第5章 奪われていく世界
終わる世界から始まる世界に
第26話 美鶴への感謝と未来の誕生日
俺達は何を想って今の人生を生きていくのか。
幸せとは何か。
そんな事を考えた事すらない。
それが『当たり前』と思っていたから、だ。
例えば生きてくのは当たり前、と思っていたから、だ。
だけど美鶴はそれを全面的に否定してくれた。
俺達の幸せはかけがえのない宝物だと。
そう教えてくれた。
「.....」
俺は制服姿で.....空を見上げる。
葬式が終わってから火葬場にある煙突を見る。
そこには.....燻る雲があった。
それは.....火葬したのだ。
美鶴の遺体を。
「.....有難うな。美鶴。.....俺は.....生きていく。今を大切にしながら.....生きるよ」
大勢の人達が行き交う中。
俺達は空を見上げる。
葬儀に参列した奏多、恋、鈴木、未来、美香。
そんな奴らと共に。
「ねえ。お兄ちゃん」
「.....何だ。奏多」
「.....美鶴さんは.....本当に幸せだったかな」
「.....きっとな。.....アイツは後半は幸せだった筈だ。.....何もかもがな」
そんな会話をしながら俺達は空を見上げる。
そうしていると、オラオラオラ!、と何だかこの場所に似合わない声がした。
よく見ると.....火葬場の入り口。
そこに.....関口と高島が居た。
それと何か。
やーさんの様な男が居るのだが。
美鶴の母親が絡まれているし絡まれている。
俺達は眉を顰めながらその姿を見る。
「.....ここにさぁ。.....千草花奏とかいう.....馬鹿は居るか?」
そのやーさんは一発で田中と思った。
木製バット持ってるし。
後ろの関口と高島が、アイツだわ!田中くん!、と言っている。
俺はその言葉に盛大に溜息を吐く。
それから、どうする?お兄ちゃん、と困惑している奏多とみんなを見た。
まあ行くしか無いだろう。
これ以上暴れられると迷惑だ。
「.....俺が花奏だが。何か用事か」
「ああ。テメェが?.....俺の女に平手打ちしたらしいじゃねぇかよ。喧嘩売ってんのかコラ?ああ?」
「.....正直に言っていいか。お前ら傍迷惑なんだよ。ここは神聖な場所なんだぞ」
田中はその言葉に激昂する。
そしてバットを地面に叩きつけた。
それから俺を見てくる。
何様だよお前?偉そうによ?第一そんな事は知ってるっての、と田中は言う。
これはお帰りになってもらうには苦しいな.....さてどうするか。
考えている時。
そう、思っていた時だった。
『大丈夫だよ。花奏』
そう声が聞こえた気がした。
美鶴の声だ。
俺は!?と思いながら空を見上げる。
すると、よそ見してんじゃねぇよコラァ!、と怒号が飛び。
俺にバットが振りかざされたのだが。
その.....木製バットが振り翳した瞬間にいきなり折れてから先端が地面に落ちた。
「うわ!?」
田中が悲鳴を上げる。
それからバットを見て青ざめる。
何をしたんだテメェ!、と言ってくる感じで俺を見た。
俺は何もしてない。
勝手に目の前で経年劣化かバットが折れた。
「.....チッ。このクソハゲが!!!!!」
次に折り畳みナイフを取り出す田中。
俺達は唖然とする。
そして、花奏!危ない!、と叫び声もする。
流石にそれは、と思いながら俺も逃げようと思っていたのだが。
田中が走って突き刺して来る筈が。
いきなり田中が転んだ。
そして足に何故かナイフが垂直に突き刺さる。
「ぐあぁ!!!!!イッテェ!!!!!」
「.....」
『花奏。私はいつでも君達の側に』
美鶴の声がまたした気がした。
田中の足からじわじわと血が広がる。
俺はその姿を、哀れだ、と思いながら見てから。
その後に田中はすぐに来た救急車で運ばれた。
それから唖然としていた関口と高島を見る。
「.....お前ら。これで分かったか。二度と俺達に関わるな。立ち去れ。.....この街から出て行け!!!!!」
「こ、この化け物が!」
「このクソ野郎!覚えてろ!」
そして逃げる様に関口と高島は去って行った。
これでもう二度と俺達に関わり合いは無い筈だ。
思いながら外の景色を見る。
外は心地の良い風が吹いていた。
それは.....まるで美鶴が吹かしている様な。
そんな風に感じられた。
「.....マジにサンキューな。美鶴」
そんな呟きには返事はない。
だが.....太陽が俺達を照らしてくれた。
それが俺にとっては.....十分な返事に聞こえる。
俺は笑みを浮かべながら空を見上げる。
そして仲間達に向く。
「.....行くか」
「そうだね。花奏ちゃん」
「.....だね」
「なんかその。良い気分だね。花奏」
「.....そうは言えないけど.....そうなのかもな」
それから俺達は火葬場を後にしてから。
そのまま葬式会場に戻る。
そして暫くしてから。
俺達は帰宅する事にした。
☆
季節が少しだけ変わる。
それから6月11日に入る。
俺達は未来の家に集まっていた。
それは.....簡単だ。
未来の誕生日だから、だ。
「おめでとう」
「誕生日おめだな。未来」
「有難う!花奏ちゃん!美香ちゃん!みなさん!」
「未来が17歳かぁ.....早いね。時間経つの」
「何というか俺と美香は1月と2月だもんな」
「そうだね」
それから俺達は笑みを浮かべながら未来を見る。
正直未来の家に来れたのは奇跡だな、と思えるな。
思いながら周りを見渡す。
ファンシーグッズだらけの部屋を。
大きな部屋だ。
「もー。花奏ちゃん。恥ずかしいよあまり見ると」
「お前の趣味って可愛いなって思ったからな」
「そう.....かな?」
すると恋が、ですねぇ、と言いながら笑顔を浮かべる。
俺は、だろ?、と言いながら周りを見る。
鈴木が、未来さんはこういうぬいぐるみが好きなんですか?、と聞いた。
すると未来は、うん、と返事をする。
「.....そうなんだねぇ」
「意外です」
「.....奏多?意外か?未来だぞ?」
「ひどい!」
未来だからってのは酷いよ!花奏ちゃん!、とプンスカする未来。
そんな未来に苦笑しながら、なあ。そういえばお前.....ノイズキャンセリングイヤホンはもう完全に着けなくなったのか?、と聞く。
今着けてないし。
「あ。うん。もう本格的に慣らそうと思って」
「.....そうか。キツいのに頑張っているんだな。お前」
「.....そうだね。.....ずっとずっと頑張ってる。全ては花奏ちゃんが居るからね」
それにその。
結婚するなら要らないからねそういうの、と言ってくる未来。
俺は赤面しながら、オイオイ、と言う。
美香と恋もギロッと俺を見ていた。
いや、あのなお前ら。
「.....未来との婚約、結婚の話ですか?早いですね」
「うわ!?ビックリした!?」
いつの間にか鳴さんが混じっていた。
みんな驚いている。
俺達に飲み物を持って来ながら.....お菓子を持っている。
真っ赤になりながら俺は俯く。
すると鳴さんは、千草くんが未来と婚約してくれたら嬉しいですね、と笑みを浮かべてから.....鳴さんは俺を見てくる。
「私達は.....未来が心配なので。.....だから婚約してくれたらそれ以上の幸せはありません」
「お母さん.....」
「.....私は.....反省して生きてます。.....そんなに言える身では無いですが.....でも。1つだけ言いたいのは。千草くんが未来と結婚してほしいって事ですかね」
「もー!お母さんあっち行って!恥ずかしい!」
そんな事を未来に言われてから。
はいはい、と頷きながら鳴さんは立ち上がる。
それから立ち去った。
俺はその姿を見送ってから恋と美香を見る。
ジト目だった。
特に鈴木がかなり怒りの顔をしていた。
美香を忘れているのでは?、的な。
「.....私達も忘れないでね?」
「.....そうですね」
「す、すまん。お前ら」
そんな会話をしながらだが。
話は美鶴の話になった。
俺達は懐かしい気持ちを思い出しながら。
田中の事とかの情報交換をした。
結論から言って.....田中はこの街から病んで逃げた事。
そして関口と高島も万引き沙汰で警察に捕まった。
何と言うか情けない結果になったという事を聞いたのだが。
それらの情報を話したのは意外にも美香だった。
「.....お前.....ずっと集めていたのか。そんな下らない情報を」
「.....そうだね。.....美鶴は私達の仲間だから。美鶴が今の事を知りたいだろうと思ってこの前、1人で墓前に報告に行った」
「.....行動力凄いな。全くな。.....相変わらず優しいこった」
「私は優しいんじゃないよ。.....ただ.....自分自身が納得いかないから調べただけで」
「.....」
ツンデレかな?
でもな美香。
お前随分と柔くなったぞ。
俺は思いながらも口には出さず。
そのまま苦笑だけした。
「.....色々ありましたけど。私自身は本当に良い経験になりました」
「大切な人を失って今になるとどうなるかって事だね」
「そういう事ですね」
それは言えるな確かに。
大切な.....何かを。
それを失った俺達に。
希望をくれたんだ。
美鶴は死んだ。
だけど心では生きている。
助けてくれたしな。
「所で美鶴と私と恋とおーちゃんを比較して誰が一番好み?」
「保留にする」
「逃げちゃダメだ」
「お前は何処ぞのパイロットかな?」
しかしなそんなもんはな。
今は考えてないぞマジに美香。
俺は思いながら美香の顔を見て溜息を吐いた。
それから不愉快そうに、ぶー、と頬を膨らませて言う美香に向く。
決めきれないんだよ。
どいつもコイツも良い人だからな.....。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます