第7章 幸せになって下さい

美鶴が遺した最後

第35話 美鶴のエンディングノート

俺は美鶴の墓の前に居た。

何故かと言えば.....成仏して欲しいと思っている。

それは悪い意味じゃ無い。

もう休んで良いという意味で.....翌日の学校の放課後。

1人で墓の前に立っていた。


「.....正直。お前に助けられる事は多すぎる。.....だけどな。.....もう良いんだ。美鶴。.....良い加減に成仏してくれ。.....お前が大変だろ」


そんな事を言いながら。

俺は手を合わせる。

しかしその言葉も聞いてないのか.....よく分からないが。

背後に風が吹いた。

青い風だ.....多分美鶴が吹かせている。


「.....」


何故成仏しないのだろうか。

俺は思いながら.....空を見上げる。

成仏って何だろう。

そもそも大切な人を失うってのは.....こんな感じだっけ。

そんな事を考えながら.....俺は目を閉じる。


「.....でも有難うな。美鶴。お前に何度も救われたよ。本当に」


そんな事を言いながら俺は目の前の墓に水を掛ける。

そして手を合わせてから.....そのまま去ろうとした。

すると墓の管理者の様な方が、もし、と声を掛けてくる。

俺は?を浮かべて顔を上げた。


「.....貴方はもしや千草花奏さんですか」


「.....はい?.....そうですが.....」


「.....良かった。そうなのですね」


お爺さん。

というか住職の様な気がするが.....でも違うか。

やっぱ作業服を着ているから管理者さんだな、と思う。

それから俺は、その。どうされました?、と聞いてみる。


「.....実はですね。.....美鶴さんの母親の方からノートを預かっておりまして」


「.....ノート?」


「エンディングノートです」


「.....!.....それはもしや美鶴の.....」


「はい」


代わりに渡して欲しいと以前お預かりしまして、と言ってくる管理人さん。

そのエンディングノートを渡してくる。

俺は直ぐに中を確認した。

そこには.....よれた字でこう書かれている。

一生懸命に頑張って書いた様な字で.....こう。


(千草花奏が好きな人とキスをするのが見たい)


「.....あの野郎.....」


俺は涙を浮かべながら.....その文章を読む。

心残りがあるんだな.....アイツ。

それでか、と思う。

俺は管理人さんに涙を拭いながら、有難う御座いました、と頭を下げて。


猛ダッシュで墓地を後にした。

そしてプッシュでダイヤルをする。

その相手は当然、美香だ。

すると直ぐに電話に出てくれた。


「.....美香!忙しい所.....すまない」


『花奏?どうしたの?』


「その.....実はな。.....美鶴のやつはまだ成仏してない。その理由があったんだ」


『.....え?そんなのあり得ない.....嘘?』


「.....本当だ。.....アイツは.....好きな人とキスをする所が見たかったんだ!」


そして猛ダッシュで美香の家に向かう。

すると美香は、え、え?、と慌てている。

その言葉に、着いたら話すから、と電話を切った。

それから俺は辿り着く。

美香の家に、だ。


「すいません!美香はいますか!?」


「おや?君は.....」


警備員の方々慌てる。

すると直ぐに美香が出て来た。

慌てた様子で、だ。


出掛けの姿になっている。

俺はそんな美香に、御免な突然、と頭を下げる。

い、いや。良いけど、と言う美香。


「本当にすまない。アイツが.....幸せが見たいんだと思う。エンディングノートにそう書いてあったんだ」


「.....そんな.....最後まであなたの事を心配していたって事?」


「そういう事だろうな。.....恥ずかしいかもしれないけど.....」


「.....うん。良いよ。だって約束だもんね」


俺は、取り敢えずは恋人の丘に行こうか、と言う。

それは観光名所になっている地元の丘だ。

そこでキスをしたらロマンチックだと思うし。

考えながら周りを見渡す。


「美鶴!見ているか!」


「.....花奏.....」


「.....俺は.....お前に心配されなくても幸せだ!だからもう成仏してくれ」


「.....」


美香は涙を浮かべながら俺を見てくる。

すると返事は無かったが。

また青い風が吹いた。

俺はその風に、よし、と答えつつ。

そのまま、じゃあ行くか、と美香の手を握る。


「は、恥ずかしいよ。花奏」


「.....それはそうだろ。俺だってな。.....だけどこれしか無いしな」


「.....アイツの為だよね?美鶴の」


「そう。.....御免な本当に」


「大丈夫。.....安心してもらいたいしね」


そして駆け出してから。

俺達は丘にやって来る。

住宅街を抜けた先の先の方。


そこにある場所だ。

恋人の聖地と呼ばれる鐘がある。

鳴らすと永遠の愛を誓えるという。


「じゃあ.....鳴らす?」


「待て。心の準備が要る」


「.....そうだね。私もかも」


「.....そうだな.....うん」


これから俺達がする事はキスだ。

だからどう考えても準備は要るのだ。

心臓がバクバクする。

どうしても.....その、うん。

バクバクだ。


「.....えへ、えへへ。恥ずかしいな」


「.....そうだな。急ですまんなマジに」


「良いよ。.....だって私達、恋人だしね」


「.....そうだな。そうは言えどな。.....悪い」


「.....アハハ。でもこれで美鶴.....安心してくれるかな」


「.....だな」


そして俺達はそのまま.....恋人の鐘を鳴らす。

空に響き渡った。

そして白い鳩まで飛んだ気がする。

それから俺は目の前の美香を静かに見る。


紅顔で、だ。

美香はジッと俺の目を見据えていたが。

観念した様に目を閉じた。

それから俺達は唇と唇で.....キスをする。

すると何だか眩しい太陽がまた眩しく見え.....目の前に。


「.....嘘.....」


「.....み、美鶴!?」


これは幻覚だろうか。

目の前に美鶴が立っている。

白いワンピース姿で、だ。


俺達は夢でも見ているのか?

思いながら目を擦るが。

消えない。

その少女は麦わら帽子を脱いだ。

それから前を見てくる。


『花奏。美香』


「.....おう」


「.....美鶴.....」


『有難う。心残りの最後の夢を叶えてくれて。.....私は願っています。.....君達の事を。これで本当にさよならです。.....最後は.....お互いに、じゃあね。バイバイ、でいきませんか』


「.....」


涙が溢れてしまった。

もうとめどなく流れる。

俺は膝をついて号泣した。

美香も口に手を添えながら涙を流す。


目の前の美鶴は本当に笑顔で.....健康な姿だった。

そうか.....。

死ぬとこうなるんだな、ってのが.....分かった気がした。

解放されるんだ。

苦しみとか。

悲しみとか。


『お母さんを宜しくお願いします』


「.....任せろ。.....じゃあな。俺が死んだら迎えに来てくれよ」


『先に待ってますね』


「私も。.....お願いね。美鶴」


『.....うん』


そして、じゃあねバイバイ、と言いながら。

美鶴は完全に成仏した様に光り輝いて天に登った。

俺は.....その姿を見続けて。

美香も俺に寄り添って絡み続けてから。

そのまま一時そんな感じで寄り添っていた。



数分間だが。

俺達は気絶していたというか。

睡魔に襲われていたらしい。

ベンチに座っていた。


「.....ちょっと恥ずかしかったけど。.....でも良かった。.....美鶴」


「.....そうだな」


俺達はそんな会話をしながら笑み合う。

それから空を見上げる。

美鶴が最後に願ったのは.....俺の幸せと。

美香の幸せだった、という事だった。


「.....マジで有難うな。美鶴」


「出会って良かった。貴方に」


そんな言葉を互いに呟きながら。

そして俺達は、じゃあついでだから何かお土産買うか、と笑みを浮かべて立ち上がってからそのままデートの様な形を取る。

それから墓にもう一度手を合わせてから。

自宅に帰った。


今日の事は.....奏多に話した。

奇跡だって言っている。

そうだな。

奇跡以外の何物でも無いな、と思える。

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