第33話 吉川、美鶴、奏多、花奏の思い

窃盗症。

これは万引きが止められないなど。

そういう事がネットの記事に書かれていた。

つまり.....万引きで他人に.....構ってもらいたい。


更に言えば注目を浴びる。

別の意味で言えば誰かに会いたい。

その事でやる人も居るようだが。

何れにせよ恋は倒れた。


「.....不幸だな」


「.....お兄ちゃん.....」


「.....こんなのにも気が付かない俺は浮かれすぎていたんだろうな。馬鹿だと思う」


「.....」


「それに俺が.....美香と付き合い始めたから.....」


「それはない!!!!!」


病室なのに絶叫する奏多。

それから俺の手を握ってくる。

どんな形であっても.....恋さんは応援する。

自殺未遂なんて起こさないし!、と言ってくる。

恋はその絶叫にも気が付かない様に寝ている。


「.....心が折れそうだ」


「.....お兄ちゃん.....」


「.....折れてしまったら楽なのかな」


「お兄ちゃん。お願い。そんな事言わないで」


美鶴さんが泣くよ?そんなの、と言ってくる奏多。

しかしもうどうすれば良いのだ。

俺はもう.....恋の異変すらも気が付かない。

そんな野郎は死ぬべきでは無いのか。


コンコン


「.....ドアがノックされた?」


「誰だろう。お兄ちゃん」


今は2人しか居ないのだが。

美香?いや。未来?、な訳ないか。

思いながらドアを開けると。

予想外の人物が立っていた.....。

吉川である。


「.....やあ」


「.....何しに来たんだお前は」


「.....正直言って。.....お見舞いにね。.....同じ病棟だし」


「.....」


俺達は警戒しながら。

中に吉川を入れる。

寝巻き姿でしかも点滴姿。

そんな吉川を、だ。

そしてそんな吉川は恋を見ながら複雑な顔をする。


「.....僕は仮にも精神科医だ。.....だから.....まあその。そこそこに分かる事もある」


「.....お前なんかに診察をお願いしてもな」


「そうだね。僕がしてきた事は.....反省しかない。.....だからこそ言いたい事がある」


見舞い品だろうかフルーツのかごを置きながら吉川は俺達を見る。

そして、僕が思うに恋さんのお父様は.....誰も見てくれなかったんだ、と言う。

俺は?を浮かべながら、それはどういう意味だ、と聞く。

愛情を注がれなかったんだよ、と言ってきた。


「.....恋さんも同じ目に遭っているんじゃないかな。そういうのは.....世代を越えるから」


「.....じゃあ何か。.....恋はそんな事になっていたのか」


「.....そうだね。まあ僕が言える立場じゃないけど。助言だけはと思って来たんだ」


「このフルーツは毒とか入ってないですよね」


奏多が警戒する。

安心してくれ。

そんなものを仕掛ける体力もないから、と苦笑する吉川。

俺はその姿を見ながら、用が済んだなら帰ってくれ、と告げる。

吉川は、そうだね、と言いながら足を引き摺りながら帰って行く。

その去り際。


「.....まだ警戒は必要だと思う。.....まだ彼女は死ぬ願望もあるかもしれない」


「.....常に見張っておけとでも?」


「.....僕がそうだったからな。.....だから言える。.....死にたくなるよ。彼女は」


「ご忠告どうも」


そして吉川は去って行った。

俺達はそれを見送ってから顔を上げる。

それから恋を見ていると。

恋が目をゆっくり開けた.....!?


「奏多!看護師を呼んで来てくれ!」


「分かった!お兄ちゃん!」


それから俺は恋に駆け寄る。

すると恋は泣き始めた。

情けない姿を見られたせいなのか分からないが号泣する。

そして、花奏さん、と言ってくる。


「恋。.....何で死のうとしたんだよ.....」


「.....御免なさい.....私.....結構思い悩んでいて.....それで.....」


「ドタバタだぞ。.....お前がこんな事をするから.....死なないで良かった.....」


「.....お父さんから逃げたかったから」


「.....恋。それは分かるが.....自殺したらお前の周りが悲しむ事を知ってくれ。頼むから。泣くぞ俺は。悲しむぞ俺は」


「.....花奏さん.....」


マジに涙が止まらなかった。

そして恋の手を握ってから号泣する。

嗚咽を漏らしながらみっともない姿で、だ。

それから泣き叫んだ。


「.....花奏.....さん」


「.....頼むから。死ぬのだけは止めてくれ。俺達が居るだろ.....」


「.....御免なさい.....」


それからというもの。

医者が看護師がやって来てから。

診察が始まったので俺達は外に出た。


それから椅子に腰掛ける。

横長の椅子に、だ。

しかし午後6時か。

帰らなくてはいけないなそろそろ。


「.....お兄ちゃん。吉川の言っている事は本当かな」


「.....あれは嘘は吐いてないと思う。世代を越えるとは思う。確かにな」


涙を拭いながらそう答える。

すると奏多が泣き始めた。

そんな苦しい中で生きて来たんだね、と言いながら。

俺はその姿を見ながら、だな、と返事をする。


「.....吉川は何で精神科になったんだろう」


「.....知らない。.....だけどアイツだって思い悩んで居た筈なんだよ。.....だから今の職業に就いた筈だ。彼は.....きっと反省している」


「.....お兄ちゃん.....」


吉川の存在だが正直言ってまだ信頼出来ない。

持ってきたフルーツですら毒が入っているかもしれないと思うしな。

だからまだ完璧に信頼してない。


だが.....吉川の言っている事はマジだと思う。

予想は当たっている。

俺は.....眉を顰めるしかない.....。


「恋がどうなるか分からない。.....美香の親父さんが診ていたらしいけどこうなった。.....気を付けていたのにこうなった。.....だから相当に気を付けないといけないのだが。.....怖い。また自殺するんじゃないかって」


「.....そうだね」


そうしていると医者と看護師がやって来た。

先程の医者と看護師だ。

俺達を見ながら、君達はもう帰りなさい、と言ってくる。

その言葉に俺達は頷いた。

それから頭を下げる。


「.....心配なので.....本当にお願いします」


「.....私からもお願いします」


そんな言葉を俺達は必死に言いながら。

医者と看護師を見る。

その人達は頷きながら俺達を見てくる。

大丈夫、と言う感じだった。


「.....お兄ちゃん。帰ろう。大丈夫だよ」


「.....そうだな。.....一旦は帰るか」


「.....うん。お父さんとお母さんが心配するから」


俺達は看護師と医者を見る。

そして、最後に恋に会いたいです、と言ってみる。

そうすると、分かりました、と返事をくれた。

そうしてから、数分間ですがお会いして下さい、と言ってくる。


「有難う御座います」


「.....良かったね。お兄ちゃん」


「.....そうだな」


それから俺達は恋の病室に向かう。

そこには薬が用意されて点滴を受けていた恋がいた。

俺達を見ながら涙を浮かべる。

そして笑みを浮かべる。


「.....生きていて良かったって思った。.....花奏さん。もう自殺.....しないです」


「.....気持ち安定したか?」


「.....はい」


そして涙を浮かべながら泣き始める恋。

俺はその姿を見ながら奏多を見る。

奏多は頷きながら俺達を見つめてから涙を浮かべる。

それから泣き始めた。


「.....良かったです」


「.....奏多.....」


「.....本当に.....良かった」


「ゴメン。奏多ちゃん.....」


恋はまだ感情が恐らく不安定だ。

だけど.....今の所は.....大丈夫だろう。

多分だが。

思いながら俺は外を見る。


美鶴本当に有難う、と思いながら。

救ってくれて有難う、と考えながら。

俺はオレンジ色の空を見た。

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