新たな出会い。2


「海賊……? なんでこんな森の奥に海賊が居るんだ」


 その女性は銃につけられたドクロマークをとっさに手で隠した。


「か、海賊じゃないわよ。ここは森よ? なーんで海賊がいるわけ?」

「森にそんな露出の多い恰好で来る奴なんかいねーよ」


 タケルの返しにウッと言葉に詰まってから、まくし立てるように大きな声を出す。


「いーからさっさと有り金と持ってる物全部出しなさいよ! 撃たれたいワケ?」


 そう言って銃口をグイ、とタケルの前に突き出す。


「火球-ファイアボール-」


 セラが女性に向けて炎の魔法を放つ。火の玉は彼女の顔のギリギリ右をかすめ、若干髪が焦げている。恐らくわざと外したのだろう。


「ちょちょ、ちょっとあんた! いきなり魔法撃つとか非常識じゃないの!? 当たったらどうすんのよ! てか、この銃が見えないわけ?」

「そうだよサラ姉! 俺が撃たれたらどうすんだよ! やるなら一撃でおうむってくれよ!」


 驚いたように叫ぶタケルと女性。顔色一つ変えずにサラは言った。


「まずその銃は鉛玉なまりだまを撃つ銃じゃない。魔導銃よ。引き金を引くたびに魔法が撃てる便利な道具。そして魔導銃には事前に弾を込めるタイプと、自分のマナを即座に弾にするタイプの2種類がある。これは前者よ、にもかかわらずポーチの1つも持っていない。つまり弾が入ってないか、撃てても数発。さらに言えば吸魔石を持ってるタケルに魔法はあまり効かないでしょ」


 女性の銃を持つ手が震え、顔はどんどん引きつっていく。やっちまった、と言わんばかりに。そして静まりかえった時、ぐぅ~、と腹の音が鳴る。女性はとっさにお腹を押さえる。恥ずかしそうに。


「なんだ、腹減ってるのか? 俺の弁当食うか?」


 タケルはバッグから今日の昼食べる予定だった弁当を差し出す。サラの言うことが本当なら別に害は無さそうだし、薄暗くて良く見えなかったが、彼女の着ている服はかなりボロボロだった。海賊である事を隠したいみたいだが、明らかだ。何か事情があるんだろう。タケルはそう感じていた。

 彼女はパァっと明るい顔になり、タケルの弁当を食べ始めた。そこで思いもよらぬ提案をしてきたのだ。


「ねえ、この中に私も連れて行ってよ。中で見つけた宝を山分けにしましょ。悪い話じゃないでしょ?」


 この洞窟はサラのひいお爺ちゃんであるマーティンと、助手のファダルが研究資料を封印した場所。つまりお宝なんておそらく無い。それを分かった上でサラは提案し返す。


「私たちはこの最深部に有るとあるモノを取りに来たの。それだけは譲れないわ。その代わりそれ以外のモノは宝石だろうと宝の地図だろうと全部あなたにあげるわ。悪い話じゃないでしょ?」


 彼女は手に持っていたおにぎりを一瞬で平らげた。


「よし、交渉成立ね! 私の名前はベティ・ラヴァリエール。ベティと呼んで頂戴ちょうだい!」


 そう言って意気揚々と立ち上がり洞窟の奥へと進んで行く。

 いや、この人相当騙されやすいタイプだ。素直すぎるというか、疑いを持たないというか。いや実は---とベティを止めようとしたが、サラ姉が笑顔でにらんでくるのでやめた。


 軽く自己紹介を済ませ、道は広いが何もない洞窟を淡々たんたんと進んで行くタケル達一行いっこう


「そういえばベティが使ってる銃、弾が数発しか無いとか言われてたけど。戦えるのか?」


 そう言うとベティは自慢げに語った。


「ふふん、私は類稀たぐいまれなる才能の持ち主なのよ。魔法を圧縮してマナで固める事によって簡易的に銃弾を作る事が出来るわ。まぁ、簡単な魔法しか使えないけど」


 ベティはそう言って立ち止まり、火や氷を小さな弾のようにして見せた。俺にはよく分からないが、弾の心配はいらないらしい。


 さらに少し進むと入り口にあった扉と同じ形をした扉に突き当たった。ここは封印されていないらしい。扉を開けると大部屋に出た。青白い光で部屋中が照らされていて、如何いかにも”封印の間”だ。


「恐らく俺たちが求めていたモノはここにある。そしてそれはガーディアンが守ってるらしい。気を付けてくれ」


 ベティに注意喚起をし、部屋の中へ足を踏み入れる。が、ガーディアンは出て来ない。部屋を進むと奥に鉄で出来た箱が置いてある。封印が施されているみたいだし、恐らくこの箱に研究資料が入ってるのだろう。

 タケルは短剣をかざし封印を解こうとする。その瞬間部屋の真ん中に魔法陣が現れ、中身の無い石の鎧が召喚された。鎧は薄緑に発光したマナで四肢がつなぎ止められ人型をしている。タケルの2倍ほどの伸長がある。恐らくこれがファダルの言っていたガーディアンだろう。


 すかさずタケルは短剣にマナを流し込み電撃を放つ。しかしまったく効いていない。


「火球-ファイアボール-」


 サラも魔法を放つが無傷だ。


「こうゆうのはつなぎ目を狙うのが定石じょうせきよ!」


 ベティが放った弾丸は見事体と左腕の間に命中し爆発した。ガーディアンの左腕が落ちる。しかしすぐさまつなぎ止められる。


「一体どうやったら倒せるのでしょう」

「サラ、封印術とか使えないわけ?」

「魔術しか使えません。あなたこそあの石の鎧を砕く方法は無いのですか? 石頭でしょう? どうせ」

「ムッキー!」


 言い争う2人を尻目にタケルは何か良い方法が無いか考える。

 そうだ---サラ姉は炎の魔法を使える。ベティはたしか氷の魔弾を作っていたハズ。


「サラ姉!ありったけの炎の魔法を当ててくれ!ベティはガーディアンの胴に氷の魔弾を撃って!」

「ハァ? それでどうなるってのよ。」

「いいからやって!」


「炎柱-ヴォルカニック-」


 サラはすかさず詠唱する。ガーディアンの足元からサラの強烈な炎魔法が出現しガーディアンの体を包み込む。間もなくして炎が止むが傷は付いてない。


「ちょ、ちょっと! あーもう! ラピット・バレット・アイス!」


 すかさずベティが撃った3発の巨大な氷柱つららがガーディアンの胴に命中するが、熱せられたせいで氷柱は殆ど溶けてしまう。すかさずタケルはガーディアンに向かって突撃する。


「どんな物体も温度差でもろくなるんだよ! ライトニング・ブレード!」


 マナを短剣に送り電気を纏った長剣になる。そのままガーディアンに飛び掛かり、胴を斬り付ける。見事ガーディアンの胴は粉々になり、タケルはしりもちをついた。


「やったか!?」


 すかさずフラグを立てるベティ。ガーディアンは薄緑のマナで粉々になった鎧を繋ぎ止め立ち上がり、薄緑の球を作り、タケルの方に放つ。


「避けて!」


 サラが叫ぶが、タケルはしりもちをついている。

 しまった。避けられない---

 タケルがそう思う間もなく、タケルに命中した。しかしタケルは無傷だった。


「あ、あれ? 何が起きたんだ? 今の何?」

「今のはマナの塊をぶつけられたのね。普通なら体は焼けただれてるとこだけど……」

「そうか、吸魔石があったから--- ん? てことは……」


 タケルはバッグから吸魔石を取り出しガーディアンに押し当てる。するとみるみるうちに薄緑色に発光していたマナが吸収され石の鎧は地面に崩れ落ちた。


「なんか……あっけなかったわね。」

「最初からこれでよかったな。」

「まあとにかく番人も倒した事だし、早く宝箱を開けちゃいなさいよ!」


 盛り上がるベティにハイハイと返事をしつつ、箱の封印を解除する。中には当然ながら研究資料の束が入っていた。


「え? これ、だけ?」


 目が点になるベティ。にっこりと笑うサラ。


「あら、どうやらこれだけのようですね。でも約束は約束ですから、この資料は私たちが持っていきますね」

「お……鬼だ」


 ポカンと立ち尽くすベティ。次第にその目には涙が浮かび座り込む。


「今日も野宿になる…… うわーん!もう野宿は嫌だよ、私だって女の子なのにー! 今日もお風呂に入れないのぉ!?」


 泣き崩れるベティ。さすがにサラも罪悪感を感じたのか、また提案をする。


「泊まるあてが無いのなら家に来ますか? ボロ屋ですけどまだ部屋は空いてますし、泊める事なら可能ですよ。ごはんはタケルが作ってくれますし」


 それ、俺には許可とらないのか。そう思ったタケルだが聞く必要もない。


「ああ、ベティのおかげで助かったしな。サラ姉がいいなら俺も問題無いぜ」


 キョトンとしたベティだったがすぐ笑顔になって立ち上がる。


「本当!? ありがとう! これで野宿生活とはお別れできるわ」


 すっかり元気になったベティとタケル達は洞窟を後にした。

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