対決。
その男、セミロングの金髪、耳には宝石のピアス、白地に金の装飾が施された鎧を着ている。いかにも成金っぽい嫌味な恰好だ。
初対面のサラに突然、結婚してほしいだなんてよく言えるものだ。
「僕の名前はマルクス・ディートリッヒ。彼女は君の仲間で、手放したく無いのは分かる。こんなにも美しく可憐な魔術師なのだから。
美しく可憐なサラは微動だにしない。
少しくらい抵抗してくれと不安になる。だが、勝負を受けるつもりは無い。相手は初心者の冒険家とは思えない装備だし、どんな勝負になるのか分からないので分が悪い。逃げない事は必ずしも美徳ではないし、サラ姉の人生を賭けるわけにはいかない。
「ちょっとアンタ達。急に話しかけてきて何言ってるワケ?」
こうゆう時のベティは頼もしい。良くも悪くも素直だからか、恐れず思ったことを口にする。
「美しく可憐な女の子はまだ居るでしょう? なんでサラだけなのよ。私も勧誘しなさいよ」
「なんだお嬢ちゃん。君もこの男にうんざりしてるのか? だったら君もウェルカムだよ」
「嫌よ」
さすがにこの男に同情せざるを得ない。ベティは何がしたいんだ。
「……。まあいい。別にあんたみたいなのは要らない。だが、勝負はしてもらうよ」
「申し訳無いんですけど、これから用事もあるもので勝負とかはちょっと……」
ここは丁重にお断りしよう。
恨めしくマルクスを睨んでるベティを尻目に席を立つ。
するとマルクスの後ろに立つ二人がニヤニヤと笑う。何か嫌な予感がする。
「悪いねキミ。もうギルドに申し込んじゃったんだよね。もし勝負を破棄するというなら彼女は置いて行ってもらおうか」
もう申し込んだ? 馬鹿な。確かにギルドには、落ちていた装備やモンスターの素材の所有権を巡って冒険家同士の争いを劇化させないように、お互いが納得する内容で勝負をして決着を着ける制度がある。だがそんな話は聞いていない。お互いの同意が無いと申し込めないハズだ。
俺は慌ててギルドの窓口に行くが、どうやら奴の言った通り勝負は受理されているらしい。受付嬢が申し訳なさそうに俺の方をチラチラと見てくるが、目を合わせてくれない。何か裏から手を回したのか。
そもそも人を賭けて勝負するなんて、そんな事許されるのか。
「公営のギルドに認められている以上、お前らにはどうする事も出来ない。勝負をするかおとなしくその女をこっちに引き渡すかしかない。ま、もっとも勝負したとしても勝つのは俺らだがな。」
そう言って奴ら3人は高らかに笑う。
勝負内容は中級ダンジョンの攻略。最奥にある宝石を先に持ち帰った方の勝ちというものだ。
「ああ、それと。2対3になってるけどいいよな? その女は賞品なんだから」
「彼女は僕の妻になる人だぞ。失礼はよせ」
「悪い悪い」
何処までも卑怯な奴らだ。だが、どうすればいい。もう手詰まりだ。
そう
「それじゃあ、今からスタートって事で」
マルクス達はギルドを出ていく。
その場に立ち尽くすタケルにベティが喝を入れるように怒鳴りつける。
「ちょっとタケル! あんたまさか諦めてるんじゃないでしょうね。早く行くわよ。先に取ってきた方が勝ちなんだからさっさと準備しなさい」
俺はサラ姉の方を見る。
サラは優雅に紅茶を飲みながら手を振っている。行ってらっしゃいと。
「どこまでマイペースなんだよ」
そりゃ暴れられて怪我されるよりはマシだが、冷静すぎるだろう。
そう思ったら気も楽になってきた。とりあえずやるだけやってみよう。ダメだったらその時考えよう。
そう思い走ってギルドを飛び出すタケル。
勝負の舞台になるダンジョンまですこし距離がある。慌ててギルドを飛び出して来たが、着くまでに体力を使うわけにもいかず、歩いて向かっていた。
目的の場所まであと3分の1ほどといったところで足元に嫌な感触があった。足元を見ると辺りが泥沼になっている。
トラップだ。あいつ等、道中にトラップを仕掛けて俺らを足止めするつもりか。
すると岩陰から人が姿を現す。マルクスたち3人だ。
「悪いね。ここでくたばってもらうよ」
決闘でもない限り、勝負の最中に相手チームに危害を加えるのはルール違反だ。そんな事もお構いなしに、マルクスの仲間の武闘家の男に強烈な一撃を受け、倒れるタケル。
反撃しようと銃を構えるベティだが、盗賊の女が投げた睡眠ガス玉らしきものに当たってダウンしてしまう。
そのまま去っていくマルクス達の背中を追おうとするが、意識が遠ざかる。
くそ、負けるわけにはいかない。
そのタケルの思い虚しく、気絶してしまった。
「……い。おーい。大丈夫?」
目を開けるとそこには見覚えのある顔が。
ドロシーだ。
「ドロシーさん……なんでここに……」
「今日も魔法の練習と思って出かけてたのよ。それに、それはこっちのセリフだよ。なんでこんな所で寝てるのかしら? 私の事を振ったくせにサラさんとベティちゃんはどうしたの」
そう言われてハッとする。振り返るとベティが居ない。もしかしたら俺より早く目が覚めて一人でダンジョンに向かったのだろうか。
タケルは起き上がり、ドロシーに事情を説明する。
「そうゆうワケなので、急いでいるんです。ごめんなさい」
ドロシーはそう言って立ち去ろうとするタケルを呼び止め、自信満々の笑顔で言った。
「私も手伝ってあげる」
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