第29話 美鶴の生きる思いを絶った者

「.....何だ.....と」


放課後の話だ。

俺は愕然として.....目の前の美香を見る。

美香は、申し分が立たないから.....だから!、と号泣する。


俺も未来も.....膝から崩れ落ちた。

何が起こったのか。

それはこういう事情だった。


美香の婚約者は.....所謂、悪徳医者だった。

事情があって精神科の医師だったが。

こうなっている。

美鶴が医療緩和ケアの為に診察を受けた医者だった。

つまり、だ。


「.....まさかと思うが。.....美鶴を絶望に追い込んだ.....のか?悩んでいるにも関わらず.....」


「.....それは分からないけど.....もう何が何だか混乱してる。私は.....もう学校には通えない。.....婚約者がそんな事をしている可能性がある以上」


「単なる殺人じゃねぇか!!!!!ふっざけんな馬鹿野郎!!!!!」


医療事故じゃねぇか!

俺は涙を浮かべながら地面に拳をぶつけた。

そして未来が号泣する。


そんな事って。そんな酷い事って、と言いながら。

当時の医者は.....何故気が付かなかった。

美香は目の前の屋敷の前で崩れ落ちる。


「.....絶対に許さない」


「.....花奏.....ちゃん?」


「美鶴を蔑ろにした.....この罪は絶対に全てを負わせる。.....絶対に許さない」


「.....花奏.....」


「十分に証拠を集めてからその天下から地獄に引き摺り下ろす。.....こんな馬鹿げた幻想なんぞ.....!」


美香の手を握る。

それから立ち上がらせた。

医師免許剥奪でも十分な理由だが。

どうしたものか、と思いながらそのまま美香に向く。

美香。親父さんと話がしたい、と言うが。


「.....今日はお父さん忙しいって。.....全く相手にしない」


「.....クソッタレ。今直ぐにも何とかしないと」


「何とかしないと、とは?」


そこまで言っていると笑顔の好青年が現れた。

吉川だ.....。

俺達を見ながら笑顔を浮かべている。

だがその笑顔は。

今となっては死神の様に見える。


「.....一つ質問するぞ。吉川」


「.....はい?何でしょうか」


「.....霧島美鶴という女子生徒を知っているな」


「?.....はい。元患者さんでした」


「お前はその女子生徒に何かしなかったか。例えば、生きるのをやめろ、とかそういう方面に仕向けなかったか」


「そんな馬鹿な事をすると思います?この僕が」


俺は吉川に苛立ちを覚えながらも深呼吸してから冷静に聞く。

吉川。俺達はふざけに来た訳じゃない。真面目に答えてもらおう、と。

だが吉川ははぐらかす。

まるで道化師の様に、だ。

吉川は、答えてどうなります?、と。


「.....お前.....」


「.....僕に手出しをしたらどうなるか分かりますよね?.....えっとですね。僕は真面目に患者さんを診ています。だから安心して下さい」


「でもそれでも.....美鶴ちゃんは心から信頼しようとした!それを.....貴方は.....」


「.....所詮患者さんなんて.....人間じゃないですから」


「.....」


コイツ心底呆れた。

何を言ってもこの回答だ。

俺は愕然としながら息を整えてから。

そのまま、お前と話をしていると呆れる、と踵を返す。

すると、でも僕が確かに美鶴さんに提案したのは事実です、と言った。


「お前ぇ!!!!!」


俺は吉川の胸ぐらを掴もうとした。

しかし警備員に止められる。

そのまま俺達は送り返された。

何も言えないまま。

美香は囚われのまま、だ。



「美鶴さんがあまりにも.....」


「.....信じられない.....」


自宅に帰ってから集合している恋と奏多と未来で話し合っていた。

みんな涙を浮かべて泣いてくれる。

当然だがこの話は美鶴の母親にもしたが。

号泣して崩れ落ちていた。


「.....お兄ちゃんが激昂する理由が分かる。最悪だよ」


「.....何で人間はこんなクズばっかりなんだろうな」


「.....人間のせいじゃないですよ。花奏さん。.....私達が運が悪いだけですよ」


「.....神様ってのは信頼出来ないな」


俺は歯を食い縛りながら外を見る。

外は悪天候であった。

まるで美鶴も怒っている様な。

そんな天気だった。


「.....とにかく今は美香さんを取り返そう」


「美香お姉ちゃんが束縛されているのが気になりますしね」


「.....だね。みんな」


「.....」


美香を取り返してから。

あの馬鹿を殺す。

俺はそれぐらいにキレていた。


あまりにも.....悲しい真実だったから。

こんな横暴が許されるなら。

医者の信用が失墜する。


「.....アイツだけは今までで最も許せない」


「.....花奏ちゃん」


すると未来が抱き締めて来た。

それから俺の頭を撫でてから、落ち着いて、と言い聞かせてくる。

俺はそんな未来に涙を浮かべる。


美鶴がもしかしたら。

人生が変わったかもしれないってのに。

それをゴミの様に打ち捨てられ。

挙句の果てには末期癌で亡くなった。

この事実は気持ちを抑える理由になる訳がない。

だが。


「.....未来。有難うな。お前のお陰で.....何か落ち着いた」


「.....私もギュッとして良いですか?」


「.....ああ。頼む」


それからギュッとしてもらう。

そしてお互いに涙を浮かべあった。

彼方もギュッとしてくる。

そうしてから俺達は暫く抱き合っていた。


「.....美香さんを取り返しましょう」


「.....だね。恋ちゃん」


「.....そうですよ。このままじゃ絶対に.....許せないです」


「それに美鶴も報われない可能性もあるしな」


それから俺達は決意してからそのまま空を見上げる。

悪天候が晴れていっていた。


有難う


そう声が聞こえた気がした。

俺は目を閉じてから、えいえいおー!!!!!、と手を挙げる。

全員が決意に溢れていた。



美香をクソバカから取り返す。

それからクソバカを医者の座から全てから引き摺り下ろす。

そんな計画が始動しようとしていた。

するとインターフォンが鳴る。


「?.....お兄ちゃん。国広さんだ」


「え?」


夜に何の用事だ、と思いながらドアを開ける。

そして複雑な顔をしている国広さんが居た。

国広さんは、すまない。夜分に、と言ってくる。

それから何かを取り出した。


「これは.....何ですか?」


「.....高校の時のアルバムだ。.....アイツの」


「.....アイツってまさか.....」


「実はアイツは私の後輩だ。.....私は年齢がまだ40だが。アイツは32。同じ高校。つまり8年違いの後輩に当たる」


「.....そうなんですね。まさか俺達の学校に.....」


「.....そうだ。.....だがもうアイツは居ない。アイツの面影は無くなった。今出来るのはアイツの暴走を止める事だけだ。医者という立場を利用し。全てを貪り食っているアイツは.....止めなくてはならない」


他の生徒とアイツの個人情報があるからあまり教えれないが。

だが.....当時担任だった麻里子が、君達なら、と託した、と言ってくる。

俺達に託されても困るが。

まあ見てみるだけ見てみるか。


「.....国広さん。いつも有難う御座います。麻里子先生も相変わらず無茶苦茶ですけどね」


「その通りだ。俺は何もしてない。.....そもそも先ずは君達に助けられた身分だ。恩返しをしているだけに過ぎない」


「.....いえ。助かってます」


「.....正直。大人である私も.....助ける事は出来ない。だが君達なら。友人で繋がりのある君達なら。きっとアイツを止められる。.....だから期待している」


「.....有難う御座います」


では失礼する、とそのまま国広さんはタクシーに乗って去って行った。

俺は残された書類。

つまり卒業アルバムの入った紙袋を見ていた。

正直.....これを見たから何だって話だが。

大人じゃない俺達が.....。


「お兄ちゃん。早速見てみようよ」


「.....そうだな.....取り敢えずは、な」


そして俺達は玄関を閉めた。

それから早速.....中身を見てみる。

そこには.....笑顔の少年時代の吉川が映っていた。

何故こんなにも無邪気な青年が。

あんな事になってしまったのか、と思うが.....。


金が人を変える。


その第一印象なのかもしれないな、と。

俺は思ってしまった。

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