第22話  【村を救いに】

 世界最強の兵器はここに!?22



 著者:pirafu doria

 作画:pirafu doria



 第22話

 【村を救いに】





 9年前。何十年も停戦を続けていたオーボエ王国とフルート王国の間で大きな戦争が起きた。




 世界の始まりの大樹が存在すると言われる大陸の西を巡る争い。それはのちに聖地戦争と呼ばれる大戦争である。




 戦争は長きに渡り続き、両国とも疲労が溜まりつつあった。

 フルート王国はまだ開発段階であったある兵器の稼働させ、戦況が傾き始める。




 しかし、そこに二人の魔法使いが現れた。




 二人の活躍により、戦争は終結。長きに渡る悲惨な戦争は終焉を迎えた。






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「そうか。君は……。分かった」




 ゴードはそう言うとミリア達に指示を出す。




「連れて行く兵士は彼らにしなさい」




 父の意外な言葉にミリアは口を噤ませる。




 今日は出会ったばかりの人物。信用できるわけもない。それに天才魔法使いがいるとはいえ、それ以外は村人だ。戦力としても期待できるか不安だ。




 不満そうなミリアは姿を見たゴードは続ける。




「彼女達を連れて行くことは、お前にとって成長になる。これは命令だ」




 父の強い言葉にミリアは驚く。




 ゴードは聖地戦争で足を負傷し、それ以降動くことができなくなった。

 しかし、それ以上に娘が父に感じていた以前との違いがある。それは覇気だ。




 戦争前は何かに負けないように頑張っていた父であったが、戦争から帰ってきてからその気迫を失った。




 屋敷の者の話によれば、戦争で友を失ったとも聞いた。




 そんな父から久しぶりに聞く覇気のある言葉。




 そのゴードの姿にミリアは懐かしさと憧れを感じる。

 そして返事をすることなく、パト達の元へ向かい、すれ違うと部屋から出て静かに言った。




「……着いてこい。これから作戦会議をする」






 翌朝、馬車に荷物を詰め込み旅の支度をする。




 馬車を引く馬は二匹いて、荷台は白い布で覆われて古屋のようになっている。

 中にはいくつかの酒の入れられたタルが積まれている。




「昨日言ってた偽装の商品ですか」




 パトは確認のためバイズに尋ねる。それを聞くとバイズは首を振って頷いた。




「ああ、これで権門を突破する」




 アングレラ王国に入国する際には権門が存在する。しかし、奴隷解放のため武装した状態では突破はできないだろう。そのため権門を突破するために酒を売りに来た商人のフリをする。




 支度を終えるとミリアは馬車の前で参加者を整列させる。




「よし、これから出発する準備は良いか!!」




 今回の奴隷解放作戦に参加する人員は全部で六人。




 固有魔法の転送魔法を使い、自身やモノの位置を移動させることができ、身軽な体術とナイフ術を得意とする。十二貴族ニーオン家の長女ミリア・アドラス・ニーオン。




 元フルート王国の聖騎士長にして、剣術の達人。鎧の下に秘められた剛腕な肉体で巨大な岩すら切り倒す。バイズ・ザード。




 未だ画面に隠された状態をする者は少ない。大鎌を武器に敵を切り裂き、感覚が強化された身体は風の動きから敵の動きを感知する。オルガ・ティダード。




 膨大な魔力を有し、彼女に魔法知識で敵う者はいない。災害すら操り、体力のモンスターを葬り去る。天才魔法使いがここにエリス・グランツ。





 身体に仕込まれた兵器。強靭な肉体と敵の感情を読む解析能力はどこで手に入れたものなのか……。異界より現れし美少女ヤマブキ。




 父から教わった武術や剣術。村で培った知識と経験を生かす。オルガから貰った剣を手に、家族を救うため村人が戦う。パト・エイダー。





 人員が全員いることを確認すると、ミリアは早速馬車へと乗り込む。




 見送りの人間は屋敷の使用人のみ。この作戦を知る者は僅かしかおらず、ミリアは二人の妹にもこのことは黙ってきている。




 全員が馬車に乗り込むと、バイズが馬を引いて馬車を動かし始めた。




「それでは出発する」




 馬車はゆっくりと動き出し徐々に速度を上げていく。




 小さく見えなくなっていくヤザ村を目にミリアは呟く。




「必ず……」






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 馬車が進みもうすぐ日が暮れる。アングレラ帝国までは約三日かかる。そのうち一日目は村までの距離も遠く野外で寝ることになりそうだ。




 馬車を操作するバイズはこの前の鎧は脱いでいるが、モンスターに遭遇した際はすぐに戦闘できるように剣を腰に持っている。




 馬車の中では各々が時間を潰していた。




「またその本を読んでるの?」




 杖を磨いていたエリスが、そばで本を読むパトに呆れた顔で聞く。

 パトが読んでいるのは『アルシミーのシミのようなアル秘密』という本。昔友人であるエスから貰った本であるが、パトは飽きずに何度も読み返している。




「何度読んでも飽きないさ。もしかしたらみんなを救う方法が見つかるかもしれない」




 パトの期待に満ちた言葉にエリスはため息を吐き。




「それはないと思う」




 と答えた。その様子を見ていたミリアは前々から聞きたかったことを聞く。




「なぜ貴様は恐れない。家族や友人を助けたい気持ちはわかる。しかし、これから行くのはフルート王国を滅ぼし新たな国となった武力の国。下手をすれば戦闘になるのだぞ」




 それを聞くとパトは本を閉じる。




「分かってます。怖い気持ちもあります。でも、俺には目指すものがあるんです」




「目指すもの? 騎士か?」




「いいえ、頼れる村長です」




 その言葉にミリアは目を丸くする。




「村長……」




 そして吹き出すように笑い出す。




「貴様の中の村長は戦うのか?」




「はい。戦いますとも村のためなら……。命だって……」






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 しばらく馬車を進ませ、昼を過ぎて日が沈み始めた頃。場所が突然止まった。




 何があったのか気になり、布を少しめくり外を覗くと外には二人の男が仁王立ちで立ち塞がっていた。




 一人の男は金髪で大柄な厳つい男。もう一人はその男の身長の腰程度しかないが坊主でこちらも馬車を睨んでいる。





 まだアングレラ帝国とは距離がある。権門はまだ先のはずだ。しかし、相手の情報が分からない今は、馬車の中に身を隠してバイズに任せるしかない。

 ミリアも同じ考えのようで、馬車の中で堂々と心配することなく見守っている。




「何の用だね、君たち?」




 馬車からは降りず、いつでも馬車を動かせる状態でバイズは聞く。

 すると金髪の男は口元を緩めニヤリと笑い話しかけてくる。




「ここは俺たち、ルーヴの縄張りだ。ここを通りたいってんなら、金目のもんを置いていくんだな!」




 二人は武器を取り出すと馬車を囲う。金髪の男は木製の巨大ハンマー。坊主はナイフのような短剣。




 行動や発言から盗賊だと判断したミリアは馬車から身を出す。

 それに続きパト達も馬車から顔を出した。




 相手は二人だが、時間をかけている暇はない。盗賊相手なら多少強引でも切り抜けてしまいたい。

 バイズに手を貸そうと此方も武器を取り出そうとするが、横に手を伸ばしそれらを止めた。




「ミリア様……ここは私が」




 それを聞いたミリアは「……そうか」と小声で答えると武器をしまう。

 バイズは懐にある剣を取ると、道を塞ぐ二人へと歩み始めた。




「なんだァ! おっさん、やる気かァ?」




 バイズが近づいてくるのに少しびびったのか。坊主は短剣を振り回し足を振るつかせながら挑発する。

 その挑発に対しバイズははっきりと返す。




「ああ、私一人で君たちの相手をしよう……それに」




 懐から布を取り出すと、それで剣の鞘と鍔をぐるぐると巻く。何十にも巻いてガチガチに固まった剣を二人に見せつける。




「この剣を抜かないと宣言しよう」




 バイズの言葉に坊主は眉を寄せる。




「な、何を言って…………」




「ふざけんなァァ!!」




 坊主が何か言いかけた時、金髪の男が大声を叫びながらバイズへと突っ走り始めた。

 金髪の男は運動能力が高いのか、それなりの距離が離れていたはずなのにすぐにバイズの目の前に立つ。




「ウォォォリャォァァァ!!」




 そしてハンマーを振り上げると、思いっきりバイズに振り下ろした。

 しかし、バイズは何も驚くことなく。冷静に一歩前に出る。

 ハンマーが振り下ろされるよりも早く、金髪の男の腹のみぞを肘で殴り付けた。




 腹を殴られた男は口から透明な液体を吐き出しながら倒れる。




「ラグナァァァァ!!」




 大の字に地面に伏す男を見て、坊主の男が悲鳴をあげる。





 それに答えるようにラグナと呼ばれた金髪の男は声を返す。 




「うるせぇな。ナト」




 だが、その声はガラガラでダメージは大きいらしい。息を整えラグナが立ち上がるとナトの元へとのそのそと戻っていく。




 バイズの攻撃は確かに手加減をしてみねうちをした。しかし、それでもしばらく立ち上がれない程度に攻撃したつもりだったのに、ラグナが立ち上がり仲間の元へと戻れることに疑問を覚える。





 ラグナはナトの元にたどり着くと、腰を落としてナトに耳打ちをする。




「おい、こいつ結構強ェぞ」




 ラグナは耳打ちのつもりらしいが、声が大きくて距離のあるパト達にも声が聞こえてしまう。

 しかも、ラグナはバイズの攻撃をやせ我慢しているのか、足が震え鼻からは血が垂れている。




 ナトに鼻血が出ていることを指摘されると、ラグナは腕で豪快に拭き取り、今後のことを相談し出す。





「兄貴、ここは一旦退いて師匠に相談してみてはどうで?」




「俺様に逃げろだとォ!? …………いや、そうするか。ここは一旦退却だ!」




 ラグナとナトは相談が終わると、そそくさと武器をしまい、バイズとは反対側の森に身体を向け足踏みを始める。




「ガハハ! 今回は見逃してやる! 次会った時は覚悟すんだな!」





 そう捨て台詞を吐くと、猛スピードで森の中へと消えていった。




「逃げたみたいね」




 逃げ去った二人を見てエリスが呟く。それを聞いたバイズは剣を解きながら、




「これで懲りたら良いが。あの感じまた来そうだな……」




 出だし早々盗賊に襲われる。そしてその盗賊に目をつけられた。

 道中に不安を覚える一同であった。








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