第25話 花奏、恋、美香、未来、鈴木、奏多そして美鶴の絆

終末期医療。

それは重い癌のがん患者が。

もしくは何らかの病に犯されている重病な患者が治療を行ってもらう。

その病棟に俺達。


つまり恋と未来。

更に鈴木と美香と俺と。

奏多などが集まった。

俺はその仲間達と美鶴の母親と一緒に。

美鶴を見ていた。


「.....私達は恵まれてます」


「.....?.....何がですか?」


「美鶴もこんなに沢山の知り合いが出来て嬉しいでしょう」


「.....」


鈴木は複雑な感じで美鶴を見ていた。

だが美香は全てを説明した様だ。

これまでの事も何もかもを。

そのお陰か落ち着いている様に見える。

俺は天井を見上げる。


こんな感情になるのは久々だな、と思う。

正直、美鶴をそこまで許したわけじゃ無い。

だがもう良いんじゃ無いかって思う。

何がと言えば。


コイツの反省を見ていると.....それだけ許しても良いんじゃないか、という気持ちだであるが。


美鶴は本当に亡くなっているかの様な静けさだった。

俺はそれを確認しながら未来とか美香とか。

とにかくみんなを見る。

みんな真剣な顔をしていた。


「私は許さない」


「.....鈴木.....」


「.....だけど私だって目の前の事を見定める事は出来ます。彼女は.....必死に反省をしていた。脅威な悪党であっても。それを忘れてはならないです」


「.....そうだな。正直言ってそれは本当だと思う」


「貴方が実際に助けられた。それは事実です。.....だから私は霧島に対して.....特別な感情を抱いています」


「.....鈴木.....」


ですが.....私はどうしたら良いのでしょうか。

と言いながら胸に手を添える鈴木。

そして答えを求める様に美香を見る。

美香はそんな鈴木を抱き締めた。

それから頭を撫でる。


「.....有難うね。七子。そう考えてくれて。感謝しかないよ」


「.....私.....美香。どうしたら良いの」


「.....私たちも散々悩んだよ。.....でもね。だからと言ってずっと恨むのは別なのかな、って思ったよ」


「美香.....」


「全部.....花奏が教えてくれた。.....花奏が居たから.....私は私らしく恨まなくて済んだ。.....花奏だから私は変わったの」


「.....うん」


鈴木は泣き始めた。

俺はその鈴木を見ながら。

次に未来を見る。


未来は顎に手を添えて立っていた。

俺はその姿に、大丈夫か、と声を掛ける。

すると未来は頷いた。


「大丈夫だよ。.....何だか.....その。複雑だなって」


「.....そうか」


「因みに私もです。花奏さん」


「.....ああ。恋も?」


「はい」


どう言い表せば良いのか分からない感情だよ、と言う未来。

それから恋も複雑な顔をした。

俺はその姿を見つつ。

そうだな、と返事をする。


「お兄ちゃん。もう保たないんだよね?.....その。.....霧島さんは」


「.....そうらしい。.....何というかあまり.....宜しくないらしい」


「.....そうなんだね」


「.....」


すると奏多が、私は許そうと思う、と切り出した。

俺は!と思いながら奏多を見る。

奏多は複雑な顔のままだったが、だって霧島さんは必死にお兄ちゃんに反省した。助けた。.....もう理由は十分でしょ?、と笑みを浮かべる。

そしてみんなを見る奏多。


「.....皆さん。お兄ちゃんもそうだけど。.....考え直してほしいです。.....霧島さんの事」


「.....奏多ちゃん.....」


「奏多.....」


私は発達障害があって.....深い考えは出来ません。

でも私は前を見据える事は出来ます。

状況が理解出来ます。

私は.....霧島さんを許しても良いって思います、と言い出した。

俺は、奏多、と呟く。


「.....私は.....霧島さんに安心して天国に行ってもらいたいです。.....もし.....駄目だったらの話ですけど」


「.....ちょっと早いぞ。奏多。.....でもそうだよな」


「.....そうだね。奏多ちゃん」


「.....奏多ちゃん.....」


もう良いんじゃないかって思う。

良い加減にコイツを許してやっても、だ。

そう思っていると。

午後8時50分だったが。

美鶴が目を覚ました。


「美鶴!!!!!」


美鶴の母親が見ていたが。

駆け寄った。

それから反応を確かめるが。

そんなに良い反応では無かった。


つまり.....もうあっちの方へ向かいそうなガラスの目をしている。

俺は知っている。

この目を.....。

何故なら父方の爺さんと婆さんを見送った時も。

こんな感じの目をしていたから。

死ぬ寸前に、だ。


「.....千草.....花奏」


「.....何だ。美鶴」


「.....今日ね。.....楽しかった。.....貴方と一緒で」


「.....」


複雑な顔で俺はその姿を見る。

すると看護師と医者が入って来た。

様子を見に来た様だ。

俺はその姿を見ながら美鶴を見る。


「.....千草.....花奏」


「.....?」


「.....私は.....貴方が.....恋として好き」


「.....!.....美鶴.....」


「.....でも貴方には.....もっと幸せにしてくれる優しい人達が居る」


「.....」


その事は.....本当に.....安心としかない。

私は.....貴方に酷い事を.....ずっとしたから、と言う霧島。

そして咳き込んだ。

その瞬間、勢い良く吐血した。

俺は愕然としながら、もう喋るな!、と言う。


「.....駄目.....もう.....話せ.....なく.....なるから」


「.....いや。お前無理すんな。.....大丈夫だから!」


「花奏ちゃん!思いを伝えないと!」


「.....そ、そうか。.....なあ。美鶴」


「.....な.....に.....」


マジに燃え尽きそうな感じの美鶴の手を握る。

そして冷たくなっているその手に、美鶴。感謝だ。.....お前に。.....それからな。俺達はみんなお前を恨むのを止めた。みんなお前を心配しているんだ、と語る。

すると美鶴は!と浮かべてから。

そのまま泣き始めた。


「.....そこまで.....しなくても.....良かった。.....でも.....有難う.....これで安心して.....向こうに.....行ける」


「.....美鶴.....」


「.....私は.....反省ばかりの.....人生.....だったけど。.....今が.....一番.....楽しかった。.....千草.....花奏。.....貴方に.....幸せを貰った」


「.....」


気が付けば。

俺は涙を浮かべて泣いていた。

こんなに.....その。

何というか.....変わってくれた事に.....涙しか.....無かった。

すると美鶴は、私は.....良かったのかな.....貴方に出会って、と言ってくる。


「美鶴。.....俺はお前に出会った頃は最悪だったよ。.....でも今は俺達の絆を再認識させてくれた。.....お前には感謝しかない」


「.....そう.....かな」


「.....ああ。だから.....な。安心して.....眠ってくれ」


「.....あり.....がとう」


それから泣き叫ぶ母親を見てから、千草.....花奏。もし.....迷惑じゃ無かったら.....お母さんを.....見守って.....あげて、と切り出してくる。

俺は、そうだな。.....分かった、と頷く。


それから美鶴は涙を浮かべたまま。

意識を失った。

というか.....眠りにつく。

心電図は一気に0を示した。


「.....花奏.....」


「.....ああ。.....伝えたい事は全部伝えた。.....アイツは.....天国で幸せになる筈だ」


「.....」


そして俺は泣き叫ぶ美鶴の母親に寄り添ってから。

そのまま目の前の美鶴を見る。

美鶴は幸せそうな顔を浮かべている。


寝ている様な.....そんな感じだ。

医師が時計を見ながら、午後8時59分。霧島美鶴さん、お亡くなりです、と言ってくる。


それから4月21日。

霧島美鶴は.....永眠した。

享年17歳だった。

彼女は.....素晴らしい人生を歩んだと思う。

俺は思いながら美鶴を見ていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る