冒険家、初クエスト。
無事に研究資料を持ち帰ったタケル達はファダル宅を訪れた。
「ファダルさん。持ってきましたよ」
「おお、ご苦労。さて、明日から作成に取り掛かるとして、ま、1週間くらいはほしいのう」
どうやら装置の完成まで数日はかかるらしい。ベティも風呂に入りたがってるし、早く自宅へかえろう。
自宅へ帰ったタケルは夕飯の支度にとりかかるが、食材を切らしてる事に気づく。
「そうだ。昨日は金も無いし、1日分しか食材を買ってこなかったんだ。買い出しに行かないと」
そうして買い出しに向かおうとするタケルだが、ある事に気づく。
「ん? まてよ。金無くね?」
今日は朝早くからファダルを訪ね、研究資料を取りに行き、決死の思いでガーディアンを倒し見事討伐。達成感に満ち溢れていたが、収益は0である。
タケルはサラに泣きついてお金を貸してもらう事にした。
「いいけど……私だって無限に貯蓄があるわけじゃありません。なんとかしないと生活も苦しくなります。なにしろ冒険家になるために村を出たのにギルドの依頼なんて一つもこなして無いじゃないですか。」
正確には最初のチュートリアル的な依頼はこなしたが1日分の食費で全て消えた。これじゃ生活もままならないのは確かだ。
「明日はギルドの依頼をこなすか」
そう言ってタケルは買い出しへ向かった。
「というワケで、明日はギルドの依頼を達成して稼ぐ必要があるわけだ。この家に住む限り、働いてもらう事になる」
食卓にて、風呂上りのベティにその
「ギルドの依頼と言っても色々あるわけだけど、どんな依頼を受けるつもりなんです?」
サラが質問をする。ベティは食い気味に言う。
「未踏破のダンジョンに行くのが一番のオススメよ」
「未踏破のダンジョン? なぜですか?」
「ダンジョンの中のモノは自由に持ち帰って良いのよ。いいモノがあるかもしれないじゃない」
そうは言うが、未踏破のダンジョンなんか何があるかわからない。そりゃあ高く売れる宝もあるかもしれないが、危険も伴う。ここはやはり簡単な依頼からこなすべきだろう。
「いや、そうかもしれないけど危険だろ? 街の付近の警備とか、採取依頼とか、簡単なやつからやろうぜ」
タケルはそう
「これだから駆け出しは。確かに民営の怪しいギルドとかなら危険な依頼は有るかもしれないけど、公営のギルドに出されてる依頼は危険なのは少ないの。未踏破といえどもダンジョンの場所や周囲の環境からある程度の難易度は割り出されてるわ。初心者用の未踏破のダンジョンなら問題無いわ」
ベティがそれはそれは得意げに語りだした。海賊のくせに何故かギルドに詳しい。
ベティの性格上、嘘は付いてないだろう。
「ね、サラもダンジョン攻略の方がいいと思うでしょ?」
「別に私はどちらでも構わないけど、ベティがそこまで言うならそっちでいいんじゃないかしら。」
サラは興味無さそうだ。吸魔石があった洞窟を見つけた時はあんなに興味を引いていたのに。一方ベティはさらに情熱的にタケルに訴えかける。
「そうゆう所には古いモノとかたくさんあるのよ。魔道具だって有るかもしれないのよ。あんた魔法使えないんでしょ? その電気が出る短剣だけじゃ芸が無いじゃない」
そう言ってベティは顔をグイ、とタケルに近づけた。風呂上りの良い香りがするが、今はそうゆう話ではない。
「分かったよ。じゃあ良さげな依頼があったら未踏破のダンジョンの依頼を受けよう」
明日の方針は決まった。とりあえず食費だけ稼げばいいというタケルの怠惰な考えは打ち砕かれ、本格的に冒険者稼業を始める事となった。
まあ、もともと冒険者ってそうゆうモノだ。むしろ躊躇していた所をベティに背中を押してもらえた。これで良かったのかもな。思えば今日は色々な経験をした。冒険者としてまだ3日目だが、今までの人生の中で一番と言って過言ではないくらい貴重な経験だ。これからもこんな経験があるのだろうか。
タケルはそう思いをはせながら眠りについた。
翌日、例の如く軽く食事を済ませ、昼の弁当を作るタケル。一晩経って、ダンジョン攻略が楽しみになっていた。まあ、依頼があるかどうかは分からないのだが。
~公営ギルド支部~
ギルドにある依頼掲示板と睨めっこするタケルとベティ。サラは椅子に座ってのんびりお茶を飲んでいる。初心者向けの未踏破ダンジョンの依頼が無い。
実績があれば受けられる依頼はあるのだが、あいにく実績が無い初心者なわけで。
「もうこれでいいんじゃないか?」
タケルの手には山菜取りの護衛依頼と書かれた紙。
難易度:☆
報酬:2000チェン
と書かれている。ベティはこれでもかと不満そうな顔をして抵抗する。
「無いモノはしょうがないだろ」
「ほら! これにしましょう!」
大はしゃぎするベティ。ジャストタイミングあまりにも強運だ。もともとその予定だったのだから
難易度:☆☆☆
報酬:15000チェン
この程度なら問題無いだろう。ちゃんと初心者向けの掲示板に貼られていたわけだし。報酬も申し分無い。さらに言えば、ベティが仲間に加わったのだ。割とポンコツだが戦力にはなる。
一行はこの依頼を受ける事にし、ギルドをあとにした。
~ダンジョン前~
ダンジョンへ向かう道すがら鼻歌を歌いながら歩くベティ。一方サラ姉は家にあった本を数冊持ってきたみたいで、ずっと歩きながら読んでいる。完全にピクニック気分だ。少々不安になる。そうこうしている内に依頼書に書いてある場所へと着いた。
入口には木材で出来た
「ここなの? ダンジョンというより坑道のようだけど」
「タケル道間違えたんじゃないでしょうね?」
2人が疑いの眼差しを向けてくるが、間違い無いハズだ。
タケルは松明を手に足を踏み入れる。
中は意外と広く、線路のようなものがひかれている。ダンジョンと言うには相応しく、四方八方に人が通れるような穴があいて、迷路のようになっていた。
少し進むと道の壁に火が灯り、明るくなる。
人が通ると自動で明るくなるのか?明らかに人工物もあるし、本当に未踏破のダンジョンなのか? そう疑いたくなる。
「もしかしたら以前には坑道として使われていた場所が、モンスターとかが住み着いた事によってダンジョン化したのかもしれないわね」
俺の疑問にベティが答えてくれた。確かに、人の手が入った坑道が後にダンジョン化した、というなら説明はつく。
「その可能性は高いかもしれません。これなんて鉄鉱石でしょうか」
サラは
それに気づいたベティが青ざめて指をさし、慌てふためく。
「そ、そそそれ、イワヘビじゃない?」
「「イワヘビ?」」
その連なる石はサラの腹部に頭突きをしたように見える。何処が頭かは分からないが。
サラはのけ反り、石は手を離れる。サラはムッとした表情を浮かべ氷の魔法を当てた。
「氷柱-アイススパイク-」
そのイワヘビとやらは、氷の魔法によって粉々に消滅した。
「なんだベティこんなのにビビってたのか? もしかしてヘビ苦手なの~?」
ヘビのようにウネウネとしたダンスを踊るタケル。
意外にもツボに入ったらしいサラは口に手を当ててプルプルと震えている。しかし当のベティは真剣な顔をしている。
「確かにヘビは苦手よ。でもイワヘビって本当はもっと大きいハズなんだけど……もしかして幼体だったのかしら」
なんだヘビ苦手とか意外とかわいいところが……じゃなくて、聞き捨てならない事を言ったような。今魔法を当てて
いやいや、本の読みすぎだろう。第一、世の常だと言うのなら冒険家になって今まで常識的な事なんて何一つなかった。今までの常識は通用しない!
そう自分の心に言い聞かせるタケルだが、そう甘くない。
微かに地面が揺れ、道の奥から巨大なイワヘビが現れる。さっきのイワヘビと同様に石が連なった形をしている。ただ違うのは、1つ1つの石の大きさが2~3メートルほどもあるという事だろう。
タケル達は
「どうすんの? こいつ」
※ 支保 : 坑道などで使われる落盤しないように天井を支えるためのもの。
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