奴隷解放編
第20話 【消えた村】
世界最強の兵器はここに!?20
著者:pirafu doria
作画:pirafu doria
第20話
【消えた村】
パトたちがオルガと合流するとそこには立派な馬車があった。
「なにこれ?」
「色々ありまして……」
中に積まれた魔道具も最初に買ったものよりも数倍高いものと置き換わっている。
宿のお爺さんも事情を知っているようだが、無くなった負けでもないので、このままにしておくことにした。
宿で一晩過ごし、翌朝早速王国を出ることにした。
ヤマブキに王国で何かやりたいことはないかと聞いたが、何もないと言われた。オルガにも同様のことを聞いたが、すでに色々済ませたようだ。
本来ならば、オルガの仲間の捜索も手伝うために情報収集をしたいのだが、城に行ったことで時間がなくなってしまった。
王国の高い門を潜り、オーボエ王国を後にしてサージュ村に帰ろうとすると、道の先にマントを羽織った魔法使いが待っていた。
「エリス!? なぜここに?」
そこで待っていたのは、王立魔法学園に戻ったはずのエリスであった。
「なんでいるんだ? 学校はどうした?」
パトが心配そうに尋ねると、エリスは胸を張って答える。
「やるべきことは終わらせてきたよ。一緒に帰りましょ」
そう言いエリスは馬車に乗り込んできた。
用事は済ませたようだが、学生としてそれでいいのだろうか。疑問は残るが、こうなってしまったエリスは止めることはできない。
パトは諦めてエリスを連れて、村へと帰ることにした。
⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎ ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎
王立魔法学園。優秀な魔法の才能に長けた若者の通う学校。その学校で一人の生徒が走り回っていた。
「エリス先輩! どこですか!!」
彼の名前はシーヴ・レーベル。この学校に特待生として入学してきた学校でも特に優れた生徒である。
走り回る彼を女子生徒たちは目をハートして見つめる。
「どこに行っちゃったんですかー!!」
そう言い彼は職員室の扉を開ける。そこには数人の教員の姿がある。
「どうしたね? シーヴくん」
「エリス先輩はどこですか?」
その後、風水で寂しく昼食を食べていたと聞く。
⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎ ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎
王国に行く途中で盗賊を退治したことにより、村に帰る道中はなんの問題もなく進むことができた。
王国の兵士たちが手を出せなかったエンザンが捕らわれたことにより、山の盗賊の統率が薄わり、殆どの盗賊団が王国に逮捕された。
なんの問題もなく、村へと帰ってこれたパト達であったが、直ちに違和感に気づいた。
「なんか、静かだな……」
時刻は正午、いつもなら多くの村人たちが働いて賑わっているはずなのに、人の子一人の声もしない。
そしてそれと同時にオルガもあることに気づく。
「結界に穴が開けられてる……」
オルガは自身の張った結界に穴が開いていることに気がついた。
そしてエリスもあることに気づく。
「まだ魔力が残像してる。警戒して!」
村に漂う僅かな魔力を察知して、エリスは警戒を強める。
何が起きているのかはわからない。しかし、確実に言えるのは、ただ事ではないと言うことだ。
パトたちは武器を構え、警戒しながら村の中へと入る。
村には争った形跡はない。しかし、不思議なことに村人の姿は誰一人としてない。
「父ちゃん……」
無人の村にパトは不安が高まる。
パトの不安そうな顔を見たエリスは、周りを見渡す。
「驚かせようとどこかに隠れているのかも。手分けして探しましょ」
「ああ……」
エリスの提案にパトは覇気のない返事をする。
ドッキリなんかなら、もう出てきていても良いはずだ。それなのに出てこない。
パトの頭の中には最悪の事態が想像されていた。
「……パト」
そんな姿にみんな気持ちが落ち込んでいく。しかし、
「元気を出しなさい!」
エリスがパトの背中を叩く。
「あなたはここの村長になる人でしょ。まずあなたができることはない?」
エリスにそんな言葉をかけられたパトの視線は徐々に上にいく。
その途中、エリスの手が震えているのが見えた。
エリスはパトよりも魔法の才能に優れている。見た目では争った様子はない。しかし、残像する魔力には気付いていた。
事態の最悪さはエリスの方が理解している。
「……ありがとう、エリス」
パトは深呼吸をし、気持ちを落ち着かせる。そして周りを見渡す。
「何か手がかりがあるかもしれない。村の中を探索しよう」
パト達は効率を良くするために、二手に分かれることにした。
「まだ何が起こるかわからない。気をつけろ」
「ああ」
オルガとエリス。そしてヤマブキとパトの二手に分かれて、村を探索する。
パトはまず自身の家へと向かう。
パトの家は村の北の方にある丘のすぐそば。家には村長会議から帰ってきた父親がいるはずである。
広場を抜け、パトの足は徐々に速くなる。
「父ちゃん!!」
扉を開き大声で叫ぶが、返事はない。
家を中を探し回るが、父親の姿は見当たらない。リビングのテーブルには目玉焼きとトーストが置かれている。
「いったいどこに……」
目玉焼きとトーストは生暖かい。時間はさほど経過していないと考えて良いだろう。しかし、食べかけでどこかに出かけるなんてことはあるだろうか……。
パトが不安げに家の中を捜索していると、ヤマブキが村の入り口の方を向き、呟く。
「誰か来ました」
それと同じくして、村の入り口の方から大量の足音が聞こえてくる。
足音からして馬もいる。そのことに気づいたパトは急いで村の入り口へと向かう。
入り口にはすでにエリスとオルガが待っていた。
「おい、あれを見ろ」
オルガに言われ、門の外を見るとそこには騎兵がずらりと並んでいる。それぞれが立派な装備をつけ、戦でもするような格好だ。
そんな兵の中から一人の男が出てきた。
男は髭を生やし、分厚い鎧を着たおじさん。この部隊を指揮している人物だろうか。
男はパト達の姿を見つけると、大声で叫ぶ。
「私の名はバイズ・ザード。ニーオン家に支える騎士である!! この村は包囲した!! 大人しく村人を解放しろ!!」
バイズと名乗った騎士はパト達に持っている剣を向ける。威嚇のつもりだろう。
しかし、パトには意味が分からない。なぜ、ニーオン家の騎士が村を包囲するのか。村人を解放しろとはどういうことなのだろうか。
何か勘違いがあると分かったパトは大声で返事をする。
「ちょっと待ってください!! 私はこの村のパト・エイダーと言うものです。私も今この村に到着したばかりで事情を聞きたいのですが!!」
パトの返事を聞いたバイズは武器を下ろす。
「分かった。一度事情を聞く!! まずは村の状況を教えてくれ!!」
「村は……村自体は壊れていないのですが!! 村人が見当たりません!!」
それを聞いたバイズは顔を顰める。
「なに!! すぐに状況を……」
バイズが馬から降り、こちらに向かって来ようとするところ。バイズの後ろの馬に乗っていたフードを被った人物が止めた。
身長はバイズよりも小さい。小柄な人物だ。
フードの人物はゆっくりとオルガの方を指すと嘲笑うかのように言う。
「まさか、あの王国の天才が奴隷売買に手を貸しているとはな」
そして懐にあったナイフを取り出し戦闘態勢を取る。それを見て殺気を感じたオルガもまたいつでも対応できるように体制を変えた。
「ちょっと待ってください。ミリア様。あの人達はおそらく村人です。まずは話を……」
「問答無用!!」
フードの人物はオルガに向けて超スピードで駆ける。そのスピードでフードが外れ顔が見えると、オルガは驚きの表情を浮かべる。
「お前は……盗賊の……!?」
フードの人物は、黒髪のショートの少女。ミリア。
「あの時は不覚を取ったが、今度は負けない!!」
ミリアは両手にナイフを持ち、オルガへと斬りかかる。
オルガはそれを避ける。
凄まじい身のこなし。並の人間ならすぐにやられているだろう。しかし、オルガも負けていない。ミリアの体の動きから次の攻撃を予測し、上手く避けている。
「村人をどこにやった。奴隷売り!」
ミリアは攻撃をしながらそんなことを口にする。
「知るかよ。それはこっちが知りたい」
オルガも避け続けることも困難になってきたのか。反撃をするため鎌を取り出した。
このままでは戦闘が本格化してしまう。犠牲が出るかもしれない。
そう感じたパトは二人を止めようと声をかける。
「ちょっと待ってください。何か勘違いが……」
しかし、二人は話を聞く様子はない。
どんどん戦闘が激しくなっていく。そして二人だけの世界になっていく。
このままだと、本当にまずい。事情も話せず戦闘が起きてしまう。この二人の様子を見て、ヤマブキ達もあちらの兵士もやる気になり始めている。
「「戦闘をやめろ!!」」
パトの声共にバイズの声も村に響き渡った。
騎士長バイズのおかげでどうにか事態は何事もなく落ち着いた。そしてお互いに事情を話し合い、何があったのか、理解することができた。
「つまり俺の村はその奴隷狩りにあったと言うことですか」
「そういう事です」
噂では聞いていたが本当に村を襲うことがあるとは……。
フルート王国が滅んでから、その土地に新しくできたアングレラ帝国。帝国は魔法の使用を固く禁じ、肉体の労働を中心に国を支えている。
しかし、魔法の発達したこの時代で魔法無しで経済を回すのは難しい。そのため帝国は奴隷の使用を認めている。
「この村の周辺でアングレラ帝国の軍隊を見つけたと報告があり、我々はニーオン家の指示の元、駆けつけたのですが……」
間に合わず、村人は消えていたということか。しかし、村には争った様子はなかった。村人だって抵抗はする。父ちゃんだっていたのだから、尚更である。そのことをパトが伝えると、バイズは厳しい顔をする。
「奴らは手慣れた集団です。噂にはなっても事件にはならない。それが奴らのやり方です。だから、王国も手を出せない」
そう言われて理解した。アングレラ帝国は奴隷を認めていても、オーボエ王国は認めていない。サージュ村は王国から離れているとはいえ、王国に属している。このことを王国に報告すれば戦争ものだ。
しかし、それはできない。なぜなら証拠がないのだ。
「手口は分からない。しかし、このままでは……。君の村も救うことができないて申し訳ない」
バイズは頭を机に擦り付ける。
「いえ、助けに来てくれただけでも嬉しいですよ」
パトはバイズにお礼を言う。
この男達と、そして外でオルガと喧嘩をしているミリアは村のために命懸けで駆けつけてくれたんだ。感謝はしても恨みはしない。
「お茶でもお代わりしますか?」
「ああ、頂こう」
パトはお茶を追加する。その様子を見ながら、バイズは口ずさむ。
「君達には感謝しかない。エンザンのこと……そしてお嬢様のことも……」
バイズの言葉にパトは理解できずに首を傾ける。そんな中、扉が開き、オルガとミリアが入ってくる。まだお互いに悪口を言い合っているが、なぜか仲良く見えてしまう。
「君がパト・エイダーで良いんだな」
ミリアはパトの前に立つと改めて名前を聞いてきた。
「はい。この村の村長の息子パト・エイダーです」
「なら、今はこの村今は君をこの村の代表として、提案しよう。我々に保護されないか?」
⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎ ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎
村を出て馬車に揺られ、パト達は村から南東にあるヤザ村へと向かっていた。
「まさかお前が貴族とはな。驚いた」
オルガはそんなことをミリアに言う。ミリアは呆れた顔でオルガを見た。
「ふん、気づかない奴が悪い。貴様と対峙した時に名乗っただろ」
ミリアの言い方が気に食わなかったのか。オルガが言い返し、また言い合いを始める二人。
ミリア・アドラス・ニーオン。そう、彼女は十二貴族の一つニーオン家のお嬢様であった。
十二貴族とは魔法文明を作り上げたマジーの子孫達を刺し、王族と同じく固有魔法を使うことができる。
しかし、パトは疑問に思う。オルガが言うにはミリアは熊の爪(オングル・ウルス)にいたという。なぜ、貴族のお嬢様が盗賊と一緒にいたのだろうか。
そのことを聞くと、ミリアはやれやれと答える。
「それはだな。こいつの……」
ミリアがそう言い、バイズの方を向くとバイズは俯きながら言う。
「それは私のためですよ。私のため……我が友のためにお嬢様は無茶を……」
そう言いかけた時、外の様子が一気に変わる。森を抜けついたのは煉瓦造りの村。二階建ての建物が綺麗に並べ慣れ、道も煉瓦で整備されている。村の中央には大きな広場と変わった銅像が建てられている。
サージュ村とはまた違った景色だ。そして何よりも村自体が大きい。
「到着しました。ここがヤザ村です」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます