第30話 恋愛の自覚と吉川への説得

美鶴を。

いや患者を何だと思っているんだよ。

思いながら俺は顎に手を添えながらそのまま吉川の卒業アルバムをジッと見る。


ページを捲るごとに吉川の顔写真があったりしたりする。

そこには笑顔の吉川が写っている。

俺はその様子を見ながら真剣な顔になった。

奏多がポツリと呟く。


「良い人そうだけどこの人に何があったんだろうね」


「正直分からん。そもそも何がこの吉川を変えたか、だな」


「お金って人を変えちゃうのかな。やっぱり」


俺は先程だが。

金は人を変えるとは言ったものの。

そこまで現実味を帯びているかどうかは分からない。

だがこれだけは言えるだろうな。

吉川は何らかのアクションが起こって人生が変わってしまったのだろう。


だから今の性格に育ってしまった、と言える。

そう思っていると。

恋からメッセージが来た。

俺は?を浮かべてスマホを開いて見る。


(私。伝えたい事があって)


(どうした?恋)


(吉川の話を聞いてからだけど。吉川って私と似ているなって思った)


(それはつまり幼い頃のお前と?)


そうだね、と言ってくる恋。

俺はその言葉に、そうか、と返事を書いて送ってみる。

すると、吉川が戻るかどうか知らないけど。彼も助けを求めているんじゃないかな、と書いてきた。

俺は複雑な心境でそれを見る。


(つまり吉川も何かを失っているって事か)


(それは親とは限らないけど。でも何か失って自暴自棄になったような感じだね)


(そうだな。成程な)


(参考になったら嬉しいかも)


(そうだな。有難うな)


俺はそんなメッセージを送りながら。

そのままアルバムを見る。

そこには麻里子先生を慕っていた様なそんな感じが書かれていた。

俺はそのページを見ながら奏多を見る。


奏多は複雑そうな顔をしていた。

だけどその中だが、分かるなこれ、とかも呟いている。

俺はその姿を見ながら外の景色を見る。

そして伸びをした。


「奏多。もし良かったらジュースでも飲まないか?俺入れるけど」


「あ。じゃあお願い。お兄ちゃん。私はもうちょっと見てる」


「ああ。じゃあ入れてくる。あまり無理しない様にな」


「無理はしてないよ。アハハ。本当に有難うお兄ちゃん」


そんな会話をしながら。

俺は笑みを浮かべつつそのままジュースを入れに行きつつ。

そのままその日はこの辺りで止めておこう、という感じになった。

だが俺は2階に上がってからも吉川と。

美香を考えていた。

どうしたものか、と思いながら。



その夜の事だが。

俺は夢を見た。

それは俺が誰かと婚約している夢だ。

その夢自体は普通だが。

俺は真っ赤になって飛び起きる。


何故と思ったが。

だけど納得し始める。

その笑顔は美香だったから、だ。


つまり俺は美香が好きなのか?、という感じだがまあその。

何だか胸がドキドキする。


「でもこれが本当だとしたら?それはそれでヤバいんだが。そもそも美香が居なくなって悲しかったし。え?これマジなのか?」


美香の事を考える度に熱くなる。

俺は真っ赤に赤面する。

それから俺は窓から外を見る。

快晴であるが。

だが心は何だかモヤモヤだ。

これってマジなのか?、という感じで、だ。


「マジだったらヤバいな。恋ってのはこういうのだったか?」


俺は思いながらも否定しながら。

それは夢だしな、と思いながら準備を始める。

何れにせよ、と思いながら。

それから学校に行く支度をし始めた。

すると、お兄ちゃん!!!!!、と絶叫が聞こえた。

それから奏多が飛び込んでくる。


「美香さんだよ!何でか美香さんが来た!」


「え?それってマジか?奏多」


「うん!マジ!早く来て!」


俺は促されるままに。

そのまま下の階に降りて行くと。

そこに美香が私服姿で立っていてそして。

手にバッグを握っていた。


「ど、どうした!?美香。久々じゃ」


「花奏。お別れを言いに来たんだ。実は」


「は?」


俺も奏多も訳がわからず。

思考が停止した。

それから美香を見る。

美香は俺に対して涙を浮かべていた。

そして、ゴメン、と言い出す。


冗談だろ、と思いながら美香を見る。

だが美香は真面目な顔をしており。

涙を浮かべながら、本当にゴメン、とだけ告げてそのまま去ろうとした。

俺はその姿に、待て!、と声を掛ける。


「美香さん!どうなっているの!?」


「婚約者の指示なの。吉川の指示だから」


「こんな横暴が許されてたまるか!良い加減にしろ!」


「じゃあどうすれば良いのかな。私」


そこまで言ってから泣き始めた美香。

俺はその姿につい抱き寄せてしまってから美香を見る。

それから美香の顔を見つめた。

美香は真っ赤になりながら、ど、どうしたの?、と聞いてくる。


「もう嘘は言わない。.....美香。俺はお前が好きみたいなんだ」


「え?それどう.....え?」


「俺は散々な目に今まで遭ってきたけど。何時も傍に居たのはお前だった。ずっと考えてたんだよな。.....だから俺はお前が好きなんだ」


今まで恋とか。

未来とか。

フラフラしまくっていたけど。


でも.....これだけは本物だろう。

奏多は驚きのあまり顔も耳も真っ赤になっている。

俺はその姿を見ながら美香を見る。

美香は涙を浮かべていた。

そして涙を流し始める。


「.....私なんかを好いても仕方がないよ。今となっては」


「ああ。.....だからこそ。俺は.....吉川と和解する」


「.....え!?そんな無茶苦茶な.....」


無茶だよ、と言いながら美香は俺を見る。

いや。無茶じゃない。

未来の時も。

美香の時も。

美鶴の時も。

全てを乗り越えた。

だから今ならやっていける筈だ。


「.....美香。俺は.....お前が好きだからこそ。.....全てを救う」


「.....」


「.....相変わらず人助けだねぇ。お兄ちゃんは」


「吉川だって理由がある筈だ。どれだけ極悪でもな。訳を聞くまでは.....」


「.....お兄ちゃんの馬鹿さに付き合うのも慣れっこだよ。もう」


言いながら奏多は苦笑しながら、じゃあ放課後に行こうか、と言ってくる。

俺は、そうだな、と言う。

それまでには何とか。


何かを考えておく必要がある。

思いながら.....俺は。

真っ直ぐに前を見た。



救われぬ者に救いの手を。

俺は.....そのラノベの名言を用いてから動く。

それから美香の家を訪ねる。


そして美香と一緒に。

吉川が出て来た。

コイツ暇人か?、と思うがまあそれは良い。


「何か御用ですか」


「.....吉川。俺はお前に告げたい事がある」


「.....はい。何でしょうか」


「麻里子先生を知っているか」


「.....」


言葉に眉を顰める吉川。

何故その事を知っているのか定かではないですが.....まあ良いでしょう。

それで麻里子先生がどうしたんですか、と言ってくる。


俺は麻里子先生に聞いた事を口にした。

お前は麻里子先生に可愛がられていたそうじゃないか、と。

吉川は、それが?、と言ってくる。


「.....俺はな。麻里子先生を裏切った事を許せないって思う。こんな悪どい医者になってしまった事を」


「.....うん。ですがまあそれは過去の事ですしね」


「.....それからもう1つ。俺は麻里子先生に聞いた」


「何でしょう」


「お前は幼い頃に祖父母から虐待を受けたらしいな」


その言葉には流石の吉川も揺さぶりだったのか。

ピクッと反応する。

それから俺を真顔で見てくる。

正確には勉強しろとスパルタだった様だが、とも言う。

しかもそれだけじゃない。


「.....お前は性的虐待を受けていたな?祖父から」


「.....」


「麻里子先生は心から心配していた。お前を。今でも」


「.....」


「.....それを蔑ろにしたのはお前だ。今でも良い先生だ。あの人は」


「.....まあ.....それが何だって言うんですか?」


つまりは、だ。

お前の気持ちがそこそこだけど分かると言いたい、と真っ直ぐに前を見る。

すると吉川は、知った様な顔を、と苛立ちを募らせた。

俺は揺さぶりをかける。


「.....そもそもお前が美香の婚約者になったのは正義の為だろ。その筈だったんだろうけど。途中から金に目が眩んだんだろお前は」


「.....何故それを知っているのですか」


「.....美香の親父さんが協力した。今朝、聞かせてくれた。お前の変貌ぶりを」


「は?」


な、どう、と愕然とする吉川。

俺はボイスレコーダーになっているスマホを翳す。

それからアプリを開いてから聞かせる。

その音声を、だ。


『美香の婚約者とは婚約解消しないのですか?』


『正直に言って私も婚約解消はしようと思っている。.....金を前に彼はもう人では無い。戻れない場所まで行ってしまった。散々期待していたにも関わらずな』


『お父さん.....』


『.....だからその事に堪らず今日は協力した。時間が無かったがな』


吉川はその音声を聞いてから、信じられないですね、と回答する吉川。

動揺している。

明らかに、であるが。

そして吉川に最後の揺さぶりをかける。


「.....お前は反省するか。これまでの事を。金で変わってしまったものは取り壊せないが」


「.....」


そんな吉川は俺の言葉に観念した様に、そうですね、と項垂れた。

僕は人の絆と。

金を選ぶなら人の絆を選ぼうかと思います、と言い出す。

そして美香を見た。


「.....美香さん。.....もう許されませんが。.....婚約解消したいです」


「.....吉川さん.....」


「.....」


すると美香は俺に駆け寄って来た。

それからハグし合う。

奏多も涙を浮かべていた。

俺はその事に心底安心しながら見ていると。


「時に。.....貴方は美香さんが好きなのですか」


「.....ファ!?」


「.....そ、そんな.....訳ないですが!?」


「本当に羨ましいですね。貴方が婿さんなら.....全ては上手くいくでしょう」


「.....いや!?だから!?」


僕は手続きをして来ます。

美香さんを、頼みます。

そう言いながらそのまま吉川は戻って行く.....のだが。


最悪の結末が待っていた。

何故なら.....勢い良く何かが過ぎった。

そして吉川の腹が鮮血に染まる。


「.....は?.....え?」


「.....え.....」


「美鶴の.....敵。死んでしまえ.....!!!!!」


それは.....美鶴の母親だった。

激昂している様だったが。

警備員が予想外の事に。

そして俺達もあまりの衝撃に.....何も言えなくなった。


「.....く.....」


そこまで言ってから。

吉川は地面にひざまづく。

それからドサッと倒れ.....る。


短い果物ナイフで刺された様だが。

俺はその姿を見ながら愕然としていた。

美鶴の母親は警備員に取り押さえられる。


「そ、そんな.....!」


「救急車!急げ!!!!!」


ドタバタになる現場。

俺は衝撃に.....眉を顰める。

そして救急車で運ばれてから。

美鶴の母親は.....殺人未遂容疑で緊急逮捕されてしまった。

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