妖艶なる魔術師。
ダンジョンを後にした俺たちは
「タケルあんた、そのピッケル持ってきてどうするつもりなの?」
「どう、ってせっかく見つけた魔道具なんだから捨て置くわけにもいかないだろ」
「何に使えると思ってるのかって聞いてるのよ。岩壊すしか能のない上に持つのめんどくさくなって引きずってるじゃない」
手持無沙汰になったベティに絡まれる。
確かに何かに使えるかと言われたら思いつかないが、せっかく自分で見つけた魔道具なんだし記念に持ち帰ってもいいだろう。もしかしたら売れば多少の金になるかもしれないし。そもそも俺は昔からモノが捨てられないタイプなんだ。
ベティと睨めっこしていると辺りの森がざわつき出した。小動物が慌てふためき逃げていく。何事かと動物たちが来た方を見ると、ドシンドシンと地面が激しく揺れゴーレムが現れたではないか。
サラ姉いわく、ゴーレムは上級魔法で構築できる召喚獣らしい。何故森の中にいるんだ。
後方から追ってくる人影がタケル達に話しかける。
「ちょっとそこの人達! お願いその子を足止めしてくれないかしら!」
軽く全長10メートルはあるであろう
「ちょっと手荒になるけどご勘弁を!」
そう言ってゴーレムの足を狙う。足を砕かれたゴーレムは転倒し、動けなくなった。
後から追いついて来た、腰まであろうかという暗い茶髪に、長身で豊満な胸を持つ碧眼のその女性は、赤の混ざった黒いローブを纏いどこか只ならぬ雰囲気をかもし出していた。
「ありがとー! あなた見かけによらず強いのね」
そう言って彼女はパンと手を叩き、ゴーレムが消えた。
バカにされたのか褒められたのか分からないが、一応照れておく。
「この大きさのゴーレムを詠唱も無しに封印するなんて、彼女とんでもない魔術師よ」
珍しくサラが驚いている。どうやら相当な実力者らしい。
「違うの、封印したわけじゃなくて、このゴーレムは私が召喚した子なの。元の場所に帰しただけ。久しぶりに召喚したら暴走しちゃって」
どちらにしてもすごい事だ。あんなゴーレムを召喚できるなんて、只者では無いのだろう。
「それにしてもあなた、すごいマナをしているわね」
そういって彼女は俺の顔を覗き込むように、まじまじと見つめる。良くみると、相当な美人さんだ。整った顔立ちに透き通るような目。なんだかドキドキしてきた。
「美味しそうなマナね……ヘヘヘ、おっとヨダレが」
一瞬様子がおかしかったが、彼女は手の甲で口元をふき取り、キリっと開き直った。
「自己紹介がまだだったわね。私はドロシーって言うの」
タケル達は軽く自己紹介を済ませる。
「サラさんに、タケル君に、ベティちゃんね」
「なんでサラには"さん"付けなのに私には"ちゃん"なわけ!?」
どうでもいいとこに突っ込むな。強いて言うならそうゆうトコが子供っぽいのだろうよ。
するとドロシーはおもむろにタケルにすり寄り腕に手を回す。
「ねえ、タケル君。冒険家として初心者でしょ? 私が色々と教えてあ・げ・る。私と一緒にパーティ組みましょう?」
え? えええええ!? な、何だこの状況は。 なんというか腕に柔らかい感触が……
「ちょっとタケル。あんたなんてだらしない顔してんのよ!」
何故か怒るベティ。サラの笑顔も何処となく怖い。
俺そんなにだらしない顔してたか? いや、していたかもしれない。というか、健全な男子ならばだらしない顔の一つにもなろう。ベティには無いモノが有りすぎる。
「ちょっとアンタ。いつまでタケルに引っ付いてるのよ。パーティは私たちが先に組んでたの」
「あら、それは残念」
ドロシーはスッと手をほどく。
その幸福はあまりにもあっけなく終わってしまった。
「じゃあ、よかったらうちの店に来てよ。魔道具を扱ってる店なの。冒険家なら行きつけの魔道具店があって損は無いわよ」
そう言って"ドロシーマジックツールズ"と店名が書かれた地図を渡し、そそくさとまた森の中へ消えていった。
名残惜しくてドロシーの背中を目で追うが、サラとベティの痛い視線が背中に刺さるのがわかる。早く帰って部屋に籠ろう。
翌日の朝。
今日は朝からギルドへ向かう用事があった。というのも、ダンジョン踏破の報酬を受け取るためだ。実際に踏破したのは昨日の事であるが、報酬の支払いが満額されるかどうかの査定があるので、支払いは数日後になるのが一般的だ。
まあ、昨日のダンジョンは小さいダンジョンだったし、1日で済んだんだろう。
実際にギルドへ行くと、報酬が支払われた。15000チェン満額だ。
「よっしゃー! 冒険家になって初めての給料! 今日ばかりは、贅沢しようぜ!」
舞い上がるタケル。サラとベティも満更では無い顔をしている。
タケル達は一度も行ったことの無い、ギルドに併設されている酒場へと向かった。酒場とは言っても朝や昼は定食など普通の食事がメインで提供されている。
優雅に食事を楽しんでいると、見知らぬ男女3人組が話しかけてくる。見た感じ剣士、盗賊、武闘家といった感じのパーティだ。
「ああ、愛しのマドマーゼル」
3人組のリーダー格であろう男は手を差し伸べる。
「あの……何か用ですか?」
そう言うタケルに対してお前じゃないと言わんばかりの態度をみせ、向き直る。その視線の先にはサラが居た。
「お嬢さんには私と結婚して頂きたいのです」
そう男は言った。
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