決着。

 目の前の男、マルクスは完全に戦闘態勢だ。

 タケルも武器を構える。ツルハシを。


「ぷっ。はははは! まともに武器も持ってないのか? 可哀そうな奴だ」


 煽られた。いや、そりゃあ武器がツルハシなのは少し気にしてたけど。

 それにしても3対1だというのに強気な奴だ。それでも勝てるという自信があるのだろうか。いや、当然だろう。こちとら数日前に冒険家としてギルドに登録したばかりのパーティだ。

 それに、正直勝てる気もしない。なにせさっき、罠にハメられたとはいえ取り巻きの2人にやられたのだから。

 だが、足止めくらいは出来るかもしれない。そもそもこの勝負の勝敗は宝石を持ち帰る事によって決まるのだ。

 それに、彼女たちに怪我させるわけにもいかない。

 タケルはその思いで彼女たちに言う。


「ここは俺が足止めしておく、2人は先に行って宝石を取ってきてくれ」


 強く頷いたベティはドロシーを連れて階段を下りていった。


 さて、この状況をどう乗り切るか。

 奴との距離は15メートルほど。鎧を着こんでいて、ツルハシ程度じゃどうにもならない。その分、重量のある鎧のハズだから俊敏な動きは出来ないだろう。

 まず正面から殴り合っても勝ち目は薄い。かと言って逃げれば、俺を無視してベティ達を追うかもしれない。とにかく時間を稼ぐにはしかない。

 マルクスは間合いを詰めようと一歩前に出る。タケルはそのタイミングで手に持っていたツルハシを投げる。


「ちょ、ちょっと危ないだろキミ!」


 マルクスは怯みながらもツルハシを剣で受け止めた。

 タケルは間髪かんぱついれずに廊下に飾られたツボを手に取り投げる。

 ツボが置いてあった台を掴んで投げる。

 壁に掛けられた絵画を投げる。

 投げる投げる投げる。

 その間マルクスは防戦一方だ。

 よし、上手くいきそうだ。そう思い、別のツボに手をかけた時、肩に激痛が走る。短剣が刺さっていた。


「ゴメンね。時間稼ぎのつもりかもしれないけど無意味だよ」


 横から取り巻きの盗賊の声がした。タケルがそっちを見ると盗賊の横には武闘家の男も居る。しまった。物音を立てすぎたせいでマルクスの仲間が集まってきた。

 割れたツボの欠片が顔に刺さったマルクスは相当お怒りだ。剣を振りかぶって一目散にタケルの方へ走る。

 

 避けないと。いや、体が動かない。足に力が入らない。この短剣に毒が塗ってあったのだろう。マズイ。このままでは本当に怪我じゃ済まないぞ。死ぬかもしれない。

 タケルに剣が振り下ろされる。


「物理障壁-フィジカルシールド-」


 マルクスの剣はキン、と音を立ててはじき返される。

 タケルは後ろを振り返る。


「ドロシー……どうして戻ってきたんだ」

「いや……なんか、足止めするとかカッコイイ事言ってたけど。無理だろうなって、私が戦ったほうが良いと思ったんだけど、あまりにもカッコつけるから、そう言いだせなくて……」


 タケルは体の傷より心の傷の方が遥かに大きくなった。

 いや、これでも勇気を振り絞って言ったのに。確かにちょっと思ったよ。身の危険をかえりみずに仲間を助ける俺カッケエって。でもカッコつけて言ったわけじゃ無いんだけどなぁ。


「でも、相手が3人いるなら私が加勢してもいいわよね」


 そう言って空中に魔法陣を描き、その中から長杖を取り出すドロシー。その体には黒いオーラを纏っていた。


「移動不能-ムーブバインド-」


 3人の足元に魔法陣が敷かれる。


「動けねえ! どうなってんだ!」


「サクションオーラ」


 今度は盗賊と武闘家に黒いオーラがまとわりつき、白目をむいて気絶する。


「美味しくないマナね」

「くそ、何だってんだ! というか誰なんだコイツは。2対3の勝負だっただろ! 登録外からの参加はルール違反だぞ!」


 そう言ってマルクスは剣の切先きっさきをドロシーに向ける。


「風撃-ウィンドショット-」


 室内に、ツボや台が倒れるほどの暴風が巻き起こる。それが切先へと収縮し、ドロシーに放たれる。


「魔法障壁-マジックシールド-」


 が、ドロシーには届かない。


「魔法とはこのように使うものです」

「風撃-ウィンドショット-」


 そう言ってマルクスをした指先から放たれた魔法はマルクスの胴に直撃する。鎧はへこみ、マルクスは勢いよく飛ばされ、窓を突き破って城の外へと消えた。


「今治療するわね」

「解毒-ディスペル-」


 体が軽くなるのがわかる。妨害魔法、攻撃魔法、防御魔法、治癒魔法、この人は一体何者なんだ。

 だが、ドロシーのおかげで助かった。


「ありがとうドロシー」

「いいのよ。手伝ってあげるって言ったでしょ?」


 笑顔で返される。天使のような人だ。ちょっと行動が怪しいけど。


「タケル。宝石、取ってきたわよ! ってあれ?これどうゆう状況?」


 勢いよくベティが帰ってくる。

 

 なんとか危機を乗り越えられた。これを持ち帰れば俺たちの勝ちだ。敵はもう伸びてるし、ギルドに帰るだけだ。




 一応ルール違反という事で、ドロシーに手伝ってもらった事は伏せなくちゃいけない。いや、手伝ってもらったというか、全部ドロシーがやったのだが。

 友人に恵まれた事とドロシーに感謝しながら、ドロシーとはギルド前で別れる。

 悟られないように、自信満々の態度でダンジョンの宝石をギルドに提出する。

 ギルドの受付嬢も驚いているが、この勝負はタケル達パーティの勝ちという事になった。


 タケルとベティはサラを連れ、帰宅した。

 その日2人は泥のように眠った。

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