝国に向かえば問題になってしまう。この件は一部の人間を除き王国には報告していない。そのためニーオン家の独断行動である。それが知られれば、王国側もどのような対応を取るか分からない。
ミリアは父親のいるベッドの奥にある窓の外を見る。外には夜空が浮かび、月と空が世界を照らしている。
「数名、兵士を連れて行こうと考えている」
奴隷解放のため、ミリア達の取る手段は潜入である。
帝国にはいくつかの番地分けがなされており、多くの奴隷が監禁されているフロアは帝国の北西にある。そこに少人数で潜入し、奴隷達を解放。混乱を起こす。撤退時は奴隷に紛れることで、自分たちの正体を隠して奴隷解放を達成する。それが狙いである。
ミリアがバイズの部下から選んだ兵士の名前を伝えようとした時、突然部屋に一つしかない扉が開かれた。
「ミリアさん! 俺たちを連れて行ってください!!」
そこに現れたのは片手に剣を持ち、ゴーグルをした少年。そして青髪の長髪に白い服を着て胸に宝石の埋まった女性。桃色のとんがり帽子にマントを羽織った魔法使い。紺色フードの長身男。
「君は……?」
初めて見る少年が突如押しかけてきたことに動揺するゴード。
その横でミリアは短剣、バイズは剣を抜き戦闘体制を取る。
「パト君! なぜここに!?」
「どうやって入ってきた!! 天才魔法使い!!」
そのミリアの声を聞き、扉の横からひょっこり顔を出す少女達。
10歳にも満たない二人の黒髪の少女達は申し訳なさそうにミリアに聞く。
「お姉さま? ダメでした?」
「お話がしたいって、お姉さまの友達じゃないの?」
それを聞いたミリアは額に手を置く。
バイズは剣を握り、ジリジリとパト達との距離を詰めようとする。
部屋は広く、ベッドのある端から扉までは6メートル以上はある。徐々に距離を縮めるバイズにパト達も警戒するが、下手に刺激をしないために、武器は出さない。パト達の目的は戦闘ではないのだから……。
「サリス様、ミーニャ様。その方々からお下がりください」
バイズの言葉に少女達は顔を合わせて、パト達から離れる。しかし、状況が気になるのか、一部始終が見える距離の廊下で足を止め、クルリとそちらを見た。
「パト・エイダー。そう言ったな。君とは短い付き合いだが悪い奴ではないと思っていた。しかし、お嬢様方をそそのかし、屋敷に侵入してくるとは……何が目的だ!」
もう少し、あと少しでバイズの間合いに入る。その時、ゴードが止めた。
「待て! 剣を治めるんだ。バイズ!! そしてミリアも!」
ゴードの言葉に二人は動きを止め、即座に武器をしまう。
「なぜですか? ゴード様、彼は不法侵入を……」
バイズは振り返りゴードに質問する。
ゴードは四人の姿を順番に見る。オルガ、パト、ヤマブキ、そしてエリスを見て目線を止めた。
「君はエリス。エリス・グランドだね」
ゴードはエリスに問いかける。しかし、それは質問というよりも、確信を持ってそれを確かめるような感じであった。
「……そうですが」
それにエリスは戸惑いながら答える。
「そうか。その髪や顔は母親似。そしてその魔力量は父親譲りということか……。大きくなったな」
確かめた内容が確かであったことを確認したゴードは安心したかのように語る。
「ということは君が王国で噂になってる魔法使いだな」
ゴードの言葉にミリアは驚きを隠せずにいる。しかし、そのことを気にせずゴードは今度はパトの方へと目を向ける。
「ということは君がガオ・エイダーの息子。パト君だね」
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