第34話 恋を苦しめるなら死んで詫びるしかない

この世界はあまりに不安なものが多過ぎる気がする。

だからこそ支えが必要なのだと思う。

この世界の全てに。


俺の名言で申し訳ないが。

本当に俺はそう思う。

考えながら俺は歩道を歩いて帰宅していた。

すると目の前に.....女性が現れる。


「.....恋の母親ですか?」


「.....!.....よ、よくお分かりになりまして.....」


「お顔がそっくりです」


「.....そう.....ですか.....」


その女性の顔は.....本当に恋にそっくりで美人だった。

ただ唯一違うのは.....髪の毛が40代ぐらいながらも白髪ばかりだ。

そして顔がやつれている。

俺と奏多はその姿を見ながら複雑な顔をする。


「.....」


「.....その。.....恋が.....ご迷惑をお掛けしています」


「.....いえ。迷惑とかではないのですが.....」


「.....私が.....母親なのですが.....その役割を上手く果たせてないです。.....それだからこんな感じに.....」


涙を浮かべながら流し始める。

そして泣き始めた。

俺達はその姿を見ながら眉をもっと顰める。

それから見つめていると。


「.....私は.....親として何も守れませんでした」


「.....何故、父親が窃盗症でありながらもこの様な感じに?」


「私が悪いんです。全て」


「.....え?」


「.....私が.....産後うつで.....それで.....お父さんを包丁で殺そうとしました」


「.....!」


産後うつ.....か。

俺は思いながら素人だから詳しくは知らないが、と思う。

だけど巷でよくニュースになるよな。

思いつつ恋の母親を見る。

私の名前ですが.....矢澤蓮子(やざわれんこ)と言います、と告白する。


「そう言えば.....この町で殺人未遂で逮捕されている人が.....居たよお兄ちゃん。前」


「.....そうです。実際に父親を傷付けて懲役刑を.....頂いて.....それで服役していました」


「.....懲役って何年だったんですか」


「4年です」


「.....」


成程それで服役が終わったものの。

親父さんは鬱になってしまったのか。

相当な期間苦しめられていたんじゃないのだろうか。

そんな昔から.....恋は苦しんでいたんだな。

狭間で、だ。


「.....私は馬鹿でした。.....何も.....」


「.....でもそれだったら悪いのは産後うつですよね?.....それで守れなかったのは.....違うと思います」


奏多がそう言う。

そして崩れ落ちている蓮子さんの手を取って立ち上がらせる。

俺はその姿を見ながら顎に手を添えた。


確かにな。

全て悪いのは産後うつだ。

だから蓮子さんも何も悪くない。

思いながら俺は真っ直ぐに見つめる。


「.....でも傷付けたのは事実ですよね?.....それは反省しないといけないですね」


「.....そうですね」


「.....じゃあ恋さんと一緒に居られなかったのは.....」


「.....色々とあったからです。.....これからは一緒に暮らそうと思っています」


「.....」


奏多は涙を浮かべる。

その姿に俺は、俺は幸せ者なんだな、と思ってしまった。

俺達が、だ。

みんな苦しんでいるから。

そう考えてしまう。


「.....でも現状考えなくてはならないのは.....恋の親父さんの窃盗症ですね」


「.....はい」


「.....離婚もしないのには.....理由が?」


「したくないです。.....私はそれでもあの人が好きなんです」


「.....」


愛が深いな、と思う。

それだけありながらも.....窃盗症は治らないのか.....。

精神科とか行っているのだろうか。

でもそれでも治らないって事だよな、と思う。


「恋の親父さんは何処に?」


「.....今は通院から帰っての自宅です。.....猛省しています」


「.....」


何だかそれって危なくないか?

俺達は顔を見合わせて心配げに見る。

するとその予測は的中した。

何故なら電話が掛かってきたのだ。

俺達は?を浮かべてみる。


「?.....どうしたの?あなた」


『.....すまん。蓮子。.....もう限界だ。恋まで傷付けた私は生きる価値は無いだろう』


「.....あなた。今何を.....しようとしているの」


『せめてもの死に場所にこの場所を選んだ。.....墓地だ。.....すまない。死んで詫びる』


「やめて!!!!!あなた!!!!!」


電話が切れた。

いやちょっと待って。

かなりヤバいんじゃないのかそれって。

俺達は青ざめて驚きながら蓮子さんに、何処ですか!?恋の親父さんは!、と聞いてみるが。

墓地なんてあちこちに、と掛け直して慌てる蓮子さん。


「.....ど、どうすれば良いの!?」


「くそッ.....!」


そんな時だった。

風が吹いた気がする。

そして背中が押されていく。


俺は!?と思いながらその風に従って歩かざるを得なかった。

そして行き着いた先に。

崖から飛び降りようとしている男性が居た。


ここは.....美鶴が眠っている墓地か!?


「ちょっと待って何やってるの!!!!?あなた!やめて!!!!!」


「蓮子.....いや。もうこれしか無いのに.....死んで詫びるしかない!!!!!」


「考え直して!嘘でしょこんなの.....!」


防護柵の向こうに既に居る男性。

それで死んだら意味がない、と思う。

俺は目を閉じて考える。

そして美鶴の顔が浮かんだ。


「.....すいません。ちょっと良いですか」


「.....君は.....」


「.....俺は花奏です。.....千草花奏です。.....こっちは妹の奏多です」


「.....そうか」


男性は飛び降りるのを止める。

そして俺達を見てくる。

俺はその姿に、実は.....この墓地に俺の仲間が眠っています、と告白した。

その言葉に男性は!と浮かべる。

それから話を続ける俺。


「.....俺としては.....貴方に考えてもらいたいものがあります」


「.....どういう意味だ」


「.....死んだらどうなるか。.....周りの事は考えた事がありますか?」


「わ、私は.....」


男性は足が竦む。

俺は手を伸ばした。

そして、こっちに来て下さい、と促す。

すると男性は、そう.....だな、と言いながらこっちに来てくれた。


「.....周りの事は考えた事はない。.....私は死んで当然だと。もうそれしか考えてない」


「.....じゃあ考えてみてくれますか。.....貴方が死んだら恋がどうなるか」


「.....」


男性は蹲る。

そして涙を流して、そうだな、と呟いた。

俺はその姿を見ながら、今は生きる価値は無いかも知れません。でも.....きっと生き抜いた先に.....何かあります、と告げる。

そうだよな?美鶴、と思いながら墓地を眺める。


「.....私は.....あと一押しで死ねる所だったが.....でも.....違うんだな」


「.....死ねば全て終わります。.....でもそれで良いわけ無いです」


「.....お兄ちゃん.....」


「死んだからこそ続きます。地獄は。.....だから死んだらダメです」


「.....君は菩薩かな?.....情けないな。私は.....恋も考えない.....様な.....」


「あなた。また入院しましょう。.....病院に」


恋の親父さんは、そうだな、と言いながら蓮子さんと抱き合った。

それから涙を浮かべながら立ち上がる。

こちらを見てきた。

君達は本当に凄いな、と言いながら。


「俺は何も凄くないです」


「.....お兄ちゃんは過去の事があるから生きています」


「.....いつかこの恩を.....返す。その時まで待っていてくれるかな」


「恩は要らないです。その代わりに.....恋を後悔させないで下さい。これから先の人生で」


「.....!」


涙を拭きながら恋の親父さんは、そうだね、と返事をした。

俺達はその言葉にホッとしながら背後を振り返る。

そこに.....美鶴が居た気がした。


俺は!と思いながらそのまま目を閉じる。

何度もお前に助けられるな.....美鶴。

そう.....考えながら。

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